CES2026レポートの第5弾は、AIホームについて。
会場で、ロボットの格闘やマラソンが注目を集める一方、もう一つの主役として存在感を増していたのが「AIホーム」だ。
ここで言うAIホームは、単に家電にAI機能が付いたという話ではない。
家の中の機器・サービスを束ね、状況を理解し、段取りを組み、実行まで持っていく「生活のOS」を誰が握るのか?
ポイントは、AIホームが「家電単体の進化」ではなく「家庭内の統合」が命題になっていることだ。
以前からあるスマートホームの失敗は、機器の性能不足よりも「つながらない・設定が面倒・思った通りに動かない」といった使いずらさに起因するといえる。
一方で、AIは、そのストレスを吸収できる可能性があるが、逆に言えば、設計を誤ると「便利そうに見えて、信用できない家」を量産してしまうことになりかねないのだ。
「スマートホーム」から「コンパニオンホーム」へ
象徴的だったのはサムスンだ。
CES期間中にWynnで開催した自社イベント「The First Look」において、「AI Companion」というビジョンを掲げ、AIを単体機能ではなく、テレビ、家電、サービス体験をつなぐ基盤として位置付けた。(トップ画)
要点は、ユーザーが毎回操作を指示するのではなく、家が先回りして提案・調整していくという世界観にある。
この「コンパニオン化」は、UIが変わるだけでなく、プロダクトの評価軸を変える。
冷蔵庫やテレビのスペック競争ではなく、「家庭内の多様な家電をまたいで一貫した体験を作れるか」が勝負になるのだ。
つまり、AIホームは「製品」ではなく「統合体験」の市場になりつつあるといえる。
LGは「Zero Labor Home」で生活の段取りを描く
一方、同じ方向性を、別の言葉で語ったのがLGである。
LGは「Zero Labor Home(家事ゼロの家)」を掲げ、AI搭載ホームロボット「LG CLOiD」をCESで披露した。
CLOiDはAIとビジョン技術を用い、料理や洗濯などの家事タスクに関わりつつ、ThinQエコシステムと連携して家庭内を自動化する。
ここで重要なのは、ロボットそのものの器用さではない。
家事の価値は「秒速で片付く」ことも大事だが、「失敗せず、止まらず、いつの間にか終わっている」ことの方がもっと大事だ。
LGの提案は、ロボットを「家の中で動く端末」として使いながらも、家電やサービスを連携して家事を工程化し、段取りそのものを自動化していく、という発想に近いといえる。
AIホームは3層でできている
こういった、AIホームを構造的に理解する場合、3層に分けるとわかりやすい。
1. デバイス層:鍵・照明・空調・家電・カメラなどの実機
2. 接続層:MatterやWi-Fi、Threadなど「つながるための言語」
3. 司令塔層:シーンやルールを統合し、タスクを統合するオーケストレーション
CES2026で起きているのは、3.司令塔層を、AIによって再定義し直す動きだ。
従来のスマートホームは、アプリでルールを作り込み、例外があるたびに人がメンテする「お手製の自動化」だった。
これを、自然言語と状況理解で「ルールを作らずに回す」方向へ寄せられるかどうかが、AIホームが実用的になるかどうかの分かれ目とになる。
AIホームの本丸は「実行力」
しかし、司令塔が賢いだけでは足りない。
本当に便利さを体感できるには、家中のデバイス、鍵や照明、空調、家電、カメラ、エンタメまで横断して、いい感じで「実行」できることが必要となるだろう。
初代Alexaが登場して以来、Amazon Echoなどの、スマートスピーカーにさまざまな家電製品をつなぐ動きはあったが、「XXをやって」と人が言う指示をあらかじめ設定した内容に基づいて、家電が実行するに過ぎなかった。
しかし、AIホームでは、もっと自然に家事をやってくれる必要がある。その本命が「音声」なのかどうかは疑問が残る。
なぜなら、筆者は、音声によるショッピングも、音声による家電の操作も現状それほどうまくいっているわけではないと感じるからだ。
冷蔵庫に向かって、手が塞がっている時に、「閉めて」と指示することはできても、一方で、夜寝る時「電気を消して」と指示した時、電源タップをオフにしてしまい、本来、夜間でも通電しておいて欲しかった水槽の濾過フィルターが止まってしまったことで、魚が死んでしまった。と言う事例もあるという。
つまり、人間がやってほしいことを指示の裏側まで類推して、何らかの処理を行わなければ、一つ一つの処理連携を人間が設定していかない限り、スマートライフは実現しないということになる。
まずはこの辺りが解決されることが喫緊の課題と言えるが、その他にも、統合が進むほど「囲い込み」も強まるという点も問題となる。
司令塔が一つに集約されるほど、便利さは増すが、乗り換えコストも上がる。
AIホームは「便利な自動化」と「囲い込み」の境界が曖昧になりやすい。
だからこそ、第二層におけるオープンな接続(標準化)と、透明なデータ設計が、普及の鍵になる。
Matterが現実を動かす
AIホームの理想が膨らむほど、現実の制約は「相互運用性」に集約されるだろう。
メーカーごとに囲い込まれた世界では、AIが段取りを組めたとしても、それぞれのデバイスを実行できないからだ。
そこでCES2026で目立ったのが、Matter対応の拡大だ。
例えば、AqaraはUWB(超広帯域)を用いたスマートロック「U400」を発表し、Matter認証済みでAliro対応であることを表明していた。そして、スマホをカバンに入れていれば、ハンズフリーでも解錠できるという体験を実現したのだ。
スマートロックがMatter対応となり、生活者が活用しようとした時、それを制御するアプリは、他のMatter対応のデバイスを連携して動かすことができる。
つまり、Matter対応のデバイスが増えれば増えるほど、なにかのデバイスを家に導入したら、他のデバイスと連携して動くという「スマート」な体験を生み出すことが容易になるということだ。
もう少し掘り下げると、Matterの価値は、単に「対応デバイスが増えた」という話ではないということが重要になる。
本質は、メーカーごとの「つながり方」を吸収し、連携の運用コストを下げる点にある。
従来のスマートホームは、機器を増やすほどアプリと設定が増え、家庭内の状態が分断されていった。
結果として「便利そうに見えるが、維持できない」「家族が使えない」という壁にぶつかる。
Matterはここを、共通言語で揃えることで、家庭内の統合を実現しようとしている。
つまり、スマートホームが「作って終わり」ではなく、「運用できる状態」へ近づくための土台が整い始めたと言えるのだ。
ここでつながる価値が最も分かりやすく表現されていたのが、AgeTechの領域で、とりわけ転倒検知のようなソリューションはわかりやすい。
転倒検知そのものは、これまでも、ウェアラブルデバイスやミリ波レーダー方式など多様な方式が登場しているが、重要なのは検知した後に家がどう動けるかである。
たとえば転倒をトリガーに、照明を明るく点灯し、家族へ通知、必要なら玄関の解錠や来訪者への一時キー付与まで実現できれば、見守りデバイスは、単なる通知機能を備えたモノから「実行力のある支援ができるモノ」に変わる。
この文脈で言うと、前述したスマートロックがMatterで繋がる価値が変わって見える。
家の「鍵」との連携方式が標準化されれば、AIホームは家庭内だけで閉じず、家族・介護・配送・保守といった外部の人間も含めて、権限をコントロールしながら安全に連携できる。つながることで価値が生まれるのは、まさにこの「実行の連鎖」が成立する瞬間なのだ。
スマートホームの入口として、何らかのMatter対応機器を取り入れたら、そのコントロールアプリが他のデバイスとも繋がることで、AIホームをコントロールする管制塔の役割を果たすようになるきっかけとなるのだ。
キッチンが次の戦場になる
さらに、CES2026を見ていると、キッチン(特に冷蔵庫)もAIホームの主戦場になりつつあることがわかる。
食材在庫や献立提案は、家庭内データの価値が高く、AIが介入しやすい領域だ。
Hisenseのキッチン家電は、単に何かの処理をするということだけでなく、生活のリズムをデータ化し、生活のシーンを先回りしてくれるための準備を進めている。
空気環境の調整、料理の提案(食事の組み合わせ提案)など、タスク別のAIエージェントがユーザーの習慣を学習して、家のルーティンを自動化する役割を果たすというのだ。
ただし、ここで問われるのは、「AIの賢さ」よりも「その機能の必然性」と「データの扱い」である。
AIの反動、便利さの裏で信頼が問われる
AIホームが進むほど避けられないのがプライバシーと監視の問題だ。
会場の参加者と話したところ、AI冷蔵庫やAmazon Ringなどの、AI監視機能がプライバシー面で辛いと感じる人も少なくはなかった。
AIホームは、生活データ(映像、行動パターン、健康情報)と切り離せない一方で、監視されている気がするのは心地よくない。
つまり、ここでユーザーが求めるのは「賢さ」だけでなく、「情報のコントロールの可能性」なのだ。
クラウド化は必須か?ローカル動作はどこまでか・データの保存先と利用目的、家族・来客の権限管理、そして失敗時にどう戻すか?
こういったプライバシーに関係する事柄が曖昧なままAIだけが前面に出ると、反発は強まるはずだ。
重要なのは「繋がり方と信頼、泥臭さ」
家庭に入る技術は、購入できる価格と運用できる信頼がなければ広がらない。
ロボット掃除機やスマートロックなど、すでに生活導線に入り込んだカテゴリがある。
ここにAIが「上乗せ」されるとき、「体験の一貫性」が生まれ、「失敗しない自動化」が実現されることが必要なのだ。
CES2026は、AIホームが「夢のコンセプト」から「実現」へと移り始めた年だったといえる。
ただし、そのOSが家庭に根付くかどうかは、賢さではなく、つながり方と信頼、そして実装の泥臭さで決まるのだ。

