Siemens Digital Industries Softwareが主催するユーザーカンファレンス「Realize LIVE JAPAN 2019」が7月10日に都内で開催され、その中でデジタルツインやオープンエコシステムにおけるシーメンスPLMソフトウエアの事業戦略についての説明会が開かれた。
複雑性に対応するための3つのキーポイント
最初はシーメンスPLMソフトウェアのグローバルセールス、カスタマーサクセス担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるロバート・ジョーンズ氏(トップ画像)よりデジタライゼーションが進む社会で企業が行うべきことと、それに対するシーメンスの取り組みについて説明があった。
ジョーンズ氏はまず、これからの企業に求められるものは複雑性に対応することだ、と述べる。
「ある学者の予想によれば、今後100年間に起こるイノベーションというものは、2万年分の進化に相当するという。それだけ多くの変化が現れれば、企業は複雑性を管理することに関して様々な課題と向き合うことになる。新しい時代で先行できる企業というのは、複雑性を利用し競合優位性を確保することができる企業になるだろう。」
その上でジョーンズ氏は複雑性の中で成功するためのキーポイントとして以下の3つを挙げた。
(1)包括的でかつ完全なデジタルツインを行い、イノベーションのライフサイクルを管理すること
(2)開発においてフレキシブル・適応性を確保し、様々な最終顧客のニーズの変化に対応すること
(3)オープン化されたエコシステムにおいて、パートナー・サプライチェーンとの連携を上手く図ること
この3つのキーポイントについて、さらにジョーンズ氏は詳細な説明を加える。
次ページは、「包括的なデジタルツイン」
包括的なデジタルツイン
包括的なデジタルツインを実現することで何が得られるのか。
それについてジョーンズ氏は「バーチャルな形でも自動化のためのコミッショニング(建築物やその設備において企画から設計、施工、運用までの各段階において、中立的な立場から助言や確認を行い、設備の適正な運転・保守が可能な状態であることを検証すること)を行い、製品の導入・変更などに活用できる」と述べる。
デジタルツインの実現のために、シーメンスはIoTに対して多くの投資を行っているという。それはデータのモニタリングだけでなく、パフォーマンスに関わる情報を利活用し、デジタルツインへ反映させることに力を入れるためだ、とジョーンズ氏は投資目的を説明した。
ニーズの変化に対応する柔軟性
開発における適応性を確保する背景について、ジョーンズ氏は「ひとりのユーザーに対して1つのエクスペリエンスしか提供できない、という時代は終わった」とし、最終顧客に対するパーソナライゼーション(個人向けにカスタマイズすること)を企業が実現する必要性を述べた。
そのパーソナライゼーションを実現するために、シーメンスでは3つの領域について投資を行っているという。
1つはクラウド開発への投資。これを通して各ドメインにおける専門性を活かした固有のサービスを顧客に提供すると、ジョーンズ氏は説明する。
2つ目はMendix社への投資。ラビットアプリケーションデベロップメント(少人数のチームでプロトタイプを繰り返し製作し、評価・改良することで次第に完成度を高めていくソフトウェア開発手法のこと)を得意とするMendix社のソリューションを活用することで、素早いアプリケーション開発を行うという。
3つめは産業用IoTに対する投資。これはプロダクトから得たパフォーマンス情報をいち早くデジタルツインに反映させ、素早くパーソナライゼーションに対応することを意図したものだという。
上記3つの領域に関する説明に加え、ジョーンズ氏はパーソナライゼーションにおける同社の「your way,your pace」戦略についても述べた。
これはビジネスモデルにおいて永久ライセンスか、サブスクリプションかを選択できるなど、顧客側が望むモデルでテクノロジーを導入し利用できる状態にすることを指す。
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オープン化されたエコシステム
キーポイントの3つ目であるオープンエコシステムについて、まずジョーンズ氏は「オープンツールに対して大きな投資を進め、相互運用可能でアクセスし易いエコシステムを作り上げてきた」と述べた。
その上でシーメンスPLMソフトウエアが提供する「Parasolid」(3D幾何形状モデリングのコンポーネント・ソフトウェア)ユーザー数が4,000企業に上ること、「JT OPEN」(製造業における可視化などを行うデータフォーマットを無料で公開し、その使用を拡大するためのプログラム)メンバーに130団体が加盟していることなどに触れ、オープンなエコシステムによって多くの企業とのパートナーシップを形成していることを説明した。
プラットフォーム活用の事例
会見ではシーメンスのプラットフォームを上手く活用した事例が2つ紹介された。
1つはソニー。ソニーは製品開発においてNX(シーメンスの三次元CAD/CAM/CAEシステムの名称)とTeamcenter(シーメンスの製品ライフサイクル・マネジメントのソリューション)を導入し、エンジニアリングの生産性を25%向上させ、より早くプロダクトの市場導入を図ることが出来るようになったと、ジョーンズ氏は説明する。
2つ目はヤマハ。ソニー同様、NXおよびTeamcenterを導入したことで二輪車の市場導入期間を短縮させ、顧客のニーズ変化に素早く対応できるようになったという。
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日本におけるデジタルフォーメーションへの取り組み
ロバート・ジョーンズ氏の次に登壇したのは、シーメンスPLMソフトウェアシニア・バイスプレジデント兼アジア太平洋地域マネージング・ディレクターのピート・キャリア氏である。
キャリア氏はまずシーメンスのソフトウェア戦略において日本が重要な位置を占めていることを語った上で、日本でのデジタルフォーメーションへの取り組みについて説明した。
キャリア氏が述べたのは富士通とのパートナーシップといった企業との連携以外に、日本全国における大学との連携にも取り組んでいること。
具体的には東京大学・中央大学との連携や、2500人のエンジニアリング関係の学生に向けて、シーメンスのテクノロジーやソリューションの教育を行っていることなどが紹介された。
各分野におけるデジタル・エンタープライズ
続いてキャリア氏は「将来のものづくりは、いかにデジタル・エンタープライズを実現できるかにかかっている。」とした上で、各業界に対応するソリューションを進めていることを説明した。デジタル・エンタープライズとは物理的なバリューチェーンの全体に渡る情報をデジタル化することを指す。
先ほどロバート・ジョーンズ氏の説明にあったソニー、ヤマハのようなディスクリート製造(原料の加工、部品の組み立て、製品の検査、原料・部品・製品の搬送といった工程で構成される産業)をはじめ、ハイブリット産業の領域では食品業のデジタル・エンタープライズに関わり、プロセス産業では鉄鋼会社とのデジタル化の取り組みを進めているという。
特にキャリア氏が強調していたのは、宇宙航空産業の分野である。宇宙航空産業における大半の企業ではデータ・コラボレーションやデータ管理のためにシーメンスのソリューションであるTeamcenterを使っているという。
キャリア氏は「三菱航空機は新しいスペースジェットの発表を行ったが、このスペースジェット実現にあたってシーメンスのソリューションと、航空産業における経験を活用し、成功させたい」とも述べた。
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日本のデジタル化における現状と課題
最後はシーメンスPLMソフトウェアカントリーマネージャーである堀田邦彦氏から、日本におけるデジタル化の現状と課題、成功事例について説明があった。
堀田氏はまず「日本の企業は各社部門ごとに最適化し、現状のプロセスを効率化するために多くのカスタマイゼーションを行うというやり方でIT化を進めてきたが、その結果として現状では8割のシステムが老朽化してしまっている」という問題点を指摘し、「使いやすくしようと思ったカスタマイゼーションが、逆にボトルネックになっている」と述べた。
日本における2つの成功事例
堀田氏は課題を指摘した上で、企業名は伏せながらもデジタル化に成功した2つの事例を紹介した。
1つはモデルベース開発(コンピューター上のシミュレーションで製品の設計や性能を検証し、量産までつなげる手法)を導入した企業。
この企業では分かれていたのを部門統括しIT部門を設立し、デジタルデータを一貫して開発プロセスの最初から最後まで利用する体制を作ることができた、と堀田氏は述べた。
もう1つは企業買収で成長した電機精密会社の例である。この企業は、それぞれのグループ会社で違うシステムを使っていることが課題であったとのこと。
これに対して、まず各部門の実際にシステムを使うエンドユーザーとコミュニケーションを行い、現場の声を共有した上でTeamcenterの導入を行ったところ、生産性を25%向上させることが出来たという。
「例に挙げた企業のポイントは、ミドルアップ・ミドルダウンで会社を変えたところ。トップダウンではないやり方で変革を行う会社が日本にも表れている」ということを指摘し、堀田氏は説明を締めくくった。

