構想は1985年頃からあった
小泉: meviyというサービスの発想はどこから生まれたのでしょうか。
吉田: まず、従来型の事業からは、発想を大きく変えてみました。1977年に始めたカタログと標準化のサービスは、確かに大きなイノベーションでした。しかし、それはあくまで選択肢を決めて、その中からお客様に「選んでもらう」というものでした。それよりも、「自由に設計したデータから、価格と納期が自動でわかる」なら、これがお客様にとってはいちばん便利なはずだと考えたのです。
今思えばあたりまえのことですが、どうすれば実現できるのか、当時は方法がわかりませんでした。2D、3DのCADデータはあります。しかし、それをどうすれば、即自的に価格と納期がわかるようになるのだろう……と考え続けました。そこで、新たにオープンイノベーション型の組織をつくることにしました。
カギとなったのは、いかに製造に詳しいエンジニアを集めるかでした。世界にエンジニアはたくさんいます。しかし、Webがわかり、CADがわかり、製造がわかるというエンジニアは、世界にほとんどいないのです。

吉田: 初めてプロダクトができたのは2015年です。ただ、そのときはまだ満足度は低い内容でした。その後も何度もスクラップ&ビルドを繰り返し、高速回転で開発していきました。とにかく難しい技術の連続で、一般的なシステム設計とはまったく違います。中途半端な状態でリリースすると、「思ったより使えない」と思われて、離れていってしまいます。
小泉: どうして続けることができたのでしょうか。
吉田: ミスミは、起業家精神を大事にする会社です。社内で経営者、起業家を育てようというマインドが浸透しています。また、meviyの種になるような発想は、実は1985年頃からあり、先輩方が何度もチャレンジしてきたことなのです。まだインターネットもない時代でした。
小泉: なるほど、社内の皆さんの中に共通のイメージがあったのですね。そこに今ようやく技術が追いついてきて、実現できるようになったと。
吉田: そういうことです。どんなにすばらしい発想があっても、それだけでは実現できません。タイミングが重要です。昔なら、設計者は時間をたっぷり使って設計してよかったわけです。最近では「働き方改革」など、コンプライアンスも重視され、設計者が残業をして部品の図面を書くことは難しくなってきました。
また、製造業における中小企業の後継者問題は深刻です。弊社には自社製のみならず多くの協力メーカーからの供給も受けています。その中にも後継ぎがいないために、廃業企業がたくさんあります。仕事はあるのです。それなのに、後継ぎがいないために事業を継続できない。日本の製造業の99%は中小企業であり、これは極めて重要な社会課題です。より持続的な産業にするためにも、デジタルの力を活用してものづくりを進化させていくことで、若い人にとって製造業がより魅力的な業界になるように貢献していきたいですね。

小泉: 今回お話をうかがって、meviyがミスミさんだからできるサービスだということが、よくわかりました。
吉田: ありがとうございます。ミスミは、お客様に「時間」を提供したいと考えています。冒頭で申し上げたように、1,500点の部品の調達には約1,000時間かかります。しかし、meviyを使えば、約80時間ですみます。92%が削減できるということです。日本の製造業全体で見れば、1兆円のうち9,000億円が削減できることになります。
システムができることはシステムにまかせ、人間にしかできない付加価値の高いことに集中する。それは「創造」です。meviyで生まれた「時間」を活用して創造性を開放し、今までにない製品を開発する。素晴らしいデザインを行う等、より創造的なことに時間を使っていただきたい。これができれば日本の製造業はさらに競争力が増し、より魅力的な産業になると私は確信しています。
meviyはまだスタートラインに立ったばかりです。今後は3Dプリンタや射出成型など、様々な加工法にも対応していきたいと考えています。今年から海外展開も始めます。meviyを世界中のお客様に知ってもらいたいと思います。
小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。

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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。