ベッコフオートメーション、生成AIが産業で本格的に使われる可能性を提示 ーハノーバーメッセ2024レポート1

今年もドイツのハノーバーで製造業の見本市となるハノーバーメッセが開催された。
レポートの第一弾は、毎年面白い技術を打ち出すベッコフオートメーションからだ。

TwinCAT for Linux

ベッコフオートメーションにおいてTwinCATは、これまで「Windowsの汎用IPCをリアルタイムコントローラーとして使えることができる」ということで、約40年前からそのコアテクノロジーの開発が進められてきた。

そのため、TwinCATは、Windows上では、これまで多くのケースで使われてきた実績があったわけだが、「それ以外のOSでも動くようにして欲しい」という要望があったのだという。

その背景としては、ハードウエアのコンポーネントやソフトウエアを変えた場合、特定の業界では報告義務があり、ベッコフオートメーションでは、他社が開発しているOSに関するレポートを行うことができなからだ。

また、今後は欧州のサイバーレジリエンス法にも対応する必要があり、自社製のOSを提供する必要が出てきたのだという。

さらに、研究系やロボット系でTwinCATを利用する場合、Linuxが必要になる場合が多い。特に、ロボット系であればROSを使う場合が多く、その場合はLinuxが必要になる。

これらのケースに対応する必要があることから、同社ではTwinCATをLinux上で動かせるようにしたということだ。

TwinCATがLinux上で動作可能に ーハノーバーメッセ2024

今回発表されたTwinCATは以下の3つのラインナップだ。

TwinCAT L(TwinCAT runtime for real-time Linux)

まず一つ目は、シンプルにLinux上でTwinCATが動作する製品だ。

Windows部分がLinuxに変わっただけなので、わかりやすい。

TwinCAT C(TwinCAT runtime in containers)

次に、TwinCAT Lにコンテナを搭載することができるという製品だ。

1つのIPC上で、コンテナを使うことで、たくさんTwinCATを入れることができる。

複数のインスタンスを搭載できるメリットとしては以下のようなところだ。

例えば、これまでロボット用、射出整形機用、工作機械用と、複数のハードウエアを制御する場合、複数のIPCとOSイメージを準備する必要があった。

しかし、コンテナが使えるようになることで、1台のIPCで、複数の機械を制御することができるようになる。

その結果、ハードウエアが少なくて済むというメリットもあるが、それ以外にも、ハードウエア間の連携についても仮想化されたネットワーク(ADS)を利用することができるようになるというメリットもある。

コンピュータが高度化、低価格化する流れの中、1台のIPCで複数のマシン制御が可能になるメリットは大きい。

TwinCAT WL(Windows on TwinCAT L)

さらに、TwinCAT WLでは、ハイパーバイザーを使うことで、TwinCATの上にWindowsを載せられる。

これを使うことで、これまでTwinCAT for Windows上で動いていたアプリケーションをそのまま使うことができるのだ。

このメリットとしては、これまではメンテナンスの時やアップデートの時には、マシンを止めなければならなかった。

しかし、これを使うことで、アップデート中もマシンを動かし続けることができる。

LinuxとWindowsを両方使いたい現場では有効な打ち手となりそうだ。

進化した生成AIによるプログラミング TwinCAT Chat

次に紹介するのは、昨年のハノーバーメッセでも注目を集めた、自然言語で指示をするとTwinCATがプログラムを作ってくれる、というものだ。

デモでは、「とあるファンクションブロックを作ってくれ」と自然言語で指示すると、プログラムを生成してくれ、実際のコードに反映してくれた。

こういった生成AIがプログラミングするデモは、IT系のプログラミングではよく見かけるが、このデモの場合、PLCのプログラムを作ってくれる。

昨年から変わったところとしては、できることが増えたというだけでなく、固有のサンプルプログラムや仕様書、マニュアルなどを学習させた上でコードを生成してくれるようになったので、大抵の場合、この機能で作られたコードはTwinCATで動かすことができるという点だ。

また、LLM(大規模言語モデル)のマルチモーダル化(テキスト・画像・音声・動画など複数の種類のデータを一度に処理できるAIの技術)が進んでいて、画像認識や生成、音声認識や生成ができるようになってきているのも変更点だ。

実際、HMIの操作画面を作るデモが展示されていた。

このデモでは、「スマートホームのエネルギー消費量がわかるパネルを作ってくれ」というと、プログラムだけでなく、実際の画面も作られる。

通常は、画面デザインを立ち上げて、各々の部品に対するプログラミングをする必要があるわけなので、非常に簡単に画面制作を行うことができる。

そして、現状はAzure上のOpenAIのLLMを使っているが、今後は他のLLMやオンプレミス環境でも動くものを提供していきたいという。

リリース時期については、OpenAIのライセンス変更の際にも利用者の利用費用変動要素をなるべく無くしたいという想いから、ビジネスモデル全体として説明可能な状態になったところで提供を開始したい、ということだ。

TwinCAT Machine Learning Creator

TwinCAT Macihine Learning Creatorは、今回初めてリリースされたものだ。これまでも、機械学習をしたモデルをTwinCATに取り込むことはできていた。

一方で、モデル作成には、いくら現場のデータがあったとしても、データサイエンティストが必要だった。

今回のデモでは、データサイエンティスト不要でAIのモデル作成が可能になるというものだった。

具体的に見てみよう。

今回は、卵の品質検査を行うというものだった。殻が「汚れているもの」、「欠けているもの」、「問題のないもの」に分けて卵の映像をAIに学習させる。

そして、テストデータを使って、実際にAIに推論させてみるという、外観検査のAIではお馴染みのものだ。

下の図で、縦軸が学習用データにつけられたラベルだ。

そして、モデルを生成し、汚れている卵についてテストをしたときに、正しく推論できていれば、横軸の推論結果も「汚れている」となるわけだ。

間違っている場合は、汚れているとされた卵について、問題がない、欠けている、と推論してしまう。

データサイエンティストがいなくても、外観検査が可能に

実際、この写真を見て分かる通り、AIがどこに注目して、推論しているかがわかりやすくなっている。

これを見て、人間が、学習用データを取り替えてみたり、ラベルを正しくつけるといった作業を加え、再度AIのモデルを作ることで、徐々に推論の精度が上がっていく。

これは、従来であれば、データサイエンティストが行っていた作業だが、視覚的にもわかりやすく簡単に作業ができそうな印象が持てたはずだ。

また、ここで作られたAIのモデルは、ONNX形式(機械学習モデルを表現するために使用されるオープンソースのフォーマット)でダウンロードできるので、作ったモデルはTwinCATをはじめ他のIPCでも動作させることができる。

さらに、ベッコフオートメーションのマシンであれば、どんなスペックのCPUであればどれくらいのスピードで推論できるか、という推奨もしてくれるという。

このソフトウエアは、FAの業界の画像認識についてある程度学習をしたファウンデーションモデルを活用しているということなので、FA用と言っっても良い。

まずは試してみて自社の現場にあっているようであれば、大きなコスト削減と、説明できるAIの活用シーンが広がることとなるだろう。

進化した魔法のじゅうたんと、リニア搬送機 XPlanner

時期浮遊式の搬送装置も新しくなった。新しい機能としては回転できるようになったところだ。回転により、薬品や食品の撹拌などで使うことができる。

このリニア搬送機、すでに利用している現場では、ハードウエアには手を加えず、コントローラーのドライバをアップデートするだけで回転する機能が利用可能になるという。

軽くて、小さいく、繰り返し精密な運動をしなければならないシーンでの利用について今後も注目が集まりそうだ。

進化したリニア搬送機は、重さの違うものを搬送する際も、ダイナミックにパラメータ変更ができる

リニア搬送機の上に、さまざまな重さのものをのせ、搬送したいと思っても、通常はパラメータチューニングを一つずつ行う必要があるため、簡単にこれを実現することができない。

そこで、重さの違うものを搬送する場合でも滑らかに動かすことができ、パラメータをダイナミックに変更することができるという改善点を展示していた。

高精度な制御と、それを実現するEtherCATによる高速通信、ソフトウエアの統合制御の考え方がこれを実現しているのだ。

今年もベッコフオートメーションの展示は興味深いものがたくさんあった。

時代に先駆けてPC制御システムを作ってきた同社のソリューションが、今後どんな発展をしていくのかが楽しみだ。

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