新しいモビリティーサービスの社会実装に挑戦し、地方の移動課題および地域活性化に挑戦する地域や企業に対し、経済産業省と国土交通省が支援を行う「スマートモビリティチャレンジ」。
2019年6月21日に開催された「スマートモビリティチャレンジシンポジウム」では、経産省・国交省から「パイロット地域」「先行モデル事業」に選出され、多様な経済活動と連携し地域全体を活性化するMaaS(=モビリティ・アズ・ア・サービス)に取り組む5つの自治体が登壇し、講演を行った。
滋賀県大津市に続いて登壇したのは、福井県永平寺町だ。
講演では永平寺町長である河合永充氏より、経済停滞・人手不足・高齢化に対応するスマートモビリティについて紹介があった。
経済停滞・人手不足・高齢化が深刻化
永平寺町は福井県北部に位置する、人口2万人弱の町である。繊維業がさかんだった永平寺町は1940年ごろ、鉄道による大量輸送によって駅を中心に町が発展したという。
しかし1990年ごろになると繊維業の衰退にともない、隣接都市で県庁所在地である福井市のベッドタウンへと変貌、現在は地元経済の停滞・人口減少による働き手の不足・高齢化が進んでいると河合町長は語る。
高齢化が進む状況下では、一見するとコミュニティバスの利用者が増えるように思われる。ところが永平寺町においては利用客がなかなか増えず、バスドライバー不足の問題も起きているため、赤字化して廃線になるケースがあるという。
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郵便局を拠点にしたドア・ツー・ドアのMaaS
こうした経済停滞・人手不足・高齢化に対応するMaaSを取り組むべく、永平寺町は「スマートモビリティチャレンジ」への参加を決めたという。
講演で河合町長は具体的な取り組み構想を2つ紹介した。
1つは有償のボランティアを募り、ドア・ツー・ドアのデマンド運行サービスを行うことだ。
この構想のポイントは、予約や運行管理の拠点を郵便局に置く点にあるという。経済停滞と人手不足が進む永平寺町では、デマンド運行サービスを実施するための新たな拠点が築きにくい。
そこで町内にある郵便局に協力してもらい、運行管理を委託することでサービス拠点の問題をクリアする、と河合町長は語った。
このデマンド型運行サービスでは、人の移動と同時に郵便物や商品物の輸送も行う貨客混載のサービスも検討しているという。
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電動カートの積み込みができる自動運転車
取り組み構想の2つ目は、電動カートを積み込みできる自動運転車の走行だ。
地方に住む高齢者のなかには、公共の交通機関を利用したいと思っても、そもそも駅や停留所まで移動するのが難しい、という悩みを抱える人もいるだろう。
そこで永平寺町が考えたのは、一人乗り用の電動カートを積み込むことができる自動運転車の走行である。これならば高齢者でも自宅から停車場まで移動できるようになる、と河合町長は語る。
この自動運転車の運行については、永平寺町では既に4月より実証実験を開始しているとのこと。
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在宅医療への活用も構想中
河合町長は今後の取り組みについても語った。
その1つが福井大学医学病院と共同で設立する在宅訪問診療所である。永平寺町は2019年3月に福井大学と「永平寺町立在宅訪問診療所の管理運営に関する基本協定」を締結し、今年8月より在宅医療の診療所を開院することを決めている。
この在宅診療所と、今回の講演で紹介されたモビリティーサービスを結び付け、より便利な医療サービスを生み出せないか、現在考えているところだという。
また、5G技術についても積雪量のセンシングやドローンによる屋根雪下ろしといった雪害対策に利用するなど、積極的に取り組んでいきたい河合町長は語り、今回の講演を締めくくった。

