2019年7月2日都内にてSoracom discovery 2019が開催された。
今回はその中で行われた「特別講演:ゼロタッチ革命 〜変わる買い物体験を支える、小売のビジネス変革〜」の紹介をしたい。
この講演では、オフィスや商業施設、住居に設置可能な無人コンビニ「600」を展開する600の代表 久保渓氏、スマートマットというマット型のデバイスを用いて、日用品や食料品の残量を検知し自動発注、買い忘れを防止するスマートショッピング代表 林英俊氏、秋葉原に完全キャッシュレスのレジなし店舗「Developers.IO CAFE」をオープンしたクラスメソッド代表 横田聡氏をゲストに迎え、メルカリCIO 長谷川秀樹氏をモデレーターに、今起きている小売のビジネス変革とそれらを支える技術、今後についてが語られた。
ユーザーのニーズに応え、使いやすさへの配慮を行う
まず初めに久保氏から無人コンビニ600の説明がなされた。600とは、主にオフィス向けの冷蔵庫型の無人コンビニで、「100社100通りのカスタマイズ」を掲げ、IoTを活かしながら商品のラインナップを決めていくサービスだ。
600にはソラコムのSimが入っており、いつ売れたか、何と一緒に買ったか、補充した商品が何日間売れなかったか、などのデータが取れるため、何を置くべきかの分析が行える。
補充の際の物流網は600が独自に持っており、平均週二回補充を行なっているという。利用者は品揃えのリクエストをLINEやSlackを通して行うことができるため、地域性や季節などに対応したラインナップにすることが可能だ。
現在は物流の関係で東京都23区内のみの対応だが、地方であっても導入する会社側に物流だけ担ってもらうという形で展開していくことも考えているという。
決済方法はクレジットカードで、600に備え付けられているタブレットのカードリーダーにクレジットカードをスワイプすると鍵が開く。
RFIDが貼られた商品を取り出し、扉を閉めると、何が買われたか自動的に検出され、600に備え付けられているタブレットに購入完了ボタンが表示される。購入完了ボタンを押すと、初めにスワイプしたクレジットカードから自動的に代金が引き落とされるという仕組みだ。
その際アプリの必要もないため、クレジットカードさえ持っていれば購入することができる。
久保氏が大事にしているのは「ユーザーが迷わない」という点で、600に備え付けられているタブレットには、使用中以外は常に使い方を流しているという。また決済方法もクレジットだけに絞っているのは、複数の決済方法が混在していると使い方がわかりにくく、普及しにくいことを挙げた。
例えばICタッチをつけスイカも同時に対応した場合、間違えてカードリーダーにスイカをスワイプしてしまうユーザーも出てくるだろう。そうすると買えなかった失敗体験から、二度と使ってもらえない可能性を考えたという。
今後スイカ対応やQRコード対応の600の展開も考えているが、その場合でも決済方法は1つに絞る構想だという。例えば決済方法がスイカのみの600は駅の中に設置し、メルペイのみの600はメルカリの社内での設置をするという風に、ロケーションに合わせて1番良い決済方法を導入できれば、と語った。
商品だけでなく、決済方法も消費者に合わせてカスタマイズしていくという考えだ。
今後はマンションや工場、駅ナカや病院などに展開していければと語った。
次ページは、「在庫管理でサプライチェーンの最適化を目指すIoT」
在庫管理でサプライチェーンの最適化を目指す
次にスマートショッピングの林氏からスマートマットという在庫管理や発注を自動化するというサービスの説明がなされた。
スマートマットは在庫専用の体重計だ。特徴はなんでもおける汎用性と、電池仕様のためどこにでも置けるという点だ。
ブラウザで動くソフトウェアがセットになっており、重さをベースに残量がどのくらいか、在庫の推移、入出庫や消費といった在庫管理の基本的なデータが見られる。
また、在庫がある一定の量まで減った際、補充のアラートが飛び、自動発注を行う。自動発注のためのメールファックスとの連携はデフォルトでついており、その他の通信でも、Webとシステム連携すれば自動発注が可能となる。
そのため棚卸し、発注の作業はなくなり、届いたものを補充するだけというシステムだ。
特に生鮮・惣菜の在庫管理は、RFIDなどを貼りづらいため、重さで管理できることが重宝されているという。また、冷蔵庫内に人が入るという作業は重労働であるため、スマートマットが役立っている。
さらに大型の倉庫内であれば何がどこに置いてあるのか場所を紐付け、管理することができる。
業種は小売業のバックヤード、病院、ホテル、飲食など、保管庫があるところに導入されている。またゴミ箱やビュッフェの食材の残量など、在庫に限らず、サプライチェーン全体のボトルネックに使えると考えているという。
販売モデルは月額制で、初期費用と別に1枚500〜1000円での販売をしており、人件費の削減にもなっているという。
林氏はIoTビジネスをやってみて、シンプルなハードと賢いソフトが重要だと話す。ハードをシンプルにすることで、サービスコスト・メンテナンスコストが下がり、その分ソフトウェアで操作するという発想だ。
また、センサーをつけでデバイスからクラウドへデータを飛ばすという一方向の考えではなく、双方向でのやり取りこそがIoTだと話す。スマートマットでは、クラウド側から計測の日時指定や頻度指定ができる。
現在はWi-fiを使った仕様だが、年内にSimを搭載したモデルを展開していきたいと語った。
イノベーションが生み出されるのは「カフェ」そしてフィードバックループサイクルの現場になる
最後に横田氏から今年の2月にオープンした完全キャッシュレスのレジなし店舗「Developers.IO CAFE」の説明がなされた。横田氏はこのカフェは、IT企業がIoTを使って小売飲食店舗を始めた実験の記録だと話す。
仕様は、Developers.IOというアプリをダウンロードしておき、クレジットカードを登録しておけばモバイル注文をすることができる。
商品が出来上がるとアプリ内にプッシュ通知が届き、アプリを定員に見せると商品を受け取ることができる。
またカフェの中にレジ無しストアが併設されており、ストア内に入る際、アプリのQRコードを読み取り入店する。天井に設置されたカメラで人影を追い、動きを把握する。入店時のQRコード読み取りにより、人とIDが紐づけられる。
商品のカゴには重量センサーがついており、1つ1つの商品がマスターとしてデータベースに保存されている。そのため、取ったり戻したり、何をいくつとったかといったことも全てクラウドに保存される。
最終的に商品を持ち店を出ると、どのユーザーが何をいくつ手にとっているかという情報をクラウド側で確定し、自動的に登録しておいたクレジットカードから決済処理が行われる。
決済が終わるとスマートフォンに通知が来るという仕組みだ。
元々クラスメソッドは顧客のIT支援を行うクラウドインテグレーションをメインにした会社だった。しかし事業会社がIT企業になろうとするがなりきれず、クラスメソッドが支援をしようとしてもやりきれなかったという。
そこでどうすればブレイクスルーできるのかと考えた際、IT企業が事業会社化されている流れがあり、それを実行してみたのがこのカフェということだ。
また、去年の5月にシアトルにいった際、無人店舗で最新テクノロジーを感じずにものを買えたことに衝撃を感じたことも1つのきっかけだったようだ。
そこから見よう見まねでパーツを購入し、組み立て、試行錯誤し1つ1つを自社で作ったという。
「創造活動に貢献する」という企業理念のもと、1パーツ1日2日程度で検証し、実装していったと語る。
当初は自社の中でPoCを行っており、Wi-fiで対応していたが、外で技術検証する際に配線の問題などからソラコムのSimを導入したという。
横田氏はフィードバックループサイクルを高速に回せる環境を作りたいと考えており、実際にトライアンドエラーを繰り返すことのできる環境を構築したということだ。
このカフェのサービスは横展開していくわけではなく、自分たちでイノベーションを起こすにはどうすればいいのかということを実証したかったのだという。
また、横田氏は、カスタマーフィードバックも重要視していると話した。
研究室の中でPoC作りをしていても誰の意見ももらえないといった環境ではなく、市場に投入してリアルな顧客からの声をもとに改善していくことで、初めて良いプロダクトができるのではないかと考え、Developers.IO CAFEをオープンさせたという。
実際エンジニアもカフェで働き、顧客やスタッフの行動を見てお店で何が起こっているかを把握し、そのフィードバックをサービスに反映しているという。
このフィードバックが毎日できることが重要であり、バージョンアップを毎週行っているという。
現在はクラウド側をSaaS化しており、ハード側をリファレンスモデル化し、様々なタイプのお店を量産できるようにしているという。さらに2店舗目の計画や、海外展開の可能性を視野に入れていると語った。
IoT化することにより見えてきた課題
今後の課題は3名とも共通するものだった。それはハードウェアの継続的インテグレーションだと語った。
より良いものを作るためにソフトウェアをバージョンアップしていけば、サーバーやハードウェアも変えなければならなくなる。
スマートマットであれば、一度導入した大量のマットの回収、交換することの非現実性や、冷蔵庫やカフェといった交換が難しいハードウェアに対してどのようにアプローチしていくのが正解なのかを模索しているという。

