広がるデータ連携基盤「FIWARE」によるスマートシティへの取り組み ―NECインタビュー

国内地域ごとの「FIWARE」の取り組み

小泉:これまでは官の取ったデータを一旦にどこかに移してから公開です、という流れになりがちでした。

高田:その通りです。例えば加古川市はBLE(Bluetooth Low Energy)タグを利用した見守りサービスに取り組んでいますが、検知機までは加古川市が担当し、タグ以降は民間業者が担当しています。今後はこういう官民連携サービスが増えていくと思います。

また、富山市はLPWA(Low Power Wide Area)のLoRa通信網を居住区の98%をカバーする範囲で敷設しています。そこから得られるデータを利活用する実証事業の公募を富山市は実施しており、実に23ものプロジェクトが採択され産業育成や新たなサービスの創生に向けての活動を始めています。

小泉:取得しているのは農業や漁業などの一次産業系のデータでしょうか。

高田:そうですね、そういったデータも扱うこともできます。それ以外にも、NECとしても応募採択されているプロジェクトですが、リアルタイムな交通情報を扱う計画もあります。

小泉:LPWAで交通のデータを取得するのですか。

高田:そうです。他にも富山市はLRT(Light Rail Transit:次世代型路面電車システム)の整備や、「おでかけ定期券」という高齢者の方が安価に公共交通を利用できる仕組みを取り入れて、街に出て、歩いてもらう方の方が、健康を維持し医療費が少ないという実証結果もあり、医療費削減に向けた可能性があるとの発表をされています。

小泉:移動サービスを官民連携でやるわけですね。

高田:官民連携においては、地方創生の観点でインバウンドのお客さまを増やすこともテーマとしてあります。

インバウンドについてはDMO(Destination Management/Marketing Organization:観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う組織)ができていますが、人の動態がわかるとマーケティングの方に話が移っていきますよね。そうすると地域内の観光客のデータを活用し、DMOがデータ分析や戦略策定などの取り組みを行うことが重要となってきますが、現状はなかなか出来ていません。

それについては観光庁も問題意識を持たれていて、地域の観光戦略推進の核となる観光地域づくり法人(DMO)の改革を進めるべく、事業に取り組まれていらっしゃいますが、そこでも交通と観光資源と組み合わせた官民連携のプラットフォームが活用できると思います。

小泉:インバウンド向けの民間サービスで取得したデータを、行政がソーシャルに配信する、といった連携ができるわけですね。

高田:市の広域防災にプラットフォーム連携を活用する例もあります。例えば高松市は連携中枢都市構想という市町村連携のなかで、「スマートシティたかまつ※」で実現している防災の取り組みを、周辺自治体で共同利用するという実証を進めています。そういった都市間連携もFIWAREのようなものがあればスムーズに低コストで実現できます。(※スマートシティたかまつ:高松市が推進する、複数分野のデータの収集・分析等を行う共通プラットフォーム構築とデータ収集・分析等により、持続的に成長できる都市の実現を目指した取り組み)

小泉:都市間連携もいま問題になっていますからね。

高田:あともう1つ申し上げたいのは人材育成です。地方における最も深刻な問題は雇用が停滞し、結果的にどんどん人口が衰退していくことです。その流れを変えるのは中々難しいことですが、一方で自分が育った地元をどう愛せるのか、というのも大切なことだと思っています。そこで現在、様々な自治体と話をしている中で、地元の大学と連携させてもらうことを考えています。

例えばAI人材をつくっていこう、と話があった場合、オープンデータを利活用したサービスを考えるのに地元学生に参加してもらい、NECの側でも講座やハッカソンなどを開催していくことで、人材育成と産業振興を合わせて進める取り組みを行っています。このような人材育成も加味した形で産官学の連携に取り組む、というのを基本スタンスにしています。

高松市では産・官・学で「スマートシティたかまつ推進協議会」を運営していますが、その事務局業務を支援しています。この協議会で取り組むテーマとして最初は観光と防災だけでしたが、継続して活動を続けることで交通の分野、福祉の分野と広がり、3年目の現在となっては、20社ほどだった協議会への参加企業が60社を超えるようになりました。

地域の特性に合わせたプラットフォーム活用

高田:川崎市では産業廃棄物の収集運搬について積載率の最大化と最短ルートの算出、ということに取り組んでいます。

現在、産業廃棄物の作業に従事する方は約60万人と言われていますが、一方でごみ収集のトラックの積載量が低くドライバーが減少していくという問題が起こっています。

この産業がサービスレベルを維持するためには、個別のニーズに対して今のトラックの量を考えた時にどう最適化すべきなのか、ということを考えなければいけません。

産業廃棄物を処理する仕組みや不法投棄を無くすための仕掛けなどに取り組まなければいけない、という業界特有の構造と社会課題としての人材不足の両面の問題意識があるところから、NECと産廃業者、運送業者、自治体などが連携して実証実験を行っているわけです。

ゴミ回収の最適化に取り組んだサンタンデールは、オーバーツーリズムによるゴミの問題が発生していましたが、川崎市の場合はそれとは違う観点からゴミの問題に取り組んでいます。ですからNECの側でも川崎市の目的をしっかり理解した上でプラットフォームのあり方というのを考えていかなければなりませんでした。

今までのICTベンダーですと、アーキテクチャをシステムの観点だけで語りがちでした。しかし社会構造を変えていこうとなると、しっかりとその地域の戦略や政策、またはそこでのルールあるいはその地域の中ではどういうステークホルダーの方々がどういう関係性をもってできあがっているのか、を考えていかなければなりません。そして生まれてくるサービスがしっかり利益を生まなければ、プラットフォーム事業は続かないと思います。

広がるデータ連携基盤「FIWARE」によるスマートシティへの取り組み ―NECインタビュー

小泉:システムのプラットフォームは同じだけれども、全然違う状況があって、その状況を解決するためには、サンタンデールの事例をそっくりそのままコピーして活用することはできない、というわけですね。

高田:はい、結局はマッチングが重要なのだと思います。マッチングの機能がしっかり整い、そのケースに対してステークホルダーが連携した形を取れれば、きちんと社会構造を変えていくきっかけになります。

行政・民間・市民が一緒になって目的意識を合わせ、一つ一つの手段で何をデジタル化するのか、何をデジタル化しないのかを考えながら問題解決をしていく枠組みをしっかり作っていくことが重要です。そして、その枠組みの中で、NECも街づくりに貢献させてもらっています。こうした街づくりの成功モデルを、まずは10ヵ所と数は少なくても確実に作っていきたいと現時点では考えています。

次ページは、「コルドバ県のスマートシティプロジェクト「Enlaza」

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