先日行われたSORACOM Discovery2016で、ソラコム社のLPWA(Low Power Wide Area Network)への取り組みを株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲氏が、LoRaの解説を株式会社M2Bコミュニケーションズ 代表取締役 田中 雅人 氏が行った。また、同じ場で様々な場所での実証実験結果も公開された。
ところで、LoRaWANとは、以前IoTNEWSでも、取材記事を公開してる。
LoRaの特徴としては、下図にあるように、
- 乾電池でも数年は稼働する
- モジュールの単価が安い
- 数キロメートルは飛ぶ
- 免許が不要
というメリットがある一方で、「通信速度が遅い」というデメリットもある。つまり、スマートフォンの通信のように動画を送ったりするようなことはできないのだ。その仕様は現在策定中で、今年の秋にかけてLoRaWAN1.0がリリースされる。
LoRaWANとは?なぜ、このような通信が必要なのか
上の図でもわかるように、LoRaWANは、デバイスとLoRaWANゲートウェイの間をつなぐ通信だ。スマートフォンの通信の場合、デバイスとなるところがスマートフォン、LoRaWANゲートウェイとなるところが通信キャリアの基地局だと思えば想像がつくのではないか。
通常、このような電波を発する機器は電波通信法という法律があるので誰でも置くことはできない。しかし、一定の許可が下りている帯域については置くことができるので、特別な認可を得ることなく通信ネットワークを構築することができるのだ。
例えば、牧草地で放牧されている牛の首輪にGPS機器を取り付け、位置を把握したいといった場合、飛ばしたいデータは少量だが、通信が届く範囲は広大で、牛につけた機器はなるべくつけっぱなしにしたいから乾電池くらいで長く動くものがよい、ということになる。そこで、通常の通信キャリアのネットワークを使うと、通信範囲は広いかもしれないが、飛ばしたいデータ量に見合わないほどにリッチな通信を行うため電池が長くは持たないという結果になる。
他にも、水道の検診データを月に1回だけ送るような利用シーンを考えたときなども、大半の時間は通信する必要がないし、データを送信する量も少量であるにも関わらず通信のための月額費用がかかるのはナンセンスだともいえる。
こういったニーズにこたえるには、LoRaのような通信環境を自由に構築できることが必要になるのだ。
LoRaWANの仕組み
LoRaWANの構造は以下のとおりだ。
上の図は、LoRa通信における決まり事をイメージするための図で、物理層というところに書かれた帯域がそれぞれの国でどの帯域を自由に使ってよいかが決まっているという意味だと理解すればよい。(つまり、日本では920MHz帯を利用することになる)
また、MAC層と書かれている層では以下の3種類のクラスが定義されている。
- クラスA:すべてのデバイスで利用できるべき内容が定義されている
- クラスB:ネットワークから端末を呼び出す内容が定義されている
- クラスC:連続でデータを送信する、マルチキャストする内容が定義されている
田中氏によると、現在、日本ではクラスBは使えない状態だということだ。
田中氏が経営するM2B社は現状日本で唯一のLoRaアライアンスの仕様を検討する国際会議にも出席し議論に参加している企業で鋭意仕様も策定中ということだ。
また、ソラコムの玉川氏によると、今後は、LoRaをつかってもLTEをつかってもシームレスに使える環境を構築していきたいということだ。その際、LoRaモジュールからのデータをSORACOM BeamやFunnelを使ってクラウドにデータ転送を行うといったこともできるということだ。
さらに、LoRaのモジュールも従来のSORACOMの管理画面が活用でき、オン・オフなどの操作も可能になるようにしているというのだ。
LoRa管理画面も他のサービスと同様のわかりやすい画面となっている。
実証実験の紹介
ファームノート社の実験
前述したLoRaの解説でも例としてあげた、放牧地において、牛がどの時間帯にどの辺に、どういう速度で移動しているのかを知るという事例だ。
LoRaを活用して広大な土地で実験することができたということだ。
60秒に一回、約2kmの範囲でGPS情報を送る設定となっている。
サントリー・システムテクノロジー社の実験
LoRaが都市部でどれくらいの飛距離があるのかということについて実証実験を行ったということだ。
LoRaだと建物の中は届きづらいという状況もわかったということだ。
九州通信ネットワーク社の実験
さらに、九州通信ネットワーク株式会社 執行役員サービス開発部長 松崎 真典氏より、宮崎県で行った実験についての説明があった。
高松橋での実験
この実験では、橋のひびわれや傾きをセンシングし、クラウドで常時モニタリングすることができないかというものだ。これによって劣化の早期発見などの効果が期待されるというのだ。
図のように、山間の入り口まではキャリアの通信網を利用することができるのだが、山間部に入るとキャリアの通信網ではネットワークを構成することができないようなエリアができる。
一方で、橋梁などの予兆保全を行う場合は橋梁にセンサーをつける必要があるため、センサーの情報をなんらかの形で受け取る必要があるということだ。そこで、LoRaWANを検証する必要があったのだと松崎氏はいう。
橋の内部に空洞があるので、その中に機材を入れ込んでの検証を行おうとしたが、実際にやってみると厚いコンクリートの壁を電波が通れないことが分かったため表にLoRaゲートウェイを置くこととなったということだ。
実験の結果、最長で3.8kmの飛距離があったということだ。ただ、時速40-60kmという速度で走行しながらでは通信ができないということもわかったということだ。
下田原大橋での実験
下田大橋付近は、山間部となっているため、電波が山を越えてまで到達できるのか?という点について主に調査された。具体的には、橋のたもとに親機を置き、車に子機を入れ測定したということだ。
検証の結果、山間の地域であったことからか、山は越えられず、見通しがよいエリアでは通信が可能であったということだ。
親機と子機の間の視界を遮るものがない状況を作ってみるため、山頂まで登ることで、5.8kmの最長距離を記録した。また雨や霧の影響はなさそうだということだ。
沖縄ファミリーマートでの実験
他にも、沖縄県の沖縄ファミリーマートすべてに設置すると、顧客活動の可視化に関してほぼ全域をサポートできるのではないか、という試みがされたということだ。
基地周辺を1分ごとに車を走らせたところ、2kmくらいは飛んだということだ。
SORACOM LoRaWAN PoCキット発売
最後に、ソラコム 玉川氏より、SORACOM LoRaWAN PoCキットを発売するという説明もあった。
実際にLoRaWANを試してみることも可能な、屋内用・屋外用ゲートウェイとLoRaモジュールなどがついているキットで、M2Bコミュニケーションズ、クラスメソッド、レキサス、ウフルの4社から提供され、コンサルティングサービスもついてくるということだ。
内容は以下の通り。(SORACOMホームページより)
- LoRa ゲートウェイ(屋内用、屋外用のいずれか 1 台)
- LoRa モジュール(10 個)
- LoRa ゲートウェイ接続用のSORACOM Air(1 枚)
- 半年分のSORACOM Air通信費
- LoRa ゲートウェイ設置サービス
- LoRa ゲートウェイ/モジュール保守サービス(ご購入より1年間)
- LoRaWAN™ PoC キット 1-Day トレーニング
- LoRaWAN™ PoC キット スタートコンサルティング (各種センサー実装サポート、バックエンド開発、データ分析等)
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。