アステリア(旧インフォテリア)が先日リリースした、新Gravio。このコンセプトについては、以前の記事でお伝えした。
今回の記事では、具体的なGravioの使い方や、利用シーンについて、アステリア代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏と、副社長/CTOの北原淑行氏に、お話を伺った。(聞き手、株式会社アールジーン代表取締役 / IoTNEWS代表 小泉耕二)
7種類のセンサーとパソコンがあれば始められるIoT
小泉: Gravioは、センサーが無償貸与で付いて来るので、パソコンがあればすぐ始められるということですが、どういうことなのでしょうか。
北原: はい。Gravioには、5つのZigbeeで通信するセンサーと、2つのEnOceanで通信するセンサーを貸出提供しています。同梱のGravio レシーバー(写真右下のUSBドングル)をパソコンにさしてもらうと、Windowsであればすぐインストールが始まるし、Macでもボタンを一回押す程度でインストールできます。
ソフトウエアをパソコンにインストールしたのち、簡単な設定をするとすぐ使うことができます。
小泉: 簡単な設定というのは、どのセンサーが、どういう名前で、どんなデータをとりたいか、といったことでしょうか。
北原: Gravio Studioというアプリが、設定アプリになります。
まずは、「エリア」を追加します。例えば、この「会議室」を追加する、といったイメージです。
他にも、「オフィス1F」というようなエリアの指定も可能です。
小泉: 場所に名前をつけるというイメージですね。
北原: はい。そして、ドアにセンサーがついているとして、そのセンサーに名前をつけます。
センサー類には、ワイヤレススイッチや、人感センサーなどあるのですが、今回は、「ビルトイン・カメラデバイス」で設定します。
カメラをセンサーとして利用する、「ソフトセンサー」という考え方
これを一個設定すると、一つフィールドができます。そこで、「画像取り込み形式」で「ピクチャー」と「ムービー」というのが選べるのですが、保存形式を選んで、あとは取り込み間隔を指定します。
さらに、このGravio Studioには、画像推論処理機能が元々入っていて、Gravio Freeという無料のプランでも「画像に写っている人数をカウントする」という機能を使うことができます。さらに、有料のGravio Basicでは、より精度の高い推論モデルや人数以外のデータを取得する推論モデルなどもダウンロードして使うことができます。
人の画像の場合、プライバシー保護は重要ですよね。ですので、処理をした後データを捨てるか、残すか、といった選択も可能です。
認識率も表示されるので、例えば「80%の確率で3人いるだろう」といったこともわかります。
こうして、推論によって顔画像の特徴点から導き出した様々な数値が保存されます。画像を保存することなく人数カウントだけすると、このデバイスはカメラですが、実際は「人数カウントセンサー」の役割を果たすことにもなります。
これが、当社の提唱する、ソフトウエアでセンサーを実現する、「ソフトセンサー」という考え方になります。
小泉: 他のカメラでは使えないのですか?
北原: Gravio BasicおよびStandardを使っていただければ、ネットワークカメラの 標準規格である「ONVIF 」に対応したカメラは使用可能になります。
センシングするだけでなく、アクチュエーションも
北原: ここまでが、センシングするというお話しですが、実際に取得したデータを何かに使いたい、ということになりますよね。
そこで、Gravio Studioには、「アクション」という機能がついています。アクションは、複数作ることができます。
例えば、先ほどのカメラで人数カウントをしていて、5人以上になったら○○する、といった指定をすることができます。
ライトをつけるとか、メールを送るとか、Slackにメッセージを送るとか、いろいろ設定することができます。
例えば、SlackPostMessageコンポーネントを選ぶと、メッセージを処理するためのプロパティがでるので、値を入れる。これで終わりです。
小泉: エリア(例えばこの会議室)に、レイヤー(カメラデバイス)を設定して、トリガー(5人いたら)からアクション(Slackにメッセージを送る)を実行するということですね。
会議室に、他のデバイスを共存させることはできないのですか?
北原: できます。例えば、もう一つのレイヤーにドアの開閉センサーを設定して、開閉状況を取得するとします。
ドアが開閉すると、「コンタクトステータス」によって、開いているのか、閉まっているのかがわかります。
そこで、「ドアが開いたら○○する」というアクションを指定することができます。これで、扉が開いたら音がなる、といったようなことが実現できます。
小泉: なるほど、簡単ですね。そういえば、今回のGravioは、アプリを利用したデータの表示もできると伺いましたが、具体的にはどんなアプリが出来るのでしょうか?
北原: サンプルアプリを当社で公開するので、自由にカスタマイズしていただく形になります。
簡単にいうと例えば、今「会議室のドアが開いているよ」といったことであれば、すぐにスマートフォンでもみることができるようなものをつくることができます。
小泉: PCを中心にデバイスの情報を取得したり、アクチュエートしたりするということだと、スリープしてしまうとまずいですよね?
北原: はい。スリープは解除しておく必要があります。
小泉: このアプリですが、GravioはPCで稼働していて、特にインターネットにつないでいないのに、なぜスマートフォンで見ることができるのですか?
北原: Gravioの機能ライブラリをスマートフォンに配布していて、それによって、同じLAN上にあれば接続することができるのです。
小泉: なるほど。トイレの満空状態を可視化するようなことをやったとして、その情報はオフィスのLANには入っているときは欲しいけど、外出するといらなくなるというようなイメージですね。
北原: そうです。要は、オフィスの中だけで見る必要のある情報は、外では見ることができる必要がないということです。
ちなみに、インターネット向けのAPIも準備しているので、インターネット経由でセンサーの状態を見たり、アクチュエートしたりすることも可能です。
これを応用すると、インターネットから、デバイス単体に指示を送ることもできるのです。
小泉: かなり柔軟な作りですね。エッジ側での処理を前提としているけど、インターネット経由でも同等のことができるようになっている。
なんでもクラウドにつなげればよいということではない
小泉: 今IoTというと、なんでもクラウドに繋がなければいけないというふうに思う方も多いとおもいます。
北原: 多分、本当は殆どのことがクラウドに繋がなくても良いのだと思います。トイレの情報を外部で知る必要がないというのと同じです。
もう一つ、クラウド側で保持するIPと社内で利用するIPは基本的には違う扱いになります。
そうすると、「クラウド側から、ローカルに指示を送る」ということ自体できないのです。Gravioでは、エッジ側のデバイスを個別に管理しているので、これを通してクラウドと通信をすれば、個別のデバイスにも指示を送ることができるのです。
一つ一つのモノにSIMをつけるなど、センサー情報を取得する「上り」に関しては割と簡単に解決ができるのですが、アクチュエータを制御する「下り」は難しいのです。
小泉: エッジ側にタブレットPCなどを用意して、Gravioレシーバーをつけたら、壁に貼っておく、これだけでデバイスを個別管理することができるのですね。
平野: 今、技術的なことをお話ししましたが、実は「コスト」の問題もあります。
デバイスの全てをSIMでクラウドにつなぐとなると相当なコストになります。もう一つは、「レイテンシー(遅延)」です。
クラウドにつなぐよりローカルでやったほうが明らかに処理スピードが早いです。もちろん、クラウドでやったほうがよいこともありますが、全部というのは現実的には無理だと思います。
IoTは、全部中央で管理するというだけでなく、必要なところに頭脳が分散配置されているのが現実的だと考えています。
北原: さらに、エッジデバイスは、取得した情報を同報通信することもできるので、レシーバーとGravio Studioを搭載したPCを何台か準備しておけば、同じ情報をそれぞれ取得することができます。
その結果、1台のPCが故障しても他のPCで動作するということも可能になります。2重化することで信頼性も向上します。
小泉: 「ソフトウェアセンサー」と言われる推論処理の部分ですが、他の利用シーンはありますか。
北原: 例えば、「ソフトウェアセンサー」では「子供」ということも認識可能です。それをGravioのアクション「AmazonPollySpeechコンポーネント」を組み合わせれば、子供が入ってはいけないところに入ったとカメラで認識したら、「あぶないよ!」と喋らせるとか、外にカメラを向けておくことで、雨が降ったことを認識し、案内するとか、様々なことが考えられます。
こういった、推論アルゴリズムも四半期に一回追加していく予定です。Gravio Standardの方では、こういった機能追加もされていきます。
推論データ以外にも、我々が開発したものを随時追加していきます。
小泉: 追加される機能も今後が楽しみですね。
平野: IoTは、巷で騒がれていますが、まだ遠い存在なのだと思っています。我々は、パソコンのように当たり前にしたいのです。
ADSLの時も、ルーターが無償で配られることでそれまで身近でなかったインターネットが一気に身近になった。私たちも普通の人には何を使ってよいかわからないセンサーを無償貸与で配ることで、企業や店舗にIoTを普及させていきたいです。
小泉: 本日はありがとうございました。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。