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MaaSを8人が語る。Mobility大航海時代の到来 〜八子クラウド座談会レポート(後編)

「MaaSを地方の現場から見ると」 株式会社電脳交通 取締役 モビリティ事業本部長 北島昇氏

4月13日(土)、八子クラウド座談会運営メンバーが主催する八子クラウド座談会がウイングアーク1st株式会社にて開催された。

前編では、ウフル八子氏、名古屋大学野辺氏、ヴァル研究所篠原氏、デンソー成迫氏の登壇をまとめた。今回はその後編だ。

MaaSを地方の現場から見る -株式会社電脳交通 取締役 モビリティ事業本部長 北島昇氏

株式会社電脳交通の取締役 モビリティ事業本部長の北島 昇氏からは、今まさに電脳交通が取り組んでいるサービスや業務提携先との事例、サービスを作っていく上での重要なポイントについて講演があった。

タクシー業界の状況、特に厳しい地方タクシー

タクシー業界の状況となかでも特に厳しい地方タクシーの状況について説明があった
まず、日本のタクシー業界はどのような状況なのか。車両数は239,163台、事業者数は6,300社、従業員の平均年齢は59歳で全産業と比べると約15歳以上高い。そして市場は縮小傾向で高齢化が進み、その結果IT化がなかなか進まないという課題を抱えた厳しい業界の1つである。

また、地方と都市部ではタクシーおよびこの移動を取り巻く環境がおおきく違う。地方タクシーにおいては電話で受けて無線による配車がいまだ圧倒的で、タクシー事業者の規模もおおよそ車輛を10~15台所有する小規模事業者が中心で約70%を占める。この規模の事業者の売上は約1億円で、そこからドライバーの取分が40~50%が差し引かれ、さらに残りで家賃や内勤業務の雇用やシステム投資を差し引くと言わずもがな経営は厳しい状況となる。昨今、事業承継が難しいこの状況で事業社は数を減らしているといった状態だ。

実際そのような状況を打破するため、需給マッチングや配車の効率化などが行える様々なソリューションが出てきている状況ではあるが、実際は取り込めていない事業者がほとんどであると北島氏は説明する。

電脳交通のサービス

電脳交通のサービスは、同社社長が家族の経営する9台のタクシー会社をV字回復させたときの内部の配車システムをプラットフォーム化できるのではないか、また全国の中小タクシーに提供することができれば、同じ課題を抱える地域の交通の衰退に歯止めをかけられるのではという思いから生まれている。

電脳交通のサービスについて
提供しているサービスは、クラウド型の配車システムやクラウドのオペレーションセンターの請負い、タクシーの助手席の後部に設置したディスプレイを活用したアドシステムなどである。この配車システムはリーズナブルな価格で、通話機能、GPS機能、カーナビ機能のついた車両システム、配車専用の管理システムを利用することができ、全国13都道府県、対応している車両は1,130台で年内には5,000台程度に拡張が見込まれているとのことだ。

北島氏は「タクシーと自動運転という議論は組み合わせが悪い。単純に、人のリプレイスのように見えてしまう。ただ一方で、現場で困っているお客様がいるということであったり、ドライバーの生活ということも問題だ。自動運転および、広義な意味でのMaaSへどうやって移行プロセスを踏んでいくのかは、我々が背負っていることだと考えている。また、その役割を担っていきたい」と考えを述べた。

また、業務提携先とのJR西日本やNTTドコモとは地域実証実験を行ってきており、実証実験の中で利用する市民の声を聴きながら、さまざまな気付きを得たという。

「サービスレイヤーの人間たちは、様々なニーズに寄り添いながら、洞察、分析しながらどのようにしてサービスを開発していくかであったり、どういったアジリティを提供するのかが一つの論点ではと考えている。誰が経済性であったり、継続的なスキームの運用性を担保していくのかという部分が抜けていると感じている。そして、その部分を開発をしていかなければいけないと感じている」と述べた。

最後に「生活理解をどこまで解像度があげられるかについて、(現地に)行ってみればわかる。(現地に)わかっている方はたくさんいるので、そういう人とどう組むか。サービス設計は「誰」がやるべきか、「誰」が全体を見えているかという部分の決着をつけていかなければならないと感じている」と述べ講演を締めくくった。

次ページは、「運輸事業者や交通利用者から考えるMaaSやライドシェアの未来

運輸事業者や交通利用者から考えるMaaSやライドシェアの未来 -一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会 代表理事 小島薫氏

「運輸事業者や交通利用者から考えるMaaSやライドシェアの未来」 一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会 代表理事 小島薫氏

一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会とは

現在、ウィングアーク1st株式会社(以下、ウィングアーク)と株式会社フジタクシー(以下、フジタクシー)は、データをビジネスで活用し、効率化、事故削減などに取り組んでいる。

その事業をきっかけとして、タクシー事業者の90%以上は中小零細もしくは個人事業主であり、スピーディな法令対応や外部環境変化対応が難しいという実態を解決する手段が必要ではないかと議論が始まった。そこで、事業者全体で取り組みたい課題として、ウィングアークが主体となりコンソーシアムという形をとり立ち上げられたのが、運輸デジタルビジネス協議会(以下、TDBC)だ。

一般社団法人 運輸デジタルビジネス協議会とは

当初32社から始まった当協議会は、運輸業界とICTなど多様な業種のサポート企業が多く参画し、現在では会員数96社となり活発に活動を行っている。

運輸業界が抱える課題は数多くあり、その課題を解決するためにワーキンググループを複数組むことで、解決手段を模索する形をとっている。2017年度には、7つのグループが活動報告を行ったそうだ。本来であれば、こういった課題を解決するには1社ごとに個別の要件を摺り合わせて、要件をもとにシステム開発をおこなう課題解決方法をとっているのが一般的だ。しかし、TDBCでは同じような課題を持つ複数社と、課題解決のための技術を持つ複数のサポート企業が、運輸事業者の課題をともに解決するための取り組みを行っている。

課題解決のためのアプローチ

実際に課題解決のために、実証実験にチャレンジできるのがTDBCの強みだ。小規模な企業で、それも実験のための費用、環境、技術といった準備を単独でおこなうことはハードルが高い。しかし、複数企業が参画するこの協議会ではそのハードルがぐっと下がる。プロトタイプの構築、実験、さらに精度向上のためのモニター募集といったところまで、ともに課題を解決することを目的としたグループであるからこその強みだといえる。

公共交通の課題

小島氏は、目的のために誰でもが自由に、便利に利用できる持続可能な移動サービスの提供がとても重要である、特に、最も重要視すべきなのが「持続可能である」という部分だと強調した。

公共交通の課題とこれから
たとえ、MaaSのみが成功したとしても、誰がサービスをおこなうのか、継続させていくのか、そして事業会社の努力の限界や、地方自治体における補助金も有限であることから、持続可能な状態をどのようにつくるかということをみなさんと考えたいとも述べた。

最後にフジタクシーとのUber Japan 株式会社(以下、Uber)との提携についての紹介があった。Uberと提携したフジタクシーの配車割合は、全体の3割を占めたという。この提携についてのフジタクシーとUber対談は2019年4月26日に開催されるTDBCフォーラムにて行われている。

次ページは、「スマートドライブ事業・サービスについて

スマートドライブ事業・サービスについて -株式会社スマートドライブ 代表取締役CEO 北川烈氏

「スマートドライブ事業・サービスについて」 株式会社スマートドライブ 代表取締役CEO 北川烈氏

株式会社スマートドライブ(以下、スマートドライブ)の代表取締役CEO 北川 烈氏からは、モビリティに特化した分析を強みとする同社のサービスを紹介があった。
5年ほど前に創業したスマートドライブは、社員60名の内およそ7割がソフトウェアのエンジニアやデータサイエンティストといったデータの分析にフォーカスした企業だ。創業時から様々な企業と資本業務提携を行い、分析したデータや技術を提供しているという。

現在展開しているビジネスは大きく分けて4つあり、1つはSmartDriveFleetという法人の営業車両など企業で使用する車輌を最適化していくBtoB向けのサービス。2つめに、BtoBtoC向けのSmartDriveCars。保険やリース会社などの契約車にデバイスを設置し、安全運転すると保険料が下がったり、エンドユーザー向けにポイントが溜まるサービスを提供している。3つめには、SmartDriveFamiliesというBtoC向けの子供や高齢者の運転見守りサービス。そして4つめに、これらの技術を集約したSmartDrivePlatFormというワンプラットフォーム、マルチデバイス型のサービスを展開している。

4つのサービス特徴についての説明

その4つのサービスの詳細と特徴は以下の通りだ。

1. SmartDriveFleet

車輌に我々のデバイスもしくはドライブレコーダーなどをつけることで、スマホやPC上でどこを運転しているか、どういった運転をしているかといった情報を自動的に抽出できるといったものだ。

サービスを簡単に始められることも特徴として挙げられるが、その他、使用頻度が低い車の洗い出しや、ある場所までは電車で行き、そこからはカーシェアで移動した方が早い、といったモーダルシフトの提案も可能と説明した。さらに、スマートドライブのデバイスをつけることで、2割程度事故が減ることから安全運転に繋がるとも解説があった。それによって保険料が下げられるので、コストの削減にも繋がるという。

また、配送のルートをAIで自動化し、学習することでより良いルートを作るといった業務の効率化も実現できるとのことだ。

2. SmartDriveCars

ディストリビューション向けの保険会社や自動車のリース会社、ディーラーといった提携先が代わりにスマートドライブのデバイスをエンドユーザに配る仕組みが、このSmartDiveCarsだ。デバイスから蓄積された情報を分析することで、運転手の運転スキルや行動分析を行うことができる。

ディストリビューションユーザとしては、保険会社が週末しか運転しないユーザセグメントに特化してキャンペーンを行なう、安全運転をするユーザに駐車場代を割引くといったリワードを事業者に提供したり、CRM的な活用が可能という。

エンドユーザとしては、自分の運転が全て一括管理できるため、危険運転の箇所や今日の運転は何点かといった独自のアルゴリズムに基づいた点数で運転の振り返りができる。さらに、ユーザーから評判のある機能として、安全運転をするとギフト券やポイントが溜まるといったサービスもある。

3. SmartDriveFamilies

このサービスは、子供や高齢者の運転を見守ることを目的に活用されている。

設定した時間以降の運転や、運転時間が長時間にわたる時、特定の運転エリアを離れた時などに設定者のスマホにプッシュ通知が届く設定にできるという。

4. SmartDrivePlatForm

最後に、多様なセンサの情報を一括に集約させ、数十万通りのケースを想定して分析するためのプラットフォームについて説明があった。一つの事故リスクでも、単純に急ブレーキを踏んだということだけでなく、運転時間帯や、ドライブレコーダーの映像、道幅や当時の天気など、複合的な条件で分析を行えることが強みだという。

事故リスクの分析や故障の予測の他に、シェアリングカーであれ適正な貸し出し時間などを割り出したり、借りたユーザがどこに行くかを分析したり、あらゆる軸で分析したい内容に合わせた解析手段がそろっている。

モビリティに特化したAI

北川氏は、「オープンなプラットフォームのため、顧客や業態の制限がない。色々な業種、業態からデータが集まってくるところがこのプラットフォームの特徴だ。完全にモビリティに特化したAIを作っていることもまたひとつの特徴であり、MaaSの新しいサービスを作るにあたって、共通化できる部分はスマートドライブのプラットフォームを使った方が早いというケースも増えてきている」と説明した。

次ページは、「MONET Technologies

Mobility Innovation -MONET Technologies 株式会社 事業推進部 部長 上村実氏

「Mobility Innovation」 MONET Technologies 株式会社 事業推進部 部長 上村実氏

Monetとは

MONET Technologies株式会社(以下、Monet)は2019年2月にソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)とトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)が共同出資し、ソフトバンクの「情報革命で人々を幸せに」とトヨタの「全ての人に移動の自由を」という2つのビジョンを融合し、安心・快適なモビリティ社会の実現を目指すことを目的に設立された。

冒頭の動画でMonetの目指すビジョンの紹介があった。Monetは専用モビリティに様々なサービスと組み合わせて人や荷物の最適な移動だけでなく、複数のサービスも組み合わせ提供をめざしている。たとえば、人が集まる観光地やイベントでの飲食類のサービス提供や、交通インフラに課題を持つ地域での活用、そして地震や火事といった有事の際にも活躍できる車両の提供などだ。

Monetの主な事業内容は、オンデマンドモビリティサービス、データ解析サービス、Autono-MaaS事業である。

Monetの活動内容は広く多岐にわたっていて、そのうちの一つは、日本の法制度改革だ。多くのサービスが生み出されたとしても、それを活用できる場が整備されている必要がある。よりよいサービス提供のためのハードルを取り除くために必要な活動だ。そのほかにも、自治体との協業によるオンデマンド交通事業化、冒頭の動画内でも紹介のあったe-Paletteを使ったMaaS事業化などを目指している。

MonetにおけるMaaS戦略

MonetにおけるMaaSの戦略は大きく3つある。

1.既存交通の高度化(マルチモーダルなサービスの提供)

2.新たなライフスタイルの創出(自動運転による新たなサービスの創出)

3.社会全体の最適化(遊休資産、余剰資産の活用)

これら3つをすべて繋げ、Monetのプラットフォームにて活用してもらうというわけだ。Monet提供予定のプラットフォームには、以下のようなものが含まれている。

Monetのプラットフォームについて

サービスAPI、データベース、車両配車APIといった収集されたデータを利活用するための基盤に加え、トヨタのe-Paletteと、車両も提供することを見込んでいる。また、3月28日に業務提携を発表した本田技研工業からも車両の提供が行われる可能性があるとのことだ。

自動運転車両の登場は、法規制の現状を鑑みると2020年の半ばごろといわれている。現在Monetでは、実際の車両の運行データ、ブレーキ回数などをe-Paletteに移行するためのデータの準備を進めている。移行後は、地方自治体と提携し、地元の交通事業者と一緒になってサービスが開始できないかかけあっているとのことだ。現在、17の地方自治団体と連携を発表し、うち3自治団体(豊田市小原、横浜市青葉、福山市服部)については既に実証実験を開始している。

Monetコンソーシアム

Monetコンソーシアムは、多様なサービサーとの共創を目指すことを目的としている

2019年3月28日にMonetサミットを開催し、そのなかでサービスやプロダクトを展開している企業とコンソーシアムの設立を発表した。ここでは、次世代モビリティサービスの推進や、移動における社会課題の解決、価値創造を目的とし新たなビジネスマッチによる事業開発や、MaaS普及に必要な環境整備などを行う。また、当コンソーシアム内ではMaaSに関する勉強会、情報交換会も予定されているそうだ。現在当コンソーシアムには、88社が加盟している。上村氏は、これからも様々な業種との共創をめざし、MaaSのなかまつくりをすすめていくと締めくくった。

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