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介護サービスの課題を、現場のノウハウで解決 ーZ-Works小川氏インタビュー

Z-Worksの介護サービス『LiveConnect Facility』  Z-Works小川氏インタビュー(仮)

小泉: 以前の「がんばらない介護」サービスから、発展して新しいサービスを作ったということですが、どういったサービスでしょうか。

小川: 今回は、これまでの介護支援システム LiveConnecを大幅に改良し、『LiveConnect Facility』として、Z-Works直販モデルを作りました。

Z-Worksとしては、特別養護老人ホーム(要介護3~5となる、中~重度の要介護高齢者が身体介護や生活支援を受けて居住する施設)と、介護老人保健施設(要介護1~5となる、要介護高齢者にリハビリ等を提供し在宅復帰を目指す施設)向けにサービスを展開しようと思っています。

介護の現場は様々な課題があります。特に人手不足が深刻です。「人員配置基準」というのがありまして、一人のケアワーカーさんに対して、ケアする高齢者の数が決まっています。特別養護老人ホームの場合、それを満たさないと罰則で減算処理になり、自治体からの介護保険金がおりません。

スタッフは3年で7割が辞めてしまいます。現状として夜間は、1人のスタッフで20人〜30人みている状態です。

Z-Worksはそういった現場で介護をする人を守るために、センサーと、センサーが上げてきた膨大なデータを機械学習して、データの中から異常などを割り出す、ということを行なっています。

これまでの介護施設での見守りと課題

これまでこういった施設に入っていたセンサーは、「離床マットセンサー」といって、ベッドを柵で塞ぎ、降りられる場所を一箇所にし、マットセンサーを踏んだらナースコールが鳴る、という仕組みでした。

これにはいくつか問題があります。

まずベッドの周りに柵を作ってしまうと身体拘束になってしまうという点です。

また、柵があるせいでトイレを我慢してしまうという方もいます。

そして、離床マットセンサーを踏んだらナースコールが鳴り、介護士に迷惑がかかるから、とトイレに行くのを我慢するケース、離床マットセンサーを踏まないように降りるために、柵側から降りようとしてしまい、転倒や骨折などに発展してしまうケースなどが実際にあり、大変危険です。

次ページは、「Z-WORKSの見守り

Z-WORKSの見守り

そこで、Z-Worksでは、マットセンサーをただ単純に置き換えるのではなく、さらに付加価値をつけるよう工夫しました。

その付加価値とは、離床してからの通知だと遅いので、離床する前に通知しようというものです。「ベッドの上で沢山寝返りを打ったら通知をする」「手足が出たら通知をする」というアイディアになります。

しかしこれでは、寝返りを打つたびに通知されてしまい、自宅などでの一対一の介護であれば良いシステムですが、一人で20~30人見ている現場には合っていないと感じました。

その結果、施設向きには、ベッドに敷くマットセンサーだけを置き換えるのではなく、複数のセンサーを組み合わせたものを提案しています。

Z-Worksの介護サービス『LiveConnect Facility』の利用イメージ

まず、ドップラーレーダーを使って、動きが少ないお年寄りの安否確認を、心拍数と呼吸数で見ていきます。ドップラーレーダーを使えば、非接触でベッドの上にいるかいないかを検知できます。そして、安静時の心拍数と呼吸数も同時に取ることができます。

ただしこれでもまだ誤検知の可能性があります。誤検知を減らすためには、始めにある程度のデータが必要です。しかしデータはすぐに蓄積されるものではありません。

そこで、ベッドにいないことを知らせるために、ベッドの足元に人感センサー置くことで対応しています。ベッドの上にいる間は、バイタルレーダーで確認し、離床やトイレの利用で部屋から出て行く、というのを複数のセンサーでカバーします。

そうすることで、通常時の高齢者の様子が分かりつつ、何かあれば異常通知する仕組みができあがります。

ちなみに、この仕組みは現在首都圏を中心に複数の介護施設に導入させてもらっています。

小泉: ケアワーカーの負担を減らして離職率を減らすということですね。他にもケアワーカーの負担軽減に役立っている場面はありますか。

小川: 介護の現場では夜間の勤務は基本一人です。夜間業務の負荷軽減に我が社のシステムが役立っていると思います。

特別養護老人ホームでは、10~12部屋に対して、共用部分を作らなくてはなりません。供用部分には、テレビがあります。この共用部分には、基本的に夜の8時以降人が誰もいなくなるので、この画面を映し出します。そして異常があれば、夜間の巡回作業中のケアワーカーさんに通知されます。

特別養護老人ホームの共用部分に出している映像

また、高齢者の方は呼吸が浅いので、生存確認が難しいことがあります。基本的に口元の息を確認するしかなく、かなり近づく必要があります。しかし近づいて確認していると、眠りが浅い方だと起きてしまうことがあります。そうすると、認知症の方が多いので騒いでしまい、周りも起きて騒ぎだし、現場が混乱してしまう、ということもあります。

次ページは、「安否確認や通知の実際

そういったことを防ぐために、このシステムを導入すれば、作業をしながらでも安否確認ができます。巡回する際も、近づかなくても安否確認できるので、ドアの外からの確認や、スリッドガラスであればそこから確認するだけでいいので、かなりの時間短縮がはかれます。

小泉: どの異常に対して、どのように通知をするのでしょうか。

小川: これはシステムなので、異常に関しては、要件定義しなければなりません。他のセンサー会社ですと、「センサーを置いて終わり」というところがほとんどです。センサーを導入して、どういう風にオペレーションが変わっていくのかをディスカッションしません。

Z-Worksでは現場のケースをヒアリングし、こういった場合に通知が来た時に対応できますか、とお聞きした上で設定していきます。

例えば、全員に対して「足が出た」ということを検知するのは困るが、ある数名の人だけはそこを感知したい、ということであれば、その人だけに対応するなど、細かい調整をします。

あとは居室異常、ベッドから離れ、トイレに行っているのだが、うずくまって出てこないといったことには、センサーの組み合わせで判別します。ベッドからいなくなって何分くらいたったら異常か、というのは現場によって違うので、ヒアリングをして設定します。

そこからテストして、今後の作業を実際どのように変えていくかを打ち合わせして決めていきます。

小泉: なるほど。これは直販だからこそできるサービスですね。説明したらすぐ導入を考えてもらえますか。

小川: こういった介護現場向けのセンサー類はたくさんありますので、導入する側も選択が難しいと思います。実際にお試しいただいたうえで、現場で価値を認めてもらう必要があります。

また、介護施設は壁が厚く、ドアが金属製などWi-Fiの電波がうまく通らない環境となりますが、Z-Worksのセンサーシステムの場合、3Gの携帯電話の回線を使用しているのですぐに導入できます。

『LiveConnect Facility』の管理画面イメージ。システムに不慣れなケアワーカーでも、状況が一目でわかるようになっている。

次ページは、「褥瘡(ジョクソウ)発症ゼロを目指して

在宅介護向けのサービス

小泉: Z-Worksは、以前は在宅介護向けのサービスもやられていたと思いますが、継続してやらないのですか。

小川: 在宅介護の話もあります。以前から取り組んでいた電力会社とのサービスは引き続きやっていますが、なかなか難しいのが現状です。システムとしては成り立っているのですが、マネタイズできていません。

需要があるからといってビジネスモデルが構築できるわけではないので、自治体と共に取り組んでいこうと考えています。

具体的には遠隔診療、訪問介護、ADL外出の回数を見る、といった取り組みです。

※ADL: 日常生活活動度(Activities of daily living)。人が生活を送るために行う活動能力。

例えば外出を検知すれば、ゴミの日にゴミを出しているかが分かります。ゴミの日にゴミを出すということは、曜日感覚がまだあるということです。逆にゴミを出せなくなっていたら要注意、ということです。これはたくさんセンサーを入れなくても、人感センサーで分かります。

自治体がやるべきなのは、健康寿命を延ばし、医療費と介護費の削減をすることだと考えています。ですから、まず電力会社とパッケージを作り、提案していこうと思っています。

今後の展望

小泉: 今後の展望をお聞かせください。

小川: 褥瘡(ジョクソウ)発症ゼロを目指しています。褥瘡(ジョクソウ)とは、床ずれのことです。

床ずれが起こると、現場の負荷が一気に上がります。床ずれはお尻の周りにできることが多く、そこに尿や便が流れ込むと、骨髄炎や敗血症に発展する恐れがあるので、オムツの交換を頻繁にやらなければなりません。そして体位交換といって、体の向きを変えてあげるのを、2時間に一度必ずやらなければなりません。

褥瘡リスク軽減の為に、ベッドの上でどれくらい寝返りを打ったかカウントできるようにします。そうするとデータが蓄積され、徐々に寝返りの回数が減ってきたということや、突然この日だけ全く寝返りを打っていないことなどがわかり、体位交換すればいいタイミングをあらかじめ知ることができます。

また、高齢者の方が入所してすぐの方だと、どういった特徴の寝相なのか、何回くらい寝返りを打つのか分からないので、現場の見解ではなく、センサーで見ていくメリットがあると考えています。

現段階では、7本センサーで、どの位置で寝ているか、右向きか左向きかといったことまで検知していく構想です。その寝返りが自発的な寝返りなのか、スタッフによる体位交換なのか記録しておくことも重要です。

さらに、オムツ交換をしているのか、貧乏揺すりなのか、くしゃみなのかなど、どの動きなのか機械学習にかけて判別できるようにします。

こういったことを可視化することにより、ケアワーカーさんが、適切なタイミングで、適切な対処をとることができると考えています。

小泉: 本日はありがとうございました。

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