3. 日本のものづくり町工場を発掘していきたい
-自動運転の新しい技術がどんどん生まれているのですね。
劉: はい。当社ではさらに最近、「運転シミュレータ」という技術を開発しました。自動運転のAIを訓練させるには、実際の公道で実験するのが普通です。しかし、それには限界があります。
クルマの数が限られますし、その地域でライセンスを取得できるかという問題もあります。運転シミュレータは、仮想の世界でクルマを走らせます。そうすると、訓練させるクルマの数はいくらでも増やせます。
運転シミュレータでできることは主に2つあります。1つは、これまでに実際に走行した公道のデータを使って、同じ環境を再現することです。そこで、クルマの動作を変えたら何が起きるかをテストします。
もう1つは、「橋が急に折れる」など、現実世界にないような場面をつくることです。先月、深センでは台風がきて、たくさんの木が倒れました。そうした状況でクルマがどう判断するのか、訓練していくのです。
-日本ではどのように事業を進めていくのですか?
劉: 私たちの今の課題は、センサーの価格が高いことです。「マルチセンサー融合」とはいえ、一つ一つのハードウェアの価格はまだ高く、技術開発においてボトルネックになっています。
自動運転の社会が実現すると、人間が運転しなくていい代わりに、その分のコストが下がることがメリットです。それなのに、センサーが高いままではそのメリットはなくなってしまいます。
-そうですよね。
劉: センサーのコストを下げることはどの企業でも課題です。Waymoはある程度コストを下げることに成功しています。彼らはLiDARなどを内製化しているからです。当社もそうする予定です。しかし、内製化するためには、ハードウェアを構成する一つ一つの部品を色々なところから調達しなければなりません。
そこで、日本のものづくり企業の力をお借りしたいと思っています。日本は大手企業だけではなく、すばらしい技術を持った中小規模の企業がたくさんあります。今後はそうしたものづくりの中小企業をたくさん発掘して、当社の技術に組み込めないかと考えています。
実際に商談している企業が既に何社かあり、かなり話も進んできています。
-自動運転の社会はいつ頃やってきそうですか?
劉: 難しい問題ですね。当社も技術力を主張してはいますが、やはり自動運転の技術はまだまだ未熟だというのが正直な認識です。
今のレベル4の自動運転というのは、自動運転というよりは「自動的にクルマを避けるしくみ」だと思います。クルマ自身が「眼」をもち、クルマ単体として動くのですが、今後はスマートシティという枠組みでV2X(クルマとモノ・ヒトをつなげる通信のしくみ)の技術が進化していくと、クルマ単体で認識するよりは、周囲の環境や街と協調しながらの自動運転のしくみができると思います。
ただ、V2Xもまだまだ未熟です。まだクルマ単体で解決しようとしています。もしかしたら今後、5GやV2Xの時代がくると、さきほどご説明した「動体認識」などの技術への依存度が下がるかもしれません。あくまでクルマ単体の技術ですから。当社としては、そうした自動運転の理想像を見据えながら、技術開発を進めていきたいと考えています。
-最後に、深センのスマートシティの取り組みはどうですか?
劉: 実は、中国の中で深センはそこまで進んでいる方ではありません。上海や杭州は進んでいます。杭州では面白いことに、高速道路の車道にインターネットのインターフェースが整備されていて、インターネット機器が常に接続できるようになっています。
そのインターフェースを使ってどのようなサービスを実現していくのかはこれからですが、そうした最先端の取り組みが既に始まっています。
-本日は貴重なお話、ありがとうございました。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。