サイトアイコン IoTNEWS

「産業構造の変革」目指し、ウフルの八子氏がフィジカル・ヒトまでカバーしてDXを推進する新会社設立 ―八子知礼×小泉耕二【第23回】

「産業構造の変革」目指し、ウフルの八子氏がヒト・リアル起点のDXを推進する新会社設立 ―八子知礼×小泉耕二【第23回】

IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では第23回目をお届けする。

株式会社ウフルCIO/IoTイノベーションセンター所長であり、IoTNEWSを運営する株式会社アールジーンの社外取締役である八子知礼氏が、このほど新会社「株式会社INDUSTRIAL-X」を設立した(2019年4月15日~)。

目的は日本の「産業構造の変革」である。そのために、INDUSTRIAL-Xは「デジタルトランスフォーメーション(DX)」推進に必要な人・モノ・カネ・情報・セキュリティなどあらゆるリソースを最適かつワンストップで提供する。

これまでも自らが「プラットフォーム」となり多くの人を巻き込みながらDX推進に奔走してきた八子氏。新会社を設立した思惑は何か? 具体的にどのような事業を進めていくのか? 八子×小泉放談会23回目として、IoTNEWS代表小泉との対談形式で伺った。本稿の冒頭ではまずINDUSTRIAL-X設立の契機となったDXの「課題」について議論する。

新会社の背景:デジタルトランスフォーメーション(DX)の課題

小泉: 昨今、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉をよく聞くようになり、この放談でも議論を行ってきました。あらためて、DXの「課題」はどこにあると八子さんはお考えですか?

八子: これまでもデジタル化やIoT化、AI化はたくさんの企業が取り組んできたと思います。しかし、それはまだ部分最適にとどまっています。たとえば、物流の分野では「トラックの稼働状況」や「ドライバーの動き」、「倉庫の状態」などそれぞれの空間において部分的にデジタル化が進んできましたが、これらを統合したバリューチェーン全体の最適化には至っていません。

また、これまでも議論してきたことですが、例えばIoTにおいては設備などの「可視化」はできていますが、「制御」には至っていません。このように、本来のDXの目的であるバリューチェーン全体のデジタル化並びにシミュレーションを活用した予測型の経営モデルには到達していないのが現状です。

株式会社INDUSTRIAL-X代表取締役社長/株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー) IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

小泉: 産業別に見るとどうでしょうか。

八子: 例えば、製造業の場合には生産工程の可視化が進んでいます。しかし、それが「設計」などの「上流」のプロセスから工場から出荷された製品のトラッキングを活かした「保守サービス」などの「下流」のプロセスまではつながっていないですね。

小泉: さきほど、シミュレーションを活用した予測型の経営モデルという話が出ましたが、ビジネスはなぜ予測しないといけないのでしょうか?

八子: 例えば先般「台風19号」が日本列島をおそいましたが、こうした自然災害の際に及ぶ影響がシミュレーションできていれば、最適な調達先や配送シナリオを考案することができます。

小泉: 自然災害はまさにそうですね。実際に大きな災害が起きている状況から、シミュレーションの必要性が実感されますね。

八子: 世界はどんどん先が見通せない時代に入っています。先般IoTNEWSでも、「ダイナミック・ケイパビリティ」に関する経済産業省 中野剛志さんの講演記事が公開されていましたが(記事はこちら)、不確実性が高まっている世の中において自社のリソースや組織をプロアクティブに組みかえていくためには、データをもとに分析やシミュレーションができる経営モデルが必要です。シミュレーション経営はDXのコアです。

次ページ:INDUSTRIAL-Xは、フィジカル(設備・モノ)とヒトまでカバーしてDXを推進する

INDUSTRIAL-Xは、フィジカル(設備・モノ)とヒトまでカバーしてDXを推進する

小泉: こうした流れの中で、八子さんは何か新しい取り組みを始めるということですね。

八子: はい、今年の四月に「株式会社INDUSTRIAL-X」を設立しました。目的はDXを推進し、「産業構造を変える」ことです。

小泉: 「産業構造を変える」とはどういうことでしょうか?

八子: これまでDXの議論をしてきて気づいたのは、「DXはデジタルだけでは完結しない」ということです。例えば、産業のIoT化や自動化を進めるには、現場に設備や機器を最適に設置しないといけません。実はここが難しい。デジタルではなく物理的なフィジカルなトランスフォーメーションを必要とするのです。

あるいは、「現場の人の気持ちが変わらない」、「うまくいかないのではないかという恐怖感」、「以前もやったけどうまくいかなかった」、「自分たちの業界ではまだ関係ない」、「現場の作業で手一杯」という話がたくさん出てきます。

八子氏が2019年4月15日に設立した株式会社INDUSTRIAL-Xの概要

八子: この数年間、様々なプロジェクトを行ってきた結果、IoT化やデジタル化という点ではかなり進んできたと考えています。ただ、さらにフィジカルやヒトの部分でトランスフォーメーションを伴わないと、産業がアップデートされるには至らないと考えているのです。

そうした背景から、INDUSTRIAL-Xを設立しました。社名のXは「トランスフォーメーション」を指します。つまり、「産業構造の変革」です。具体的には、3つの柱があります。

一つは、バリューチェーンをフルにデジタル化し、シミュレーション可能なビジネスモデルをつくることです。次に、設備の入れ替えや自動化といったフィジカルな部分のトランスフォーメーション、そして三つ目はヒトです。DXを目指すお客様の社員のスキルやマインドセットを変えるための場づくりに加え、人材の流動化・最適化まで行っていきます。

小泉: なるほど。DXが進まない理由は、設備も人も「今のまま」でやることを前提にしていたからなのかなと実は思っていたのですが、八子さんのお話を聴いて腹落ちしました。まず変えるべきは、デバイスやヒトなどリアルの方ですよね。

八子: そうなのです。また、以上の3つをやろうとしたときに、「何を目指していいのかわからない」、「実行するリーダーがいない」、「予算がない」、「ソリューションがわからない」、「セキュリティが心配だ」という課題が出てきます。そこで、INDUSTRIAL-Xは他のパートナー企業と一緒に、戦略、人、モノ、カネ、情報、セキュリティなどあらゆるリソースを提供するプラットフォームとしての役割を担います。

INDUSTRIAL-Xが提供するサービス

小泉: 「プラットフォーム」というのは情報システムを指しますか? それとも概念(ビジネスモデル)でしょうか?

八子: 概念ですが、最終的には「マッチング・プラットフォーム」というシステムにしていこうと考えています。これまで私がウフルで推進してきた「IoTパートナーコミュニティ」もプラットフォームです。ただ、そこで感じた課題は、そうした取り組みをさらに推し進めるには、「八子が10人いても足りないな」ということです……。

次ページ:DXの「触媒」としての役割から「事業体」へ

DXの「触媒」としての役割から「事業体」へ

小泉: わかります。八子さんという人間が「プラットフォーム」という感じですからね。周囲に人がたくさんいて、八子さんが仲介をしながら情報やビジネスが流れていく。弊社もこれまで八子さんに色々なキーパーソンを紹介していただき、取材することができました。

というように八子さん自体がプラットフォームなわけですが、会社をつくることで、それをもっとシステマティックに行っていくというイメージでしょうか?

八子: そうですね。コンサルティングでもなく、インテグレータでもなく、データ連携でもなく、産業構造をつなげていくという発想なので、これまで私がやってきたことよりも大きな座組になると思います。目的は産業全体をアップデートすることですから。これまではどちらかというとエコシステムにおいて「触媒」の役割でしたが、今後は自らが主体的な「事業者」としてパートナーとビジネスを行っていくことになります。

INDUSTRIAL-Xが目指す「リソース・マッチング」のイメージ

小泉: ウフルには引き続き在籍されるとのことですね。

八子: はい、ウフルとは兼業で進めていきますし、INDUSTRIAL-Xにとってウフルは重要なパートナーになります。ウフルのIoTオーケストレーションサービス「enebular(エネブラー)」なども当然ながらお客様に提供していくことになるでしょうし、「IoTパートナーコミュニティ」でも引き続きお客様のビジネスを推進していきます。

小泉: これまで八子さんとビジネスパートナーとしてお付き合いしていた方は、今後はさらに密になっていくというイメージでしょうか。

八子: そうですね。これまでも度々申し上げていたことですが、今後は様々な物事の「境目(さかいめ)」がなくなります。ヒトでいえば、会社の中と外も融合していきますし、お客様とソリューションベンダーも融合していきます。ですから、これまで在籍していた会社と新しい会社が融合していくことも私にとっては必然です。

所長として携わっているウフルの「IoTイノベーションセンター」では、社内だけでなく社外にもオープンに開かれた「インサイド・アウト」の活動を行ってきました。

INDUSTRIAL-Xでは、そのアウト(外側)の部分において、さらに広範で主体的なビジネスとして事業活動を続けていくことになります。ですから、これまでの取り組みとINDUSTRIAL-Xの事業の考え方は発展的につながっているのです。

小泉: 具体的にはどういう分野でビジネスを行っていきますか?

八子: まずは製造業です。すでにお引き合いをいただいていますから、それらのお客様に当社のビジネスモデルを展開していきます。あとは小売流通やヘルスケア、飲食ですね。比較的労働集約型で、デジタル化すればパフォーマンスが大きく向上するような業界に対して展開していこうと考えています。

小泉: なるほど、飲食店などはおいしいご飯を提供することが重要ですから、DXという視点はあまりないですよね。大型チェーンでは、アルバイトをいかに効率的に動かすか、クリーンネスをいかにキープするかといった課題に集中しています。

しかしこれから労働人口が減り、外国人が労働者として入ってくると従来の方法では途端にうまくいかなくなる可能性もあります。デジタル化によって誰が担当しても最高のパフォーマンスが出せるようなしくみをつくることが必要ですね。

八子: フィジカル(モノ・設備)は古くなるし、ヒトは減っていく。それでもビジネスが回る世界観をデジタルによってつくらないといけません。企業が疲弊してしまわないうちに、次の事業モデルを提言して、提言するだけではなく効果が出るところまでリードしていく――それをINDUSTRIAL-Xはやります。パートナーの皆さんと一緒に。

小泉: ビジネスモデルは主体的にぐいぐい進めないと変わらないものですよね。八子さんがより顧客のビジネスに主体的に関わっていくことで状況が大きく変わりそうですね。

八子: そう期待してます。産業構造を変革するには、ある程度ラジカルにやっていくことが必要です。どんなに提言しても意思決定しなければ何も変わりませんからね。日本の産業構造をアップデートしていくことに意義を感じている人は、ぜひINDUSTRIAL-Xに加わってほしいです。

また、INDUSTRIAL-Xのオフィスはアールジーンの中にあります。アールジーン(IoTNEWS)とは業務提携をして今後もビジネスを進めていきます。引き続き、よろしくお願いします。

小泉: 新たな船出ですね。今後ともよろしくお願いいたします。一緒にDXを推進してきましょう。

【関連リンク】
株式会社INDUSTRIAL-X(ホームページ)

モバイルバージョンを終了