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ミスミが提案する、部品調達のデジタル革命「meviy」 ―ミスミグループ本社 吉田光伸氏インタビュー

ミスミが提案する、部品調達のデジタル革命「meviy」 ――ミスミグループ本社 吉田光伸氏インタビュー

株式会社ミスミグループ本社は、顧客が設計した加工部品の3DCADデータをブラウザ上にアップロードするだけで、即時見積もりと最短1日出荷を実現する部品調達プラットフォーム「meviy(メヴィー)」を展開している。「設計」「調達」「製造」「販売」というものづくりのバリューチェーンの中で、調達領域の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を推進するmeviyとは、どのようなサービスなのか。また、どのように誕生したのか。株式会社ミスミ 3D2M企業体 代表執行役員 企業体社長 吉田光伸氏に聞いた(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)。

ミスミ革新の歴史~カタログ×標準化で「図面を書かない調達」を実現

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): まず、御社の事業についてお聞かせください。

ミスミ 吉田光伸氏(以下、吉田): ミスミは、製造業向け機械部品の製造と販売を手がける企業です。取り扱っている部品点数は2,940万点、業界最大のラインナップです。スマートフォンや自動車といった製品に組み込まれる「直接材」ではなく、それらの製品を生産する設備・装置に必要な「生産間接材」を提供しています。

製造業における部品調達の課題は、とにかく「時間」です。具体的には、「作図の手間」、「見積もりの待ち時間」、「長い納期」の三つです。私たちは、これらを「時間の三重苦」とよんでいます。

たとえば、ある生産設備を1台つくるのに1,500点の部品が必要だとしましょう。部品1点に対して紙図面を1枚書きます。1枚書くのに平均30分ほどかかりますから、部品が1,500点あると750時間です。見積もりには、いまだにFAXが使われることが多いです。1,500枚の見積書をFAXで送るのに、25時間。回答待ちで56時間(1週間)。最後に納期は、平均すると――地域や加工メーカーによってばらつきがあります――2週間(112時間)です。すると、作図→見積もり→納期待ちという一連の流れで、1,000時間(125日)もかかるのです。

日本のGDPの2割をしめる製造業全体の影響についていうと、年間1兆円もの間接コストが部品調達に浪費されています――日本の製造業は20万社あり、それぞれで1,000時間(125日)。製造業の時間チャージ5,000円とすると、これほどかかるわけです。

ミスミのイノベーション:カタログ×標準化でものづくりの「時間」を創出

吉田: こうした課題に対して、ミスミが過去に起こしたイノベーションが「カタログ」と「標準化」でした。1977年のことです。必要な部品の形状や材質、寸法を選んでいくと、カタログ番号ができます(例:SFJ10-100)。あとはこの番号で注文するだけです。つまり、設計者は紙図面を書く必要がありません。価格と納期もカタログ番号からわかります。

弊社はMTO(Make To Order:受注製作品)で製品をつくります。ベトナムなどのローコストカントリーで大量に半製品(半完成品)をつくります。それを各国の最終仕上げ工場にストックしておき、いざ注文が入ると、最後の仕上げ加工をして、短納期で出荷するしくみです。

小泉: 納期がカタログに明記されているのですか。かなり思い切ったサービスですね。

吉田: ええ。どれだけ注文がくるかわからないのに、納期を3日と保証するのは、簡単なことではないと思います。顧客数はグローバルで30万社です。これは、たとえば大手自動車メーカーでも1社としてカウントしていますから、事業所の数などでいうと、さらに膨大です。1日約20万件の部品を製造して出荷しています。

小泉: カタログは、カスタマイズの可能性を総当たりで理解している人じゃないとつくれませんよね。このカタログ自体がものづくりのノウハウのかたまりだということですね。

吉田: おっしゃるとおりです。非常に高度な「ノウハウ」が必要です。

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3DCADデータだけで価格と納期がわかる

吉田: しかし、カタログの提供だけでは、部品調達のすべての課題は解決できません。お客様が調達する部品のうち、一般に、カタログから買えるような規格品は約半分、残りの半分は図面品(カスタマイズ品)です。つまり、お客様が100個の部品を調達する場合、50部品は弊社のカタログから買えるようになりましたが、残りの50部品は依然として設計者が紙の図面を書いて、加工メーカーに発注しなければならないわけです。

すると、確かに、設計者は図面を半分書かずにすむわけですが、ものづくり全体のリードタイムは変わらないのです。なぜなら、すべての部品がそろわないと製品を組み立てられないからです。

製造業には、ご存知の通り、「設計」「調達」「製造」「販売」というバリューチェーンがあります。それぞれで「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は進んできました。たとえば、設計ならCAD・CAE、製造ならロボット等による自動化、販売ならEコマースです。

しかし、調達がボトルネックでした。紙の図面を描くなど、どうしてもアナログな手段に頼らざるをえない部分があったからです。ただ、そうした現状を打破しなければ、ものづくり全体の進化は実現できません。ミスミは1985年頃からこの課題に気づき、試行錯誤を続けてきました。そしてたどりついた先が、meviyだったのです。

ミスミが提案する、部品調達のデジタルものづくりプラットフォーム「meviy」

吉田: meviyという名称は、「メビウスの輪」が由来です。メビウスの輪は∞(無限)の形をしています。ミスミが手がける製品バリエーションの数は800垓(ガイ)、つまり1兆の800億倍です。そこから、カタログを超える無限大の製品に対応しようという思いをmeviyという名前にこめたのです。

meviyは、大きく二つの革新をもたらします。お客様側の革新である「AI自動見積もり」と、生産側の革新である「デジタルものづくり」です。

AI自動見積もりは、お客様が設計したデータ(3DCADデータ)をブラウザ上にアップロードすると、AIが形状や材質、寸法を認識して、加工法や価格、納期をものの数秒で算出する機能です。つまり、加工メーカーの職人さんが頭の中で行っていることを、システム化しているわけです。

次に、その設計データを、工作機械を動かす製造プログラム(NCデータ)に変換します。通常、工作機械を動かすときは図面を見ながら加工法をプログラムしますが、データ連携を行えばその必要はありません。つまり、NCデータをシステム側でつくって工場に転送すれば、工場の現場では原材料をセットしてスタートボタンをおすだけです。この「デジタルものづくり」により、最短1日出荷を実現しています。

meviyのUX:部品の穴情報指示~穴タイプや公差などの属性情報を入力できる。

吉田: ここで、meviyの使い方を簡単にご紹介しましょう。IDパスワードを取得すれば、誰でもmeviyのブラウザを開くことができます。設計データをアップロードすると、AIが部品の形状を認識し、わずか数秒で価格と納期を算出します。ポイントは、このあとに色々な設定を決められることです。

たとえば、材質はSS400(鉄鋼材)やアルミなど、種類によって価格や納期が変わります。お客様からいただく設計データからは形状しかわかりません。属性情報はないので、たとえば、プレートにあける穴がタップ穴なのか、ストレート穴なのか、などがわからないわけです。それに対してmeviyは、AIによって、「この穴はタップ穴である」と属性をつけてあげることで、ユーザーのちょっとした手間を減らしています。もし実際とAIの判断が違えば、ユーザーは他の選択肢から選ぶことができます。

設計に無理がある場合には、ガイドを出す機能もあります。たとえば、「これは曲げとタップ穴の距離が8.3ミリだけど、10.4ミリ以上にしないと、穴が変形してしまいますよ」というように。生産技術要件も勘案したうえで、ご提案できるのです。

meviyのUX:板金加工限界モデル~曲げ・穴間距離などの最適な数値を教えてくれる。

小泉: 気の利いたサービスですね。

吉田: ありがとうございます。これまでミスミが50年かけて蓄積してきたものづくりのノウハウを活かし、プロフェッショナル向けのUXに徹底的にこだわっています。

たとえば、meviyでは、公差の違いが価格にどのように反映されるのかがわかります。先日、ある自動車メーカーのお客様から、「これは若手エンジニアの教育ツールにもってこいだね」と言われました。公差や加工方法など、こまかい設計の違いがどれだけ価格に影響するのかは、経験的に理解していくしかありません。meviyを使えば、365日24時間、様々なパターンで気軽に何度も見積もりをしてみることで、設計が価格にどう影響していくのかを学ぶことができるのです。

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「ノウハウ」がつまった独自アルゴリズム

吉田: meviyには、主に3つのテクノロジー(特許取得済み)が使われています。「独自開発のAI形状認識エンジン」、「価格計算アルゴリズム」、「デジタルマニュファクチュアリングシステム」です。

たとえば、価格計算アルゴリズムについては、同じ部品でも北海道と鹿児島では価格も納期もばらばらです。同じ加工メーカーでも忙しいときとそうでないときで、価格と納期は変動します。これではお客様は困ってしまいます。しかし、meviyを基盤にすることで、いつでも同じ価格で、しかもお客様にとっても満足していただける価格設定ができます。これは我々ミスミがカタログで3,000万点の値付けを行っているノウハウが活きています。

小泉: なるほど。価格が都度変動しないのは、お客様からするとかなり嬉しいですよね。

吉田: ええ。さらに、meviyではたとえカスタマイズ品でも、一度型番を発行すれば固有の製品として登録されますから、次に同じ製品を仕入れたい場合には、型番だけで注文できるのです。これもミスミらしいポイントです。

2016年のリリース以降、サービスの拡充と急成長をつづけるmeviy

吉田: meviyでは、金型部品、ラピッドプロトタイピング、FAメカニカル部品(板金部品・切削プレート)のサービスを展開しています。2019年4月に基本的なラインナップが完成しましたが、その後も素材領域は拡大しています。

おかげさまで、meviyは2016年の立ち上げ以降、急速に成長しています。顧客数は35,000人を突破、設計データのアップロード点数は250万点以上、リピート率は8割です。売上は2017年から15倍に拡大しています。今後は弊社の事業の中核をになう分野にしていこうとしています。

事例も増えました。お客様の声としては、「部品調達の待ち時間が2週間から3日になった」、「同じ期間で設計のサイクルを2、3倍多く回せるようになった」、「残業が減り、早く家に帰って家族の顔が見られるようになった」など様々な声をいただいています。

小泉: 嬉しい声ですね。

吉田: 2020年4月からは、働き方改革法における残業時間の「罰則付き上限」が中小企業にも適用が開始されます。現状は残業を減らそうという声がけだけで、具体的なソリューションは示されていません。meviyを活用することで時間を大幅に短縮でき残業を削減できたというお客様の声も多くいただいています。この観点からも、製造業の働き方改革にも貢献できるのではないかと考えています。

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構想は1985年頃からあった

小泉: meviyというサービスの発想はどこから生まれたのでしょうか。

吉田: まず、従来型の事業からは、発想を大きく変えてみました。1977年に始めたカタログと標準化のサービスは、確かに大きなイノベーションでした。しかし、それはあくまで選択肢を決めて、その中からお客様に「選んでもらう」というものでした。それよりも、「自由に設計したデータから、価格と納期が自動でわかる」なら、これがお客様にとってはいちばん便利なはずだと考えたのです。

今思えばあたりまえのことですが、どうすれば実現できるのか、当時は方法がわかりませんでした。2D、3DのCADデータはあります。しかし、それをどうすれば、即自的に価格と納期がわかるようになるのだろう……と考え続けました。そこで、新たにオープンイノベーション型の組織をつくることにしました。

カギとなったのは、いかに製造に詳しいエンジニアを集めるかでした。世界にエンジニアはたくさんいます。しかし、Webがわかり、CADがわかり、製造がわかるというエンジニアは、世界にほとんどいないのです。

ミスミが手がける様々な部品とカタログ

吉田: 初めてプロダクトができたのは2015年です。ただ、そのときはまだ満足度は低い内容でした。その後も何度もスクラップ&ビルドを繰り返し、高速回転で開発していきました。とにかく難しい技術の連続で、一般的なシステム設計とはまったく違います。中途半端な状態でリリースすると、「思ったより使えない」と思われて、離れていってしまいます。

小泉: どうして続けることができたのでしょうか。

吉田: ミスミは、起業家精神を大事にする会社です。社内で経営者、起業家を育てようというマインドが浸透しています。また、meviyの種になるような発想は、実は1985年頃からあり、先輩方が何度もチャレンジしてきたことなのです。まだインターネットもない時代でした。

小泉: なるほど、社内の皆さんの中に共通のイメージがあったのですね。そこに今ようやく技術が追いついてきて、実現できるようになったと。

吉田: そういうことです。どんなにすばらしい発想があっても、それだけでは実現できません。タイミングが重要です。昔なら、設計者は時間をたっぷり使って設計してよかったわけです。最近では「働き方改革」など、コンプライアンスも重視され、設計者が残業をして部品の図面を書くことは難しくなってきました。

また、製造業における中小企業の後継者問題は深刻です。弊社には自社製のみならず多くの協力メーカーからの供給も受けています。その中にも後継ぎがいないために、廃業企業がたくさんあります。仕事はあるのです。それなのに、後継ぎがいないために事業を継続できない。日本の製造業の99%は中小企業であり、これは極めて重要な社会課題です。より持続的な産業にするためにも、デジタルの力を活用してものづくりを進化させていくことで、若い人にとって製造業がより魅力的な業界になるように貢献していきたいですね。

meviyは部品調達にかかる時間を92%削減する

小泉: 今回お話をうかがって、meviyがミスミさんだからできるサービスだということが、よくわかりました。

吉田: ありがとうございます。ミスミは、お客様に「時間」を提供したいと考えています。冒頭で申し上げたように、1,500点の部品の調達には約1,000時間かかります。しかし、meviyを使えば、約80時間ですみます。92%が削減できるということです。日本の製造業全体で見れば、1兆円のうち9,000億円が削減できることになります。

システムができることはシステムにまかせ、人間にしかできない付加価値の高いことに集中する。それは「創造」です。meviyで生まれた「時間」を活用して創造性を開放し、今までにない製品を開発する。素晴らしいデザインを行う等、より創造的なことに時間を使っていただきたい。これができれば日本の製造業はさらに競争力が増し、より魅力的な産業になると私は確信しています。

meviyはまだスタートラインに立ったばかりです。今後は3Dプリンタや射出成型など、様々な加工法にも対応していきたいと考えています。今年から海外展開も始めます。meviyを世界中のお客様に知ってもらいたいと思います。

小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。

株式会社ミスミ 3D2M企業体 代表執行役員 企業体社長 吉田光伸氏
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