ソラコムの年次イベント、Discovery2021レポートの第二弾は、大企業とベンチャー企業の共創についてだ。
KDDI代表取締役社長の高橋氏、ソニーグループ取締役の十時氏、ソラコムの玉川氏が登壇し、WiLの伊佐山氏がモデレータを務め、大企業とベンチャー企業の共創を実現する上での考え方が議論された。
[登壇者] モデレーター:WiL, LLC CEO 伊佐山 元 氏KDDI株式会社 代表取締役社長 髙橋 誠 氏
ソニーグループ株式会社 取締役 代表執行役 副社長 兼 CFO 十時 裕樹 氏
株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲 氏
ソラコムのグローバル展開
冒頭、WiL 伊佐山氏は、IoTプラットフォームの市場は、大手企業が参画している状況。その中で、ソラコムが、ガートナーのマジック・クアドラント2021にエントリーされた。これは、世界の中でもソラコムが認知されてきたことを示している、とした。
それに対しソラコム 玉川氏は創業当時の2015年を振り返り、「ケータイのコアなシステムを、パブリッククラウドであるAWSの上でつくったというのが特徴で、これをコアとして、IoT向けの通信のプラットフォーマーとして提供を始めた。」「コアメンバーのバックグランドがAWSだったので、オープンなプラットフォームとして、SIM1枚単位で使えるサービスができれば、きっといろんな使い方をしてくれるだろう」という当初の着眼点を述べた。
その上で、今後のグローバル展開に関して、「今回発表したSORACOM Arcが加わることで、SIMを前提とした通信だけでなく、Wifiなどの通信でもIoTプラットフォームが使えるようになる。」とし、世界で使えるグローバルSIMと通信、IoTプラットフォームのサービスを、以前から持っているソラコムは、グローバルで多様な通信を前提としたIoTプラットフォームを実現することが可能となったのだとした。
それに対し、KDDI 高橋氏は、トヨタをはじめとしたグローバル企業が、DXを果たした後、「顧客と企業がどうつながり続けるか」が重要になるのだとした。なぜなら、DXの本質を理解している企業は、継続的に顧客と繋がり続けるためにIoTを利用したいと考えているからだ。
つまり、DXによってリカーリングビジネスを中心に、ビジネスモデルを変えていこうと考える企業は、どんな会社でもターゲットになり得るのだ。
また、ソニー 十時氏は、すでに「Qrio(キュリオ)」などの小型の端末ビジネスは、すでにやってきているが、今面白いと考えているのは、「IoTとAIを合わすこと」とした。しかも、現在力を入れているのは、「B2Bのビジネス」で、例えば、「イメージセンサーにAIをつけて、エッジで処理する」といった取り組みをやっているのだという。
そもそも映像のデータは膨大なので、デバイス側で高速に処理をすることができれば、高速なAIキャプチャリングや、データ出力が可能になる。通信の容量もそれほど使わなくて良くなる。消費電力も少なくて済む。という恩恵にあづかれるのだ。こういった処理にAIが活用されることでプラスのスパイラルが発生することに期待しているのだという。
実際、先日ソニーセミコンダクタソリューションズ製のイメージセンサー「IMX500」を搭載した、AI処理機能を持つイメージセンサー搭載のカメラ「S+ Camera Basic Smart Edition」を発表している。
このイメージセンサーは、AIモデルを実行するDSP(Digital Signal Processor)が組み込まれており、撮影した画像の高速処理が可能だ。高速で動く人やモノの動態トラッキングや、工場における不良品検出など、従来ではアクセラレーターなど専用機器を必要とした処理速度が求められる用途にも利用できるとしている。
それに対し、ソラコム 玉川氏は、「ソニーの高度なテクノロジーは簡単には手に入れられない。これをS+ Camera Basic Smart Editionでは、一個単位で購入することができる。その結果、これを使ったお客様が、面白いユースケースを生み出すではないかとワクワクしている。」と述べた。
ベンチャーと大企業の関わり方
ベンチャー企業と大企業の関わり方について、ソニー 十時氏は、「ベンチャーに投資するとか、インキュベーションをする、といったことはこの10年で普通のことになってきた」という。以前は、「それ自体がスケールするのか?」「どういう将来が描けるのか?」「自分たちでやれるのに、なんで外のベンチャーとやるのか?」という議論が社内で起きていたのだという。
しかし、そこに対し、いろんな人がユースケースやサービスを作り出し、ネットワーク効果であっという間に広がるという社会情勢の中で、世の中にキャッチアップするのは自分達だけでは無理ではないかという考えになったのだという。
しかし、現在では、外の人の力を借りながらやるのが当たり前となってきているのだ。
ベンチャー企業には、「発想の柔軟性」と「スピード感」、「ピボットの速さ」などがあり、大企業ではついていけない。世の中に対する感度も優れているため、大企業がベンチャー付き合うことで刺激を受けるという効果もあるのだという。
ベンチャー企業とうまく付き合うコツついて、十時氏は、「ベンチャーはこういうものだと慣れて欲しい。成功しないことも多い。ピボットによって成功することも多い。できることは、それをサポートすることだ。」とした。
また、KDDI 高橋氏は、これまでのベンチャー投資は、「出島」的な施策が多かったが、今後は「本体がベンチャーとコラボする」という、第二フェーズになる、とした。
さらに、「これからはB2Bの時代だ」と言い、「法人向けの事業部がこれまでやってきた、ワンショットのビジネスから脱却し、持続可能なビジネスをどうつくっていくのか、アメリカにあるスケールの大きなベンチャーと、いかに相乗効果を生むのかが重要だ」と述べた。
Swing by IPOという考え方
そして、ご存知の通りソラコムとKDDIは現在資本関係にあるが、さらに世界を目指すために、「Swing by IPO」という、聞きなれないやり方を取ろうとしているソラコムに対し、KDDIがどう考えているのかという話題に移った。
これについて、ソラコム 玉川氏は、「グローバル進出をしていくにあたり、もう一回スケールアップする必要があり、これにはIPOをやることになる。」とした。
そして、このチャレンジに対して、KDDIの高橋氏は、「KDDIの傘下でベースをきちんと作り、黒字企業になったソラコムが、世界に対してIPOしていく、こういうベンチャーとの付き合いがうまくいくのであれば、第二、第三のソラコムを見つけていきたい」とした。
こういったやりとりが認められることも珍しいと思うわけだが、これが実現される背景としては、「大企業が求めていることを理解しようとする玉川氏の姿勢も重要だ」と高橋氏は言う。
これに関してソラコム 玉川氏は、「テクノロジースタートアップとしてアーリーな時期に評価していただきKDDIグループに入った。まずは約束した事業計画をやり切る。二年後に100万回線を実現した。そしてKDDIと約束したシナジーも実現してきた。
おそらく、このままいくと、順調に伸びていくイメージがあるが、本当の意味でのグローバルプラットフォームになろうとすると、もう一段(の挑戦を)やらなければいけないのではないか。
ベンチャースピリッツを体現していかなければならない一方で、Swing by IPOのことを言い出すのは葛藤があった。まずは率直言ってみようと思い、言ってみて、道筋がついた。
このIPOも手段でしかないので、グローバルプラットフォームを実現したい。」と述べた。
大企業がベンチャー企業育成に関与する意義
ソニー 十時氏は、「ソニーと組むと、いろんな世界が作れることが重要だとした。モノを作るときは、予算や生産性のノウハウが必要だが、それはベンチャーではなかなか難しい。ソニーは、そういうことはずっとやっているので、助けることができるのだ。」とした。
また、KDDI 高橋氏は、「正直通信だけでは生き残れないと感じていて、ベンチャーと事業部を繋ぎこむ作業を現在行っている。ベンチャー企業は、こういうところをぜひ利活用して欲しい」と述べた。
SORACOM Arcが登場し、新たなスタートラインに立ったソラコム。大企業の力をうまく借りながら成長し、新たな取り組みを行うだけでなく、グローバルマーケットに乗り出す準備も着々と進め、新たな一歩を踏み出しはじめたのだ。
無料メルマガ会員に登録しませんか?
IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。