新しいモビリティーサービスの社会実装に挑戦し、地方の移動課題および地域活性化に挑戦する地域や企業に対し、経済産業省と国土交通省が支援を行う「スマートモビリティチャレンジ」。
2019年6月21日に開催された「スマートモビリティチャレンジシンポジウム」では、経産省・国交省から「パイロット地域」「先行モデル事業」に選出され、多様な経済活動と連携し地域全体を活性化するMaaS(=モビリティ・アズ・ア・サービス)に取り組む5つの自治体が登壇し、講演を行った。
4番目に登壇した自治体は、群馬県前橋市。同市の情報政策担当部長・大野誠司氏より、自家用車依存社会から公共交通主体の社会へ転換を目指すMaaSの取り組みが紹介された。
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車依存社会の問題
自家用車依存度が高い前橋市
まず大野氏は群馬県の自動車保有率が全国1位であることを説明した。
自家用乗用車の1人当たりの所有台数(自動車検査登録情報協会調べ)について、全国平均が0.477台に対し群馬県は0.684台。その群馬県の中で前橋市は0.679台と、全国平均を大きく上回る数値となっているそうだ。
自動車保有率が高い一方、公共交通の利用率は低く、平成27年度群馬県パーソントリップ調査によると、前橋市の交通手段分担率では自動車が75%に対し、鉄道・バスは3.5%になっていると大野氏は述べた。
自家用車依存度が招く高齢者の問題
こうした自家用車への依存度の高さゆえに、前橋市では3つの問題が起きているという。
1つは免許を持たない高齢者の外出率が低いこと。
2つ目は免許を持たない高齢者が外出するとしても、免許を持つ別の人間の運転する車に同乗しなければならず、運転できる人間の負担が重くなること。
そして3つ目は高齢者の運転による加害事故が増加していることだ。
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公共交通主体の社会へ転換を目指す取り組み
自家用車依存度の高さが招く高齢者の諸問題を解決するために、前橋市では以下のような取り組みに着手し、公共交通機関のサービスを向上させることで、公共交通主体の社会へ転換を目指しているという。
幹線道路までのオンデマンド型運行の構想
1つは自宅から幹線道路までのオンデマンド型運行の構想。
高齢者の場合、公共交通機関と接続する幹線道路までの移動が難しい。そのため、幹線道路までのラストワンマイルをオンデマンド型の運行サービスでつなげる構想を立てているという。
AI配車システムの研究
2つ目はAI配車システムの研究。
こちらはすでに具体的取り組みを始めており、2018年11月よりNTTドコモの「AI運行バスシステム」を利用して、市内の大胡・宮城・粕川地区で運行する「ふるさとバス」に試験導入をしたという。
このシステムではスマートフォンのアプリを利用することで乗降するバス亭や乗車希望時間を指定することができるという。
営業路線バスでの自動運転実証実験
3つ目は自動運転バスの実証実験である。
こちらもAI配車システムと同様、すでに2018年12月から2019年3月の4か月間で実験を行ったという。
実施したのは上毛電鉄中央前橋駅からJR前橋駅を走るシャトルバスで、一般乗客に運賃を払って乗車してもらい実験を行ったとのことだ。
こうした自動運転が実用化されれば、バス運営側の人手不足問題は解消され、高齢者の移動手段である路線バスを安定して運営することができるだろう。
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前橋スマートモビリティ構想
AI配車や自動運転などの取り組みを踏まえた上で、さらに前橋市では他のサービスとの連携、まちづくりの連携などを含めた前橋スマートモビリティ構想があることを大野氏は説明した。
講演ではオンデマンドバス・上毛鉄道といった市内交通網の一括検索・決済ができるMaaSアプリの開発構想や、道の駅へのGPS付スポーツサイクルの設置構想などの例が紹介された。
前橋市・大野氏は市でのスマートモビリティ構想について、いずれは全国の自治体へ横展開したいという意思を語り、講演を締めくくった。

