3DCADデータだけで価格と納期がわかる
吉田: しかし、カタログの提供だけでは、部品調達のすべての課題は解決できません。お客様が調達する部品のうち、一般に、カタログから買えるような規格品は約半分、残りの半分は図面品(カスタマイズ品)です。つまり、お客様が100個の部品を調達する場合、50部品は弊社のカタログから買えるようになりましたが、残りの50部品は依然として設計者が紙の図面を書いて、加工メーカーに発注しなければならないわけです。
すると、確かに、設計者は図面を半分書かずにすむわけですが、ものづくり全体のリードタイムは変わらないのです。なぜなら、すべての部品がそろわないと製品を組み立てられないからです。
製造業には、ご存知の通り、「設計」「調達」「製造」「販売」というバリューチェーンがあります。それぞれで「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は進んできました。たとえば、設計ならCAD・CAE、製造ならロボット等による自動化、販売ならEコマースです。
しかし、調達がボトルネックでした。紙の図面を描くなど、どうしてもアナログな手段に頼らざるをえない部分があったからです。ただ、そうした現状を打破しなければ、ものづくり全体の進化は実現できません。ミスミは1985年頃からこの課題に気づき、試行錯誤を続けてきました。そしてたどりついた先が、meviyだったのです。

吉田: meviyという名称は、「メビウスの輪」が由来です。メビウスの輪は∞(無限)の形をしています。ミスミが手がける製品バリエーションの数は800垓(ガイ)、つまり1兆の800億倍です。そこから、カタログを超える無限大の製品に対応しようという思いをmeviyという名前にこめたのです。
meviyは、大きく二つの革新をもたらします。お客様側の革新である「AI自動見積もり」と、生産側の革新である「デジタルものづくり」です。
AI自動見積もりは、お客様が設計したデータ(3DCADデータ)をブラウザ上にアップロードすると、AIが形状や材質、寸法を認識して、加工法や価格、納期をものの数秒で算出する機能です。つまり、加工メーカーの職人さんが頭の中で行っていることを、システム化しているわけです。
次に、その設計データを、工作機械を動かす製造プログラム(NCデータ)に変換します。通常、工作機械を動かすときは図面を見ながら加工法をプログラムしますが、データ連携を行えばその必要はありません。つまり、NCデータをシステム側でつくって工場に転送すれば、工場の現場では原材料をセットしてスタートボタンをおすだけです。この「デジタルものづくり」により、最短1日出荷を実現しています。

吉田: ここで、meviyの使い方を簡単にご紹介しましょう。IDパスワードを取得すれば、誰でもmeviyのブラウザを開くことができます。設計データをアップロードすると、AIが部品の形状を認識し、わずか数秒で価格と納期を算出します。ポイントは、このあとに色々な設定を決められることです。
たとえば、材質はSS400(鉄鋼材)やアルミなど、種類によって価格や納期が変わります。お客様からいただく設計データからは形状しかわかりません。属性情報はないので、たとえば、プレートにあける穴がタップ穴なのか、ストレート穴なのか、などがわからないわけです。それに対してmeviyは、AIによって、「この穴はタップ穴である」と属性をつけてあげることで、ユーザーのちょっとした手間を減らしています。もし実際とAIの判断が違えば、ユーザーは他の選択肢から選ぶことができます。
設計に無理がある場合には、ガイドを出す機能もあります。たとえば、「これは曲げとタップ穴の距離が8.3ミリだけど、10.4ミリ以上にしないと、穴が変形してしまいますよ」というように。生産技術要件も勘案したうえで、ご提案できるのです。

小泉: 気の利いたサービスですね。
吉田: ありがとうございます。これまでミスミが50年かけて蓄積してきたものづくりのノウハウを活かし、プロフェッショナル向けのUXに徹底的にこだわっています。
たとえば、meviyでは、公差の違いが価格にどのように反映されるのかがわかります。先日、ある自動車メーカーのお客様から、「これは若手エンジニアの教育ツールにもってこいだね」と言われました。公差や加工方法など、こまかい設計の違いがどれだけ価格に影響するのかは、経験的に理解していくしかありません。meviyを使えば、365日24時間、様々なパターンで気軽に何度も見積もりをしてみることで、設計が価格にどう影響していくのかを学ぶことができるのです。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。