在庫管理とは、文字通り「在庫」を「管理」することですが、適切な在庫管理が行われていないと、販売機会損失やコストの増大、品質の劣化などにつながります。
逆に、適切な在庫管理を行うことができれば、生産性向上やコストの削減に加え、顧客満足度の向上にもつながります。
このように、企業活動の中で重要な業務の一つである在庫管理を把握し、最適化できるよう、今回は在庫管理の概要や目的といった基本知識から、在庫管理を支援するシステムやデジタル技術について解説します。
在庫管理の概要
在庫管理とは、企業が倉庫内に保有する資材や商品、そして製造途中の仕掛品といった「在庫」を、常に最適な状態で効率的に管理するための一連の活動を指します。
適切な在庫管理が行われない場合、欠品による販売機会損失や、過剰在庫による保管コスト増大・品質劣化など、様々な問題を引き起こす可能性があります。
そこでまずは、「現在どのような在庫が、どれくらい、どのような状態で存在するのか」を正確に把握することが在庫管理の基本です。
そのためには、製品になる前の仕掛品も含めた在庫品目をリスト化し、常に最新の状態に保つことが重要となります。
在庫品目をリスト化したら、自社の在庫の特徴を把握し、カテゴリごとに分類することも有効です。
例えば、原材料、部品、仕掛品、完成品など「製造工程による分類」や、仕入れた商品か自社で製造した製品化といった「用途による分類」、丁寧な管理が必要であったり在庫金額が高かったりといった「重要度による分類」などがあります。
カテゴリに分類することで、最適な管理方法や管理の優先順位を決定できるほか、会計処理をしやすくなったり、全体の在庫構成や各カテゴリの状況を把握しやすくなったります。
在庫管理の目的
適切な在庫管理を行うことは、単にモノを整理整頓するだけでなく、企業経営全体にメリットをもたらします。
ここでは、在庫管理の主な目的やメリットについて解説します。
生産性の向上
在庫管理の最適化は、生産性向上に直接的な効果をもたらします。
必要な時に必要な資材や部品がすぐに見つかる作業環境は、作業効率を高く維持するための基本です。
また、在庫の流れを可視化することで、ボトルネックとなっているプロセスを特定・改善することができ、製品開発のスピードアップにも繋がります。
例えば、特定の部品の在庫が滞留している場合、その原因を探り改善することで、生産ライン全体の流れがスムーズになります。
さらに、在庫データを分析し、生産現場の実績を客観的に評価することで、さらなる改善点を見つけ出すことできるでしょう。
コスト削減
在庫管理の最も重要な目的の一つがコスト削減です。
在庫を保有するには、保管スペースの費用、光熱費、保険料、そして在庫が古くなったり劣化したりした場合の廃棄コストなど、さまざまな費用が発生します。
効率的な在庫管理を行うことによって、これらのコストを削減することが可能です。
特に、過剰在庫はキャッシュフローを圧迫し、保管費用を増大させるため、極力抑える必要があります。
在庫回転率などを定期的に分析し、需要予測に基づいて最適な在庫量を維持することで、無駄な費用を減少させることができます。
また、仕入れ先や保管方法などを比較検討し、費用対効果の高い方法を選択することや、仕入れ料金の見直し交渉を行うことも、期間ごとのコスト軽減に寄与するでしょう。
顧客満足度の向上
適切な在庫管理は、顧客満足度の向上にも寄与します。顧客が求める商品を、欠品なく、適切な品質で、迅速に提供できる体制を構築できれば、顧客からの信頼を得ることができるからです。
的確な在庫管理により、注文に対してスムーズに対応できるようになり、「在庫切れで待たせてしまう」といった事態を防ぐことができます。
また、在庫データを分析することで、どの商品が人気なのか、どのようなカスタマイズが求められているのかといった顧客ニーズがわかるようになります。
これにより、人気商品を切らさないようにしたり、顧客の要望に応じたカスタマイズオプションを提供したりといった対応が可能となるでしょう。
在庫管理システムの活用法
在庫管理の目的を達成するためには、適切なシステムの活用が不可欠です。ここでは、代表的な在庫管理のシステムやツールとその活用法について解説します。
Excelでの管理方法
比較的小規模な在庫管理や、システム導入の初期段階においては、Excelを使った管理も有効な選択肢の一つです。特別なソフトウェアを導入することなく、多くの企業で既に導入されているツールで始められる手軽さがあります。
まず、管理したい在庫の商品コード、品名、現在の在庫数、保管場所といった基本データを整理し、分かりやすい一覧表を作成します。
次に重要なのが、入庫や出庫といった在庫の動きがあった際に、その履歴を定期的に記録していくことです。これにより、在庫の増減を追跡できます。
さらに、在庫の保管場所を明確にする「ロケーション管理」の項目を一覧に加えることも有効でしょう。「どの棚の、どの区画にあるか」といった情報をデータとして持っておくことで、ピッキング作業などの際に、目的の在庫を迅速に見つけ出すことが可能になります。
Excelでの管理は手軽ですが、データ量が増えると動作が重くなったり、複数人での同時編集が難しかったり、入力ミスが発生しやすいといった側面もあります。
専用ソフトウェアの導入
在庫の種類や量が増え、Excelでの管理に限界を感じ始めたら、在庫管理専用のソフトウェア導入も検討してみましょう。
専用ソフトは、バーコード読み取り、自動発注点計算、詳細な分析レポート作成など、在庫管理に特化した様々な機能を備えています。
導入前には、そのソフトの使用方法を関係者がしっかりと確認し、スムーズな移行ができるように準備を進めることが大切です。
また、品目マスタの登録や権限設定など、初期設定を適切に行うことで、導入後のトラブルを予防し、効果を最大限に引き出すことができます。
クラウドサービスの利点
近年、特に注目されているのがクラウド型の在庫管理サービス(SaaS)です。ソフトウェアを自社サーバーにインストールするオンプレミス型と違い、インターネット経由でサービスを利用するというものです。
最大のポイントは、リアルタイムでのデータ共有が可能になる点です。例えば、営業担当者が出先から在庫を確認したり、複数の倉庫担当者が同時に最新情報を更新したりと、場所や時間を選ばずに複数のユーザーがアクセス・共有できます。
また、サービス提供事業者がサーバー管理やアップデート、データの自動バックアップを行ってくれる場合が多く、自社での運用負荷を軽減できる点も大きなメリットです。
さらに、他のクラウサービスとの連携が可能なサービスも多く、業務全体の効率化に貢献します。
在庫管理システムと連携する要素技術
在庫管理システムには、より高度で自動化された在庫管理を実現する要素技術があります。
ここでは、代表的な要素技術と、在庫管理システムとの連携による活用法を紹介します。
非接触で自動認識する「RFID」
RFIDは、電波を利用して非接触でICタグの情報を読み書きする自動認識技術です。バーコードのように一つひとつスキャンする必要がなく、複数のタグを一括で読み取りでき、タグが箱の中などにあっても認識できるという利点があります。
在庫管理システムと連携することで、ハンディリーダーなどで読み取ったタグ情報がシステム内の在庫データベースに送信され、実際の在庫数に基づいて情報が更新されるため、棚卸し作業を効率化することができます。
また、倉庫の入口や出口にゲート型リーダーを設置すれば、タグが付いた在庫品が通過するだけで入出庫情報を自動記録し、検品作業の効率化と精度向上が図れます。
RFIDは、特に大量の在庫を扱う現場に適しており、在庫管理システムのデータ入力精度と作業効率を向上してくれます。
モノの状態をリアルタイムに把握する「IoT」
IoTは、様々な「モノ」にセンサーを取り付け、インターネットを通じてデータを収集・活用する仕組みです。
在庫管理システムと連携することで、従来は人手に頼っていた情報収集を自動化し、リアルタイムな状況監視を実現します。
例えば、棚やパレットに在庫の重さを測る重量センサーや、在庫の高さを測る距離センサーを設置することで、現在の在庫量をリアルタイムに計測してシステムに送信します。これにより、目視での確認やシステムへの手入力の手間なく、正確な在庫量を把握できます。
また、食品、医薬品、化学品などの温度や湿度に敏感な在庫の保管エリアに環境センサーを設置し、システムにセンサーデータを送信することで、設定値からの逸脱がないか常時監視することができ、品質管理を強化することができます。
他にも、GPSやビーコンなどを活用し、高価な機材や重要な在庫のリアルタイムな位置情報を追跡することで、倉庫内での探索時間短縮や、盗難・紛失防止に役立ちます。
IoTによって収集された多様なリアルタイムデータは、在庫管理システム上で可視化・分析され、意思決定やプロアクティブな品質管理・資産管理を支援します。
データ分析による予測と最適化を行う「AI」
AIは、蓄積された大量のデータを分析・学習し、人間では難しい高度な予測や判断、最適化を行う技術です。
在庫管理システムに蓄積されたデータや、IoTなどで収集されたデータをAIが分析することで、在庫管理の様々な側面を高度化します。
例えば、過去の販売・出庫データだけでなく、天候、季節性、イベント、市場トレンド、ニュース記事、SNS情報など、多様なデータを複合的にAIが分析することで、より精度の高い需要予測を行うことができます。
さらに、この需要予測に基づき、欠品リスクと過剰在庫コストを最小限に抑える最適な発注量、発注タイミング、安全在庫レベルをAIが算出・提案することで、自動発注にも繋げることができるでしょう。
需要予測の基本やデジタル活用について知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
需要予測とは?基本の手法や目的、製造業で活用できるシステムの種類などを解説
IoTで需要予測はどう変わる?メリット・実装ステップ・事例まで徹底解説
他にも、入出庫頻度や関連商品の組み合わせなどをAIが分析し、ピッキング効率が最も良くなるように倉庫内の在庫配置場所を最適化する提案を行ったり、画像認識技術を用いて製品の傷や汚れ、異物混入などを自動で検品・分類したりすることも可能です。
AIは、在庫管理システムを単なる記録・管理ツールから、未来を予測し、業務を最適化するためのインテリジェントなツールへと進化させる要素技術と言えるでしょう。
特にIoTで取得したデータを活用することで、リアルタイムデータに基づいた分析ができ、よりダイナミックな最適化が期待されます。
在庫管理システム運用のポイント
高機能な在庫管理システムを導入しても、その効果を最大限に引き出すためには、適切な運用体制を構築し、継続していくことが重要です。
ここでは、システムをスムーズかつ効果的に運用していくための大きなポイントを2つ解説します。
運用マニュアルの作成
在庫管理システムを導入した際には、誰が利用しても同じように正しく操作でき、運用ルールを理解できるように、分かりやすい運用マニュアルを作成することが大切です。
マニュアルには、具体的な作業フローを図などを用いて視覚的に示し、ユーザーが直感的に理解できるような工夫が求められます。
また、単なる操作説明だけでなく、FAQやトラブルシューティング、エラー発生時の対応方法といった、日々の運用において役立つ情報をまとめておくことで、問題発生時の解決時間を短縮し、ムダな手間を省くことができます。
従来の手書きのマニュアルや、更新に手間かかる形式ではなく、社内ポータルやシステム上で閲覧・検索できるデジタル形式で作成・管理することも検討しましょう。
これにより、常に最新の情報にアクセスしやすくなり、マニュアル自体の管理も自動化・効率化できます。
マニュアルは、システムの利用規約のような役割も担い、正しい使い方を浸透させる上で欠かせないツールとなります。
社内ルールの作成
在庫管理システムの運用を会社全体で円滑に進めるためには、自社の実情に合わせた明確な社内ルールを設定し、それを関係者全員が理解して守ることが不可欠です。
設定すべきルールの例としては、データ入力のタイミングと担当者、ロケーション管理のルール、マスターデータの更新手順と責任者、棚卸しの実施期間と手順、エラーやトラブル発生時の報告・対応フローなどが挙げられるでしょう。
これらのルールを明確にし、なぜそのルールが必要なのかという背景やメリットも含めて周知徹底することが重要です。
さらに大切なのは、一度決めたルールをそのままにするのではなく、定期的にその有効性を確認し、見直すことです。
例えば、業務内容の変化やシステムのアップデートなどの際には、ルールを更新していく必要があるでしょう。
他の業務との兼ね合いも考慮しながら見直しの期間をあらかじめ設定し、適正な運用体制を維持していくための仕組みを構築しましょう。
これにより、継続的な業務改善が可能となり、システム導入の効果を持続させることができます。
デジタルを活用した在庫管理の事例
棚単位で管理し棚卸し時間を削減
ある部品メーカーは、管理している品目数が多く、棚卸に手間と時間がかっていたほか、在庫を確認し忘れたり、同じ部品を数えてしまったりと、ヒューマンエラーも発生していました。
そこで、在庫管理システムを導入し、部品を登録しました。そして、保管場所である棚に番号をつけ、登録した部品と棚の番号を紐つけた情報が記録されているQRコードを棚につけることで、棚ごとの在庫管理を実現しました。
棚から在庫を取り出す際には、部品の番号を在庫管理システムで検索することで、どの棚に置いてあるかを確認することができます。そして、取り出した在庫は在庫管理システムに記録します。
部品を在庫として棚にしまう際も、保管するべき棚の場所を在庫管理システムで確認してしまうことで、置き間違いがなくなったそうです。
これにより、棚卸にかかる時間を75%削減でき、在庫管理システムを導入して数か月後には棚卸の差異が0になったそうです。
画像認識AIで紙台帳をデジタル化
二つ目は、小売業を営む企業の事例です。この企業の売り場では、取り扱い商品やメーカーが多岐にわたり、発注業務や在庫管理をデジタル化できず、個人の経験に頼った発注を実施せざるを得ない状況となっていました。
そのため、「発注に時間がかかる」「担当者によって発注精度のばらつきがでる」「在庫管理がアナログなためECと連動できない」などの課題がありました。
そこで、画像認識AIを組み込んだ在庫管理業務アプリを活用することで、バーコードなどの有無にかかわらず、商品の在庫単品管理が可能な仕組みを構築しました。
これにより、対象商品においては紙台帳の管理が不要となり、発注、検品、納品作業時間の33%を削減することができました。
また、削減できた時間を、接客などの顧客満足度向上につながる業務にあてることができるようになりました。
さらに、複数の情報を一覧できるダッシュボードを活用した過剰発注の発見により、廃棄ロス削減に向けた発注調整にも取り組んでいるそうです。
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