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広がるデータ連携基盤「FIWARE」によるスマートシティへの取り組み ―NECインタビュー

広がる「FIWARE」によるスマートシティへの取り組み ―NECインタビュー前編

2019年7月25日、NECはスペイン・コルドバ県のスマートシティプロジェクトを受注したことを発表した。

NECはこれまでもスペイン・サンタンデール市やポルトガル・リスボン市などの欧州でのスマートシティプロジェクトや、国内自治体のプロジェクトについて、都市経営のデータ利活用基盤プラットフォームを提供してきた実績がある。

今回のインタビューではNECのスマートシティに対する取り組みの現状、およびコルドバ県のスマートシティプロジェクトについての詳細について、NEC・PSネットワーク事業推進本部長・スマートシティを統括する高田佳紀氏と、NECヨーロッパ・マネージャーの菊池晃治氏にお話を伺った。

変化したスマートシティへの関心

小泉耕二(以下、小泉):今回はNECのスマートシティに対する全体像と、先日発表されたスペインのコルドバ県におけるスマートシティのプロジェクトについてお話を伺いたいと思います。

NEC 高田佳紀(以下、高田):まずは社内体制をご紹介しましょう。NECでは今年の4月に「クロスインダストリーユニット」というユニットが新設されました。

業界を横断して多様な価値が生まれる一方、社会課題が複雑化している中で、縦割り組織でマーケットに対応することには限界があります。そういった状況を踏まえ、テーマを決めて横軸でマーケットに直接リーチすることを目指したユニットが「クロスインダストリーユニット」です。

このユニットでの主なテーマは、「スマートシティ」「パブリックセーフティネットワーク」「モビリティ」「デジタルID」の4つです。私はスマートシティとパブリックセーフティネットワークを担当しています。

スマートシティにおいてキーポイントになるのは、やはり地方創生です。1700以上もある自治体において人手不足が深刻化し、税収減となる中で、どうやって地方の経営をしていくのか、ということを10年20年のスパンで考えると非常に厳しいものがあります。

NECとしては、スマートシティの成功モデルを小さくてもきちんと作っていくことが大事だと思っていまして、マーケットを生み出す取り組みをここ2、3年の間で始めているというところです。

そういう取り組みの中で、日本におけるスマートシティへの関心が少し高まってきたな、と感じることがあります。

例えばG20 貿易・デジタル経済大臣会合において、閣僚の声明の中でも「Smart Cites」という言葉が明確に1つの項目としてうたわれました。

同じタイミングで開催された内閣府主催の「スーパーシティ/スマートシティフォーラム2019」では、NECもパネルディスカッションや展示等を行ったのですが、その会場には70以上の自治体の方々が参加されていました。

また、内閣府が中心となり、総務省や国土交通省、経済産業省の府省が連携し、8月には「スマートシティ官民連携プラットフォーム」が設立されました。これまでのスマートシティの事業は個々の省庁がそれぞれの事業で行っていましたが、そのような状況を変えようということで省庁間の連携をより強くする動きがスタートしたのだと思います。

オープンプラットフォームによるデータ交換・二次利用

高田:5月31日、国土交通省からスマートシティモデル事業の先行モデルプロジェクトが15事業、重点事業化促進プロジェクトが23事業公表されました。NECは公表された38事業のうち9つの事業に構成企業として参加していますが、各プロジェクトの構成企業はご覧になりましたか?

小泉:拝見しています。

高田:プロジェクトの構成企業を見ていただくとわかるとおり、IT関連だけでなくさまざまな業種のプレイヤーが参加しています。これまでのスマートシティの事業と比べて、多種多様な業界が注目をしていることがわかると思います。

さらに新たな動きとしては、NEC・富士通・日鉄ソリューションズ・TISの4社が国際標準化されたオープンAPIであるNGSI(Next Generation Service Interfaces)を利用したプラットフォーム接続連携の実証を行ったことです。今回の実証でNGSIを介したデータ連携が可能なことを確認できたので、日本のデータ連携の動きがこれから本格化していくことが期待されます。

NECはスマートシティのデータ連携基盤として、欧州発のデータ利活用型プラットフォーム「FIWARE」を採用しています。FIWAREは、いま申し上げたNGSIベースのオープンプラットフォームでベンダーロックがかかっていないこと、また、オープンソースソフトウェア(Open Source Software、以降 OSS)で構成されていることからロイヤリティフリーで使用できるところが特徴です。

スマートシティが地域社会に定着し、マーケットとして生み出されていくためには、多種の業界が参入する市場を創っていく必要があります そのためにはNGSIで様々なシステムが連携してデータの交換や二次利用を行い、そこで出来上がったアプリケーションを他の地域でも利用できるようにしていくことが大事だと考えています。 NECだけが良いところを持っていくような状況では市場は活性化しません。

AIやネットワークが進化していくなかで、これからは分野横断の様々なデータが集まってきます。これを組み合わせることで、データを利活用したスマートシティが実現してくるのだと考えています。

これまでは組織や事業が縦割りで各システムの中でデータが閉じていましたし、サービスも閉じていました。しかしデータが連携できるようになってくると、データがクローズドでなくなることで、新たなサービスやシームレスな価値のサービスが生まれてくることが期待できます。

そのような流れの中では、エンドユーザーやコンシューマーにより近づいたところでビジネスをする、という立ち位置を持たなくてはなりません。その立ち位置でハードウェアとソフトウェア、両方を理解しているというNECの強みを活かしたい、と考えています。

次ページは、「官民連携のプラットフォーム構築

官民連携のプラットフォーム構築

高田:FIWAREは欧州が2011年から約400億円の官民ファンドを活用して培ってきたプラットフォームです。実証実験にかなり投資をしているので、非常に出来は良いのですが、日本に対応していないところもあります。その点に関してはNECが日本向けに使いやすいような形にして提供しています。

小泉:FIWAREは構造的には多様な分野のデータを連携させようとしていますよね。しかし実証実験の経緯などを見ていると、個別最適の話になりがちな気もしています。1つのプラットフォームとしてみたときに、上手く複数のデータを連携できるようなアーキテクチャになっているのか、という点が気になります。

高田:内閣府のスマートシティに関する公募で「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術におけるアーキテクチャ構築及び実証研究」というものがありました。内容はアーキテクチャの設計とそのアーキテクチャを検証するための地域実証ですが、8月2日に採択結果が公表され、アーキテクチャ設計に関しては6社のコンソーシアムで採択が決まり、NECが代表をすることになりました。

その中でAPI、データモデルなど、先ほどお話にあったデータ連携を行うスマートシティに必要な設計図をまとめよう、と考えています。

FIWAREはマイクロサービス型の部品の組み合わせです。例えば防災と交通と観光などのデータモデルをしっかりと決めてアーキテクチャの設計をしながら、部品を組み合わせていく。その一方でスケーラビリティをどうするのか、セキュリティをどうするのかを考える、という形で開発と構築は連携し、別に行うことになります。
 ※マイクロサービス:機能に沿った複数の小さいサービスを疎結合の集合体として構成するサービス指向アーキテクチャを指す。このサービスの1つをマイクロサービスと呼ぶ。

FIWAREの良い点はオープンソースとであることと、データモデルが標準化されて共通のAPIで連携ができればデータエクスチェンジができるプラットフォームであることです。
ですから、AWSとAzureをFIWAREで繋げて組み合わせるという考え方もできます。NECとしてもIoTのプラットフォームは別に持っています。FIWAREは他のプラットフォームと競合するものではなく、ある意味で接着剤だと捉えてください。

データ部分の設計をしている中で、共通のAPI上であればソフトウェアが再利用できますし、NGSI に準拠したデータのエクスチェンジもできます。そのための仕掛けがFIWAREだと考えていただければ良いと思います。

小泉:FIWAREはシステムの塊というより、概念モデルのようなものとして位置づけた方が良いのでしょうか。

高田:FIWAREはマイクロサービス型のソフトウェアモジュールの集合体です。したがって、その地域ごとのニーズに合わせてスマートシティのプラットフォームを用意することができます。

例えば認証は別のものと組み合わせるなど、適材適所で必要なところにFIWAREのコンポーネントを利用して構いません。その点を理解していないと、FIWAREの機能をまるごと導入するか、あるいは全く導入しないのか、という話になってしまいますがそういうことではないのです。

例えばトラックの走行状況と公共交通の運行情報を上手く連携させたい、といった場合には、FIWAREによるプラットフォーム間の連携が有効になります。そうすると官と民の壁を越えて同じ枠組みの中でエコシステムやバリューチェーンが出来上がる、という話にまで広がります。

小泉:官にしか取れないデータもありますからね。

高田:はい。逆に言えばこれから先、行政職員が少なくなる中で、官だけで出来ることにも限界がでてきます。そこで民間の力を借りてデータを活用しよう、ということになった場合、どうプラットフォームを連携しようか、という方向に行くと思います。

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国内地域ごとの「FIWARE」の取り組み

小泉:これまでは官の取ったデータを一旦にどこかに移してから公開です、という流れになりがちでした。

高田:その通りです。例えば加古川市はBLE(Bluetooth Low Energy)タグを利用した見守りサービスに取り組んでいますが、検知機までは加古川市が担当し、タグ以降は民間業者が担当しています。今後はこういう官民連携サービスが増えていくと思います。

また、富山市はLPWA(Low Power Wide Area)のLoRa通信網を居住区の98%をカバーする範囲で敷設しています。そこから得られるデータを利活用する実証事業の公募を富山市は実施しており、実に23ものプロジェクトが採択され産業育成や新たなサービスの創生に向けての活動を始めています。

小泉:取得しているのは農業や漁業などの一次産業系のデータでしょうか。

高田:そうですね、そういったデータも扱うこともできます。それ以外にも、NECとしても応募採択されているプロジェクトですが、リアルタイムな交通情報を扱う計画もあります。

小泉:LPWAで交通のデータを取得するのですか。

高田:そうです。他にも富山市はLRT(Light Rail Transit:次世代型路面電車システム)の整備や、「おでかけ定期券」という高齢者の方が安価に公共交通を利用できる仕組みを取り入れて、街に出て、歩いてもらう方の方が、健康を維持し医療費が少ないという実証結果もあり、医療費削減に向けた可能性があるとの発表をされています。

小泉:移動サービスを官民連携でやるわけですね。

高田:官民連携においては、地方創生の観点でインバウンドのお客さまを増やすこともテーマとしてあります。

インバウンドについてはDMO(Destination Management/Marketing Organization:観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う組織)ができていますが、人の動態がわかるとマーケティングの方に話が移っていきますよね。そうすると地域内の観光客のデータを活用し、DMOがデータ分析や戦略策定などの取り組みを行うことが重要となってきますが、現状はなかなか出来ていません。

それについては観光庁も問題意識を持たれていて、地域の観光戦略推進の核となる観光地域づくり法人(DMO)の改革を進めるべく、事業に取り組まれていらっしゃいますが、そこでも交通と観光資源と組み合わせた官民連携のプラットフォームが活用できると思います。

小泉:インバウンド向けの民間サービスで取得したデータを、行政がソーシャルに配信する、といった連携ができるわけですね。

高田:市の広域防災にプラットフォーム連携を活用する例もあります。例えば高松市は連携中枢都市構想という市町村連携のなかで、「スマートシティたかまつ※」で実現している防災の取り組みを、周辺自治体で共同利用するという実証を進めています。そういった都市間連携もFIWAREのようなものがあればスムーズに低コストで実現できます。(※スマートシティたかまつ:高松市が推進する、複数分野のデータの収集・分析等を行う共通プラットフォーム構築とデータ収集・分析等により、持続的に成長できる都市の実現を目指した取り組み)

小泉:都市間連携もいま問題になっていますからね。

高田:あともう1つ申し上げたいのは人材育成です。地方における最も深刻な問題は雇用が停滞し、結果的にどんどん人口が衰退していくことです。その流れを変えるのは中々難しいことですが、一方で自分が育った地元をどう愛せるのか、というのも大切なことだと思っています。そこで現在、様々な自治体と話をしている中で、地元の大学と連携させてもらうことを考えています。

例えばAI人材をつくっていこう、と話があった場合、オープンデータを利活用したサービスを考えるのに地元学生に参加してもらい、NECの側でも講座やハッカソンなどを開催していくことで、人材育成と産業振興を合わせて進める取り組みを行っています。このような人材育成も加味した形で産官学の連携に取り組む、というのを基本スタンスにしています。

高松市では産・官・学で「スマートシティたかまつ推進協議会」を運営していますが、その事務局業務を支援しています。この協議会で取り組むテーマとして最初は観光と防災だけでしたが、継続して活動を続けることで交通の分野、福祉の分野と広がり、3年目の現在となっては、20社ほどだった協議会への参加企業が60社を超えるようになりました。

地域の特性に合わせたプラットフォーム活用

高田:川崎市では産業廃棄物の収集運搬について積載率の最大化と最短ルートの算出、ということに取り組んでいます。

現在、産業廃棄物の作業に従事する方は約60万人と言われていますが、一方でごみ収集のトラックの積載量が低くドライバーが減少していくという問題が起こっています。

この産業がサービスレベルを維持するためには、個別のニーズに対して今のトラックの量を考えた時にどう最適化すべきなのか、ということを考えなければいけません。

産業廃棄物を処理する仕組みや不法投棄を無くすための仕掛けなどに取り組まなければいけない、という業界特有の構造と社会課題としての人材不足の両面の問題意識があるところから、NECと産廃業者、運送業者、自治体などが連携して実証実験を行っているわけです。

ゴミ回収の最適化に取り組んだサンタンデールは、オーバーツーリズムによるゴミの問題が発生していましたが、川崎市の場合はそれとは違う観点からゴミの問題に取り組んでいます。ですからNECの側でも川崎市の目的をしっかり理解した上でプラットフォームのあり方というのを考えていかなければなりませんでした。

今までのICTベンダーですと、アーキテクチャをシステムの観点だけで語りがちでした。しかし社会構造を変えていこうとなると、しっかりとその地域の戦略や政策、またはそこでのルールあるいはその地域の中ではどういうステークホルダーの方々がどういう関係性をもってできあがっているのか、を考えていかなければなりません。そして生まれてくるサービスがしっかり利益を生まなければ、プラットフォーム事業は続かないと思います。

小泉:システムのプラットフォームは同じだけれども、全然違う状況があって、その状況を解決するためには、サンタンデールの事例をそっくりそのままコピーして活用することはできない、というわけですね。

高田:はい、結局はマッチングが重要なのだと思います。マッチングの機能がしっかり整い、そのケースに対してステークホルダーが連携した形を取れれば、きちんと社会構造を変えていくきっかけになります。

行政・民間・市民が一緒になって目的意識を合わせ、一つ一つの手段で何をデジタル化するのか、何をデジタル化しないのかを考えながら問題解決をしていく枠組みをしっかり作っていくことが重要です。そして、その枠組みの中で、NECも街づくりに貢献させてもらっています。こうした街づくりの成功モデルを、まずは10ヵ所と数は少なくても確実に作っていきたいと現時点では考えています。

次ページは、「コルドバ県のスマートシティプロジェクト「Enlaza」

コルドバ県のスマートシティプロジェクト「Enlaza」

代表 小泉耕二(以下、小泉):今回のコルドバ県でのスマートシティプロジェクトについてお聞かせください。

NEC 菊池晃治(以下、菊池):まずはコルドバ県の概要について説明します。コルドバ県はアンダルシア自治州の中にございます。人口は県全体で約80万人、そのなかに77の自治体があります。首都はコルドバ市で、市自体はスペインで12番目に大きい都市です。主に産業は観光業に加えて、オレンジやオリーブといった農業、あとは製造業で成り立っています。

次はプロジェクトについて説明します。プロジェクト名は「Enlaza」。コルドバ地域でサスティナブル=持続性の高いスマートシティを作る、というプロジェクトです。

主要なステークホルダーは4つ。1つ目は弊社を含む、プロジェクトを技術的に実行するコンソーシアムです。これは弊社のスペイン現地法人NEC Iberica社、スペインの地元企業である「Sociedad iberica de Construcciones Electicas」という会社の2社で組んでいます。

2つ目は「Red.es」。これはMinistry of Economy and Business(MINECO) of Spainの政府機関です。

EUが2010年にデジタルアジェンダ(Digital Agenda for Europe)というものを発表しており(若林注:欧州デジタルアジェンダは2010年5月に公表。総務省ホームページより)、それをベースにスペイン政府もデジタルアジェンダを決めてやっていますが、この組織はそれを実現するというのをミッションに持っていて、特にスマートシティに関してはこのプロジェクト以外にも他の自治体のプロジェクトを支援しています。今回のプロジェクトに関しては彼らがオーナーになります。

3つ目はDiputacion de Crdoba。コルドバ県には77自治体があると申し上げましたが、この中で首都のコルドバ市以外の自治体から形成される共同体です。これが本プロジェクトの実際のユーザです。

4つ目がコルドバ県の自治体でDiputacion de Crdobaの配下にある自治体。特に今回のプロジェクトでは人口20,000人以下の自治体を対象にスマートシティソリューションを提供していきます。

スペインはマドリット、バレンシア、バルセロナ、この三大都市を除くと経済基盤は基本的には北が強くて、南が若干弱いと一般的には認識されています。その中でスマートシティ・データ利活用を実現しようと思っても、実際は最初の資金や投資のところを自己調達できない自治体が多いのです。そのような自治体をRed.esのような政府機関が支援をしています。

特に今回のプロジェクトはこのRed.esにとっても非常に重要な位置づけになっています。ある1つの都市・自治体を対象にいるのではなく、複数の自治体を対象にしているからです。これは、このRed.esのプロジェクトの中でも初めての試みになります。

先ほどスペインは北が経済的に強く、南が弱い、しかも南の場合はスマートシティなどをやるときに最初の投資が難しい、という話をしましたが、さらにその中でも人口20,000人以下の自治体と、ここはやはり自活してスマートシティ・デジタルトランスフォーメーションを立ち上げていくのはなかなか難易度が高いです。

彼らに対して弊社のクラウドの強みを活かして、ある程度シェアドサービスのような形で提供することで、スペインの自治体のデジタルトランスフォーメーションを成し遂げていく、という一つの成功モデルを本プロジェクトで目指しています。

「FIWARE」が採用されたポイント

小泉:採用されたポイントはどこにあるとお考えですか。

菊池:1つは「FIWARE」の技術と欧州における実績です。「Red.es」の技術要件の中でオープンなプラットフォーム、そしてNGSIサポートというのが要件に入っていましたが、「FIWARE」はそれに当てはまります。

そしてスペインのサンタンデール、ポルトガルのリスボンで「FIWARE」を活用しながらスマートシティを実現しているという実績があります。

2点目はスペイン企業とのタイアップです。スペイン政府は外資のベンダーが入って推進することより、スペイン企業も含めた形でのエコシステムを推奨しています。

先ほどのデジタルアジェンダの中にコラボレーション、あとはシングルマーケット、あとはスキルという項目が入っています。それに沿った形でスペインの企業、または海外との企業とのコラボレーションというのを高く評価していただいています。

小泉:これは複数社からの提案があったのですか。

菊池:そうです。入札で決まりました。

小泉:例えば廃棄物管理システムだとか、設備管理システムなどはスペイン側の要件なのですか。

菊池:はい、本プロジェクトに関してはこれが要件でした。高田が申し上げた通り、自治体や都市によって課題が違うので、スペインでこのような案件をいくつかやらせていただいていますが、共通の部分もあれば、かなり自治体特有の問題もあります。

例えばコルドバの場合は、今回入れるシステムの中で設備管理というものがあるのですけれど、その設備は何か、という問題がありました。

政府の定義では年間100ユーロかかっているものはインベントリー管理しなくてはいけないので全て設備になるのですが、それをリスト化した時に出てきたのが、ロバと馬。これも設備として自治体が管理しなくてはいけない。これは非常にこの地方特有の話であると思いました。

小泉:先ほど採用が決まった要因の中に欧州の実績を上げていましたが、今までやってきた経験が活かされる部分というのは、システムの部分で見ると再利用性があると思っていいのでしょうか。

菊池:はい、その部分もございます。

小泉:どういうところが再利用性が高くて、どういうところが再利用性が低い、というのはありますか。

菊池:横展開が可能なのは、我々が開発したソフトウェアの非常に主となる機能ですね。ただし市ごとにある程度フレームワークは対応できますけれども、例えばそこの自治体ごとの本当の課題は何なのか、というのを見極める部分は、ある程度手間をかけてやらなくてはならないと思っています。

小泉:やはり要件を聞くところが一番大変だということでしょうか。

菊池:そうですね。再利用が難しい理由としては、スタンドアローンで作ってもFIWAREを使う意味が見いだせず、コスト効率も悪い、ということがあります。いま既存の自治体が使っているアセットは技術面でも運用面でもインテグレートされなければいけないと思っています。

ですがやはり自治体ごとに持っているもの、やり方も違う部分がございますので、それは案件ごとにお話しさせていただくことが多いですね。

次ページは、「今後の戦略

今後の戦略

IoTNEWS大藤:今後の戦略を伺いたいのですが。

高田:コンピュータやSIのお金の流れを見ていくと、サービス提供型に変化しています。あるいは人が減っている中でGDPを維持しようとすると、人やサービスの部分がどんどん変化していくと思います。そうすると、より具体的なサービスの部分にNECの売り上げのポーションをどこまで作っていけるのか、という話になるはずです。

これについてはNEC単独ではなく、行政・大学・地域の企業、様々なファイナンスの手法を使って自分たちの立ち位置を変えながら作っていくものだと考えています。

小泉:マイクロサービスに再利用性があるのかが、やはり気になっています。御社にとってはノウハウの溜まっているものだし、他のところでも使えるものであればサービス化し易いですよね。

高田:そこはかなり丁寧に取り組んでいます。使ってもらってフィードバックを得ていって、データが集まる仕掛け、そのデータが次につながるようなダブルループ、トリプルループのような流れを意識していますね。

小泉:数年前に「Orchestrating a brighter world」の話を伺ったのですが、その時に構造化していかなくてはならないという話と、水平に作れるようきちんといなしていかなければならない、ということを社内全体としてやっていく、という話をされていて、割とその話に近づいている印象を受けました。

高田:そうですね。アーキテクチャは概念図に近いものですが、本当に実務で使えるレベルまでにどう落とし込んでいくのか、ということが重要です。その中で協調領域として皆さんに使ってもらえるところを、どこまでNECとしてオープン化するか、というのも戦略的に捉えるべき部分だと思っています。

小泉:プラットフォーマーの方々は共創領域の線引きについて熟慮されていますが、「FIWARE」も同じではないか、と思っています。オープンだからといって、何でもオープンにするわけではないですよね。

高田:そうですね。オープンプラットフォームとしての「FIWARE」は世界中で実績はありますが、OSSなのでいわゆる製品として物足りない部分もあります。そこは、NECが様々な実績経験とともにOSSを活用する能力や技術力を組み合わせて地域実装を支えていくことで独自の価値が出せると部分だと考えています。実際それが役に立って、誰かがお金を払う価値にならなければ、持続していかないわけですから。

小泉:ヨーロッパは社会課題に対する取り組みに応援してくれるような風土がありますが、日本は割とそういう方向ではない気がします。

ヨーロッパは社会課題に対して企業が投資を行いますし、市民もそうした方がという方向に流れがちだと思うので、ぜひこのスペインを中心とした地域で取り組んだノウハウを日本に持ち帰っていただければ、と思います。

高田:スマートシティをマーケットとして捉えたときのイノベーターは誰だ、ということを考えるのが重要だと思っています。

そうしたリーダーシップを発揮できるイノベーターとマーケットを上手に作っていき、市民にも参加してもらって自分の街を良くしていくという意識を持ってもらう。シティラボの先進的な地域は市民が参画するマインドが全然違いますよね。そういったものを醸成していくのは大切だと考えています。

小泉:本日はありがとうございました。

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