IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では、第15回をお届けする。
2019年3回目となる八子と小泉の放談企画。前回は、今年1月にラスベガスで開催された世界最大の見本市CES2019における、スマートホームの動向について議論した。今回は、同じくCES2019で注目された一般消費者(コンシューマー)向け製品を振り返りながら、デジタル技術で加速するプロダクト開発の動向を整理した。
「冷蔵庫でビールを売る」、新しいビジネスモデル
小泉: 1月にラスベガスで開催されたCES2019では、興味深いコンシューマー向けプロダクトをたくさん見ることができました。今回は、その中からいくつか製品をピックアップし、プロダクト開発の傾向について議論していきたいと思います。
まず、私が注目したのが株式会社Shiftalの「DrinkShift」です。これは、クラフトビール専用の冷蔵庫とスマートフォンアプリを組み合わせることで、庫内のビール残数や利用者の飲むペースを自動で判断し、ビールがなくなる前に自宅やオフィスへ届けてくれるというサービスです(詳細はこちら)。
CEOの岩佐さんにお聞きしたのですが、「DrinkShift」ではShiftal自身がクラフトビールの在庫を持っています。ですから、専用の冷蔵庫を売るだけではなく、ビールが売れた分だけ儲かるようなビジネスモデルになっているということです。これは、ハードウェアメーカーにとって新しい考え方ですよね。
八子: そうですね。消費者の関心が冷蔵庫そのものではなく、冷蔵庫の中に入っている食品や飲み物というコンテンツに向いているという傾向が背景にあるのかもしれません。テレビはもともとそうですよね。テレビそのものではなく番組というコンテンツが商品です。
白物家電などの領域においても、嗜好性が高い商品であれば、そういう傾向は強くなるのではないかと思います。単価が高くても売れるからです。
小泉: そうすると、マーケットはそこまで大きくはならないでしょうか?
八子: そうですね、多品種少量だとスケールは難しい可能性があります。仮にそれがビールであれば、樽で供給するなどの方法を検討せざるを得ないでしょう。
これは冷蔵庫に限った話ではありません。スケールするビジネスを目指すのか、あくまで多品種少量なのか。十分なマージンを確保しようとした場合には、今のところは後者を選ばざるをえないでしょうね。どちらのビジネスモデルを目指すのか、プロダクト開発の時点で考えていく必要があります。
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「強み×デジタル」のプロダクト開発
小泉: もう一つ、最近のプロダクト開発の傾向を象徴している製品が、ライオンの「VISOURIRE」という製品です。
ライオンと言えば、歯磨き粉や洗剤を思い浮かべる人が多いと思いますが、「VISOURIRE」はデバイスです。電動歯ブラシのような形をした美容機器で、頬の裏側から音波振動を与えながら、ほうれい線を押し上げるようにして使います(詳細はこちら)。
ライオンさんは豊富なオーラルケアの知見を持っています。そこに、デバイスの知見をかけ合わせて生まれたのが「VISOURIRE」です。化学や生物学といった非デジタルの領域に対して、デジタルや通信、デバイスの技術を「かけ算」して製品を開発する。こうした取り組みについて、八子さんはどう思いますか?
八子: 何であれ既存の製品はやがてコモディティ化していきます。そうすると、企業は新製品を開発するヒントをアカデミックや最先端の論文から拾ってこなければなりません。
しかし、そうした場合には普通、十分な開発期間が必要です。一方、デジタルは汎用性があり、使いやすい技術ですから、かけ算がしやすい。ある意味、デジタルはビジネスとアカデミックの「境目をなくす」力を持った技術だと言えます。
小泉: 今後は、「異なる領域の技術をかけ算したらこんなモノができないかな」と思えるイマジネーションが重要になってきそうですね。
八子: そうですね。また、そうした発想を、インターネットサービスのようにまずはβ版をつくり、次はα版へというように、少しずつバージョンアップしていくようなことも容易になっていくでしょう。
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複数の技術を1つにまとめるデジタルの力
小泉: 最後に、P&Gの「Opte」という製品についてお話したいと思います。「Opte」は顔のシミやほくろを消すデジタルコンシーラーです。CES2019では大きな注目を集めていました。こうした製品からはどういう傾向が読み取れるでしょうか?
八子: 技術と技術の組み合わせがポイントだと思います。
この製品では、「顔の表面をスキャニングする」、「結果(シミやほくろの状態)を判定する」、「判定の結果、プリンティングする」という、これまでは別々にあった3つの機能がほぼ同時に行われています。これはすごいことだと思います。
スキャンとプリントの機能を小さな筐体におさめ、しかもインテリジェントに判断した結果を使って、プリンティングまでしてしまうわけですから。
デジタルによって複数の技術を融合し、ポータブルで手の届く値段の範疇で、簡単に実現できてしまうというのは、デジタルの強みであり組み合わせの妙ですね。
小泉: 「Opte」は10年の研究の成果だそうです。あれだけ小さな筐体ですから、中のコンピュータも相当コンパクトなサイズになっているのでしょう。昔だと考えられないサイズです。スマートフォンの普及でデバイスの部品の価格が下がったことも、実現を後押しした要因かもしれません。
八子: 昔の携帯電話と同じことですよね。小型化していくことで、普及モデルに近づいていきます。
小泉: 今までもアイディアはあったものの実現できていなかったことが、今あらためて要素技術をしっかり調べてみることで、実はできるのではないかということが増えているように思います。
八子: そうですね。デジタルはあらゆるモノ・コトの境目をなくしていくとこれまでに言ってきましたが、それがプロダクトとして表れてきたのは面白いことです。CES2019の一つの特徴だったのではないかと思います。
小泉: 本日はありがとうございました。

