Web計測ツールで、Webサイトに訪れたヒトの数や動き、流入元や離脱率など、様々なデータを見ることができるはもう当たり前の時代だが、ほぼ同じことがリアルの空間でも計測できる時代がやってきた。
店舗のウィンドウディスプレイやポスターを、どれくらいのヒトが何秒見たかなどがわかる測定ツール「ESASY(エサシー)」を開発した、株式会社クレスト 取締役 最高執行責任者 永井 俊輔氏と、システム・ソリューション本部 江刺家 直也氏に話を伺った。
-クレストはどのようなことをやっている会社なのでしょうか。
永井氏(以下、永井): 株式会社クレストはサイン&ディスプレイという業界に属する会社です。
おそらく多くの方はサイン&ディスプレイ会社をご存じないかと思いますが、簡単にいうと店舗の店頭ディスプレイや店内の空間デザインを企画・施工する会社になります。たまたま父がはじめて僕が後継者となりました。
私のクレスト入社後2011年頃から顧客管理目線で色々改革をして、売り上げを2~3倍まで持って行ったのですが、数年前からテクノロジー分野に参入しなければいけないという想いがありました。そこで、「ウェブサイトはアクセス解析ができるのに、どうしてウィンドウディスプレイはできないんだろう、何人が通って何人がウィンドウディスプレイを見た、ということがわかればいいのになぁ」と考えがふと浮かんだのが今回のEsasyのアイデアの元になります。
2013年の年末に社内でのイベント時に「これをやりたい」という話をして、そこから最初は某メーカーと進めていたのですが、最終的な開発費用の見積もりが1億5,000万円ほどで、カメラ1台の導入費用も1,000万円ほどかかるということでした。
金額を聞いて中断していたのですが、ウィンドウディスプレイのアクセス解析をやりたいということは変わらず、隣に座っている江刺家にジョインしてもらい、すぐに作り始めました。
江刺家氏(以下、江刺家): このシステムは、実装をはじめてから3か月くらいで完成しました。
永井: 外部で協力してもらっている会社と一緒に開発を行い、ショーウィンドウのディスプレイを何人みたのか、何秒みたのか、どのくらいの距離で見たのか、というトラッキングが、おそらく世界ではじめてできるようになりました。
仮にIT系の企業がこの製品と類似したものを開発したとしても、販売チャネルが無いので導入が進みにくいと想定されますが、クレストがやるからこそ成功する理由があります。弊社は数千社にも及ぶファッションブランド、飲食店、百貨店等への営業を行っており、弊社が顧客の本社を通じてリーチできる店舗は20万店を超えます。つまり、このEsasyの仕組みを小売店に一気にお知らせし、導入をご提案することがスピーディーできるので、弊社が開発するのが有利だと思っています。
では実機をお見せします。
江刺家: こちらはユニット全体になるのですが、基板はラズベリーパイで、プログラムユニット全体が「Esasy(エサシー)」です。半製品を組み合わせて製品としています。
これは納品物ではなく僕らのデモ用に作っているものですが、永井を撮った写真を見るとこのようになり(下記写真)、目線まで追えているのがわかるでしょう。
顔が横向きの時は検知せずトラッキングが止まり、ディスプレイに対して正面を向いてとまった瞬間にトラッキングがはじまります。そして、ディスプレイに対して何秒間とまっていたかという時間を計測します。グリーンの円とブルーの円があるのですが、動いていることも追跡しています。
永井: 現在弊社で、ガーデニングショップ「IN NATURAL」を8店舗経営しており、そこでも実験をしています。
江刺家: トラッキング情報は、CSVでダウンロードも可能です。どこの位置から何秒くらいみていたという情報や、カメラとの相対距離、またカメラに対して右から見ていたのか、左から見ていたのかがわかり、データを並べるとこのようになります。
計測のために通行人の撮影をしていますが、CSV化が終わったら画像データは破棄されるので個人情報が流出する心配もありません。
-やっとリアルでもこういったディスプレイの状況を可視化するデータが取得できる時がきましたね。
永井: 他社のサービスですと顔のデータまで取れないのですが、顔の向きと何秒みていたかというところまでわかるのは弊社の特長となります。
今後この領域に参入してくる企業はいると思いますが、僕らが強いのは元々看板やウインドウディスプレイの施工会社という点です。我々は月に700件ほどの施工をしていますので、カメラをどこに隠すのかなど色々な問題にも対応することができます。
-技術だけあってもどうやって顧客を獲得するかという問題はつきまといますので、多くはデベロッパーと組んで進めていくことが多いと思います。御社のようにもともと営業先があるというのは導入の可能性があがりますね。
永井: この丸がたくさん表示されているのは、(ディスプレイを平面としてとらえた場合に)どの位置にどれくらいヒトがいたか、ということがわかるヒートマップです。つまり、カメラの画角の中にヒトが立っている状態をそのまま表しています。
丸の位置は背の高さを表していて、丸が大きさはカメラとの距離、色はウィンドウを見た秒数です。例えば、紫の丸は背の低い人が少し離れたところから44秒みていた、ということになります。
江刺家: データ化することで、全くみられていない場所があることがわかり、ディスプレイの改善に繋がることもあります。
VMD(Visual Merchan Dising)の担当者からすると、施工が終わってお客様がウィンドウを見ていると、「あーよかったね」で終わってしまうのですが、数値化してみると新たな気づきを与えることができます。
-以前のディスプレイとの比較もできますね。
永井: そうなってくると、どこのデザイン会社がいいかというのは俗人的な判断ではなく、お客様がどのくらい見たかという結果で判断するようになると思います。
例えば、この3つを見比べてみると、一番左は立ち止まって見ている人が少ないというデータになり、中央のデータはより近くで見てくれている人が多いというデータになります。
江刺家: 今のサービス範囲としては、アドバイスやコンサルティングはパッケージとして持っていないので、こういう話ができる方がいる会社さんに優先的に5社ほど入れていただいています。また、今後の予定としては最大手の百貨店や大手ビルマネジメント会社での導入が決定しています。
永井: イニシャルは12~13万円で、1回導入していただければ月々1 箇所で1万円課金されます。
現在は店頭のウィンドウでの導入を想定していますが、この機能を応用してカメラを外、中、レジ裏にセットしておけばお客様が店内のどこまで足を運んでどこで帰ったかがわかりますので、ウェブでよく見る離脱率がわかります。
例えば、ウィンドウにディスプレイしていた商品をものすごく見て入店したのに、その商品が店内の奥の方にあったとしたら、そこにたどり着くまでに離脱してしまうということなどもわかります。
江刺家: リアルの世界でも、ウェブで使っているような言葉、つまり、トラフィックが多い少ないであったり、コンバージョン率といった言葉をリアルに転換できると期待しています。
永井: 実は、今後のバージョンアップで顔の特徴点を拾えるようになりますので、例えば「池袋店のショップに来店した方が、翌日新宿店にも来店して、一週間後に銀座店で買い物をした」ということまでわかるようになります。
-マーケティングオートメーションもやられるということですが、それとの繋ぎはどのように考えているのでしょうか。
永井: 3年後くらいの話をしますが、我々は、道を歩いている人を完全に特定できるようにしたいと思っています。
メールアドレス、LINEなど個人が特定できるものと、店内や外を歩いている人を結び付けて、「池袋店で購入したシャツを買った人」が、新宿のウィンドウディスプレイでスーツを見ていたとしたら、マーケティングオートメーションでスーツの10%OFFのクーポンをメールやLINEで情報を送ることができます。そして、その人がウェブ上のスーツを見て回ったというトラッキングデータも蓄積します。
-従業員と来店客の区別ができるのでしょうか。
江刺家: 実はその機能は必須でして、従業員の顔の特徴点を登録しておいて除外するということをして、精密なデータを取る必要があると思っています。
-完全なOne to One マーケティングができるようになるというわけですね。
永井: はい、もうすぐできるようになります。またスケールメリットがでると思いますので、USAでの展開も考えています。そのため、マーケティング・オートメーションの導入支援の企業(グリード・ナーチャリング株式会社)を昨年10月に立ち上げ、マーケティング・オートメーション✕リアル店舗トラッキングという領域にを進めています。
-本日はありがとうございました。
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