小売業で使えるデジタル技術は、いろんなものがあるものの簡単には普及していかない。
古くは、陳列棚の値札を電子ペーパーなどで置き換えようという試みもされてきた。最近のテストサービスでは、陳列棚にカメラを設置して、顧客が手に取ったものを認識し、その詳細情報を目の前のデジタルサイネージに表示して商品訴求をするというものもある。
展示コーナーでこういったソリューションを見ると、魅力的に見えるものの実際の導入が進むケースは少ないといえる。なぜ、導入にいたらないかというと多くの場合は費用対効果が明確でないということに行き着くのだ。
これらの対応をしたからといって、顧客が増えるわけではない。購買額が増えるわけでもない。コスト削減できる余地があるとしても人材を一人減らすことができるレベルでのコスト削減が行われるイメージがつかないなど、様々な理由が考えられる。
しかし、新聞をとらないことからチラシを読まない世帯が着実に増えてきており、商圏の中の競合企業だけでなく、インターネットでの購買をする顧客も増え、小売店のおかえれている状況は複雑になってきている。
実際、某アパレルメーカーでは、ZOZOタウンの売り上げが大きくなってきていて、店舗はまさに「ショールーミング」の機能と化してきているというではないか。
アパレルでは、サブスクリプションモデルでの、洋服レンタルサービス(買い上げも可能)も人気となってきていることもあり、そもそも洋服を選ぶという行為そのものが再定義されようとしている。
こういった環境で、小売店は今後IoT/AIをどう活用して売り上げを伸ばしていくことが必要となるのだろうか。
商圏調査
店舗を作る際、商圏を調査する。交通量や世帯収入、世帯構成など、自社の商品を受け入れてくれる見込み客がどれくらいいるのかを調査するのだ。
しかし、環境はどんどん変化するから、状況に応じて売り物や売り方は変える必要がある。そこで、交通量調査をするのだが、現状は多くの場合代行業者やアルバイトに頼っているのではないだろうか。
店舗の前を通る人波を調査するだけであれば、画像認識・解析技術を使えば低コストで交通量調査は可能となる。
店舗の前や道路にカメラを設置し、通行人の顔や身長を取得するのだ。カメラはステレオカメラ(2つあるタイプ)の方が良い。
ステレオカメラであれば、三平方の定理をつかって身長も取得できるからだ。
そして、なによりもこれまでの交通量調査の場合、人件費の問題から毎日情報を取得することはできなかった。しかし、画像認識技術を使えば、毎日店舗の前の交通量を測定することができる。
個人情報だけは注意する必要があるので画像を取得していることや目的を表明したり、製品選定において画像は特徴点だけを抽出してあとは削除するなどの機能は必須になるので注意してほしい。
ロボットやデジタルサイネージを使わず行う来店誘引
店内ではスタッフがいるため接客が可能だとしても、店内への誘導に人件費が割けない場合がある。もちろん、手持ち無沙汰な場合などは人がやればいいことだが、接客をしている途中に来店誘導をすることは不可能だ。
そこで、デジタルサイネージや接客ロボットなどを客寄せパンダとして利用するという流れがあるのだが、特にロボットは外置きに対応していない場合も多く、高価なためどこでも置けるということにはならない。
従来のやり方の延長上でできることがないかと考えるところだが、「訴求する」という面から見るとなんらかの演出をするしかなくなってしまう。
人間の目は動くものに注目がいきがちなので、ショーウインドウには動くものを入れるという考え方があるだろう。
最近は、3Dプリンターを使って立体造作を作ることが比較的容易になっているので、ちょっとした電子工作ができる業者を探してくれば、「カニ道楽」のようなパフォーマンスも比較的安価につくることができる。
ユニクロなどでも、マネキンを動かしてカラーバリエーションを見せることで商品訴求をしているが、そういった単純なことでも訴求力は上がるのだ。
こうして、ショーウインドウを改善したら、当然効果測定がしたくなる。
ショーウインドウの可視化と効果測定
これまでのショーウインドウは、企画をしたらデザインを起こし、制作をするのみであった。
売りたいものに見込み客の目は集まっているのか、については考慮することができなかった。そのため、売る側の好みでショーウィンドウが構成される場合が多かった。
しかし、ショーウィンドウの後方からカメラを設置することで、ショーウィンドウの前に立っている人が、どこに目線を送っているかを画像解析技術でわかるようになったのだ。
ショーウィンドウを平面的に捉えた時に、どこの場所を、どれくらいの時間注視したか、という統計をとることが可能なのだ。
さらに、ここで視線の情報だけでなく、顔の情報も認識しておけば、店舗の入り口付近にもう一つカメラを設置することで、ショーウィンドウで見ていた人のうち何人が実際に入店したかがわかる。
さらに、レジ前にもカメラを設置しておけば、その人が買ったかどうかもわかるのだ。POSに購買データを登録する際の時間と、カメラが捉えた人の時間をクラウド上で同期させれば、店舗前から購買までを追うこともできるのだ。
画像認識で来店顧客を認識するというソリューションの本当の意図
では、来店顧客を認識する意味はなんだろう。
冒頭でも述べた通り、最近は同じ店舗であっても、ECとの売り上げの取り合いになるケースもある。店舗は店舗の良さを打ち出していかないと効率の面ではECに勝てるはずもない。
店舗の良さは、実際に触れることや、接客によって良さを伝えることができることなど様々ある。
しかし、実際に店舗に来た顧客が、入店後適切な時間接客をされていたのか、売り物に興味をもって手に取ってくれたのか、といったことを細く理解することができなければ、雨が降ったら来店者数が減る、といった単純な推測に基づく販売しかできなくなるのだ。
ECサイトを運営する企業では、どのページがみられたか、ページのどの部分がみられているか、注文ボタンの色は何色が押されやすいのか、など、購買にいたるプロセスの様々なポイントでの状況を可視化し、改善を重ねている。
IoTとAIの技術を使うことで、店舗でもこういった緻密な分析が可能となってきている。
まずは、今と同じ売り方をした時に、なぜ人通りは多いのに来店数が少ないのか、なぜ来店しているのに商品をてにとらないのか、なぜ商品手にとっているのに買ってもらえないのか、といったことを緻密に追いかけていくことが改善への第一歩としての共通認識を得ることができるのだ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。