データ連携の分野でシェアのある「ASTERIA」というプラットフォームを持つ、インフォテリア株式会社が、IoTでの実装を簡単にするためにGravio(グラヴィオ)という製品をリリースしたのが、2017年のことだ。それから1年、様々な現場で実装してきた中で、さまざまなフィードバックを得ることができたのだという。
そこで今回、インフォテリア代表取締役社長の平野氏(トップ写真右)と、副社長CTOの北原氏(トップ写真左)にGravioでIoTを実装してみてわかった様々なフィードバックを伺った。(聞き手、株式会社アールジーン代表取締役 / IoTNEWS代表 小泉耕二)
小泉: Gravioをリリースされて以来、御社は様々な現場でIoTの導入をされてきたと思いますが、どういったフィードバックが得られたのでしょうか。
平野: 私たちは、Gravioを通じて、IoTの専門家でなくてもIoTを簡単に導入できることを目指して来ました。しかし、IoTを導入すると言っても、まず、どういうセンサーを使えば良いかわからないという、センサーの選定時に問題が発生します。さらに、工場や災害対策の現場などの特定目的での利用は進んでいるものの、誰でも使えるという状態にまではなっていないと思います。
小泉: 確かに誰でも使えるというところまでは行っていないですね。
平野: デバイスをつくる人、通信をする人、アプリをつくる人など、様々なレイヤーがあってそれぞれのプレーヤーが繋がっていないため、分散しているプレーヤーを繋ぎたいと考えています。
我々は、ASTERIAですでに7,000社の企業と繋がっていることもあるので、そういった企業がどうすればIoTを簡単に使えるモノにできるのかということを考えています。
Gravioをリリースして、簡単にIoTが始められるようになったというものの、実際はGravioを利用する企業担当者が、センサーを買いにもいけない、どんなセンサーを買えばいいかわからないという状態で、普通の人にはIoTは依然遠い存在といえます。
これを、どうやって体験してもらうかが大事ですが、実体験がゼロの状態で、1に踏み出すのは難しいのです。そこで、もっと自由に発想してIoTを利用できるようになるベースを提供していくことが必要だと感じています。
例えば、昔からコンピュータは計算が得意でしたが、表計算ソフトが登場することで、プログラムを組まなくても誰でも数値計算ができるようになりました。
小泉: 簡単なことができるようになると、自然にマクロだなんだと難しいことに取り組み出しますものね。
平野: そうなのです。ただ、IoTの場合、ソフトだけで済まないという面があります。ハード、ソフト、アプリケーションがバラバラに開発され、使う人が組み上げるのではなく、三位一体となっていることが使いやすさのうえで重要だと感じました。
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働く現場におけるIoTの課題とは
小泉: IoTが表計算ソフトのように、簡単に使える状態である必要があることはよく分かりました。実際の働く現場で、どういったシーンが考えられるのでしょうか。
北原: 例えば、オフィスビルにおける入館を考えます。朝最初にくる社員は、多くの場合防災センターなどに寄って鍵をもらうなり開けてもらうなりしないといけません。
では、二番目に出社した人はどうでしょう。ドアが開いているかどうかがわからないし、割と早く出勤したので、やはり防災センターに寄ることになるでしょう。しかし、一番目に出勤した人がすでにドアを開けてくれているので、無駄足になります。
ここで、もしドアが開いたら自動的にメッセンジャーなどに通知がくれば、防災センターに寄る必要はないということになります。
こんな、ちょっとしたことを実現しようと思ったとき、わざわざシステム開発会社を呼んで開発しなくても、総務部門が自分でチョコっと作れればいいことだと思いますが、現状はできません。
小泉: 確かにそういった、ちょっとしたことで、IoTで解決しそうなことって多いですよね。
北原: オフィスのIoTというとトイレのIoTなどが有名ですが、あれもちょっとしたことですよね。
小泉: 最近ではいくつかの電鉄や空港でも使われていますものね。
北原: 技術的にも、2つのセンサーがあった場合、それぞれのメーカーがそれぞれでネットワーク対応を実装していて、アカウント認証の方式もそれぞれ異なる場合は、インテグレーターがまとめることも難しいのです。
そこで、ベンダー・ニュートラルに、センサーから簡単にデータを取得することができる仕組みを作ることになるのですが、現在ではデータを取得して可視化するところで留まっている場合が多いのです。
例えば、会議室の二酸化炭素濃度を取得して可視化するのはいいのですが、濃度が高いからどうするのか、ということまで簡単にインスピレーションが湧かないといけないのだと思うのです。
データを取得するにしても、例えば、これまで在室かどうかについては、椅子に着座センサーをつけていましたが、これでは人が座っていても荷物が置かれていても、着座状態と判定してしまいます。
そこで、カメラを使うというアイディアが有用になります。
小泉: なるほど、単純にデータをと取るといっても、どういう取り方が良いかを考え、データを投入したら、次にどういうアクションができるべきかというインスピレーションが湧くことが重要なのですね。
北原: はい。さらに、施設の使い方にも自由度を与えたいなと考えました。
小泉: どういうことでしょうか。
北原: 例えば、朝と夕方では気分が違うので、気分に応じて照明が勝手に変わる。最近のオフィスはフリーアドレスのタイプのものが多いですが、アフターファイブにオフィスのレイアウトである必要はないので、ボタン一つで机のレイアウトも変わる、といったことです。
小泉: なんだかワクワクするオフィスですね。
北原: ショップなどでは当たり前のようにある、季節感なども重要だと思います。今だとショップ内のデコレーションはスタイリストなどの専門分野となっていますが、その環境をソフトウェアでデザインするだけで、変えられるといいなと考えています。
最終的には、プログラミングが必要ない未来を描いているので、イメージをセンシングし、それを数値化することで、誰でも簡単に使えるサービスを作っていきたいと思っています。環境、雰囲気などの、空間全体を作っていくのがソフトウェアの使命です。
「簡単IoT」の歴史を作っていく
小泉: Gravioも今後の展開が考えられていると思いますが、どういう将来を見られていますか。
平野: 大きくいうと、「歴史をつくりたい」と思っています。
表計算の例でもお話した通り、IoTは実用化の可能性が高い一方で、まだまだ利用者にとっては敷居の高いものです。例えば、パソコンが一般に普及したように、オフィスやショップでもIoTの恩恵が受けられるようにしたいと考えています。本当にIoTが普及する起点にしたいのです。
そこで我々は、Gravioの「簡単IoT」という考え方をもっと発展的に考えて、誰でも使えるIoTを目指していくことで、振り返ると「GravioでIoTの一般利用が始まったね」と言われるようになりたいと考えています。
かつて、社内のさまざまなコミュニケーションを統合・連携して簡単に使えるようにするという発想からグループウエアが登場しました。同じように、さまざまなベンダーから提供されるIoTやIoTサービスを統合・連携して簡単に使える状況にしていきたいと考えています。
小泉: 本日はありがとうございました。
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