半導体やネットワーク関連機器などを輸入し、高度な技術力を有して企画・開発、販売する技術商社のマクニカ。マクニカは得意な「下回り(ハードウェア)」からIoTを考え、サービスを提供している。商社ならではの品ぞろえを活かし、時にはメーカーにもSIerにもサービサーにもなり、顧客のIoTをサポートする。
そのマクニカが提供する予知保全のサービスについて、株式会社マクニカ イノベーション推進統括部 統括部長 岡田裕二氏、同社テクスター カンパニー ソリューション事業推進室 室長代理 根城大介氏、同社テクスター カンパニー 技術統括部 技術開発推進室 室長代理 町田悦一氏の3名にそれぞれ話を伺った。
-御社について教えてください。
岡田氏(以下、岡田): 弊社マクニカは1972年の創業から45年ほどたちまして、現在は3,500億ほどの売り上げがあり、日本のエレクトロニクス商社ではトップクラス規模の会社です。マクニカグループには、半導体事業とネットワーク事業があり、それぞれカンパニー及び子会社で構成され、特色を持った製品群を数多く扱っています。
本日の主題である予知保全ソリューションは、2016年にマクニカグループのテクスター カンパニーが、IoTソリューション、特にIIoTに関するソリューションを提供するソリューション事業推進室を立ち上げ、開発しました。こちらはのちほど、詳しく担当から紹介させていただきます。
マクニカは創業当時から技術サポートに力を注ぎ、業界に先駆け、技術支援重視の「技術商社」という新しい商社像を打ち立てました。社員の約30%、600人ほどが技術者で構成されており、海外を中心とした最先端の半導体やネットワーク関連商品を、お客様の環境に合わせ使いやすいように提供するとともに、質の高い技術力でお客様のニーズを実現するためのサポートを行っています。
-技術者が非常に多いですね。
岡田: はい、エレクトロニクス商社と呼ばれる商社のなかでも、エンジニアの人数はかなり多いと思います。もう一つの強みはグローバルサプライヤーとのリレーションです。シリコンバレーに本社を置くサプライヤーを中心に、数多くの半導体及びネットワーク関連商品を取り扱っており、お客様からも「この会社の製品も、扱っているんだね」とおっしゃっていただきます。
商社は物流、販売機能としてのセールスがあり、技術サポートができる商社はそれも商社が提供しているケースがありますが、マクニカはさらにその先の受託開発サービスや、オリジナルIP、リファレンスデザイン、ラピッドプロトタイピング用のハードウェアプラットフォームを作るなど「お客様をEnd to End でサポートする」ことで一貫してやっております。
-御社は昔からそうですよね?
岡田: そうです。マクニカでは創業当時から技術サポートに力を入れてきました。特にIoTですと、 End to End のサポートは非常に重視されていくと思っています。お客さま自身がデジタルも含めたトランスフォーメーションをしていく時代になるので、マクニカがどうやって一緒に成長していくかを考えており、その活動を「Mpression」というソリューションとして提供しています。
Mpressionには色々なサービスがありますが、一番分かりやすいのは、デバイスをボード化してそのまま組み込めるようにするというようなモノ。ここが「ボードソリューション」と呼んでいるところです。
-「普通の人が、チップを見て萌える」という時代がきましたね。
岡田: 最近ユカイ工学さんと一緒に作ったこのモジュール(Koshian)はMpression製品です。ハッカソンなどではKonashiがよく使われていますが、これを次の段階であるプロトタイプとしてシームレスに使っていただけるようにしようということで一緒に作成しました。
デバイス自体プロスペックなモノが多いですが、やはり大量のボリュームでないと買えないケースが多いので、こういうモノはボードにして、Mpressionとして、オンラインで一個から買えるようにしています。
Konashiの一番良い点は、Java script対応がされていることで、ソフトウェアにフォーカスしたフィジカルコンピューティングと呼んでいます。そこで我々が「一緒にやらせてくれ」とお話をしました。半導体のモノをいかにストレスなく、Webエンジニア等、従来のハードウェアエンジニア以外の方に使ってもらえるかですね。
そして一番注目しているのが、小規模のEMSと言われている、小ロットでモノづくりをしてくれる企業がだいぶ増えてきたという点です。我々はもともとモノづくり企業のお客様が多いので、こういうネットワークもくっつけていこうと思っています。
-そういう小規模のEMSは、どういうモノが中心なのでしょうか?
岡田: 各モノづくり企業ではそれぞれ、得意とする分野をお持ちです。今我々が一番押しているのは、VAIO社です。VAIO社と提携を昨年のはじめに行ったのですが、VAIO社はPC やロボット分野でのモノづくりをされており、しっかりした工場を持っています。そこで小ロット対応を「一緒にやりましょう」と。工場のオープン化を日本でできるといいなと思っています。
さらに、量産を受けて流すということもメニュー化しています。ちょうど今ベンチャー企業が困っているのは、DFM(デザインフォーマニュファクチャリング)と言われる量産設計の部分です。まさにここの辺りを我々プロが一貫してサポートをしています。
ではやっと本題ですが、非常にニーズが高い産業機器の予知保全などについて、サービスを提供しているマクニカ テクスター カンパニー担当者からお話させていただきます。
テクスター カンパニー 根城氏(以下、根城): この2、3年で産業機器を設計・製造しているお客さまからIoTについてご相談いただくことが多くなり、お客様にセンサーやマイコン、無線チップを一生懸命売りにいったのですが、なかなかビジネスにならない状況が続いていました。
ただ、産業機器のお客さまとIoTのお話をしていくなかで、見えてきたことがありました。産業機器のお客さまは、産業機器をずっと作っていますからもちろんプロなのです。昨今、社内外の方から「Indstrial 4.0 やIoTに対応してください」という話があり、設計者の方が「何をしたらIoTを実現できるか?分からない、非常に困っている。」というお客様が多い事が分かりました。
あるお客さまは「ハードもソフトも分からない、無線の認証も分からない。もう、あきらめます」とおっしゃっていました。
そこで、もともと我々が取り扱っている無線モジュールメーカーのモジュールを持っていけばお客様の課題であった認証も取れていますし、ハードはモジュールを接続すれば動作すると考え、無線モジュールを持っていったところ、「こういうのが欲しかったんだよ」とすごく喜んでいただけました。
「あ、こういうIoTビジネスもあるのかな」と無線モジュールをお客様に紹介しはじめたところ、非常に好評でした。そしてお客さまは欲張りで(笑)、「センサーとかマイコンとか、全部セットにして持ってきてくれ」とおっしゃいました。
大きな課題を投げられ、我々もかなり苦しんだのですが、「これはもしかしたらビジネスになる可能性がある」ということで作ったのが、このAdaptive beeというモノです。
ベースボードに、低消費電力のIoT向けのマイコン、FPGA、セキュリティチップも乗っています。我々が取り扱っているドイツの半導体メーカーに、セキュリティチップのラインナップがあり、そのセキュリティチップを搭載して端末からセキュリティをかけることが可能です。
無線については、工場ですと2.4GHzは混雑しているので、我々としては920MHz(特定小電力無線)を提案できるように、また、BLE (Bluetooth Low Eneargy) にも対応できるように無線モジュールが三種類つながるような基板構成となっています。センサー部分も温度・湿度・照度・加速度・気圧などのセンサーを付け替えられるので、すごく好評です。
-もう産業用レベルでリッチですね。
根城: そこまではいかないと思います(笑)。 こういったモノを利用いただくことで、お客さまは「これでつながることは分かった」とおっしゃり、次に「ビックデータやゲートウェイも全然分からないから、もうまとめて持ってきてくれないか」となりました。
そこで、お客さまからの課題に対して、ゲートウェイ、クラウド、プラットフォームなどのソリューションを持つパートナーと一緒に、IoT ソリューションとして用意したところ、非常に好評でした。
ただ、やはり皆さん欲張りで(笑)、「今度はデータの利活用だよ」とお声を多々いただきました。いわゆる予知保全のご要望が多くなってきたので、「予知保全の導入支援サービス」をはじめました。そうすると産業機器のなかでも工作機械のメーカーさんからすぐにお話をいただき、現在お客様の環境で実証実験をやっています。
-予知保全は、2017年に旬期が来ると思います。2016年に多くの企業が実験しているので、結果がそろそろ出るはずです。タイミングは早過ぎても駄目だし、遅過ぎても駄目で本当に今だと思います。
マクニカの予知保全支援サービスとは
テクスター カンパニー 町田氏(以下、町田): それでは、私から予知保全の支援サービスの概要について説明いたします。今まで従来の保全方式は一般的に予防保全というかたちをとられていましたが、人件費や無駄な部品コストがかかるため、 IoTを活用した「予知保全」が生まれました。
具体的なメリットに関しましては、下記図のように大きく4つあります。無駄な交換費用の削減、メンテナンス員の人件費削減、ダウンタイム回避による効率化、検査員の後継者問題の回避です。
町田: 今まではメンテナンス員が五感をフルに使って、聴診棒を使って機械の音の状態を監視する等、その人の感覚や技術に頼っていましたが、今はそれを後輩に技術伝承していくことが難しいそうです。IoTを使った予知保全では、人の感覚でやっていたことをセンサーで代用し、データを使って判断するようなことを行います。
実際にメリットがたくさんあるので「予知保全を導入したい」というお客さまたくさんいらっしゃるのですが、予知保全を導入するにあたり「課題が多い」というのが我々マーケティングしているなかで気付いた点です。
町田:上記のそれぞれのフェーズごとに結構問題がありました。まずセンサーの選定で、そのモノの状態を監視する部分に関しましては、そもそもその異常状態をとらえるためのセンサー選定の方法が分からないということです。すでにセンサーを付けデータを取得している会社も「スペックはよく分からないので、安いモノを選んで付けました」とおっしゃる方も多く、「最初のフェーズでつまずかれているお客さまが多いんだな」というのが実際のところです。
根城: のちほどお見せしますが、本当はサンプリングレートの高いところまで取らなければ希望するデータが取れないのに、「センサーはこれでいいんでしょ?」とおっしゃる方が多いのです。まず最適なセンサーを選択するという点が実は大きな課題だという点が分かってきたのです。
町田: 次にセンサーデータの収集フェーズになりますと場合によっては無線でセンサーデータをあげるケースもあるのですが「無線でセンシングしたデータを飛ばしたい、だけど経験がなく実現方法が分からない」というお話をいただきます。
データの格納のフェーズに関しましては、「オンプレミスじゃなくてクラウドを使いたいんだけど、クラウドを使った事が無いので実現方法が分からない」などですね。あとは工場のデータをクラウドに上げる際のセキュリティの課題があります。そのほか、大手に見積もり依頼したら、ばく大な金額の見積りが返ってきて「費用対効果を考えると運用できない」というお声もありました。
このようにいろいろなフェーズで皆さんお困りになられている現状が分かりました。そこでマクニカでは、お客さまの課題解決ができるように下記の「導入支援サービス」をスタートしました。
サービスは大きく4つありますので、それぞれご紹介します。
1.センサー選定のコンサルテーション
町田: サービスの1つ目はお客様のやりたい事を把握し、最適なセンサーを選んで、取り付け位置やどういう通信方式を選択するかというコンサルティングベースでのセンサー選定コンサルになります。
センサー選定については、まず「診断内容の掘り下げ」が重要です。機械のどの部分のどんな異常モードを見たいのか、その機械の回転数はどのくらいか、機械の故障予知では壊れる前のちょっとした予兆もつかみたいのか、壊れる寸前のところでいいのかといったところ、つまり「どういう状態になる事を予知するデータを見たいのか」というお客様の目標を達成するためのセンサーを選定させていただきます。掘り下げた内容から、実際いろいろ計算式等を用いて、故障周波数がどこの周波数帯域に現れるかを算出します。
その際に、センサーも、いろいろな状態、異常をとらえたいモードによって選定します。機器の幅広い異常モードに対応できる加速度センサーや、金属の接触によるミクロレベルの破壊に伴うエネルギーをとらえるアコースティック・エミッションセンサー。
さらに電磁気センサーや、オイル監視センサーなどアナログ・デジタルかかわらず、単純なパッケージサービスではなく、お客さまのやりたいことに合わせてセンサー選定をさせていただいているというところが、キーポイントです。
2.実証実験支援
町田: 実証実験のフェーズを越せないと最終的にはゴールにたどり着けないため、我々としては実証実験でちゃんと結果を出すというところを積極的にやらせていただいています。
例えば、「無線で実現したい」「有線の配線ができない」というお客さまには、マクニカで扱っている最新の無線のモジュールをお客さまの工場や機器の環境に合わせてご提案します。
提案させていただく際はスペクトラムアナライザ等を使用して、取り付け位置だったり、環境だったりという無線の状況を検証します。
やはり「スモールスタートでやりたい」という要望が多いので、なるべく既存のセンサーやターミナルユニット、ゲートウェイなどを、我々のエコシステムパートナーが保有しているモノを組み合わせて、取り付けの工事まで対応します。
その他には、現場に行ってセンサーを設置し、その場でデータを取って、そこから何か異常兆候をとらえられないかという分析サポートも実施しています。
「すでにデータはある」というお客さまに関しては、データをいただいて、そこから何か見えないかという分析を支援します。常時監視システムで異常を判断するのに「AIを入れたい」というお客さまに関しては、その取ったデータからモデルが作れるか、どういう学習モデルを作るのかという部分のサポートもいたします。
ぐるぐるPDCを回していくなかで、例えばデータが足りなければまた新たなセンサーを付け足す、というかたちを取っています。
3.常時監視システムの導入提案
町田: 常時監視システムの一般的な導入提案の事例としては、機器のどういった異常モードを見たいかによって、例えば「高サンプリングレートのセンサーじゃないといけないね」といった場合には、EMセンサーや振動センサーといった、アナログ出力のサンプリングレートの高いセンサーを取り付けて、データロガーへデータを上げるようなシステム提案になります。
実証実験の結果によって、異常周波数が低いことが分かった場合には、半導体の加速度センサーを提案させていただいています。やはりアナログセンサーに比べて低コストでご提供できるメリットがあります。お客様のご希望に合わせて半導体センサーを使用したカスタムセンサーモジュールをマクニカにて開発しご提供している実績もございます。
4.カスタムセンサーモジュールの設計生産
町田: お客さまのセンサーに対するご要求は多岐に渡っており、マクニカは下回りが一番強いところでありますので、カスタム生産モジュールを開発してご提供しております。
先程申し上げた通り、実証実験で「低サンプリングレートでもいいよ」という場合には、センサーと無線モジュールなど顧客のニーズに沿ってデバイスを組み合わせたカスタム生産モジュールを作るのですが、スペースの問題や、つながるノード数、工場内の電波環境と動作環境などをお伺いしながら開発いたします。
-商社だからできることですね。素晴らしいと思います。
町田: 商社ではありますが、メーカーになったり、SIerになったり、サービサーになったり。「商社であるからこそいろいろなかたちで化けられる」と、最近すごく痛感しています。
岡田: マクニカではPoCに乗せるときでもプロレベルのハードルをクリアしてから乗せるので、使ってもらってから何か問題が起きるようなことはほとんどありません。
根城: 我々はIoTを前面に打ち出すのではなく、例えば「IoTを活用した予知保全」など、サービスをと前面に出してやっていきたいと思っています。
-IoTは目的ではなくツールですからね。世の中の成功事例も「結果論をまとめたら、IoTだった」という話ですから。
根城: コンサルティング企業、IoTプラットフォーム企業、クラウド企業など、皆さんIoTをIT側、つまり上から見ていると思います。
しかし、下の端末、いわゆるハードの方からIoT全体を見ている企業がほぼいないと思っていますので、そこが我々の付加価値になっています。よって上から見ている企業から「一緒にやってくれないか」という声が非常に多いのです。今は、差別化とスピードが大事だと思っていて、スピードについてはもうこの半年が勝負だと思っています。
町田: それではJIMTOF(日本国際工作機械見本市)で実際に動かしたデモをお見せします。
町田: 故障で一番多いのが回転帯のベアリングが多いので、デモも工作機械の主軸を模したデモ構成にしています。モーターにつながる軸上に正常なベアリングと異常なベアリングが付いています。それに高サンプリングレートの振動センサーを付けて、収集したデータをBluetoothでスマホにデータを飛ばしています。
町田: スマホ(下記写真)に赤と黄色のグラフが出ておりますが、センサーからの信号をFFT解析した後の波形になります。黄色が正常な波形、赤が異常の波形で、明らかに違いがあるのが分かるかと思います。
町田: このデモですと、大体800Hz辺りに異常周波数が現れていることが明確に分かるかと思います。非常にベーシックな手法ですが、我々としてはこういった取得したデータの結果を見て、対象物の異常を判断しているわけです。
-すごく分かりやすいデモでした。本日はありがとうございました。
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