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新産業を共創するスタジオを作る―SUNDRED代表取締役 留目真伸氏インタビュー

新産業を共創するスタジオを作る―SUNDRED代表取締役 留目真伸氏インタビュー

2014年ごろから日本でも叫ばれるようになった第四次スタートアップブーム。しかし、スタートアップと大手企業をマッチングする企業に払う手数料のみが発生するだけで成果は出ない、クラウドファンディングを募っても製品をリリースできず賛同者を失望させる、といった事例も少なくない。

そうしたなか、「共創により100個の新産業を生み出す」ことを目標に掲げたSUNDRED株式会社が2019年7月1日に立ち上がった。

今回はSUNDREDの事業目的や日本のスタートアップの現状と今後などについて、SUNDREDの代表取締役に就任した留目真伸氏にお話を伺った。
(聞き手:IoT NEWS代表 小泉耕二)


新産業を共創するスタジオ

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉):今回立ち上げられたSUNDREDについて、どんな会社かご説明いただけますか。

SUNDRED留目真伸氏(以下、留目):簡単に言うと新産業を共創するスタジオです。

いわゆるスタートアップスタジオの仕組みだけでは産業が活性化しないことに気づき、日本の環境にあったやり方で進めるにはどうしようかということで、新産業を生み出すスタジオを作りました。我々はこれをスタートアップにひっかけて、「インダストリーアップ」スタジオと呼んでいます。

SUNDERDの共創スタジオ全体像

小泉:それは大手企業などの既存産業を再構築するということでしょうか。

留目:いいえ。あくまでも新産業の共創が目的で、既存産業の再構築そのものが対象というわけではありません。アメリカのような流動性の高い国では成長性のあるスタートアップにお金が集まり、大企業から人材も流れてきますが、日本の場合は業界を良く知る方や人脈のある方といった人材の流動性が低く、スタートアップがカバーできる領域が限定的です。

新産業の共創のために資本や人材を集約しバリューチェーンを作り上げる、あるいは新しいチームを作り上げていくということが、日本では出来ていません。

一方で、大企業も何もやっていない訳ではなく、各社新規事業を進めてはいるのですが、予算が少なすぎたり、既存のバリューチェーンのスコープに囚われて新しい領域に踏み込めていない状況です。

つまりスタートアップ側も大企業側も産業創出についてはうまく機能できていないという状態です。30年〜40年間もの間、日本のGDPが成長していないのも、新産業ができていないことが理由だと思います。

こういう現状を見て、将来の産業を考えるエコシステムのデザインを作るためのスポンサーや共創パートナー、企業を同じ船に乗せていこうという試みを始めました。

次ページは、「企業、個人問わず参画できるエコシステム作り

企業、個人問わず参画できるエコシステム作り

小泉:新産業の絵を描くのは留目さんですか?

留目:いいえ。いちばん最初の絵は誰が描いてもよいと思っていて、ブラッシュアップするプロセスはなるべくオープンにしたいと思います。

エコシステムの初期デザインをブラッシュアップし、最終的にエコシステム構想書を作り上げる、という流れを考えています。そこにもいろんな方に参画していただく予定です。

小泉:「アイデアを盗まれてしまう恐れもある」とは考えないのですか。

SUNDRED・代表取締役 留目真伸氏

留目:アイデアそのものよりも、パートナーシップやエコシステムの構築プロセスに価値があるので、アイデアが盗まれたとしても同じものが実現できるとは限らないと考えています。

もう少し先の話になりますが、初期デザインやパートナーシップを公開し、それに対して賛同する方や労働力としてのパートナーを企業、フリーランスの個人問わず募るような、クラウドファンディング的な考え方も取り入れていきたいと考えています。

小泉:なるほど。しかし、企業、個人、問わず募るとのことですが、個人が参画しても最終的に資本を持つ企業から外されてしまう、という恐れもあると思うのですがその点はいかがですか。

留目:そうではない仕組みを作りたいと思っています。最初はスポンサーシップという形をとります。皆でお金と知恵を持ち寄ってエコシステムのプロトタイピングを練り、形になってきたところで資金調達と事業会社の立ち上げを行い、参画する適切なメンバーの選定と資本の割合を設定していきたいと考えています。

小泉:最初は準備会社のイメージでPoCを回すところから始めて、形になってきたところでファンディングしてビルドアップし直す、という流れでしょうか。

留目:そうですね、そういう流れを考えています。

例えばスマートホームやスマートシティといった複数の企業が関わる事業を立ち上げる際、良く用いられるのが協議会で議論した後にコンソーシアム(共同事業体)を形成するというやり方です。

しかしコンソーシアムが出口になってしまうと、多くの場合コンソーシアムには明確なリーダーシップや事業計画、資金計画が欠けていて、拡大再生産ができません。

せっかく知恵を集約するのであれば、受け皿となる事業体を作り、そこにお金や必要があれば経営者もつけてビルドアップするべきです。

次ページは、「SUNDREDのビジネスプラン

SUNDREDのビジネスプラン

小泉:SUNDREDはどこで儲けていく予定ですか。

留目:プロジェクトマネジメントのフィー以外に、事業体設立に際してのストックオプションなどのエクイティ部分を想定しています。

小泉:ファンドではないのですね。

留目:はい。お金は外から引っ張ってくれば良いと考えています。

小泉:イグジット(スタートアップの創業者やベンチャーキャピタルが投資した資金を回収する方法)までのエコシステムが、ほとんど無い日本でも、このサービスは機能するでしょうか。

留目:私は日本は、逆にイグジットのサイズが細かすぎると感じています。ベンチャーキャピタルにとってイグジットはゴールですが、産業創出においてはそうではない。つまり良い産業を作りたいのであればエコシステムが機能し産業として持続的な成長が見込めるようになるまで取り組んでいく必要があります。

SUNDREDでも保有するストックオプション等、エクイティのバリュエーションが厚くなってくれば、SUNDRED自身でも規模感のある資金調達ができたり、いろんなことができるようになると思います。

小泉:経営層自身で数字が苦手という印象を受ける方もいますが、ファイナンスを含めたビジネスプランに対するアドバイスや資本の投入があると理解して良いですか。

留目:もちろんです。エコシステムを共有しステークホルダーを巻き込んでいくことでトリガーとなる事業体の成長可能性を高めるだけでなく、優秀な経営者を採用したり、リスクマネジメントまで行うことで、ベンチャーキャピタルのお眼鏡に叶うビジネスプランを立てていく予定です。

キャビアの陸上養殖事業からはじまる六次化プラットフォーム

小泉:注目している分野があれば教えてください。

留目:特にこの分野というのはありませんが、例としては陸上養殖や医療の分野などは面白いかな、と思っています。

例えば陸上養殖の六次化(食品の加工や、流通などに生産者が関わることで、付加価値を高める)に取り組む金子コードさんのキャビア事業は、生産を行うだけでなく、シェフとも繋がり、味や品質に関するフィードバックを得ることで、商品性の向上に務めて著しい成果を上げています。

キャビア事業を展開する金子コード

そして、SUNDREDではこれをきっかけにして、シェフのネットワークやフィードバックの仕組み、生産におけるナレッジなどを集約したプラットフォームを構築しようとしています。

他の養殖をやっている企業やその他ステークホルダーとなる企業も、このプラットフォームに参画いただくことで、陸上養殖という「産業全体」を大きくしていけるのではないかと考えています。

小泉:プラットフォーム化の先はどのような想定をされていますか。

留目:キャビアの金子コードさんの事業だけでなく他の事業者の事業もプラットフォームを活用し、世界に向けて発展するものとして相互成長していくことが理想です。プラットフォーム型事業とアプリケーション型事業の両方が有効に機能し産業として成長していくまでプロジェクトマネジメントの一環としてサポートしていきます。

次ページは、「シェアメディカルのデジタル聴診器

シェアメディカルのデジタル聴診器

留目:陸上養殖以外では、シェアメディカルさんによる聴診器のデジタル化が面白い取り組みです。

聴診器は医療現場において使用頻度が多く、幅広い診療科で使われているため、非常にデータ化しやすく使い勝手が良いものです。

シェアメディカルのデジタル聴診器

つまり、聴診器は医療プラットフォームを考える際、「キラーアプリケーション」になりうるものです。医療のデータを活用したプラットフォームを作りたい方を繋げ、医療のデジタル化という産業の発展にも繋げたいと考えております。

小泉:プラットフォーム化をすすめ、産業を発展させるには「目利き」が重要だと思います。その点はどうされるのですか。

留目:「目利き」という点では、みなさんある程度成長分野を理解していると思うので、そこにある、キラーアプリケーションや、プラットフォームがクロスするトリガーを見つけてあげることが大事だと思っています。

小泉:なるほど。個人的な見解ですが、物流業界でのプラットフォーム化がなかなか進まないので、誰か手を出してほしいです。

留目:物流の分野は、なかなか難しそうですね。

まずは小さめのものから始めてプロセスを固めていきたい、と思っています。そして、徐々に大きい分野へスケールアップしていければと考えています。

小泉:そういう意味ではキャビアの陸上養殖などはちょうど良さそうですね。

留目:はい。陸上養殖は世界でも日本が戦うことができる要素をもっているのが面白い点です。

しかも、実際に世界に通用する製品が出てきていることがすごいです。

陸上養殖によって、初めて水質や水温、餌、交配などをコントロール下において改善のサイクルが機能するようになりました。まさにテクノロジーの発展がドライバーになっているのです。

社会にインパクトを与えるサービスを求めて

小泉:シリコンバレー文化もあるのか、スタートアップの話はデジタルありきで動いてしまうことが多いのですが、「何をやりたいか」は重要ですよね。

留目:私もレノボの時から新規事業に携わっていましたが、新産業を作り出したとまでは言えません。またHIZZLEという自分の会社でスタートアップ企業のサポートをしていますが、人材の流動性の課題等を感じています。

その結果、「ビジネスプラットフォーム」と「ビジネスアプリケーション」の双方をもって産業全体を見ていかなければならないという結論に至りました。

小泉:留目さんがこういったことに行き着いた経緯を詳しく伺っても良いですか。

留目:最初の就職先は商社で、海外で発電プラントを建設するという仕事でした。当時から社会にインパクトを与える仕事をしたいとずっと思っていて、その後戦略コンサルティングや事業会社でのマーケティングを経てレノボでは日本の社長やグローバルでM&Aなどやらせてもらいました。

同時にスタートアップが社会へ大きな価値を生み出すのではないかということで、スタートアップ企業へのサポートやエンジェル投資などを始めました。

今も探求中ではありますが、社会へ大きなインパクトや価値を提供できるものがこれなのではということで本サービスに至ります。

必ずしもアメリカ式のスタートアップ・エコシステムがベストなものであるとは思っていません。このエコシステムによって産業が活性化しダイナミックにGDPが成長していますが、一方で一部の投資家と起業家に富が集中し格差社会が生まれてしまっているのも事実です。

一方で日本では多くの人が良いアイデアを持っているのに、企業に戻ると少額の予算と限定されたスコープで新規事業の計画を立てていたりします。せっかく未来を良くする想像力を持っているのであれば、それを実現する仕組みがあっても良いのでは、という思いが、SUNDREDを立ち上げる発端になっています。

一般社団法人Japan Innovation Networkの紺野登さんや西口尚宏さんとも話していますが、実現すべき未来のデザインを共有することからスタートする新しい価値創造の仕組みを実際の取り組みを通じて磨き上げ、グローバルにも展開していきたいと考えています。

今あるアクセラレータの仕組みは大体アメリカから来ていますが、一部の人が独り勝ちするようなものではなく、もっと社会起点で、中小企業や個人も参加できるエコシステムがあると良いと思っています。

小泉:すごく道のりの険しそうな話ですね。

留目:それが自分自身のチャレンジです。ですから、小さくやりやすいところから始めて仲間づくりをして、自分も知見を貯めていきながらやっていきたいと思っています。

次ページは、「デザインさえ共有すれば日本もやり易い

デザインさえ共有すれば日本もやり易い

小泉:アメリカは野望をもって自分が一番になりたいといったような国民性を感じますが、日本は誰がイニシアティブを取るかといったことや人のバックグラウンドを気にする面があると思いますが。

留目:そうですね。ただ、デザインさえ共有されればやりやすいのは、むしろ日本なのではないかと思っています。「みんなで栄えていこう」というのはこれまで日本人はやってきたはずだし、できるのではないかと。

オープンイノベーションのディスカッションをすると、中小企業の存在が抜け落ちてしまいがちなのですが、先ほどのキャビアの金子コードさんをはじめ、実は面白い企業が沢山ありますし、そもそも産業は中小企業抜きにして考えられないわけです。ですから、そういったところも含めてデザインしていけると面白いかな、と思います。

デザインの仕方やものの作り方に関してはそれぞれの価値観があるので、共感できる方と一緒にやっていけば良いと思うのです。

(左手前)IoT NEWS代表 小泉耕二 (右奥)SUNDRED代表取締役 留目真伸氏

小泉:非常にインターネット的ですよね。

留目:そうですね。インターネット的な考え方がベースになっています。働き方改革やプロジェクト型の価値創造という考え方も同じく背景にあります。

SUNDREDの取り組みもある意味クラウドファンディング的な方向に近づいていくのではないかと思っています。

つまり、こういったエコシステムを作りたいというところにナレッジや労働力をインプットする人やお金でサポートしたい人がいて、得られるものとしてはストックオプションといったエクイティや参画する権利などがある、という形になるということです。

小泉:面白くなりそうですね。

誰でも参加できるオープンなエコシステム形成で社会を動かす

留目:たくさんの方が期待してくださったり、一緒にやりたいとお声がけいただいたりしており、出だしとしては良いモメンタムが作れていると思っています。

今後は具体的なプロジェクトを進めていくとともに、1ヶ月か2ヶ月に一回エコシステムに関するディスカッションをオープンに行う場を考えています。例えばある月は養殖のエコシステムについて関係者や興味のあるメンバーを集めてディスカッションしたり、月ごとにテーマを決めて企画していく、といった流れです。

また、企業だけでなく副業者やフリーランサーなどプロジェクトに参画したい個人の方にも参加してもらいたいと思っています。

小泉:今までデジタルに乗ってこなかった人も乗ってきそうですね。

留目:インターネット時代にふさわしい産業づくりを体系化していくことで新産業の共創が活性化していくと考えています。

小泉:本日はありがとうございました。

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