IoTNEWS代表の小泉耕二と、株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では、第8回をお届けする。
これまで、物流や小売、スマートシティなど、それぞれの業界の課題をテーマに議論してきた八子×小泉の放談企画。今回のテーマは人工知能(AI)だ。AIに関するニュースを見ない日はなく、IoTNEWSでも日々さまざまな記事を掲載してきた。
今回の放談では、そうしたAIの最新動向を整理するとともに、あらためてAIとは何かを再定義し、私たちがAIに求めるべきことを模索していく。
“お肉の例”で考える、AIに期待したいこと
小泉: 今回はAIについてお話ししたいと思います。世の中はAIブームで、AIを自分たちのビジネスに取り入れたいという企業の方がたくさんいらっしゃいます。
八子さんの中で、AIに対する期待はどういうところにありますか。
八子: そうですね。何か、自分の中で答えのないものをAIに問いかけると、答えが「ぽーん」と返ってくるというようなことでしょうか。
小泉: たとえば、どういうものでしょうか。
八子: 私はお肉が好きなので、お肉の話をしましょう。「来週の水曜日につくる、いちばん安い牛肉を使った料理を教えてください」とAIに尋ねます。
小泉: 牛肉にも色々な部位があり、時期によってお値段が変わったりします。その中から最適なものを使って、水曜日に何か料理をつくりたいということですね。それは、AIを使うとどのような回答になるのでしょう。
八子: 「来週の月曜の夕方に、本郷3丁目の〇〇というお店にあるロース肉が安いので、それを使ったポトフをつくりましょう」というようなものです。
ポイントは、水曜日でも火曜日でもなく、月曜日と言ったことです。つまり、料理をするのは水曜日ですが、月曜日に買っておいた方が安いですよということです。
小泉: なるほど。AIがセール情報などをすべて持っているわけですね。月曜日、本郷3丁目に行けば安いお肉が買えることがわかっていて、しかもその安いお肉の部位がロースであることもわかっていると。そして、ロースでつくる料理は、ポトフがいいじゃないか、ということですね。
でもそれは、(AIといっても)データをたくさん持っていて、その中から安いモノを選んでいるだけというわけではないのですか。
八子: ある意味、そうです。ただ、重要なのは、それがまず「組み合わせ」であるということと、その組み合わせにおいても、料理をつくるのは水曜日なのに、あらかじめ月曜日に買っておいた方がいい、ということをどういうロジックで組むのかということですね。
水曜日に料理をするという話だと、普通、水曜日のデータをマッチングしそうじゃないですか。
小泉: そうですよね。水曜日に食べるのであれば。
八子: ですよね。それをあえて2日前の月曜日に買っておいた方がいいというのは、人間的であり、主婦的だと思うのです。
小泉: なるほど。主婦の方は、安い時に買い置きしておいて、それを違う日に調理されたりしていますね。
八子: 答えがなく、都内のどこで売っているのかわからず、安い部位が何なのかもわからないなかで、一番最適な料理を教えてくれるというのは、きわめて人間的だと思います。
小泉: しかも、ロース肉を使った料理は、ポトフではなくてもいいわけですよね。その場合には、ポトフがいい根拠も何かあるのでしょうね。たとえば、その時期はじゃがいもも安い、というような。
あるいは、その中に個人の好きな味の傾向などもあるとなおいいですね。「八子さんはポトフが好き」ということをAIがわかっていて、ポトフを提案するというようなことですね。
八子: ええ。黒コショウ多めで、とかね(笑)。そういうところまで最適化して回答が返ってくるのであれば、きわめて人間的、かつ人間が答えを持っていないことをAIに期待できる、という例です。
小泉: なるほど。たとえば、奥さんが旦那さんのためにポトフをつくりたくて、「月曜日にロース肉が安かったから水曜日につくろうかしら」というようなことと同じですよね。愛がありますね(笑)。
八子: AIですからね(笑)。
産業で使われるAI、画像認識と音声認識の今
小泉: 産業向けの用途で考えると、どのような例があるでしょうか。
八子: たとえば、(AIベンチャーの)Preferred Networksがアシストしているファナックのアームロボットですね。山積みになったネジを一つ一つ仕分けていく、バラ積みピッキングと呼ばれるものです。きわめて実用的だと思います。
小泉: あれは、人間の場合には何気なくやっているように見えることですが、ロボットが行うとなると、プログラミングを組むのは気が遠くなるような作業ですね。
複雑なロジックを組むことなく、AIを使えば、(人間のように)“なんとなくつかむ”ことができるわけですよね。さきほどのお肉の話と近いような気もします。
八子: そうですね。ただ、さきほどのお肉の例よりは、ディメンションはX軸、Y軸、Z軸で、ネジの形もある程度決まっているものなので、パラメータはそこまで多くはないですね。
小泉: 画像認識は、AIの用途ではかなり有望だと言われています。(ディープラーニングの技術により)AIの画像認識の能力が人間を超えてしまったわけですから、当然だとも言えます。
ただ問題は、それを産業的にどう使っていくのかということですね。
八子: 埼玉県の(株式会社)シタラ興産は、産業廃棄物の仕分け作業にAIを使っています。
カメラや金属探知機、その他のセンサーを用い、それらのインプット情報から「これはチタン」、「これはプラスチック」というようにAIが判断し、自動で仕分けをします。これまで20人で仕分けをしていたところが、今は2人だけでできている、ということです。
小泉: 音声認識についてはどうでしょうか。
八子: i Smart Technologies(旭鉄工株式会社でIoTソリューションを管轄する子会社)さんが、Amazonのアレクサを使った音声入力のしくみを、工場向けのソリューションに導入しています。
ただ、音声認識はまだ識別能力がそこまで高くはないので、ミッションクリティカルな領域にはまだ使えないのかなと思います。
あくまで翻訳や検索といった用途。観光者向けにリアルタイム翻訳をするというような、多少のタイムラグがあっても許されるような環境で使われるのが、一般的なのではないでしょうか。
音声認識を深堀する、AIはどのように使われているのか
小泉: 音声認識におけるAIは、使いどころとしては、どこなのでしょう。
音声認識は、まず喋っているその声を、音の要素に並べ替えていきますね。たとえば、小泉だと「KOIZUMI」を一つの塊として認識するというように。
さらにそうした単語や文節の塊の並びから、意味を理解していく、というようにフェーズが分かれていくと思いますが、その中でAIが使われるのは、どの段階になるのでしょうか。
八子: それぞれの要素に必要だと思います。「言葉を認識する」段階と「文のつながりを理解する」段階ですね。
ただ、音声がテキストになったあとは検索のパターンマッチングの世界なので、AIというような話ではないのかなとは思います。
小泉: 同音異義語の認識はどうでしょうか。たとえば、「アメ(雨)が降ってきた」という場合には、舐める方のアメ(飴)については考えないわけです。
八子: そうした技術はもう既に実装されていますね。GoogleやMicrosoftの翻訳でも、そうした文脈は判断されています。
小泉: AIとひとことで言った場合に、画像認識であれば、「これがピックアップすべきボルトだ」ということは画像として覚えさせておけばいいと思います。
一方で、音声の場合には、何を覚えさせておけばいいのでしょうか。さきほどの「アメ」であれば、食べる飴と降ってくる雨の二つあるということを、誰かが教えているのですか。
八子: 音声をテキストにいったん変換してしまえば、文字の並びからどちらの文脈で喋っているのかということを判断すればよいだけなので、教えると言えば教えてはいますが、それは従来の検索技術や文章を校正する技術によって、ほぼクリアしているのではないかと思います。
小泉: 一般的なことについて話し合っている場合はまだしも、医学や専門的なテクノロジーの話をしている場合には、きちんと意味を理解することができないということも起こりえるのでしょうか。
八子: 会話の中で、音声をテキストに変換する時にだけ、語彙を学習しなければならないと思いますが、テキストになってしまえば、専門用語辞典もたくさん種類がありますので、そこは心配する必要はないですね。
小泉: なるほど。AIが専門用語を検索しながら、意味を理解していくということですね。
音声の段階では、普段も聴いたことのない音を言われると、何を言っているかわからないことはありますからね。そこだけは、補完してあげなければならないですね。
「感覚器」の代用から「脳」へ、私たちがAIに期待すべきこと
八子: これまで話してきたように、AIで汎用的に使われている例というのは、私たちの感覚器の代用でしかないと思うんですね。
たとえば、「見る」「聴く」がこれまでの話ですが、それは、インプット情報となるセンシングの部分ですよね。(AIという)”脳”で考えるというよりは、感覚器の代用にとどまっているのかなと思います。
今後AIで重要なのは、クラウドの中などに入っている既知の情報から、人間では想像しえないような、これまでになかった新しい発想を生み出すことですね。
産業の応用例では、「ジェネラティブデザイン」というコンセプトがあります。3Dプリンタメーカーの(株式会社)ストラタシス・ジャパンの片山浩晶社長から教えていただきました。
製品のデザインにおいて、ある「強度」だけを入力します。そうすると、魚の骨や葉の葉脈など、そうした自然界に存在する情報から、入力した強度を満たすデザインを、AIが判断して自動生成するのです。
デザイン自体は、人間からすると気味が悪いものになるようです。ただそれは、強度が十分に担保されていて、自然界において生き残ってきたデザインなのです。
これは、創造性のあるAIの産業応用例と言えるのではないかと思います。
小泉: それはたとえば、飛行機の部分などを、「強度」を担保しながら3Dプリンタでつくる場合の新しい手法ということですよね。
これから先、色々な部材が3Dプリンタでつくられる時代が来ると思います。その時に、3DCADの設計情報を用い、従来の方法で製品の「形」をつくっていくという方法もちろん残るでしょう。
ただ、それとは別に、本当に必要なのは形じゃなくて強度だという場合には、強度の情報からスタートして形を自律的に生成していくという方法があるということですね。
八子: そうですね。それはさきほどのように、インプット部分をAIで代用するということではなく、人間が気づいていないことをAIが自動的に判断・判定してくれるということです。今後の産業はこうしたAIに期待をしていくべきでしょうね。
小泉: これからの産業利用の可能性としては、あまり人間の既成概念にとらわれず、機械任せにした時に、どういうアウトプットがあるのかということも、楽しみの一つということですね。
これまで語られてきたAIは、どちらかというと、人間が持っているアルゴリズムの中にAIを抑え込もうとする話が多かったと思うんですね。
今まで人間がやってきた判断、あるいはそれを超える判断をしてくれそうというように、「人間を超える」という観点がベースになっているんですよね。その「超える」と言っていることの中身が、実は自分たちがやっていることの延長線上のことだったりします。
八子さんの今日のお話からは、頭脳という観点においては、AIが人間を超えるというよりは、新たに考えだす・生み出すといった世界が待っているのかもしれないなと思いました。本日はありがとうございました。
【関連リンク】
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・ストラタシス(Stratasys)
放談企画の第7回はこちら。

