先日「IoTNEWS」内で配信した「目的を持ってデータを取得、「人」と「デジタル」の融合を図る ー内田洋行ITフェア2019レポート」にて、内田洋行 ビル事業推進部 部長 山本哲之氏がオフィスビルのスマート化について語る模様をお伝えした。(記事はこちら)
その中で山本氏は、ビルのスマート化を進めるにおいて「働く場をどのように快適にするかという「人」に焦点を当ててソリューションを導入していく」と話していた。
今回はオフィスビルのスマート化を中心に、ソリューションが必要とされている背景や、「人」に焦点を当てたスマートビルソリューションの実例などについて内田洋行・山本氏に話を伺った。
中央監視装置の限界
―まず、御社の概況についてお聞かせ下さい。
内田洋行 山本哲之(以下、山本):内田洋行は売上の70%がICT商材です。私が所属するスマートビル事業推進部というのは、2014年に立ち上げた部署になります。
―なぜ内田洋行はスマートビル事業の部署を立ち上げたのでしょうか。
山本:そもそもの発端は震災直後に日本全体が省エネに向かい、BEMS(ビルディングエネルギーマネジメントシステム)が国の補助金を使って様々な所に導入促進されたことがきっかけです。
BEMSとは通常、中央監視機能に組み込まれているソフトウェア群で、「エネルギーの見える化機能」や「デマンドコントロール機能」などが搭載されています。
そこで内田洋行でもBEMS機能だけに特化して販売を開始しました。しかし、これが売れませんでした。なぜなら単機能の割に中途半端に価格が高かったからです。しかし世の中でBEMSが売れているベンダーとの違いは果たして価格だけなのか不思議に思いました。売れなくてもサービス自体に対する問い合わせは多かったからです。
―それでどうしたのですか。
山本:そこで提供開始から1年後、問い合わせはいただいたけど買っていただけなかったお客様に対して、スクリーニング訪問を掛けました。
そこで聞いたお客様の困りごととは「見える化したことは良いけれど、この後どうすればいいのかが分からない」ということでした。要するに安いBEMS製品は「見える化」して終わりなので、問題発見は出来たが、省エネといっても電気を使わないわけにはいかない。「見える化」したその後はどうすればいいのか、多くのお客様は困っていたわけです。
―そこで「見える化」だけではなく、それに基づくビルの制御に取り組まなければいけない、という話になったわけですね。
山本:いろいろ調べてみると、実は一般的なビルには、空調や照明などが正常に稼働しているのかを見る中央監視装置というものが付いていることが分かりました。
しかし、中央監視装置はプロフェッショナルの領域すぎてメーカーも限られ、メーカー独自の技術で構成されたアーキテクチャーがほとんどでした。加えてパソコンとプリンタはメーカーが異なっても容易に接続できますが、中央監視装置は異なるメーカーデバイスが容易に接続できない壁がありました。
まず中央監視装置で収集すべきデータは電力だけでなく、電力消費の原因となる設備機器の運転に関わる、温度、湿度、CO2濃度、照度といった環境データが必要になります。しかしデータ収集のデバイスである無線センサーも当時は日本メーカーでは品揃えが限られていました。
進む海外、遅れる日本
山本:そこで北米とヨーロッパを訪れ、IoTの源流を見てきました。すでにその時点で、様々なセンサーを用いて短距離無線でデータを送り込み、取ってきたデータを「見える化」することが、ヨーロッパ・北米では進んでいました。
―具体的にはどのようなセンサーだったのですか。
山本:実際に無線センサーで設備機器がコントロールされている企業を視察しました。
それらの企業では、空調・ブラインド・照明などを、無線センサーで収集したデータと連動させて自動で動かしていたのです。これが日本では見当たりませんでした。
―現在では日本でもセンシングだけでなく、制御の部分に重点を置くようになっていると思われますが。
山本:確かに「アクチュエーターにセンサーが取ってきたデータを連動させるということが必要」だということが、ここ何年かのIT系のコンサルティングファームから提言され始めています。
しかし、実際にセンサーデータの取得から制御までの流れに取り組もうとしても、技術の分断・ビジネスの分断があると私は考えています。
トイレの空き状況などを全てセンサーでクラウドまで上げるという、単品のソリューションの月額モデルは現在多いですが、「クラウドまで上げて分析」で終わっています。なぜなら、空調・照明といったOT(Operating Technology)は電気信号で動く。その電気信号をネットワーク信号に変換しなければ遠距離を飛ばせません。その、電気信号で動くところをネットワーク信号線に変えるというところが、日本企業は出来ていませんでした。
日本企業がネットワークを整備できなかった理由としては、いろいろ考えられますが、計装分野の企業の独自技術で統一された構成がスタンダードだったために、異業種のテクノロジーとの混在が容易でなかったことが挙げられると思います。
―海外は違うのでしょうか。
山本:ヨーロッパ・北米ではオープン・プロトコルというスタンダードなネットワーク信号で制御出来ていて、ネットワーク信号と電気信号を変換する装置が入っています。
そして海外で見てきたネットワーク基幹線は、BACnet/IPがスタンダードでした。
通常ビル建築においては計装業者が、中央監視装置を担当するため、計装業者の保有製品に依存せざるを得ないのです。しかし、海外で見たBACnet/IPを基幹線とした設備制御の機器構成は、従来のクローズドな構成から、ネットワークで様々なデバイスが接続されており、“オープンテクノロジー”こそがキーテクノロジーだと感じました。ネットワークでの接続が可能になれば、パソコン系でスタンダードなTCP/IPやWiFiと、設備系でスタンダードなBACnet/IPやLonworks、Modbusなどが接続できるのです。
そうした複数のネットワーク技術を用いた統合化を行っているのが内田洋行です。だから、内田洋行は自分たちのことを「繋ぎ屋」と呼んでいます。
快適性とテクノロジーの出会い
山本:ヨーロッパを視察した時に、ある重要な考え方を学びました。それはドイツで開催された展示会の「ISH2015」全体コンセプトとして打ち出された「Comfort meets technology」=快適性とテクノロジーの出会いです。
パンフレットのリード文「Future Building Concept」には、以下のような内容が書いていました。
1つはビルの運用管理者やシステムプロバイダーだけではなく、ネットワークの運用者がビルの運用管理をより先進的なものにしていく、ということ。
2つ目はビルサービスエンジニアリングだけではなく、ITナレッジも求められているということ。ビル管理は清掃業務が収益の主な柱でした。しかし、これからはITのナレッジが必要になってくる、ということも明確に書かれていました。
3つ目は組み込み分散型ソリューションが展開される、ということです。
―やはりドイツの方が日本より考え方が進んでいたということでしょうか。
山本:そうです。日本は当時省エネだ、と言っていた時に、ドイツではすでに快適性や利便性といった一歩踏み込んだ課題に取り組んでいたのです。内田洋行が現在取り組んでいるのは、まさにいま挙げたリード文のような内容のものです。
次ページは、「生産性を上げるリノベーションを考えるべき」
生産性を上げるリノベーションを考えるべき
山本:この資料は、ザイマックス不動産総合研究所毎年発表する「オフィスピラミッド」からの抜粋です。
「オフィスピラミッド」は例えば東京23区内にどういう規模のビルが何棟くらいあるのか、といったレポートが公開されているものです。これを見ると、23区内だけで築20年以上35年以下のビルが最も多い棟ことがわかりますね。
35年前といえばバブルの時代。その時に多くのビルが首都圏内に立ちました。丸の内も昔はあれほど大きなビルばかりではありませんでした。小さいビルを全て買収して、全部壊して、大きなビルをバンと建てる、ということが行われた結果、現在の丸の内が出来上がったわけです。
しかし、それらバブル時代に建てられたビルは様々な理由で設備の入れ替え等が手つかずのまま置かれているビルが多数存在するのです。
こういった塩漬けにせざるを得ないビルについては、全部壊してゼロから新築で建て直せば、今の技術でいいビルが出来るでしょう。しかし、全てのビルが建替えられるわけではありません。こういった状況があるために、リノベーション事業に各不動産会社が今どんどん参入してきているわけです。
―では、こういうビルがリノベーションする際に、IoTなどのテクノロジーを導入する、ということなのでしょうか。
山本:はい。ただしIoT化が全てを解決するわけではありません。しかし築50年経っているビルでも上手くリノベーションすれば、新築よりお金をかけずにもっと価値を上げることが出来ます。
その時に重要なのが「オフィスビルにおける仕事の生産性を上げるためには何が必要か」という視点であると私は思います。
例えばITリテラシーの低いご年配で権限を持った方たちがビルのリノベーションについての権限を持ってしまうと、「IT化よりも綺麗な絨毯やちょっといい椅子が欲しい」といった、目に見える部分に必要以上にお金をかけてしまう場合がある。しかし、仕事の生産性を上げるためには、利便性・快適性・安全性といった業務に集中できる環境を、“時代に則した手段”を用いて、いかに構築できるかが重要になります。
そして生産性という視点でIoTのビルソリューションを考えた時に出てきたのが「仕事場の環境をどう作っていくのか」ということでした。今、仕事に集中出来る環境なのかどうか、温度のムラは生じていないのか、といったことに注目すべきではないか、ということです。
不動産会社から見れば老朽化したビルの付加価値を上げつつコストは押さえて、と相反することをやらなければいけない。そんな都合の良いことが出来るのだろうか、と思うでしょうが、それを実現する技術がこのIoT化、そして内田洋行が取り組んでいる統合化の技術です。
人に対する働きかけが大事
山本:オフィスといっても人が集まる所があれば、ミーティングする場所もあるし、ちょっとした休憩場所もある。全部使い方が違います。
しかし、空調や照明は、すべて同じ温度、同じ明るさでコントロールされてしまっている。しかし熱源である人は動くし、レイアウトも変更される半面、設備は変更対応できない。それで本当にいいのでしょうか。
省エネを考えた時に、人がいない所に照明を点ける必要は無いわけです。そのような照明のコントロールは人感センサーがあれば簡単に出来てしまいますが、それすらも出来ていない所がたくさんあるわけです。
働く人の多様性に焦点を当てる、というような話がある一方で、オフィスの造りや設備が対応していません。これに対してオフィスをゾーン毎にコントロールする、という事に内田洋行は取り組んでいます。
―オフィスの環境コントロールで一番大事なことは何でしょうか。
山本:人に対する働きかけです。
ロボットの工場で生産能力を上げるためには、例えばアームを動かす回数を調整するといった事でチューニング出来てしまいますが、人間はそういうわけにはいかない。オフィスにおいては人が生産性を左右します。だからこそオフィスでは人に対する働きかけが大事なのです。
そうした人に対する働きかけについては、例えば当社のようなオフィス家具メーカーは椅子の座り心地などの探求、といった形で人間工学的なアプローチはずっと続けてきました。
一方で最後まで置き去りにされてきたのが、空調や照明などオフィス内の一般的な設備です。
―なぜ置き去りにされてきたのでしょう。
山本:先ほども説明した通り、ビジネスの分断、テクノロジーの分断の存在です。ITベンチャーの人たちは一生懸命考えてきましたが、設備を売る側はそういう話をする機会に恵まれてこなかったわけです。いかに安く空調を入れるのか、いかに故障なく動かすのか、こういう世界でした。
しかし今は空調機器も照明も簡単に壊れません。ということは、壊れないかどうかを監視するというのは当たり前で、むしろ力点はそのゾーンが最適な温度とか明るさになっているかどうか、といった“最適化”にあるのです。
―そうした温度や湿度の調節は、最終的にはどのような効果をもたらすのでしょうか。
山本:その下で働いている人に対するアプローチです。
この点はユーザーである企業も気づき始めていて、内田洋行ではこの「人に対する」というのはだいぶ前から言い始めていましたが、最近不動産会社もこういうアプローチを始めていると感じています。
結局、オフィスの利益の源泉は「人」なのです。
営業会社であれば営業担当の動きが源泉になりますし、コンサル会社だったらコンサルの力量になりますし、要は人ですよね。人がそこで心地よく、さっきComfort meets technology と言ったように、会社にいながらも自宅にいてリラックス出来ているような感じで働ければ一番いいのではないかと思います。
オフィスにおけるITとOTの融合
山本:もちろん人間関係など、テクノロジーが解決出来ない問題はあります。しかし環境を作ることにテクノロジーからアプローチすることによって、利益の源泉である人に対してアプローチ出来れば顧客や利用者の期待に応えられるというのが、内田洋行が取り組むITとOTの融合です。
そしてITとOTの融合が必要なのか、ということについては、すべて人に対するアプローチだからだと考えています。
―人に対するアプローチとしてのIT・OTの融合とは、具体的にはどのような事を指すのでしょうか。
山本:例えば会議室予約システムがありますが、普通にグループウェアから会議室予約をして「山本は今日ここを何時から何時まで予約しています」という情報を端末で確認できる、というものです。
一方、ITとOTの融合では、例えば 「10時に会議室を予約すると、10分前の9時50分にあらかじめ空調を入れて部屋を冷たくしておきます」ということをやろうとすると、会議室予約の情報を読み取って、空調へ自動的に設定されるようにしなければいけない。さらにどのタイミングでオフにするのか、会議室予約がキャンセルされた場合はどうしなければいけないのか、といったことまで考えなければいけません。
あるいは会議室予約システムと電気錠と連動した課金制のシェアオフィスの例などもあります。例えば入り口のロックを、カードキーをかざして解錠した時点から1時間25分使った場合、1時間25分×その会議室の時間単価を計算したものが自動的に課金され、その課金情報がビル管理会社の持っているデータベースサーバーに送信される。アプリケーションの世界のデータと、空調や電気錠などを連動させたあげく、システム側の方にまたデータを送り返す、といったことをやっているわけです。
―なぜ内田洋行はこのような取り組みに着手することが出来たのでしょうか。
山本:決定的な点は、内田洋行はメーカーではない、ということです。
特定のメーカーが関与すると、すべてそのメーカーのソリューションで統一することが優先されがちです。しかし私たちはメーカーではありませんので、様々なメーカーのソリューションを組み合わせて提供します。精度を求められる案件にはこのソリューション、費用を抑える案件にはこのソリューションと、すべてチョイス出来ます。
内田洋行は施主やサブコンから見ても特定のメーカー色が無いので、ビジネスの ハブになれます。さらにネットワークのこともわかるので、従来からのオフィス家具内装什器に加え、オフィスのIoT化までも全て実装が可能な、非常に良い立ち位置に私たちはいると思っています。
次ページは、「三菱地所のコンパクトオフィス」
三菱地所のコンパクトオフィス
山本:オフィスビルのスマート化の事例について、幾つかご紹介しましょう。
まず三菱地所様が取り組むコンパクトオフィスシリーズ「CIRCLES」についてです。
例えば、ラウンジの混雑状況をカメラセンサーで人型(ひとがた)をカウントしています。あくまで「人型」をカウントしているだけなので正確な人数を把握できるわけではありませんが、「ここが空いている」「やや混雑しているな」といった事は分かります。
―なぜ三菱地所はこのような取り組みを行っているのでしょうか。
山本:「会議室が満室なので共用部で打ち合わせしましょう、と行ってみると、そこも満席でした」といった無駄な往復時間を排除するため、事前に混雑状況を確認できるようにしたのです。
このスイッチを見てください。実はこのスイッチ、電池で動いていません。押した時の運動エネルギーで起電して電波を飛ばし、オンオフの状況を知らせているのです。また、トイレの個室にはこうした運動エネルギーで使用中が把握できる鍵を実装しています。無給電無線スイッチと言われる製品です。
この壁スイッチと同等製品を4年前、ドイツの携帯ショップ屋で「スマートハウスキット」としてスマホと人感センサーとセットで売っていました。4年前すでにドイツではこういったものが普通に売っていたのです。
こうした無給電無線スイッチをいれるメリットは、まず配線工事が必要ありません。のちのちレイアウト変更になった場合でも、工事のやり直しが発生しません。さらに電池切れの心配がありません。
―このような無給電無線型スイッチの導入が日本で遅れたのはなぜでしょうか。
山本:電波法の関係で、日本とヨーロッパで周波数帯が違うため、こうしたテクノロジーと製品の存在が知られていなかったためです。中国とヨーロッパは同じなので、そのまま輸入出来ますが、日本はローカライズしないといけません。しかし、そのローカライズできるベンダーが当時は育っていなかったのです。
内田洋行はこうしたスイッチを含めた各種デバイスを用いて、オフィス環境の利便性向上を図ってきました。さらにスマートフォンやタブレットでの操作にも対応してきました。
さらに同じ画面をビル管理会社も共有していますから、本社にいながら複数のビルが今どういう状況かが、全部遠隔で監視できるようになっています。これだけでも管理コストが下がるはずです。
内田洋行の統合監視ソリューション
山本:各ビル拠点側はエッジ・コンピューティングと呼ばれる自律分散型構成によって、拠点ごとに判断ロジックが組めるようになっていて、制御をかけるということが出来ます。そして一番大事なデータは一番安全なクラウド上で保管されているのです。
―つまりエッジ側である程度インテリジェンスを持って処理が行われ、データはクラウドで処理される、というエッジ・コンピューティングの世界が、オフィスビル管理の領域でも行われているということでしょうか。
山本:おっしゃる通りです。我々はそれらを構成するキーデバイスとして「インテリジェンス・コントローラー」の存在を重要視しています。
この「インテリジェンス・コントローラー」のインターフェースはオープン・プロトコルに対応しており、ヨーロッパでも日本でもおおむね5,6種類のプロトコルでカバーしています。基幹線はBACnet/IPそれからOPC、末端の所はLonworks、Modbus、KNXなどです。KNXは日本にはまだ浸透していませんが、ヨーロッパや中国の展示会に行くとKNXだらけです。
こうしたクラウド統合とエッジ・コンピューティングによるビルの監視制御を、従来の「中央監視」という言葉と分けて「統合監視」と表現しています。
今までは中央監視がビル毎に必要でした。しかし「統合監視」の場合はクラウドに統合していますから、1か所に入れておけば2棟目からのビルは中央監視が要りません。 これだけでも施主からすればメリットが大きいわけです。
LEDの色で知らせるCO2濃度
山本:続いてご紹介するのは、某メーカーでの設備連動制御です。
ここは多くの棟数を持つメーカーで、最初は5階建てのビルの1階だけ、温湿度・CO2センサーを複数実装しました。
―なぜ湿度とCO2の管理が大事なのでしょうか。
山本:まず湿度についてですが、温度の管理だけでは暑さをコントロールすることに限界があるためです。
例えばアメリカの西海岸は日本より温度が高い。けれども乾燥しているので全く暑く感じません。
しかし日本や東南アジアなどは湿度が高いので、べたつくような暑さを感じるわけです。オフィスの環境においても温度だけでなく湿度を上手くコントロールする必要があるのです。
さらに大事なのがCO2の管理です。
CO2濃度が高いということは、酸素濃度が相対的に低いということ。このメーカーのオフィスはフロア面積の割に人数が多かったので二酸化炭素濃度が必然的に上がります。すると集中力が途切れて、もっと濃度は上がれば眠気を誘発する環境になってしまいます。
ただし濃度を検知するだけならば、単なる「見える化」で終わってしまうので、VAVダクトの開閉率を自動で制御する仕組みを実装しました。
この弁を温度と湿度、CO2の関係で計算して、自動的に制御します。結果的にこのメーカーは3年かけて5階全てのフロアに拡張実装されました。
―こうした温度・湿度・CO2濃度の管理について、もともと内田洋行はノウハウを持っていたのでしょうか。
山本:いいえ。内田洋行は温度・湿度・CO2を管理するロジックについては、ノウハウを持っていませんでした。そこで、このメーカーの設備制御担当のノウハウをパラメーター化して、この中にセットすることで自動化することが出来ました。CO2濃度を適正に保つことが大事だと分かっている会社は、ここまでやるわけです。
ここで強調しておきたいのは「IoT=センサー」のように理解している方が結構いらっしゃいますが、それは完全に間違い、ということです。
通信モジュールを搭載した装置やデバイスの登場と短距離無線通信など通信技術の進化によっていろんなモノが繋がりますよというのがIoT。たまたま「センサーが配線を引かずとも飛ばすことが出来るようになりました」ということが最初に出てきたので、IoT=センサーのイメージが強かったのですが、大事な点は「つながる」という事です。
―ところで、この照明は何でしょうか。
山本:これはPhilipsのHueという間接照明に対し、CO2センサーから信号を送ってきて、「何ppmであれば何色に変化する」というテーブルをインテリジェンス・コントローラーにセットし、CO2の濃度によって段階的にLEDの色を変えるようにしたものです。
―なぜこのようなものが必要なのでしょうか。
山本:10人くらいの会議室で1時間しゃべり続けて会議を行うと、平気で1,500ppmくらいまでCO2濃度が上がり、会議室の環境は悪くなります。そのような会議は生産的ではありません。もちろん会議の中味が一番重要ですが、それと同じくらい環境も大事なのです。
しかし会議中に音によるアラートを発することや、パトランプを回すようなことは会議の流れを止めることになり当然出来ません。そこで某社は会議の流れを止めないように、“さりげなく”CO2濃度の変化を教えてくれる仕組みが欲しい」と我々にリクエストしたのです。
例えばCO2濃度が上がって色が変化した時に、「ちょっと休憩しましょう」「入口あけてくれますか」と言うだけで、環境を変えることができます。出来るだけ会議の流れを止めず、こういうものでさりげなく知らせてくれる。さらに一定のCO2濃度を超えると換気扇や送風機と連動させることも自動化できます。
次ページは、「単一ではなく統合化したソリューション提供を目指す」
単一ではなく統合化したソリューション提供を目指す
山本:私たち内田洋行本社の例も紹介します。
これは築50年の本社に入っているフロア単位での環境モニタリング画面です。例えば空気を流入させてくる外調機がありますが、今まではこの運転モードを常に100%稼働して運転させていました。しかし100%稼働する必要が無い環境もあるわけで、普段は50%にしておいて、CO2濃度が一定以上に上がった時だけ100%運転にする、という具合に変更しました。そうすれば省エネにもつながるわけです。
これは私のスマートフォンですが、ここには現在、私たちがいるフロアの照明・空調を確認・制御する画面が表示されています。
この画面も、当社で制作し、完全にブラウザー対応したものです。こういったことについてサブコンはあまりやりたがらない。一方、IT業界にデザイナーは大勢いますが、設備と連動した仕組みを理解したWebや画面デザインを出来る人はあまりお目にかかりません。内田洋行が得意な領域なのです。
―こういったソリューションは、空調操作・換気操作・照明操作・ブラインド操作など複数の機能がひとつの画面になっていますが、照明操作だけなどの単一のソリューションが欲しい、という顧客もいるのではないですか。
山本:単一のソリューションを提供して欲しいというお客さまも、中にはいます。しかし内田洋行のお客様はビル全体、あるいはフロア全部が対象です。単一のソリューションを採用してしまうと、全部違うクラウドが乱立することになる。通信もその都度通信キャリアと契約しなければいけない。そのため重複が発生しコストもその分重複します。内田洋行の場合は「統合監視」によって、同じクラウド上で必要な機能を拡張できるため、そうした重複を抑えられるのです。
設備だけではなく、会議室予約システムや課金システムなど、業務システムと設備をも連動させる。これが内田洋行のいう統合化です。ここまで出来るベンダーは中々いないのではないでしょうか。
―なぜ内田洋行はここまで徹底してソリューション提供が出来るのでしょうか。
山本:お客様の生の声を、そのまま受け止めるのではなく、その背景や本当に解決したい課題の優先順位付けなど、ニーズを論理的に整理し、実現したい目的をあきらかにします。その目的を実現できる複数の手段を提示し、投資に重複が発生しない実装順序を明らかにすることで、お客様の投資優先順位が整理できます。整理した実現手段を基に、実現したい機能を網羅するクラウド上のプラットフォームに実装しておけば、あとは後付けで拡張実装出来るようになります。そして、この「プラットフォーム」というのが内田洋行のいう「統合監視」です。
オフィスビル以外での働く場スマート化事例
山本:最後にスポーツクラブでの事例、工場での事例、物流施設での事例もご紹介しましょう。
例えばスポーツクラブ NAS様も同じような構成で「統合監視」を実装しています。
―なぜ細かく指示が書かれた画面になっているのでしょうか。
山本:スポーツクラブ全ての店舗に設備の専門家が置けません。万一設備に何らかの異常が求められた場合でも、本社から状態監視を行っているためすぐに問題の発見が可能です。同時に設備の専門家ではない従業員に向けて、本社から遠隔指示で「こういう対処をしてください」と言う指示が店舗と本社で同じ画面を共有して対処できるようになっています。人手不足対応だけでなく会員様へのサービス低下を防ぐことに寄与しています。
工場の事例では、地震速報のソリューションという珍しい例です。
その工場は社員の安心・安全の観点から、地震発生の際に地震速報の警告音を鳴らしたりパトライトを回したりしていたのですが、工場内の騒音で音が聞こえず、パトライトも見えづらかった。そこで内田洋行の提供する、緊急地震速報を鳴動させるセットトップボックスと、LED照明を連動させ、地震速報が鳴動するとLED照明が点滅して知らせるソリューションをご採用いただきました。
照明がいざというときに安全・安心のツールに変わる。つまりモノの価値が変わるわけです。
これこそがIoT=つながる、ということだと思います。
物流センターでも当社のソリューションが採用されています。
10万平米という巨大な物流センターについては、設備の多くをタブレットで操作可能とし、CO2センサーを入れて自動的に換気を行い、結露を防止するというソリューションを入れました。物流センターで結露が出れば、荷物が濡れる可能性があるためです。
―オフィス以外にも環境制御ソリューションの提供を行っているのですね。
山本:内田洋行のソリューションは業種はあまり関係ありません。基本的には用いる技術は同じです。
しかし、オフィスに取り組む方がやはり内田洋行の強みが出ます。
いま工場や物流センターでは無人搬送機やロボットなど、先進的なテクノロジーの導入が進んでいるのに比べて、オフィスはIoT化など先進的テクノロジーの実装が一番遅れている気がします。人が介在するオフィスだからこそ簡単ではありませんが、そこに内田洋行は「人」に対するアプローチで、IoTと統合化の技術を用いて、オフィスの生産性を上げるお手伝いをしています。
―本日はありがとうございました。

