産業用PCや組込ソリューション、ネットワーク機器など多彩な産業用デバイスを提供し、最近では、WISE-PaaSと呼ばれるIoTプラットフォームも提供しているアドバンテック。
様々な産業分野でグローバルシェアも高い同社の、現状と今後について、同社日本法人 社長兼日本地区最高責任者のマイク小池氏に伺った。
(聞き手、IoTNEWS代表 小泉耕二)
IoTNEWS 小泉(以下、小泉): 直近のアドバンテックの動向についてお話しいただけますか。
アドバンテック マイク 小池(以下、小池): 2019年2月に、アドバンテックジャパンは、オムロン直方の80%株式を買収したことを発表しました。そしてオムロン直方は社名をATJ(アドバンテックテクノロジーズジャパン)に変更し、新たにスタートしました。
オムロン直方は、デザイン・アンド・マニファクチュアリングサービス(DMS)、つまり製造設計サービスをオムロンの子会社として行ってきた会社です。
小泉: なぜM&Aを行ったのですか。
小池: オムロン直方もこれからAI、IoTの時代に向けて、それらを取り込んだビジネス展開をしていきたいということで、双方の意見が一致したのです。
アドバンテック本体としては、現在東京、名古屋、大阪で、東京に約60名、大阪が約25名、名古屋が5名在籍しております。東京が組み込みの本社で、大阪がインダストリアルIoTの本社となります。
当社のターゲットとしては、4つのセクターがあります。
1つ目は機器・装置の心臓部となるコントローラを提供する組み込みソリューションです。
2つ目がインダストリアルIoT。
3つ目がサービスIoTです。これは、病院向け、あるいはリテール向けのソリューションになります。この3つがアドバンテックブランドとなります。
そして、4つ目が、先ほどご紹介したATJでやっているDMSで、設計段階からお客様の要求に応じて製品を開発し、製造・納品していきます。
この4つの体制が日本でしっかりとできるようになったというのが今回のM&Aの成果です。
小泉: アドバンテックは、もともと製品ラインナップはかなり幅広で、細かな要望に答えていたと思うのですが、それでもまだカスタマイズしたいという要望があるのですか。
小池: カスタマイゼーションは、これまでも中国、および台湾林口のDMSケイパビリティを使ってビジネスを展開しておりましたが、国内でそれが持てるということが大きなアドバンテージだと考えています。
「顧客の安心」という部分に関して今回の発表で大きく前進したと思っています。
小泉: 製造業の業界において、製造拠点が国内にあり、実際に見に行けるというのは確かに大きな利点ですね。
小池: DMS(デザイン・アンド・マニファクチュアリングサービス)を日本で持てたというところは大きいです。
カスタマー層もDMSを行う層と、従来やっていた標準品をお使いいただく層とで、あまり被りがないので、良いM&Aができたと感じております。
次ページは、「顧客事業者のグローバル展開や国内回帰の動きへの対応」
顧客事業者のグローバル展開や国内回帰の動きへの対応
小泉: なるほど。話は変わりますが、生産設備の会社も多いと思うのですが、もともとアドバンテックはグローバル展開をしているので、製造したものを輸出していくような事業者と共同で海外展開するということは難しいのですか。
小池: 基本的にはグローバルサービスポリシーというものを持っており、顧客が海外に進出される際には現地でサポートをするといったアレンジを組むこともできます。一括して購入したい場合でも対応はできます。
しかしこの流れは、「従来のパターン」でした。
昨今の流れとしては、製造業が国内回帰しています。そういった意味でもDMS(デザイン・アンド・マニファクチュアリングサービス)の能力は非常にメリットがあると思っています。
そして、今後日本のメーカー、IoTインテグレーターのパートナーの皆様は、このIoT、AIoTの時代において、再びグローバル市場に行けるチャンスがあると考えています。我々はその協力をしていけたらと思っています。
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アドバンテックのIoTプラットフォームWISE-PaaSでできること
小泉: ところで、これまでのアドバンテックはどうやって日本に根付いてきたのですか。
小池: 台湾との距離が近いこともあり、1997年〜2011年までは「台湾式ビジネスによる日本市場参入」という形で日本進出を進めていました。
2012年から私が重視したのは、「日本式ビジネスへの対応」ということで、日本企業の厳しい要求、特にCQD(コスト、クオリティ、デリバリー)そしてテクノロジーリーダーシップをアドバンテック・ジャパンでサポートする体制をバイリンガル体制も含めて作ったことです。
これにより大きな成長を果たすことができました。
そして2019年にM&Aを行い、九州にATJもできたことにより、ローカライズされた、日本の地に根を下ろした会社になったと感じております。
雇用に関しても多様な人を雇用し、ヒューマンリソースを多様化することを重視しております。現在従業員の25%が外国人で、今後も増やしていくことを検討しています。
日本のビジネス全体を見ても、グローバリゼーションからローカルゼーションへと流れが変わってきていると感じています。
今後は製造、開発、販売含めて顧客に近いところで開発をしていくサプライチェーンのモデルを作っていく必要があると考えています。
我々のビジネスの考え方は、ハードウェアやソリューションレディパッケージ(業界を意識したソリューションがあらかじめ提供されているパッケージ)は我々が作り、それを市場のノウハウを持っているパートナーの皆さんに対して提供していくというものです。それが「Co-Creation」というモデルです。
小池: ソリューションレディパッケージとは、当社のPaaS(Platform as a Service)サービスとなる「WISE-PaaS」の上で展開されるソリューションです。その中で代表的なソリューションをいくつか紹介したいと思います。
まず「Equipment Vibration Monitoring Solution」は、モーターの振動などをモニタリングできるので、特に製造工程で産業用モーターなど振動を発生する装置を使っている工場ではニーズが高くなっています。
「AI-Enabled Self-Service Solution」は、小売向けアプリケーションにおいて顧客行動や属性の把握などをインテリジェント化させることができます。カメラなどの入力デバイスをを使って店舗や施設内の様々な情報を投入し、AIを使って分析します。
「License Plate Recognition」は、車のライセンスプレートや車種、歩行者の行動などをAIで自動認識させるソリューションレディパッケージです。様々な場所で防犯上カメラを設置していると思いますが、そういったものをAI化していくものです。
「EV Charging Management」は、エレクトリックビークルの充電ステーションを管理するソリューションレディパッケージで、台湾で実際に採用されたケースです。今後 EVの充電ステーションの増加に伴いこのソリューションのニーズも高まると考えています。
「Street Lighting Control」は街路灯です。街路灯は様々な場所にあるので情報のセンサーとして様々なものをつけられるので、防犯でも使えます。
こういったものをソリューションパッケージディベロッパーの方々とDFSIの皆様と共に作り上げ、日本で数多くの顧客に届けられるレベルまで作っていきたいと思っています。
その波を起こすことが我々のDXを全産業で進めていく戦略になります。
日本におけるIoT Co-Creation戦略を2018年からスタートし、3年以内に15社程度のDFSI(ドメインフォーカスSI)、そして各ソリューションレディパッケージ開発のパートナー構築をしていき、セクターごとに日本発のものを作っていきたいと考えています。
小泉: 業界別のソリューションをある程度作るという発想はユニークだと思います。
ただ単にセンシングしてデータを集めても、そのデータの見方やデータをある程度まで分析されていなければ、全部SIerがデータを見て、どのように使っていくかを考えなければならず、時間がかかってしまいますよね。
小池: そうですね。我々は経営層、事業経営に直接関わっている人たちの経営課題は何かということを投げかけ、それをAIoTで解決していくということを意識しています。
「どういうボトルネックがあり」、「何を変えたいか」があるからこそ、その課題に対して
「こういうソリューションを出せます」という会話が成り立ってくるのだと思います。
IoTで「できること」が優先されていても、ビジネスに対する経営課題を解決する、あるいはそれを使うことで利益や売り上げが上がるという結果が伴わなければ使う意味がないのです。
経営課題が先にない限り、良いAIoTソリューションというのは生まれてこないのだと思います。
小泉:確かにおっしゃる通りだと思います。
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後編に続く

