先日、アステリアが開催した、株主総会は、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」と言われるものだ。
聞き慣れない言葉かもしれないが、これ自体は、新型コロナウイルスの影響を受けて、政府からも3密を避ける対応として提唱されている考え方で、その定義によると以下の内容になるという。
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会へ の法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴すること ができる株主総会をいう。
そこで、株主総会を終えたばかりの、アステリア株式会社 代表取締役の平野洋一郎氏に、どういった仕組みを実現したのか、さらに実際に株主総会を行なった課題や未来などについてもお話いただいた。(聞き手:IoTNEWS 小泉耕二)
バーチャル総会を実現するための工夫
小泉: 今回のハイブリッド出席型バーチャル株主総会ですが、フジテレビのニュースを拝見していて、カメラに囲まれて議事進行をされていたようで、驚きました。
アステリア 平野氏(以下平野): これまでのリアルでの株主総会では、株主の方がうなずいたり、首を傾げたりとフィードバックがあったのですが、配信型では反応がわからないのでもう少し参加感が欲しいなと感じました。
小泉: オンラインセミナーなどでも、反応がわからないという声をよく聞きます。
平野: 今回は撮影した映像を配信するという方法をとりましたが、もしかしたら、オンライン会議のようなやり方であれば、参加者の雰囲気ももう少しわかって良いのかもしれません。
小泉: 参加された株主側の課題などはありましたか。
平野: 一般論としては、年配の方などが参加できないのではないかといった心配があるようです。
しかし、今回はわかりやすくするために、スマートフォンを基本として、QRコードを撮影することで簡単にアクセスできるようにしました。
コールセンターも設置したのですが、実際の問い合わせはあまりなく、株主の方そのものというより周りが心配しているという印象でした。
株主総会にブロックチェーンを活用する意味
小泉: なるほど。私などはセキュリティが気になってしまうのですが、この点について、アステリアはブロックチェーンの取り組みも盛んで、今回の議決に関してもブロックチェーンを使われたということです。
平野: はい。実は、当日の投票だけでなく、事前投票に関してもブロックチェーンを利用していました。改ざん防止や透明性確保を行うこともできています。
小泉: ブロックチェーンはどういう使われ方をしたのでしょうか。
平野: まず株主に、持っている株の数にあわせて、トークンを配布しました。そして、議決をとることで、株数に応じた投票が実現できています。
今回の投票では、パブリックチェーンとなる、「イーサリアム」を使っています。パブリックチェーンは、公的であるとも言えるし、検証可能だという点でも、株主総会の議決に向いていると思いました。
小泉: ブロックチェーンでやる難しさはどういったところがありますか。
平野: 株主総会は、投票の中でも難しい部類だと思います。通常の投票行為は、一人一票ですが、株主総会の場合は一人N票です。
また、一つの議案に対して五個のサブ項目があるとした場合、1種類のトークで行うべきなのか、5種類のトークンで行うべきなのかという問題も発生します。
小泉: イーサリアムには、「スマートコントラクト」という、「条件が揃ったら取引を実行する」機能がありますが、これは使われているのでしょうか。
平野: 株主総会の議決には、複数の議題があります。議題ごとに取引を成立させていたら、例えば、複数の議決を行なっている途中で通信障害が起きたら、途中までしか投票していないことになります。
しかし、本当は、全ての議題について投票してほしいわけですから、これでは正しい投票をしたいという株主の意思に反して、通信環境のせいで実現できなくなってしまいます。
そこで、全ての議題について投票をしたら、実行する、というルールにすることで、全ての議題についてきちんと投票ができたことを担保することができるのです。
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の今後
小泉: 他にもブロックチェーンの優位性はありますか?
平野: 例えば、株主が別の株主に「委任」したいようなケースについて、これまでであれば証券会社を通して委任をしていました。今後ブロックチェーンの仕組みであれば、トークンを持っている人が正当な権利者であるということが言えるし、委任行為を行なってもトレースが可能であるため、委任についても簡単に行えると思います。
そこで、今後、この委任の機能もつけていきたいと考えています。
小泉: 今後この仕組みはどう発展するとお考えでしょうか。
平野: 投票の中でも、間違いが許されないようなものについては、利用が進むと思います。
海外に住んでいる方などより広い方が参加できて、意思表示もできるような株主総会のあり方自体も変えていきたいと思います。
小泉: 本日はありがとうございました。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。