世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2026」の会場は、例年以上に多種多様なロボットで埋め尽くされていた。特に今回は多くの人型ロボットが展示されており、それぞれの違いを見分けることが難しい状況でもあった。
その理由として、各社とも「何でもできる」といった包括的な説明を行うことが多く、会場での短いデモだけでは個々の特徴が分かりにくかった点が挙げられる。
一方で、単機能ロボットは用途や機能が非常に明確である。CESではおなじみとなったTOMBOTは、今回もラブラドールの子犬型ロボットを展示していた。初期ロットはすでに完売し、現在は次期生産分の予約を受け付けているという。TOMBOTは、人に寄り添い、ストレスや孤独、不安などを和らげる存在として愛用されている。
今年発売予定のLUMISTARのテニスパートナーロボット「TERO PRO」も同様に、デモを見るだけで機能が理解できる製品だ。相手が打ったボールの速度や方向に応じて瞬時にリターンし、効率的なトレーニングを実現する。モード選択によって、レベルや目的に応じた練習も可能である。さらにAIカメラがボールの軌道やプレイヤーの動作を分析する機能も備えている。
このように目的が明確な場合、必要な機能や技術を要求仕様として整理すれば、すぐに具現化できる段階に入っていると言える。
人型ロボット市場を牽引する中国企業
今回のCESの主役は間違いなく人型ロボットである。開催時点(1月初旬)では商用量産されている機種はまだ限定的だったが、多くの企業が「年内または2027年に商用提供開始」というロードマップを示していた。2030年までに人型ロボットが仕事や生活の中に本格的に入り込むことが明確になった。
特に中国企業は商用化に向けて一歩リードしている印象が強い。介護ロボットを開発するFOURIERは、人に触れるロボットの表面を車のシートにも使われるファブリック素材にすることで、物理的な柔らかさを実現した。またGALBOTのG1は、すでに無人コンビニなどの店舗で稼働している。フラットな床という明確な使用環境を前提とし、足元を車輪構造にする合理的な設計が特徴だ。
中国勢の中でも、Agibotは一歩先を行っている企業と言えるだろう。2025年の人型ロボット導入シェアは約30%と、世界トップシェアを誇る。主力機種X2は全高約130cmと小型ながら、俊敏な動きと高い耐久性が強みである。重作業には向かないものの、価格が約200万円(98,000元)からと比較的手頃である点も普及を後押しした。
現状では産業用途以外の明確な活用シーンが定まっておらず、購入者も「何ができるのか」「どう動くのか」をまず見てみたいという段階にある。その意味でAgibot X2は、人型ロボットのエントリーモデルとして広く受け入れられたと考えられる。
本格商用人型ロボットを目指すBoston Dynamics
今回のCESで「近未来の実像」を最も鮮明に示したのが、HYUNDAIブースで展示されたBoston Dynamicsの新型Atlasである。同社はロボットを「研究対象」から「量産可能な産業ツール」へと完全に位置づけを転換した。
AtlasはAgibot X2とは対極的な存在と言える。価格は約2000万円(13万ドル)以上と高価だが、その機能性は大きく異なる。CES2026で初披露された新型Atlasは、従来の油圧式から電動モーター式へと移行し、人間を超える関節可動域を長時間稼働させることが可能となった。工場での重作業を想定した実戦仕様である。
2028年の本格導入に向けた具体的なロードマップが示されたことで、単なるデモではなく「製品」としてのリアリティが高く評価された。すでにSpot(危険区域調査)やStretch(荷降ろし支援)が商用ロボットとして稼働している実績も、信頼性を裏付けている。
家庭用途を具体化するLG CLOiD
LG CLOiDは、洗濯物を畳む、冷蔵庫から飲み物を取り出すといった家事の「ラストワンマイル」を担う姿を実演した。用途が非常に具体的で、生活の中での利用シーンを明確に想像できる展示だった。
その実現に向け、視覚情報を言語と動作に結びつける「VLA(Vision-Language-Action)」や、自社開発アクチュエーター「AXIUM」といった要素技術にも踏み込んで説明していた。用途が明確だからこそ、「なぜこの技術が必要なのか」が納得できる構成となっていた。
なお、アクチュエーターは人型ロボットの製造コストの半分以上を占める重要部品であり、耐久性と精度が求められる。LGはAXIUMの外販も予定しており、関節用7サイズ、移動用2サイズのラインナップが想定されている。
人型ロボット周辺市場の拡大:ロボットハンドとセンサー
人型ロボットの盛り上がりとともに、周辺市場も拡大している。中でも注目を集めたのがロボットハンドである。イノベーションアワードを受賞したシンガポールSharpa社のSharpaWaveは、ほぼ人間の手と同等の自由度を持ち、指先の感覚も人に近いレベルに達している。
「スペック上は」という前提が重要であり、人間特有の感性までは完全に再現できないものの、繊細な物を割らずに扱うことが可能なレベルに到達している。
さらにBOSCHは、気圧を用いた超高感度指先センサーを展示した。羽が触れただけでも検知でき、将来的には布の質感の違いを識別することも可能になるという。かつて生地の目利きには熟練職人の感覚が必要だったが、今後はロボットが素材を選別する時代が来るかもしれない。
頭脳部分をめぐるエヌビディアとクアルコムの競争
頭脳となる部分もエヌビディアが先行しているが、クアルコムが戦略的なアプローチで追随してきていることも興味深い。今回Dragonwing IQ10シリーズを展示していたのが、GPU依存ではなく、CPU、GPU、FPGA、AIチップなどの異なる種類のプロセッサを組み合わせて処理するヘテロジニアスコンピューティング(異種混合計算)で設計されているところが大きな違いだ。
そもそも通信に強いことはもちろんだが、通信モデム開発時に省電力ノウハウも得ているため、様々な手法を用途に応じて最適に活用し、高性能・低消費電力を実現しようとしている。ちなみに100万円を切る価格($5,999)で販売しているBooster K1(本記事のトップビュー)はクアルコムのアーキテクチャーを活用している。
日本企業の強みと今後への期待
日本企業も、今後需要が見込まれる要素技術を多数展示していた。京セラの「3眼AIデプスセンサー」は、物体を3次元で捉え、空間の奥行きをミリ単位で把握できる。狭い家庭内で家具を避けたり、繊細な食器を掴むために不可欠な「目」となる技術である。
2012年以来14年ぶりに出展した富士通は自社で開発したSpatial World Model(空間世界モデル)を公開。実際にロボットも活用しながら、その実態をデモしていた。
世界モデルとして認知されているエヌビディアのCosmosはロボットや自動車の一人称視点で物理法則を完全再現するが、富士通のSpatial World Modelは、俯瞰で世界をつくるのが特徴だ。
そのため、他社の動きの予測を踏まえてロボットが行動することが可能になるという。例えば、ロボットの後ろにいる人が慌ててトイレに行こうとしていることに気付き素早く通路を空ける動きをするといった、気の利いたことが可能になるという。
今年は世界的に「人型ロボット元年」となった年と言える。一方で、今回のCESでは日本企業の人型ロボット本体を見ることはできなかった。しかし、日本には人型ロボット市場で輝く要素技術を持つ企業が数多く存在する。また、ロボットの製造・開発が可能な企業も多い。
単なる機能の組み合わせではなく、「どんな価値を提供するのか」「どんな存在になるのか」をデザインした、人と共生し社会に自然に溶け込む人型ロボットを、ぜひ日本から生み出してほしい。

