ハノーバーメッセレポートの第5弾はSAPのブースから。
設計から物流まで水平方向につなげるソリューションを持つSAPは、ものづくり領域で今回どういうメッセージを発信しているだろうか。
単純に製造ということだけでなく、定期メンテナンスや予知保全なども含め、一連の業務プロセスがつながっている状態を意識した場合、データのレイヤーで連携していれば、問題が発生した際もすぐに対応できる。
また、こういった水平方向に流れていくものづくりだけでなく、現場から経営までを縦方向にも繋ぐことも重要になる。
さらには、データがある企業は、生成AIを含むAIが活用できるフェーズとなってきている。
これまではダッシュボードを固定的に作ってきたが、これからは生成AIによって必要な情報を必要なときにわかりやすく表現してくれるようなことも当たり前になりそうだ。
また、企業間連携による効率性向上や、レジリエンス、CO2フットプリントのやり取りなどのために、企業間のデータ交換のための基盤も整備されつつあり、さまざまなユースケースが登場しており、SAPとしてはこれに積極的に関与し、課題解決をしたいという。
デジタルツインエコシステムとなる、アセットアドミニストレーションシェル
実際、こういったことを実現しようと考えると、データスペースも含め、企業間でデータのやり取りをするための標準化を考える必要がある。
そこで、AGVとその中にバッテリーが入っていて、それがどこの会社がどこの国で作っていて、シリアル番号が何番か、といった情報をすぐに調べられるようになっているというものが展示されていた。
これまで、こういった産業機械に一度問題が起きると、部品などの情報を知るためには、これまではいろんな部署やパートナー企業、メーカーを、たらい回しにされながら調べるしかなかった。
そこで、SAPでは、例えば故障が起きたとき、どの部品に変えたら良いのか?といった情報を教えてくれるソリューションを提供している。
部品には廃番があるわけなので、こういった取引先同士でのプロファイル情報共有を実現する仕組みがあることが重要になっているのだという。
実際、デモでは、QRコードを取得すれば、さまざまな情報をすぐ参照することができるようになっていた。(左側のスマートフォン)
さらにそのデータの関連するデータやアクションにつなげることが可能なので、こういった情報を取得した後、さまざまな後続作業につないでいける仕組みがローコードでも作れるということだ。
人とロボットの協調作業とMESによる管理
次に、人とロボットの協調作業の現場についての展示だ。
ロボットは、シリアル番号のついたユニットに応じて、青か白の色がついた蓋を置いていくという作業を、MESの指示にしたがって行う。
さらに、この蓋に3つのネジを閉めないといけない。
そのときに、人がどこから部品を取ってくるかを間違えないように、作業台にライトがつく。間違えると先に進めないというものだ。
そして、こういったビジュアルインスペクションによって、ネジが正しくシメられているかどうかをAIが判定する。
ドライバーもスマートドライバーなので、トルク値もトレースしている。こうして、品質に関する結果のデータもMESに残ることとなる。
エラー率もでてくるので、品質管理工数も減らすことができるというデモだ。
これまでもこういったデモを見たことがある読者は多いと思うが、これを汎用な技術でもできるようになってきたことが重要だ。
また、MESによって、指示を出しその結果を集めることで、製造だけでなく品質まで管理することができるので、その後のトレーサビリティにも貢献するデータも、保持することができる。
飲料業界の充填制御
次に、フィリングマシーンの展示だ。ERPの中に受注が入ってくれば、MESに作業指示が落ちてくる。そして、フィリングマシンが飲料を充填していく。
このデモで重要なのは、品質検査の工程だ。求められている量の範囲内で充填状況を確認し、多すぎたり、少なすぎたりした場合、はじいていく制御をしているのだ。
こういった技術も汎用化されているため、以前に比べると簡単に始めることができる。
SAPのデジタルマニュファクチャリングは、組み立て工場でもプロセス工場でも使えるというメリットがある。
マス・カスタマイゼーションを実現
これは、射出成形機でプラスチックのコップを作るデモだ。色を変えたり、ロゴをつけたりつけなかったりするといったマス・カスタマイゼーションが可能となる。
ECサイトからオーダーが入り、ERPに受注が入る。それが、製造指示となり、MESの指示へと変わり、それに基づいて射出整形機やロボットにつながり、マス・カスタマイゼーションが実現される。
工場においてあっても、どの発注かなどがわからなくなることがあるが、この場合デジタル表示で製品情報が表示されるというものだ。
製品とデータが一連の流れの中で同期して管理されることで、全体の管理も最適化されていく。
遠隔監視
複数工場を持っている場合、工場の状態やオーダーの処理状況などを遠隔でも見えるようにするのが、オペレーションコントロールセンターだ。
いくつも工場やラインがある場合、それだけ人を配置する必要がある。しかし、遠隔監視ができれば少数でできる。
SAPは、クラウドソリューションなので、安全性を確保した上であれば、先ほどのフィリングマシーンのデモで使われる、ベルトコンベアのスピードを変えるなど、遠隔でもいろんな指示が出せるようになるはずだ。
さらに、現場にスキルのない担当者への作業指示をARグラスを使ってやることで、少人数でダウンタイムを少なく製造ができるのではないかという考え方になる。
データを駆使してものづくりを行う時代に
今年のハノーバーメッセは、生成AIやAIを話題としている展示も多かった。
そんな中、SAPは、どのAI企業ともパートナーシップを結び、どれも使えるようにするという手段をとっている。これは、ビジネスに使えるAIを提供することが重要で、自動化やアドバイスをするというところに力を入れているからだ。
こういった新しい技術を導入する際、重要なのはデータでものづくりの現場を動かし、意思決定を行うことだ。
例えば、日本企業では、SAPが入っている企業が多い一方で、MESが導入されていない企業は多い。
MESというと、制御のために使うものと考える企業が多いのだが、それを「管理を行うためのMES」と「制御を行うためのMES」と分けて考え、SAPについては「管理を行うMES」に利用し、すでに手組みされている制御のMESは残しつつ、つないで利用するのが、シンプルな仕組みになっていくだろう。
製造現場のデータの取得と活用は、この間飛躍的に発展してきたが、その一方で分断されたソリューションとなっている場合、データを繋げた価値を得ることができない。
水平、垂直なデータ活用を行うことを前提としたソリューションが今後は求められてくる。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。