2020年4月28日、スマートドライブはオンラインセミナー「Mobility Transformation Online」を開催した。2019年11月にリアルイベントとして開催した第1回に引き続き、「移動の進化への挑戦」をテーマに、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす移動の価値の変化、モビリティデータの利活用といった課題に関するセッションを行った。
本稿では、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)が取り組むB2B、B2C向けのコネクテッドバイクサービスに関するセッションの模様をレポートする。セッションでは、ホンダモーターサイクルジャパン 経営企画室 山本祐司氏(トップ画像左)、スマートドライブ 取締役 元垣内宏毅氏(トップ画像右)が登壇し、サービス開発の背景、サービス内容、そして移動データを活用した今後の展開について語った。
ビジネスバイク、ファンバイクの領域でバイクの付加価値を高めたい
そもそもホンダはなぜ、コネクテッドバイクサービスに取り組もうと考えたのか。その理由としてホンダモーターサイクルジャパン・山本氏が挙げたのは、ビジネスバイクとファンバイクの領域で付加価値を高めたかった、ということだ。
日本のバイク販売台数は、ピーク時(1982年)の328万5千台から、2018年には36万9千台に激減している。激減の背景には交通機関の進化や電動自転車といった新しいタイプのモビリティの誕生があり、特に日常の足代わりに使う50ccバイクの分野が落ち込みを見せている。
しかし一方で、配達業務用といったビジネスバイクや、ツーリングといった趣味用途のファンバイクの分野は底堅い需要がある。そこでホンダは、この2つの領域においてコネクテッド化を進め、付加価値を高めてユーザーに提供する事を目指した。
B2B向けサービス「Honda FLEET MANEGEMENT」
では、ホンダはどのようなコネクテッドバイクのサービスに取り組んでいるのか。ビジネスバイクの分野においてホンダが開発したのが「Honda FLEET MANEGEMENT」である。
これは、従業員の位置情報を把握したい、長時間労働を可視化したい、ドライバーの安全運転意識を高めたい、といったビジネスバイクを利用する企業の車両管理における悩みを解決し、業務の合理化を図るサービスである。もともとスマートドライブが四輪自動車向けに開発した車両管理サービスを、バイクに応用する形で開発したそうだ。
「Honda FLEET MANEGEMENT」は以下のような機能が利用できる。
リアルタイムの車両位置特定
配達といった業務中の車両が、現在どの地点にいるのかをリアルタイムで把握する事ができる。
運転特性のレポート
運転特性のレポートを作成し、どこで危険な走行を行っていたのか、といった事を可視化する。これによってドライバーの安全運転意識の向上につなげる。
業務日報の自動作成
走行した日時、場所、距離といった記録を、業務日報として自動生成する機能が付いている。
これまでのバイクを使った業務では、手書きで日報を作成している事が多く、乗務員の業務負荷がかかる、記録が不正確になる、といった問題が発生していた。自動生成機能は、そのような手書き日報の問題を解消する。
ジオフェンス機能
「ジオフェンス」というエリアを設定し、そのエリアに車両が接近、通過、到着した際に管理者にメールで通知するという機能が付いている。
「Honda FLEET MANEGEMENT」の開発は2019年8月より開始し、2020年4月に発表した電動ビジネススクーター「BENLY e:(ベンリィe:)」に搭載した。今後はガソリン車にもサービス適用を広げる予定である、と山本氏は説明を加えた。
B2B向けサービス構築では、スマートドライブと協業
ホンダは「Honda FLEET MANEGEMENT」の開発に当たって、スマートドライブとの協業を行った。協業の背景には、ホンダ側に3つの課題があった事を山本氏は述べた。
開発のスピード
バイクは四輪自動車や他の業界に比べ、コネクテッド化への取り組みが進んでいない。したがって、サービスの構築をスピーディに行い、四輪自動車や他業界にキャッチアップしたい、という思いがあった。
運用実績
コネクテッドの運用実績がないため、サービスを構築するノウハウを持った企業とのコラボレーションを行う必要があった。
サービス構築後の進化
仮にコネクテッドサービスを構築できたとしても、その後にサービスを発展させていく事が出来るのか、という点に不安を持っていた。
このような課題を解消するために、ホンダは車両のコネクテッドサービスについて既に実績を持ったスマートドライブとの協業を決めた。協業の効果について山本氏は、2019年8月の開発スタートから半年間でサービスを構築できた事を挙げて、課題の1つであったスピーディな開発を行う事が出来た、と評価した。
次ページは、「レンタルバイクのコネクテッド化、スマートフォンアプリサービス」
レンタルバイクのコネクテッド化、スマートフォンアプリサービス
趣味用途のファンバイク、つまりB2C向けのコネクテッドサービスについて、ホンダは以下の2点に取り組んでいる最中である。
レンタルバイクのコネクテッド化
ホンダの調査によれば、二輪免許を持っていてもバイクを購入する事はハードルが高い、と感じるユーザーが相当数いるそうだ。そこで車両を持たなくてもバイクライフを始められるように、ホンダは2020年3月末よりバイクレンタルサービス「HondaGO Bike Rental」を開始した。
ホンダの構想では、このバイクレンタルの車両にも今後、コネクテッドの機能を取り付けていく予定である。山本氏は、「HondaGO Bike Rental」は移動自体がアトラクションとなる体験を提供するサービスにするため、レンタルバイクのコネクテッド化に取り組む、と述べた。
ユーザー向けスマートフォンアプリ
ホンダはファンバイクを購入したユーザーに向けて、コネクテッド機能によって収集されたデータを届けるスマートフォンアプリを開発中である。山本氏によれば、現在開発中のアプリについては単なる「お得アプリ」ではなく、「顧客とホンダをつなぐコミュニケーションツール」を目指すそうだ。
移動データと他のデータを掛け合わせて価値を生む
ホンダは今後、どのようなビジョンを持ってコネクテッドバイクサービスを発展させていくのだろうか。その点についてはスマートドライブ・元垣内氏が、移動データを使った今後の展開を説明した。
まず、今後の展開を説明する前提として、元垣内氏は移動データの活用におけるポイントを2点述べた。
1点目に挙げたポイントは、移動データと別のデータを掛け合わせることによって、新たな価値を生むようにする、ということ。例えば、配達による販売業務を営むチェーンが、店舗ごとの売り上げ情報と、店舗が持つ車両の移動データを掛け合わせて、売り上げ効率の良い店舗の動き方を分析し、その動きを各店舗にノウハウとして伝える。
このように、移動データ単体では分からない、データの組み合わせによって分かる価値を活用する点が重要である、と元垣内氏は言う。
機械の制御、人の行動変容を促すデータ活用を目指す
2点目に挙げたポイントは、機械の制御や人の行動変容につながるデータ活用を最終的に目指す、ということだ。ここで元垣内氏が提示したのは、「ヒトが介在・pull型」「機械が中心・push型」という項目を縦軸に据え、「シンプル・定型」「複雑・非定型」という項目を横軸に据えた、移動データの活用形態の分布図(下記資料参照)だ。
元垣内氏によれば、移動データの活用形態は分布図の右上から左上へと、4つのステップを経て時計回りに進化していく。
第1ステップ:過去データの可視化
過去のデータを可視化して、管理者がモニタリングやレポートを行う。「Honda FLEET MANEGEMENT」はこの第1ステップに位置付けられるサービスであると元垣内氏は語る。
第2ステップ:リアルタイムデータによる自動化
リアルタイムのデータをモニタリングし、簡単な自動化に取り組むステップ。セッションでは「データドリブンな施策の自動実行を行う段階」と紹介された。
第3ステップ:AI、機械学習による予測分析
複雑で非定型な事柄を、AI、機械学習によって予測するステップ。「人間技では出来ない領域のデータ活用」と、元垣内氏は表現した。
第4ステップ:機械の制御や、人の行動変容を促す
予測分析から更に一歩進み、人の行動変容を促す領域があるという。「人と機械の融合領域」と名付けられていた。
元垣内氏は、過去データをモニタリングする段階から、最終的には機械の制御や人の行動変容を促す段階を目指すことで、新たなデータ活用の方法を広げていく事が重要である、と述べた。
予測分析による最適メンテナンス案内
では、移動データと他のデータの掛け合わせ、あるいは機械の制御や人の行動変容を促すデータ活用によって、ホンダのバイクシェアリングサービスは今後どのような変化を目指すのか。
スマートドライブ・元垣内氏が例として挙げたのは、「予測分析による最適メンテナンス案内」である。「Honda FLEET MANEGEMENT」によって取得した走行特性データと、パーツの劣化を計測したデータやタイヤ交換時期を記録したデータ、燃費のデータを掛け合わせて、メンテナンスのタイミングを予測する。さらに故障や劣化の要因を特定することによって、人のメンテナンスを支援する、という仕組みをホンダは目指している。
この「予測分析による最適メンテナンス案内」についてホンダモーターサイクルジャパン・山本氏は、特にEVバイクにおいて有効ではないか、という意見を述べた。EVバイクはバッテリーの特性上、1回の充電で走行できる距離が短い。このような問題を、移動データを活用したメンテナンス案内を行う事によってサポートすれば解決できるだろう、というのだ。
バイクならではの「感動体験」を求める
「予測分析による最適メンテナンス案内」は、B2Bにおける業務の更なる合理化を推し進めるものだが、B2Cの面においてはどのようなサービスの展開を予定しているのか。
これについてホンダモーターサイクルジャパン・山本氏は、コネクテッドによって得られたデータを基にした「バイクならではの感動体験」を提供することになるだろう、と意見を述べた。
例えば、ホンダが取り組んでいる二輪市場活性化プロジェクト「Honda Go」の公式インスタグラムには、ユーザーが美味しいコーヒーを入れるために、わざわざバイクに乗って美味しい湧き水を汲みに出掛ける、といった体験が投稿されている。つまりバイクのユーザーは、単にバイクを移動の手段としてではなく、感動する体験を提供してくれるものとして捉えている、というのだ。
そこで、コネクテッドサービスによって得られた移動データや、スマートフォンアプリにおけるユーザーとのコミュニケーションで得られた情報を活用して、バイクのユーザーに更なる感動体験を提供する、というのが山本氏の語ったB2Cにおける今後の展開である。

