現在、物流の世界では、一部の業務プロセスにIoTを活用するだけでなく、サプライチェーン全体への取り組みも始まっている。
Amazonはその急先鋒といえる企業だが、ECサービス(販売)からはじまり、物流センターでの在庫管理、輸送トラックもすでに2,000台以上保有していて、ドローン配達などラストワンマイルへの取り組みにも投資をしている。
物流の世界でのサプライチェーンは、Amazonが特別なのだろうか。
実は、様々な事例の中で、この兆しは随所に現れる。
輸送の自動化
自動運転車や自動運転トラックに次いで、国際貿易にかかせない「貨物船」の自動化へ力を入れている企業が増えてきている。
何も驚くことではない。船や電車、飛行機といった輸送手段を効率的に活用することで、輸送経路とコストを最適化する動きもあるからだ。
ロールスロイスとグーグルは、先進学習アルゴリズムやグーグルの機械学習エンジンを使い、貨物船の安全性と効率性を改良とスマート化し、2020年までに自律航行船の実現を目指しているという。
ロールスロイスが採用したいアルゴリズムは、現在グーグルの音声と画像検索アプリケーションを稼働させるニューラルネット上のソフトウェアである。
学習には、ロールスロイスの船に設置されたカメラ、センサーやスキャナーが取得する膨大なデータを使う予定だという。
データと学習結果をクラウドにアップロードし、世界中の船や海上交通センターで利用するという。
自律航行船を実現するには、反応が遅い船を船舶の交通量が多い港で航行技術を磨き、10万トン以上のコンテナ船をドックに案内するコンピューターを学習させることが必要だ。
日本で株式会社商船三井は、古野電気社および商船三井テクノトレード社と共同で、拡張現実(Augmented Reality、以下AR)技術を活用した航海中の操船を支援するシステムの開発をすることで合意した。
この取り組みは、自動船舶識別装置(Automatic Identification System;AIS)の情報をベースに、自船周囲で航行する他船や海上に存在するブイなどのランドマーク情報をタブレットやディスプレー上に表示する。
併せて、船橋からの風景を撮影した映像も表示し、ARを用いて重ねて表示させることで、運航中の乗組員の操船や見張りを視覚的にサポートする。
今後は、レーダーで捉えた障害物もディスプレー上にARで重ねて表示させることや、船舶の衝突回避アルゴリズムである航行妨害ゾーン(Obstacle Zone by Target;OZT)機能を追加すること、また画像認識技術で障害物を捕捉することも視野に入れて、2018年度を目途に機能の拡充を実現するとしている。
富士通、シンガポールのInstitute of High Performance Computing(IHPC)、Singapore Management University(SMU)は、シンガポール海事港湾庁(Maritime and Port Authority of Singapore、MPA)と、シンガポール港における船舶の交通マネジメントのための技術を活用して、共同実証を開始した。
同共同実証では、AI(人工知能)とビッグデータ解析などを用いて、海上貿易が盛んで船舶の交通量が多いシンガポール港とその水域の管理を最適化する技術を共同で研究開発し、MPAから提供される船舶の交通データをもとに、海上の渋滞予測や衝突などのリスクが高いホットスポットの予測精度を検証する。
今回の実証においては、富士通のデータ解析技術とAI技術、IHPCがもつエージェント・ベース・モデリングやシミュレーションの知見と確率モデリングおよび機械学習の手法、SMUが得意とする大規模マルチエージェント最適化モデリングの知見を活用するということだ。
また、自動運転トラックや隊列走行技術が物流で注目を集める中、テスラ社は一部オートパイロット機能が組み込まれた新しいEVトラックをデモンストレーションした。
Tesla Semiと名付けられたトラックのスタート価格は15万ドルに設定され、業界では非常に魅力的な価格であると評価されている。
米国のスーパーマーケットチェーンウォルマート社とカナダのLoblaw社はすでに数台のTesla Semiを予約したということだ。
ウォルマート社は15台のSemiトラックを使った実証実験を計画していて、EVトラックの導入によって同社が持続可能なエネルギー使用目標の達成を目指している。
現在、テスラに次ぎ、複数の企業(UBER、Otto、Waymo、Volvo、Daimlerなど)が自動トラックテスト実施に取り組んでいる。
フリートマネージメント
フリートマネージメント、資産やモバイル・ワーカーソリューションを提供しているカナダのFleet Complete社はジェネラルモータズ(GM)社と提携し、アメリカでの小規模ビジネスや商用フリート用のIoT技術を使ったサービスを開発する予定だ。
今回対象となるのはコネクテッドサービスOnStarが導入されたChevrolet、Buick、GMCやCadillac車種のみだ。OnStarはGMの子会社である。
Fleet Completeは独自のCONNVEXプラットホームをOnStar通信機能と合わせて使うと、様々な規模のフリートを管理し、コストとダウンタイムを削減しながらドライバー行動の改良や効率性を向上させるという。
Fleet Completeは現在アメリカとカナダを始め、ヨーロッパの数か国にも販売業者がいる。
先日、Deutsche Telekom(DT)社もFleet Completeとの提携を発表し、ドイツのフリートマネージメント市場で拡大を図っている。この提携によって、DT社はクラウド通信が整備された包括的なテレマティクスソリューション開発を目指している。
Deutsche Telekom(DT) と SAPは共同で開発した物流向けソリューションをハノーバーメッセで展示した。SAP、 DT と T-Systemsの技術や製品を使った同ソリューションは車両の位置だけではなく、各コンテナの動きと運送状況の管理を可能にする。また、同ソリューションのデータを直接SAPシステムやアプリケーションに統合できるため、企業のサプライチェーンをマッピングできる。
データ保存管理者であるDTはIoTデータを収集し、SAP Vehicle Insights、 SAP Global Track and Trace や SAP Connected GoodsなどのSAPアプリケーションに統合する。同ソリューションに使われているIoTデバイスはRoambee社というDT のパートナー企業によって提供されたモノでる。このデバイスはGPSによって位置情報を取得し、温度や湿度を測定し、揺れも登録・報告できる。
エンド・ツー・エンドでのサプライチェーンの最適化
同ソリューションはエンド・ツー・エンド透明性を実現するため、SAPを使っているユーザーがフリートや貨物の動きを調整でき、商品状態を記録し、リアルタイムデータを使い、サプライチェーンを最適化できるという。
AT&Tは木製パレットの代わりになる「コネクテッドパレット」の開発に着手した。木製パレットは使いなれたモノでありながら、環境やビジネス効率性上の問題があるため、新しいソリューションが必要だ。
現在世界中で100億個のパレットほどが使われていると推定されているが、使えなくなった場合の処分コストを始め、多孔質面による食品安全性の懸念や破片とくぎ使用が生まれる安全性の懸念、または損失場合、ビジネス効率性への影響などの問題がある。
複合材料からできたパレットは上記の問題を解決できるが、製造コストが上がり、物流コストも向上する可能性があるという。しかし、企業が同様のパレットをリースすることができれば、初期資本投資がなくても済める。
このような恒久性のあるパレットを普及させたいAT&Tはパレットに追跡機能を追加して、損失予防並びにいずれデータがなかった分野でのデータ収集を目指している。AT&Tによると、複合材料のパレット寿命中におよそ162回使用できるため、一回の出荷当たりに20%コスト削減できるという。
AT&Tは現在、パレットを製造しているイギリスのRM2と共同でパレットにIoT機能導入に取り組んでいる。同ソリューションはRM2ELIoTと呼ばれ、RM2の再利用可能なパレットとAT&Tの LTE-Mネットワークからなっている。
店舗用のソリューション
米国のWal-Mart Storesは商品補充を加速させるため、国内の50店舗で商品棚をスキャンするBossa Nova Roboticsが開発したロボットを導入したと発表した。
今回導入されたロボットは60センチほどのカメラ付き可動式ロボットだ。ロボットはスーパーの通路を走行しながら、在庫確認や間違った場所においてある商品、間違った価格表示やラーベルなどを検出する。収集されたデータは店舗業務システムに送信され、それに基づき、店員は在庫補充を行ったり、商品を専用棚に置き換えたりする。
在庫確認作業でロボットは、人間より50%も生産性がよく、さらに高精度で作業スピードは3倍早いという。
ロボットは店員がやりたがらない仕事をやってくれることによって、効率性を向上できるという。アメリカでは「ロボットによって仕事が奪われる」というテーマがよく取り上げているが、今回Wal-Martがロボットの採用によって従業員数に影響がないと強調した。
さらに、米ターゲット・コーポレーションとLowe(ロウズ・カンパニー)でもロボットを店舗でテストしており、棚のスキャンニングなどの平凡な作業に適用する。
Amazonのレジなし店舗Amazon Goを参考にする企業も現れている。
AiFiというアメリカのスタートアップはAmazon Goの類似スマートフォンアプリを使ったレジなしお支払いソリューションを発表した。しかし、Amazon Goと違って、AiFiはAI、センサーやカメラネットワークからなっているシステムは規模拡大可能なシステムであると主張している。AiFiによると、同システムは500人まで/数万個のアイテムを追跡できるという。AiFiは商品を管理するだけでなく、顧客の行動も管理する。例えば、顧客の歩き方、ポーズ、何院でショッピングしているかなど。万引きなどの異常なことをする場合、IDも管理しているという。
AiFi社はサンフランシスコ市のベイエリアでデモ店舗を今年中に開店する予定だ。また、大規模の食品店でパイロットを後ほど展開するという。
同様に、日本でNECが、スーパーやコンビニなどの小売店で、決済時に必要な商品読み取りを効率化する技術として、生鮮品や日配品から、パッケージ品まで、あらゆる小売商品を画像認識する多種物体認識技術を開発したと発表した。
同技術は、特性の異なるディープラーニング技術と特徴点マッチング技術を融合させることで、生鮮品のように個体ごとに外観の違いが大きい自然物から、パッケージ品のように酷似したデザインが大量にある工業製品まで、多種多様な小売商品を高精度に認識するという。
さらに、これら多数の商品を雑然と置いても、一括して個々の商品を正確に認識できるということだ。
近年、画像認識技術を用いてカメラから小売商品そのものを認識することで、小売店の決済を省力化・無人化する取り組みが進められている。
しかし従来の画像認識技術では、生鮮品などの自然物と、パッケージ品などの工業製品では、特性が異なるため、それら多種多様な商品を一律に認識することは困難だった。
また、これらの商品をまとめて正しく認識するには、商品を整然と並べる作業が発生し、利用者の負担となることが問題だった。
NECはこの技術により、バーコードやRFIDを一つ一つ読み込ませなくても、レジ台に商品を置くだけの簡易な操作で、商品を一括して認識できるため、決済における商品読み取りを効率化できるとした。
キリンビールは、NECと連携して、小売店舗の売場にある商品棚をスマートフォンのカメラで撮影し画像認識を行うことで、商品の陳列(棚割)状況を解析するシステムを開発し、導入すると発表した。
キリンビールでは、小売店舗で顧客が商品を選びやすく手に取り易い商品陳列を実現し、売上拡大に貢献するため、営業担当者が各流通企業、店舗にあわせた適切な棚割提案を行っている。
今回導入するシステムでは、スマートフォンで撮影した商品棚の画像を専用のアプリケーションから送信、クラウド上の画像解析エンジンが陳列された商品とその位置を識別し、棚割情報として出力する。
このシステムにNEC独自の画像認識技術を用いることで、高精度の識別が可能だという。
これにより、従来約1時間かけて手作業で行っていた店舗の棚割状況のデータ化を7分程度と約1/10に短縮することが可能となり、営業担当者から流通企業、店舗への棚割提案をよりスピーディーに行えるようになったという。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。