IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では第19回目をお届けする。
IoTやAIなどのテクノロジーを実装し、持続可能な社会を目指す「スマートシティ」構想。そのあるべき姿や実現への方法について、この放談では何度も議論を行ってきた。
しかし、依然としてその道筋はまだ明確とは言えない。具体的にどのようなサービスが想定されているのか。自分が住んでいる地域は便利になるのか。それが実感できるのはいつか。隣の市区町村との違いはどうなるのか――。議論するべきことは多い。
第19回目となる今回は、再度スマートシティを深掘りする。議論は、小泉のある問題提起から始まる。
現行の行政区分のままで、スマートシティを進めても大丈夫か
小泉: 今回は、あらためて「スマートシティ」について議論したいと思います。最近では「MaaS」(※)という言葉をよく聞くようになり、スマートシティの具体的な取り組みも始まってきました。
一方で私が感じているのは、「非デジタル」の側面です。たとえば、MaaSがまちに実装された場合です。都心から郊外へ向けて同心円状に広がる住宅地があります。その間を、電車やバス、タクシーといった多様なモビリティで移動できる社会が今後実現していくだろうと考えられます。
スマートシティはそれぞれのまち単位に基盤ができてきますから、サービスの範囲は基本的に現在の行政区分の中で提供されることになります。
ただ、この行政区分は必ずしも生活者の実態にあった区分にはなっていません。従来の行政区分のまま、MaaSのような便利なサービスが実装されても、生活者が享受できる利便性は限られるような気がしているのです。
※クルマやタクシー、バス、電車などさまざまな移動手段を、デジタルの力を使ってそれらを包括的に一つのサービスとして提供する、新たな「モビリティ(移動)」の概念を「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」と呼ぶ。
小泉: Aというまちに保育園があるとします。ところが、隣のBというまちには保育園がない。車で移動すればすぐに行ける距離にも関わらずです。
せっかくスマートシティという取り組みによって色々なことが便利になるのなら、本質的には行政の区分も、私たちの生活の実態に合わせて柔軟に広げていくべきではないかと思います。これについて、八子さんはどうお考えですか。
八子: 「スマートシティ」というのでわかりづらいところがあるのですが、私の前職のシスコ・システムズでは、「コネクテッド・シティ」と呼んでいました。この構想では、あまり行政区分が意識されていません。すべてのモノがつながることで享受できる便利なサービスが、場所を問わずどこまでも続いていく。そうしたイメージです。
小泉: まちで区切るのではなく、もっと広い範囲でとらえているということですね。
八子: そうです。小泉さんが言ったように、現在のまちは行政区分や工業地帯、商業区といったエリアが数十年前の基準で区切られています。しかし今は必ずしも一致していない。工業地帯に住宅が建っていたりしますしね。現在のまちの快適性をもたらしているのは、主にクルマなどのモビリティです。そのため、既存のインフラや物理的な土地区分に意味がなくなってきたと言えます。
小泉: そうした中で、スマートシティを進めようとすると、多くの場合が「行政から補助金をもらう」というプロセスを経ます。しかし結局、今ある行政区分が生活者の実態に合ってないのであれば、そこに国の予算をあててうまくいくのだろうと疑問があります。
八子: 何らかの単位で区切ることは必要だと思います。そうじゃないと、責任を持ってそのエリアを開発し、整備していくことができなくなるからです。
では、その単位をどうするのか。市単位なのか、複数の市が混在して一つのエリアをつくるのか。本来は住民の生活圏として理想的な区分があるのでしょうが、場所によって実態が異なります。
たとえば、同じ市の中でも人口が集中しているところとそうでないところがあります。あまり人がいないところに保育園をつくろうとしても難しい。ハードの部分(既存のインフラや土地区分)はなかなか変えられないのが実情といえます。
一方、ソフトの面でどのような便利なモビリティを走らせるのか、MaaSの基盤の上にどのような便利なサービスや安心・安全をのせていくのかというように、現行のハードの上にアド・オンで実装していかざるを得ないと思います。
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MaaSは本当に便利な生活をもたらすのか
小泉: でも、MaaSによって人が何をするかの方が大事ですよね。とすると、MaaSに資金を投入する前に、行政区分などの住民の実態をおさえていく必要があるのではないかと思います。
八子: そうすると、「納税単位をどうするのか」という部分まで手を入れる必要がありますね。民間の資金力である程度やりくりできるならいいですが、国費を投じる場合には、納税の問題と一緒に考えてないと難しいでしょう。
小泉: せっかくスマートシティの取り組みに国費を投じるわけですから、一緒に検討できないものでしょうか。
八子: 日本のある地域に「特区」を設けるのが現実的ですね。日本すべての自治体でやろうとすると法律を変えないといけませんから。スマートシティは、確かに資金を投じてそこだけデジタル化を進めればいいという簡単な話ではありません。法制度の改革もあわせて行っていかないといけません。
ただ、一足飛びにはどうしてもできないので、ここは教育の特区、ここはMaaSの特区、ここは農業法人の特区、というように少しずつそれぞれのまちの特色を活かして進めていくのが現実的ですね。
小泉: 各地のさまざまな活動を見ていると、どうしても技術ありきになっている気がするのです。テクノロジーを導入するための補助金ではなく、何らかのテクノロジーが入った結果、行政サービスがどのようにプラスされ、住民の生活がどうよくなるのかという流れを前提に進めていかないと、住民が誰も得しないという最悪の結果になる可能性もあると思います。
八子: 予算を得るには、目新しさが必要になります。国は今までと同じことには予算を使わないからです。そのため、どうしてもテクノロジーありきになるということがあります。
行政にはいたずらにそれぞれの自治体の競争をあおるのではなく、近隣の自治体と共同で何か取り組みを進められないかということも、真剣に模索してほしいですね。そうじゃないと、サイロ化されたしくみばかりがたくさんできてしまうということになりかねません。
スマートシティの推進には”デジタル庁”が必要
小泉: 政府が先日、信号機に5Gのアンテナを設置してよいという計画を発表し、話題になりました。通信設備は電源が必要ですから、信号機の上というある意味“一等地”に立てられるのはとてもいいことだと思いました。
一方で、スマートシティの実現には、Wi-Fiのネットワークやカメラ、環境センサーなど、さまざまな設備が必要になります。せっかく通信キャリアが信号の上に5Gアンテナを立てるのであれば、加えて環境センサーなど設置するということも考えてほしいですね。
八子: 義務付けするべきでしょうね。たとえば韓国には、Wi-Fiのルーターやビーコン、通信基地局、スマートLEDなどさまざまな設備を行政と商業区域が相乗りして設置できる電柱があります。韓国のみならず、香港、中国にもあります。ニューヨークでは公衆電話を撤去した場所にWi-Fiのホットスポットを置いたり、スマートフォンの充電ができたりする多機能なスポットを設けています。
日本の場合も、複数のアセットを相乗りさせるしくみを、法制度で義務付けしていくのが望ましいと思います。
小泉: せっかく今は国の方針と事業会社の思惑が一致しかけているタイミングなのだから、もう少し広い目で見て、社会をスマートにするとはどういうことなのかを真剣に考えてもらいたいです。
八子: それぞれの省庁の上に、「デジタル庁」というような組織を設けることが必要でしょうね。
信号機の上に設備を付加するという場合には、通信機であれば総務省と国交省、エッジ・コンピューティングのデバイスであれば経産省の管轄となります。結局、権限が別れてしまうのです。そうではなく、必要性を「デジタル庁」で判断し、トップダウンでそれぞれの省庁から予算を出し合ってもらうというようなしくみが必要ではないでしょうか。
小泉: 私たちがどんなに意見を言っても変えるのが難しいことはあります。でも、こうやって働きかけていかなければ何も変わりません。今回はどのように働きかけていけばいいのか、とてもイメージがわきました。貴重なお話をありがとうございました。

