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デジタルの糸が紡ぐ、スマートファクトリーの未来 ーPTC LIVEWORX2019レポート1

PTC LIVEWORX2019

今年もボストンで、PTCの年次イベントLIVEWORXが行われた。今年のLIVEWORX、テーマはずばり、「デジタルトランスフォーメーション」だ。

キーノートにおいて、2度のエミー賞を受賞しているTVホストで、デジタルライフスタイルのエキスパートでもある、マリオ・アームストロング氏が登壇し、イベントの概要を説明、プレジデントでCEOのジム・ヘップルマンを紹介した。

ジム・ヘップルマン氏は冒頭、「私たちは、短周期で、革新を継続的に、かつ、迅速に対応することで、頻繁に変化を行うことが、これからのコアコンピタンスとなる」という考え方を述べた。

PTC 社長兼CEO ジム・ヘプルマン氏

PTCといえば、CADシステムである「Creo」、PLMの「Windchill」、IoTプラットフォームの「ThingWorx」、ARツールの「Vuforia」などが代表的な製品群となる。

数年前、国内の展示会では、ThingWorxを見かけることが多かったが、最近では主にARのソリューションが展示されていることが多い。

現在30%の売り上げをARとIoT関連のビジネスが叩き出していると言うPTC。なぜ、CADからPLM,IoT,ARと製品群が揃うPTCがARにこだわるのか、キーノートでは、その戦略や考え方について知ることができた。

デジタル・スレッド(糸)が紡ぐ、産業のデジタル化

製造業においてデジタルトランスフォーメーションを実現しようと思った企業は、どういう対応をすればよいのだろうか。

製品の設計、開発、製造、保守といったバリューチェーンの中で、それぞれのプロセスでやるべきことがあり、そのデータを一気通貫で管理できることが重要であることは言うまでもない。そして、それだけでなく企業としては、セールスやマーケティング、顧客による利用、CXOによる意思決定が全体のプロセスの中にあるべきだ。

エンジニアリング、セールス&マーケティング、製造とサプライチェーンの流れ
顧客によるオペレーション、カスタマーサービス、CXOによる意思決定の流れ

中でも製造のプロセスにおいては、まず、CADで設計を行う。そして、デジタル上でシミュレーションを繰り返す。設計フェーズでは必要に応じてジェネラティブ・デザインを取り入れた構造設計をするかもしれない。

そして、シミュレーションを繰り返したものを実際に開発し、製造のプロセスに持ち込む。製造プロセスでは、あらかじめ生産計画上定義された生産性や品質に関するKPIを達成するために生産性を改善したり、品質向上への取り組みを行う。そして、製品を出荷した後も製品の保守メンテナンスに取り組むという流れになる。

カスタマイズ品が多い産業分野では特に、製造や保守メンテナンスが複雑だ。設計段階のデータから、部品、メンテナンス方法など、様々な事柄が統合的に管理されていないと、保守といっても簡単にできるものではない。

VOLVOのトラックエンジンとカスタマイズされたエンジンのCADデータサンプル。様々なカスタマイズ情報もデジタルデータとして管理されていると、作業ミスなどが極小化される

一方で、現状これらのプロセスやそこで発生するデータは分断していて、人が管理している場合が多い。そのため、何をするにも時間がかかっているというのが現状だろう。さらに、それらのデータは適切にCXOにあげられ、顧客のために意思決定をしていかなければならない。

このように、それぞれのプロセスで起きていることを全体最適することが、製造業におけるデジタルトランスフォーメーションになるわけだが、特に製造の現場でのデータ収集は簡単ではない。なぜなら、いろんな理由はあるが、最新のデジタル技術で作られた産業機械ばかりで構成されているわけではないという点が大きい。

国内における製造業向けのIoTは、現状「現場の生産性改善、品質向上」に関する話題がメディアを賑わせていて、ここに注力するのがスマートファクトリーだと言わんばかりだが、切り出しやすい分野である一方で、これでは局所最適な話になってしまう。

そこで、「デジタル・スレッド(糸)」という考え方が必要となる。

これは、上流で作ったデータを下流で利用するということを意味するのだ。

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VOLVOの例に見る、デジタル・スレッドの例

VOLVOで実際に製造を担当しているメンバーが登壇

例えば、VOLVOの例では、「乗用車の部品が6,000個ほどであるのに対して、トラックは20,000個ある」「さらに、トラックではカスタマイズがとても多い」ということだ。

製造のフェーズやサポートのフェーズにおいて、設計データに基づく部品管理が行われた状態で、1台のトラックに必要なカスタマイズを加えることができれば、作業手順上次にどの部品をどう作業して良いかが明確になるため、作業上のミスも低減するし、ARで情報を補完することで、作業品質も向上する。

PLMで管理されているデータが、作業者に様々な情報をリアルタイムに教えてくれる

実際に作業をする際には、PTCではARのツールとして「Vuforia」と呼ばれるソフトウエアを提供している。CADで作成された設計データを保持しておくことで、ARを実現するためのデジタル部品として再利用するのだ。

その結果、現実世界のエンジンと、CADで作られたエンジン部品のデータをARで重ね合わせることができる。

ARの技術を使うことで、どの部品をどのように対応していけば良いかが視覚的に説明されるため、作業ミスが低減する

そして、現実世界のエンジンが吐き出すデータをIoTで吸い上げ、ユーザがARを通して見ている仮想空間上に重ね合わせることで、単にリアルとバーチャルを掛け合わせた映像を見るだけでなく、現実世界の物体の状態(温度や振動など、様々な物理情報)を、数値やグラフで可視化することができるのだ。

PTCではこの、現実世界のデータをIoTで吸い上げ、分析などを加える部分をIoTプラットフォーム「ThingWorx」が担当している。

つまり、デジタル・スレッドを実装することで、製造におけるビジネスプロセス全体を最適化し、コスト削減や品質工場も可能となるのだ。

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設計をデジタルで行いシミュレーションするメリット

CADソフトCreoと、シミュレーションを行う、Creo simulatoin live

CreoというCADシステムで設計を行い、シミュレーションを加え、その結果をフィードバックすることに対するメリットはどこにあるのだろうか。ジム・ヘプルマン氏は「設計にフィードバックがどんどん入り、すぐ改善できるため、製品の市場導入が早まることだ。」という。

最近の設計では、単純なCADでの人による設計だけでなく、アルゴリズムを活用して構造設計を行う「ジェネラティブデザイン」と呼ばれる手法も登場していることもあり設計はより複雑化していると言える。

しかし、部品の構成管理を徹底することで、部品の設計だけでなく、部品の組み合わせによる無限のパターンから、マーケティングやセールスを行うことも可能となるはずだ。

次ページ「構成管理で製造の現場がスムーズになる

構成管理で製造の現場がスムーズになる

この構成管理については、PLMが担当する。

PLMは、企画、設計、調達、生産、メンテナンスという製造の一連のプロセス全体を通した、データの管理を行うことができるソフトウェアのことで、PTCでは「Windchill」がこれに当たる。

せっかくCADによって設計データをデジタル化し、シミュレーションによる製品市場投入の短期化が実現できたとしても、あまたある部品の組み合わせについて、きちんとした構成管理ができていないとカスタマイズ品の製造などに、柔軟に対応ができない。

この複雑さは、「生産設備やプロセスの違い、サプライヤーなどで変わってくる。同じ製品構成でも異なる工場で製造すると、PLM上は新しい構成となるのだ。」と言う。

こういった多様性に対する対応を行うためにはPLMが必須となるのだ。

構成変更がきちんと管理されるようになると、設計に対する変更が加わった時も、生産の現場までその変更内容がスムーズに伝わるようになる。

構成をきちんと管理しておくことで、何かの変更があっても、変更箇所と影響範囲が明確になる

通常、作業指示書を変更し、品質検査の内容が変わり、それに伴う品質検査マニュアルも変更する必要がある。その変更が複雑な場合、その習得に時間がかかる場合もあるだろう。

PLMで構成情報を一元管理していれば、設計データの変更もすぐ現場に伝わり、品質検査内容も反映される。必要なのは、検査時の作業内容の書き換えとなるが、これも熟練者が行えばできることを、ARを活用した手順書に落とすことができるので、すぐに作業者に展開することが可能となるのだ。

ここで、熟練者の行動を簡単に手順に落とすことができるのだろうか、という疑問が湧く。

しかし、PTCでは「VUFORIA EXPERT CAPTURE」というシステムを使うことで、熟練者の作業をデジタル化することに成功している。

マイクロソフトHoloLensのようなMRヘッドセットをつけると、視界に入ってくる産業機械のメンテナンス方法がどんどん視覚化される。そして、手順通りに作業をすれば熟練者と同等の作業を行うことができるのだ。

ホロレンズをつけて作業を行う様子
実際の機械の中身にARとして、コンテンツや、データを合成して作業をサポートする

もちろん、「塩梅」が必要な作業は存在するので、なんでもデジタル化できると言うわけではないと思われる。

既設設備をどう使いこなすのか

ここで、ロックウェルの事例が紹介された。PTCでは既に設備が存在する工場のことを「ブラウンフィールド」と呼んでる。

もともとは、ブラウンフィールドの反対はグリーンフィールドで、用は、「開拓済みの土地」と「未開拓の土地」という意味だ。

このブラウンフィールドの工場で、どのように効率的にデータ収集を行うか、という課題が現場では発生している。

実際、ロックウェルとPTCがフォードの工場でIoTプラットフォームである、ThingWorxを導入しようとした際、この問題が起きたのだと言う。

ロックウェル・オートメーショ CEO BLAKE MORET氏

元々のプロジェクトはアナリティクスのプロジェクトであったと言うことだが、話を進めると「そもそもデータが揃っていない」ということがわかったのだと言う。

データを取得するには、当然セキュリティのことも考慮しなければならないし、プロセスも見ていかなければならないが、何よりも、適切なデータを分析に使うことが重要なのだという。

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IoTでOEEは向上するのか

OEEの状況を可視化

OEEとは、Overall Equipment Effectivenessの略で、「設備総合効率」のことだ。

工場へのIoT導入によって期待される価値としては、生産性の改善と品質の工場であることは言うまでもない。

特に生産機械の想定外の停止は、OEEの低下をもたらす。IoTによって現場のデータを取得、可視化することで、原因を探り、予知保全にも結びつけると言う考え方は、国内のスマートファクトリーにおいても一定の理解が得られたことだと言える。

ところで、データが取れたとしても世界に拠点を持つような製造企業の場合、担当者が必ずしも現地に行けない場合があるわけだが、こういった現地の作業者への的確な指示や、現場の様子をみて遠隔から作業指示をする場合にもARは活躍するのだという。

また、VRの技術を使えば、時間を戻して過去の状態を見ることも可能になる。

しかし、実際は既存工場のデータが全て取れるわけではない。そこで、360度カメラを使って工場の状態を再現するソリューションとして、「MATTERPORT」社と提携したと言う発表がされた。

MATTERPORT社の3Dカメラのための画像合成プラットフォーム、PTCとしても販売していくということだ

MATTERPORTのソリューションは、もともと不動産業で使われていた3D空間を認識して、その図面を点群で表示するソリューションだ。これを使うことで施設内のVRツアーすら自在に行うことができる。

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デジタル・スレッドの生み出す未来

PTCのデジタルツインの考え方、フィジカルとデジタルが、IoTやARを通して行き来可能となる

デジタルツインとは、上図のようにIoTが集めたデータをAIなどがシミュレートし、ARで見ることでフィジカルとデジタルの力を融合することができるようになることだ。

実際、冒頭で述べた「デジタル・スレッド」を考えると、この融合が重要になるわけだが、PTCの製品ポートフォリオを見ると、CADによる設計とシミュレーション(Creo)、構成管理(Windchill)、デジタルツインの生成(ThingWorx)、リアル世界でのデジタルコンテンツとデータの活用(Vuforia)、というすべての要素が揃ってきている。

以前のインタビューでは、概念モデルはすでに作られていたが、製品ポートフォリオとしてはまだ十分とは言えなかったが、ここにきて全体が揃い、機能群が揃ったビジネススイートとして提供され始めている。

今回のLIVEWORXでは、ロックウェルをはじめとして、フォードやVOLVOといった自動車メーカー、坑内通気や排水処理から冷暖房などを提供するHowden、東京オリンピックでも導入うが決まっている臨時電源メーカーのアグレコ、半導体メーカーのGLOBAL FOUNDRIESといった、大手企業での事例もかなり出てきていて、今後エンタープライズでの利用が広まる機運を感じた。

最後にジム・ヘプルマン氏は、「我々のソリューションが顧客の事業変革に繋がると嬉しい」とキーノートを締めた。

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