昨年はIoTといっても様子見の企業が多く、先見性のある企業が、PoC(Proof of Concept:概念検証)をやっている状況だった。
今年に入って、試験的に行っていたPoCがうまくいったケースと、うまくいかないケースに分かれてきており、IoTソリューションを提供しているソリューションベンダーもコンセプチャルなサービスから具体的な課題を解決するサービスがでてきている。
これから、PoCをやっていこうという企業にとってはある程度の経験値を聞きながらやることができるので、やりやすいと思っていることだろう。
しかし、実際の状況を取材していると、セミナーやイベントに参加してできそうな企業と組んでPoCをやっているにもかかわらず、うまくいかないケースが散見されるのだ。
そもそも、PoCは「概念検証」というくらいなので、やりたいイメージがある企業がやるものだ。
また、巷のPoCは試験的に技術検証することをPoCと呼んでいることが多い。まず、ここが大きなつまづきなのだと言える。
つまり、「やりたいこと」がないのに、「IoTをやらなければならない」と強迫観念に駆られてやるだけではうまくいかないのだ。
そもそも、なぜ自社のサービスにIoTやAIを取り込む必要があるかを考えたことはあるだろうか。
私見だが、過去10年以上米国のIT企業が作ってきたテクノロジー起点の事業に、日本の製造業をはじめとした産業全体が大打撃を受けているからではないだろうか。
はじめは「自社はIT企業ではないから関係ない」とたかをくくっていたのかもしれない。
しかし、GoogleやFacebookが大きくなる過程で、サーバーそのものを自社で開発するようになり、Paypalという決済会社を立ち上げたイーロンマスクが自動車メーカーテスラを立ち上げた。そして、アップルは世界中にiPhoneをばらまいた。
グローバル世界で活躍するITを中心とした企業が、すでに製造業の領域に踏み込んでいて、巨大な発注者となって大量の発注を中国をはじめとした東南アジアの国々に半導体をはじめとした日本のお家芸的プロダクトの製造を発注し始めたのだ。
その結果、特に中国企業の力が強くなり、あげく、自社で家電製品やスマートフォンを作って販売するに至っていて、日本のメーカーを駆逐したのはご存知の通りだ。
そんな中、高品質な精密機械を作るのが得意な日本の製造業には、多くの発注が世界から集まっているが、「これもいつまで続くかわからない」と思い出したのではないだろうか。
ましてや、IoTの時代になっって既存の産業がどんどんデジタル化されていくなか、ITの時と同じように、遅れをとると死活問題になると気づきだしているからIoTやAIの活用を急いでいるのだろう。
話を戻すが、では、そんなIoT/AIの一歩となるPoCを、どういう考え方でやれば良いというのだろう。
当然だが、まずは自社の課題を明確にすることだ。
しかし、いろんな方と話していて、この「課題を明確にする」というプロセスが案外難しいということがわかってきた。
PoCの課題が定義できない3つの理由
トップマネジメントが解決すべき課題を明確にイメージできていない
ナンバーワンと言える理由がトップマネージメントが「「とりあえず」IoTやAIの情報収集をしてうちの業務に活用しろ」と指示をするからだ。
そもそも経営者のデジタル技術に関する不勉強が、この辛い状態を生み出している。ユニクロの柳井社長は、ワンマン絵経営とも言われるが、ワンマン経営をするために、隅々まで把握しているのだという。
当然、情報システムにも関心を持っていて、スマートフォンへの対応も早かった。現在、GUなどで無人店舗の取り組みも始めている。
「トップが率先してデジタルを理解していて、自社の事業のどこにデジタルを使うのかを提示できる必要」があると考えている。
つまり、よくわからないからと部下をセミナーに行かせて、あとはよろしく、とやっている企業はデジタルの恩恵にあずかることは難しいだろう。
なぜなら、「不勉強」なだけでなく、冒頭に述べた「危機意識」が欠落している経営者であるといえるからだ。
あらゆる産業にIoTやAIを活用した新たなビジネスモデルや産業構造ができつつある中、自社の課題を定義できない企業はかなりまずいと言えるのだ。
セミナーで学んだ事例をそのまま適用しようとする
セミナーで様々なソリューションが展示されていて、とにかくやらないといけないという強迫観念からか、とにかくやってみようと始めてしまうケースだ。
どんなに同じことをやっている企業でも、課題が全く同じということはありえない。
では、なぜセミナーで学んだことを導入する企業が後を絶たないかというと、現場の小さな課題を解決する話なら割と共通の課題であることが多いからだ。
例えば、生産性の改善が顕著だと言える。
どんな業務であれ、生産性の改善はしていかなければならない。コストが削減するということは経営者にも理解しやすいテーマなのでここが進めやすいことは事実だ。
しかし、考えてみてほしい。
生産性を改善することはとても重要だが、それだけでいいのだろうか。
根本的な課題は、冒頭に書いたような、産業構造の変化への対応なのに、生産性の改善「だけ」に目を取られていてもらちがあかないし、10年後駆逐されている可能性は高いと言える。
一人で悩んでいる
IoT/AIに関する調査を一人もしくは上長と二人で行っている場合が多い。
よくわからないと思っている二人が、調べたことについて話し合う場合、相当な時間がない限り課題を見出すことはできないだろう。
IoTは、一社でできることは少ない。多くの企業と手を取り合っていくことが重要だ。
そう考えたら、調査の時点からいろんなコミュニティに顔を出し、様々な企業の課題や対応内容に具体的に触れることが重要だと言える。
課題発見の方法
では、どうやって、自社の課題を発見すれば良いのだろう。簡単な頭の体操を部内のメンバーでしてみてほしい。
自社のサービス・事業を紙に書き出す
何をやっている企業で、どういうサービスをしているのか、何が強いくて市場から支持を受けているのかを明確にするのだ。
その時、自社と顧客との関係や、自社のいる業界の中での自社のポジショニングも明確にすべきだ。
野菜を作っている農家であれば、野菜を作るには、種と農場が必要で、農耕機械も必要かもしれない。そして作ったものはどうやって消費者に届けられているのだろうか。
作った作物はなにが評価されていて、なにが問題なのだろう。
例えば、作っている野菜は美味いが、一定の季節しか取れないため年間の安定的な供給に耐えられないとか、作っているが不揃いな野菜が買い取られず廃棄されているとか、そういうことだ。
野菜を作るのが仕事かもしれないが、野菜を取り巻く環境全体の課題に目を向けることも重要だろう。
消費者の手に届くとき、にんじんなら「にんじん」と並べられているだけではないか。自分が作ったにんじんか、他人がつくったにんじんか、区別もされない状態では、当然ビジネスは広がらない。
にんじんがほしい人は果たして消費者だけだろうか。レストランもほしいかもしれないし、輸出をしてほしいと思っている人がいるかもしれない。
つまり、単に作ることを仕事としてはいけないのだ。
自社を取り巻く環境を理解し、産業全体の課題を見つけ出す。そこに自社ができる解決策を見出すことがすべての第一歩となるのだ。
課題を発見することで新たなビジネスが生まれる
IoTの事例で有名なコマツのスマートコンストラクションも、当初は、自社の主要ビジネスである建機の改良にばかり目を向けていた。
しかし、ある時、オリンピックや震災復興など、業界の問題は仕事がないことではなく、人材が不足していることだということに気づいたのだという。
人材不足を解消するには、土木建築の人手がかかっているところを減らしていいかなければならない。無駄を減らさなければいけないということに着目したのだ。
その結果、人が何日もかけて行っていた測量をドローンで代替し、必要な土の算出があまいことで「土待ち」していた時間を減らしていくことで、全体の後期の圧縮と、人件費の削減に成功したのだという。
その結果、コマツの顧客である建設会社は別の仕事を受注することができるようになり、顧客の売上増に貢献したのだ。
コマツの事例は、単純にIoTを技術的に取り入れたから成功したのではない、ということがわかるだろう。
こうやって、自社の課題を的確に定義することがでいるようになったら、あとは実現性に関する模索をするための投資をどれくらいできるのか、そのために必要なパートナーはいるのか、といったことが始まり、ようやく技術調査がはじまるのだ。
手順を間違って居ると気づいたら、今からでも遅くないので、PoCを始める前に、課題を発見することに着手してほしい。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。