Team Cross FAは10月4日、東京都内で年次セミナー「Smart Factoryセミナー2019~スマートファクトリー構築の実例と進め方~」を開催した(運営:株式会社FAプロダクツ、株式会社電通国際情報サービス)。
同セミナーは今年で6回目の開催となる(昨年まではFAプロダクツが主催)。初回は2014年、そのときの参加者は70名ほどだった。そこから昨年は約170名まで増加。今年は東京会場の他に名古屋、大阪、広島でも中継を行い、昨年を大きく上回る300名以上の参加となった。
FAプロダクツなどは本年8月27日、スマートファクトリーをワンストップで提供する企業コンソーシアム「Team Cross FA(チームクロスエフエー)」を設立した。Team Cross FAは、製造ラインの提供やデジタルエンジニアリング、ITシステム、工場建設、人材派遣・教育など、ものづくり企業がスマートファクトリーに必要な要素をすべて一貫して提供するために、それぞれの領域の技術を持ったベンダーが集まったオープンな組織体である。
様々なセッションから構成された今回のセミナーでは、FAプロダクツ 代表取締役社長の貴田義和氏(きだよしかず、トップ写真・左)と株式会社オフィス エフエイ・コム 代表取締役社長の飯野英城氏(いいのひでき、トップ写真・右)が、Team Cross FAのスマートファクトリー構築の進め方について説明。さらに、その方法にもとづいてスマートファクトリー化を進めるものづくり企業2社の実例が紹介された。本稿(レポート1)では前半の貴田氏、飯野氏による講演の内容を、レポート2では実例について紹介する。
1. 「シミュレーション」こそスマートファクトリー化のカギ
昨年の「Smart Factoryセミナー」では、スマートファクトリー化の「スモールスタート」に必要なIoTソリューションなどをテーマに講演を行っていた貴田氏。今回はTeam Cross FAとして「新しいスマート工場をまるごと1棟つくる」ために必要な要素や構築の手順について説明を行なった。貴田氏は冒頭、次のように語った。
「この数年間、日本の製造業は深刻な人手不足に対応するため、既存の工場に対してIoTやロボットの導入を進めてきた。しかしそれも限界を迎えている。3~5年後でも生き残るためには、100人の工場を20~30人でも運営できるようなドラスティックな変化が必要だ。事実、まっさらな状態から新スマート工場を1棟つくるという気運が国内ではあり、Team Cross FAチームでも既に新工場の引き合いをたくさんいただいている。2025年までの間に新工場設立ラッシュがやってくると私たちは考えている」(貴田氏)
Team Cross FAの意義について、貴田氏は「スマート工場の新設をワンストップで提供するには、様々な領域のベンダーの強みを結集することが重要だ」と強調。「部分最適においては日本には優れたベンダーが数多くいる。ただし、スマートファクトリーを構築して最大限の効果を引き出すには全体最適が重要だ。1社だけではスマートファクトリーのプロジェクトはこなせない」と述べた。
Team Cross FAでは、FAプロダクツやオフィス エフエイ・コムなどFA・ロボットシステムインテグレータを担う5社が幹事企業となり、パートナー企業として、建設は鹿島建設株式会社、デジタルエンジニアリングは株式会社電通国際情報サービス(ISID)、ITシステムはミツイワ株式会社、運用保守は株式会社日立システムズ、技術者派遣・育成は日研トータルソーシング株式会社などが参画している。
自動車、化学、食品、デバイス、加工、検査、物流などあらゆる業種・工程において技術とノウハウを持つ企業がTeam Cross FAチームには揃っているため、どのような分野でもそれぞれの分野のニーズと専門性に対応したスマート工場の提供が可能。また、 特定メーカーに依存しない「マルチベンダー」が中心となって構成されることから、企業が求める設備やシステムを柔軟に提供することができる。
貴田氏は、スマートファクトリー化には下記の4段階のフェーズを一つ一つ着実に行っていくことが重要だと述べた。
- PHASE1:グランドデザイン:Smart化目的、コンセプト決定、各機能レベル、予算感
- PHASE2:全体分析・構想:現状分析、ロボット・IT構想、シミュレーション
- PHASE3:Digital Factory:各種デジタルシミュレーション、工場コックピット、物流定義
- PHASE4:Real Factory:自動化システム、物流システム、工場コックピット
最初の「グランドデザイン」では、「省人化」や「納期短縮」など、スマートファクトリーを構築する目的を明確化する。その上で、製品設計から最適人員、物流までの全てのプロセスにおいて、AI(人工知能)やAGV(自動搬送機)、エネルギーの最適化などの個々の機能のレベル感(どのレベルの機能を求めるか)やツールを選定していく。予算については、「グランドデザインが決まった段階で、ある程度の予算感を伝えることはできる」と貴田氏は述べた。
PHASE1で各機能のレベル感とツールが決まると、PHASE2に進む。ここでは、まず現状の作業や設備、工程の分析を行う。その上でIoTやロボットを活用した全体のシステムなどの構想設計を行い、続いて詳細設計へと進んでいく。また、ここで策定した工程設計が実際に機能するかどうか、この段階で専用のソフトウェアを用いて「シミュレーション」を行い、検証する。
PHASE3では、PHASE2で決定した構想・設計をもとに、デジタル空間(コンピュータ上)に工場をつくる(Digital Factory)。そこで様々なソフトウェアを使ってシミュレーションを行い、設計通りに工場が構築できるかどうかを検証する。
「ここでは、何度もシミュレーションを行い、お客様と喧々諤々、詳細な議論を進めていく。従来とコンセプトの異なる工場をまるごと1つ新設するとなると、多大なコストがかかる。つくってからは後戻りすることは不可能。確実に構想通りの結果を出すには、あらかじめ設備・ロボット・製品・人すべての要素においてシミュレーションを何度も行うことが重要だ」と貴田氏は強調した。
最後のPHASE4(Real Factory)では、何度もシミュレーションで検証を終えたデジタル工場をまるで現実世界にコピーするかのように構築していく。
PHASE3で行うシミュレーションでは、たとえば工場のレイアウトを3次元で検証することができる(上の画像)。最新の3Dスキャナを使えば、点群データにもとづいて既存の工場の中の状態をそっくり3Dで再現することが可能。これによって、新しく導入したい生産設備やロボットが工場内の空いているスペースに入るかどうかを詳細に検証することができるのだ。
他にも、工場内で部品などを運ぶのに最適なAGVの台数を計算したり、設備の追加によって生産性がどれくらい変化するかを検証したりするツールなど、様々なものがある。
シミュレーションの活用事例はレポート2の実例で詳しく紹介する。
※参考記事2:「ファクトリービルダー」が工場の生産性を最大化する ―FAプロダクツ 天野氏インタビュー前編
※参考記事3:【前編】「製造業特化型」×「高速クラウド」のIoT基盤「FA Cloud」が始動、その全容と3社共同開発の狙いとは —FAプロダクツ、MODE、神戸デジタル・ラボ
2. 迅速にスマートファクトリーを実現する新手法「ロボット型デジタルジョブショップ」
続いて、オフィス エフエイ・コム 代表取締役社長の飯野英城氏が登壇し、スマートファクトリー構築で重要となるポイントや新しいデジタル生産手法「ロボット型デジタルジョブショップ」について紹介した。
Team Cross FAの幹事企業であるオフィス エフエイ・コムは、自動化・ロボット設備や製造管理ソフトまで工場内で必要な各ソリューションを提供する企業だ(本社:栃木県小山市)。従業員約220名のうち、160名がFAに特化したエンジニアである。導入実績は2,000工場をこえる。
飯野氏は、もし工程設計のあとにデジタル化を行わず生産ラインや設備の新設を行ったら――先述の4つのPHASEにおいて、PHASE3が抜けていたら――どうなるかと提起したうえで、次のように述べた。
「デジタル化を行わないと、工程設計で作成した図面(仕様書)にもとづいて設備やロボットを導入することになる。そして、その結果を再び工程設計にフィードバックしようとした場合、使うのはやはり図面だ。これまでは日本の製造業だからこそ、図面を使っても(デジタル化のフェーズがなくても)対応できた。『カイゼン』の名のもとに生産現場が独自に改善されてゆき、当初えがいていた工程設計とは程遠いものになっていた。しかしこれでは、データの有効活用がまったくできない」(飯野氏)
続けて、製造業においてデジタル化を進める本質について、「製造業のデジタル化というと、見える化や予知保全が中心のテーマとなっている。しかし、デジタル化の意義はエンジニアリングチェーンを強くすることにあると思う。そのためには、工程設計をデジタル化し、リアルのデータをデジタルにフィードバックするしくみが必要だ。そうすることで、日本のものづくりのノウハウを最大限活かすことができるはずだ」と飯野氏は述べた。
Team Cross FAが目指すスマートファクトリーとは、「自律的に変化・対応し、市場を攻略するための工場」だと飯野氏は述べた。「コストを下げることは重要だが、それだけでは足りない」(飯野氏)。
具体的には、市場が大きく変化したときに柔軟に対応できるような生産ライン(アジリティの高い生産ライン)を構築することが欠かせないという。「組み換えに1年かかるような生産ラインはこれからの市場には対応できない」(飯野氏)。また、量産とカスタマイズの両方に対応できる統合ライン(マスカスタマイゼーション)や、国内・海外工場のリソース(エネルギーやスペース、人員コスト)の最適化も重要だ。
ただ、飯野氏によると、スマートファクトリーの実現において課題があるのも事実だという。その課題とは、「コスト」(投資回収ができない)、「スペース」(導入スペースがない)、「タクト」(人が対応した方がよい)の3つだ。この3つの課題のいずれかが問題となり、「新しい生産ラインなどつくれない」という企業が多いのだ。「とくに少量・中量/多品種の企業の場合が難しい。『うちは大量生産だから大丈夫だよ』という企業でも気づいたら少量/多品種になっていた、あるいは製品サイクルがものすごく短くなったというケースが最近では増えている」(飯野氏)
こうした状況を打開するために、Team Cross FAが新たに打ち出した新しい生産手法が「ロボット型デジタルジョブショップ」である。
生産ラインの自動化というと、コンベヤーの前にロボットを並べた「コンベヤー搬送型自動化ライン」が従来のケースだった。しかしこれでは、先述の3つの課題がどうしても問題となる。これに対して、飯野氏が「これからの超フレキシブル型最新デジタル生産」と語る「ロボット型デジタルジョブショップ」は、コンベヤーによる自動搬送ではなく、AGV(無人搬送車)が工場内を最適に動き回り、部品などをロボットや作業者のもとへ届けるというしくみだ。
具体的には、たとえば「ねじ締1」という設備で異常が発生したら、AIが自律的に工程を変更して、AGVが「ねじ締2」の設備に部品を運ぶ。あるいは、人の作業情報をAGVが把握して、「手待ちが発生した」といった情報をAIに送り、作業計画を自動で調整する。また、AGVを使うと、検査工程で不具合があった場合でも、「この製品は検査されていない」ということを自ら判断し、工程計画にフィードバックできる。コンベアー型のラインだと検査前/後がわからないまま流れていってしまうことが多いのだ。
またこの際、先述の「ねじ締機」のように、各設備やロボットはそれぞれの決められた作業(ジョブ)を行うだけのシンプルな設計にし、フレキシブルに装置の並べ替えができるようにしておくことが重要だ。その配置に合わせてAGVの方を最適に動かすことで、市場の変化に応じて柔軟に生産ラインを組み替えることが可能になるのだ。
なお、Team Cross FAが運営する新スマート工場「スマートファクトリーコンダクターラボ(スマラボ)」において、「ロボット型デジタルジョブショップ」が2020年初め頃に展示される予定だ。

