この1年くらいでAIを万能なコンピュータだと誤解している人は、ずいぶん減ってきた。
そして、それとともに、失望感を感じる人も増えてきている。なぜなら、「よくわかると、案外AIって使えないな」という言葉を聞くからだ。
「使えない」という言葉の裏にある期待値は、「人がやるべきことを代替してくれる」ということであり、それは、人以上に正確である必要がある。
例えば、画像認識技術は人の認識力を超え、しかも、機械らしく大量のデータを高速処理することができることから、様々な局面で実用化が進んでいる。
面白い例でいうと、音楽アーティストのコンサートで、オーディエンスの表情を読み取ることで、どの楽曲がどれくらいもりあがっているか、どういう気持ちでオーディエンスが聞いているのかを判別することで、楽曲の演奏順序を変えるという利用シーンが登場している。
一方で、精度があがり、人が制御しきれないレベルで高速化すると、今度は人はその処理能力を恐れるのだ。
先日、米国でAmazon Rekognitionという画像認識技術をアマゾン社が政府に提供したとして、市民団体が提供を取りやめる抗議をしたというニュースがあったが、これなどは、まさに機械の処理能力を恐れるあまり人がとった行動といえるだろう。
こういった行動は、IoT/AIの世界ではよくあることだが、結局問題を起こすのは機械ではなく人間だ。
例えば、アマゾンの例でいうと、市民団体は、監視社会となることをおそれているのだが、機械はあくまでも人を認識しているだけで、認識した人に対してどういう対応をするかは人間がきめる。
犯罪者を認識して逮捕するのか、それとも、人の生活を覗き見するのか、それを決めるのは人間だ。
ところで、人に寄り添うAI技術もある。
マイクロソフトが発表した「共感モデル」がそれだ。
人が会話する際、キャッチボールともいうべき呼吸がある。たとえば、「相手に新しい話題を切り出す」、「質問をする」、「相手の発言を肯定する」、「積極的に聞き手に回る」などだ。
話し相手によってこう言ったことができれば、会話は弾み、人を動機付けすることすらできるだろう。
これまで、様々な企業のウェブサービスで、「チャットボット」と呼ばれる会話エンジンが採用されてきた。
保険会社であれば、自分にあった保険商品を探すときにつかわれ、旅行代理店であれば、顧客にあった商品を探すときに使われている。
しかし、多くのサービスを使ってみると、単純に質問に対して答える程度のことしかできないことに気づく。
これでは、チャットという機能を使った検索エンジンに過ぎないと感じる人も多いだろう。
しかし、本来チャットボットをつかう意味は、もう少し曖昧な人の気持ちに寄り添うべきで、例えば旅行に行きたいとすれば、「なんとなく南の島に行きたい」「でも予算は10万円しかない」というときに、「雨季で雨は降るかもしれないけど、旅費が安くつく時期で、街アソビも楽しめる場所を提案する」など、思いもしなかった結果を導き出してほしいものだ。
それを導き出す上で、あたかも、プロのインバウンド・コールセンターの担当者のように、上記のような会話を続けようとするやり取りは必須となる。
こういった、人の感覚に寄り添う技術は、多くの人にとって受け入れられやすく、そのやりとりが記録されることに対してアレルギー反応をおこなさないという傾向はとても興味深い。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。