ソラコムが行なった、プロダクトマネージャー、プロダクト企画者、技術責任者やエンジニアのためのカンファレンス、if-up2019。
「モノづくり」から、「コトづくり」へ、と言われることが多くなったプロダクトづくり。
実際に、これまで見たこともないようなモノづくりにチャレンジする方々が登壇した。
パナソニックで「Home X(エクスペリエンス)」という、日々アップデートされる住宅向けプラットフォームを作る馬場氏、メルカリで技術戦略を担当し、一歩先のテクノロジーを使える体制をつくる濱田氏、ナイアンティックで「Pockemon Go」をつくり「歩いて冒険する」という新たな体験を生み出した川島氏がパネラーとして登壇、ソラコムの玉川氏によるファシリテートのもとパネルディスカッションが行われた。
登壇者
よいプロダクトの定義が変わった
ソラコム 玉川氏より、「モノからコトへ」のシフトが進む中、プロダクトづくりの定義が変わったのではないか、という問題提起がされた。
それに対して、過去のプロダクトを作る上での「ベストプラクティス」は確かに存在した。しかし、それは今の「ベストプラクティス」ではない。とパナソニック 馬場氏。
さらに「あれがうけている、これがうけている」と流されてはいけない。「なぜこれを作るのか?」ということを大事にすべきだとナイアンティック 川島氏はいう。なぜなら、支持されているプロダクトには愛があるからなのだ。
実際、Pockemon Goのヒットの後、様々な位置情報とAR技術を掛け合わせたものは登場したが、それほどヒットしていないのをみると、単にうけていることを模倣することに意味がないことがよくわかる。
また、メルカリ 濱田氏からは、Amazonが「買うこと」を簡単にしたのに対して、メルカリは「売ること」を簡単にしたのだという説明がされた。ここでも、「なにがしたいのか」という軸が非常に重要だと言う。
しかし、ものづくりにおける軸が決まったとして、それだけで「よいプロダクト」は生まれるのだろうか。
現在、プロダクトの作り方だけでなく、認知の仕方、届け方も工夫をしないと簡単には広がらない状況にあって、コネクテッドが当たり前の時代では、ライフサイクルの異なるプロダクトが接続しているケースも多くなる。
こういった時代では、「売るまで」に情熱を傾けるだけでなく、「売ったあと」に情熱をかけるべきだと、馬場氏はいう。
例えば、テスラは、クルマを購入した「あと」に、安全性や走行などに関する性能がどんどんアップデートされていく。これまでの、クルマにカーナビを乗せて、カーナビの内容をアップデートするという考え方とは根本的に異なるやり方が、クルマづくりの産業構造をガラリと変えてしまうのだろう。
Home Xにおいても、こういったプロダクトマネージメントを行なっていて、それはこれまでのプロダクトマネージメントの方法論は通用しないのだと述べた。
これまでのオートメーションは、例えば「家事を楽にする」という考え方が軸にあり、それは自動化であった。
しかし、こうした「家事からの解放」は必ずしも人を幸福にはしない。実際、電子レンジやフードプロセッサーなどの自動機器が増える中、レストランさながらの料理に挑戦する人も増えている現状を見ればうなづけるだろう。
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Home XのAIは、「デザインシンカー」
ここで、馬場氏より、Home XのAIが、「デザインシンカー」であるという考え方が披露された。「デザインシンカー」とは、デザインシンキングのアプローチで課題解決をするヒトのことだが、これをHome XのAIがやるのだという。
もう少し解説すると、睡眠を客観的に観察、共感し、リフレーミングしていくと、入眠のタイミングや入眠のやり方をかえる方法が見えてくる。こういったデザインシンキング的アプローチでヒトを観察すれば、客観的に状況を把握し、イテレーションすることも可能になるという考え方なのだ。
これまでのスマートホームは単に「これまでの家電」を「コネクト」しただけのものだが、それでは体験(エクスペリエンス)は改善しないのだ、と馬場氏は言う。
一方、濱田氏はメルカリにおいて、今後の自社の取り組みについて、2030年頃までに起きると言われているテクノロジーの進歩をプロットし、それぞれのタイミングで自社がどうなっているべきかということについて深く議論を進めたのだと言う。
自動運転が実現したらどうするのか、スマートシティが実現したらどうするのか、といったようにだ。
「売ることを簡単にする」という軸はずらさず、テクノロジーの進歩をどう取り込んでいくかを先読みすることで未来予測をしてくというのだろう。
実は良いモノはあるが、売り方がよくないのではないか
次に、玉川氏より「K-POPアイドルなどは、売り方が非常にうまい」という例をあげ、実は日本からも良いプロダクトは登場しているが、売り方が上手くないために広がっていないのではないかと言う問題提起がされた。
それに対して、馬場氏は「本当に世界一になるのだ、と目指すことが重要だ」と述べた。世界一を本気で目指すことで、目線が上がり、何をすべきかと言うことに関してもあらゆる手段を考えるようになるからだ。実際、緻密な計画は必要になるとはいえ、そもそも世界を目指さないような企業に身を置くべきではないとも述べた。
濱田氏からは、メルカリ創業者は「米野球での野茂投手のように、先駆者になりたい」と言っているのだという話が披露された。野茂選手が米国で活躍した後、日本人選手が米国でどんどん活躍しているが、そのような存在になりたいというのだ。
実際、プロダクトを作る環境自体は揃っていて、比較的簡単にモノづくりが始められる時代になったからこそ、メルカリのような「売ることを簡単にする」という軸を、世界に向けてうちだしていくことが重要なのだろう。
川島氏からは、「ちょっといいものを作るのではなく、本質的なことを大事にしなければならない」「プロダクトは、批判にさらされたり、売り上げが上がらなかったりと、苦難がいっぱいあるのが、信念があることで乗り切れるのだ」と、ここでもプロダクトの軸をどう定義するかが重要だと述べた。
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プロダクトを作る、ヒト、パッション、チーム
玉川氏からの「日本には優秀なエンジニアが多くいるのに、プロダクトが生まれる絶対量が少ない」という問題提起の下、そもそもなぜ、そういう状態になっているのかという投げかけがされた。
それに対して、馬場氏は「そもそも子供の頃は何らかのモノづくりへの欲求がある。パナソニックの若者も何かを作りたいという情熱をもったメンバーは多い。その情熱を殺さないようにすることはできるはずだ。」と述べた。
情熱を殺さないようにすると言っても簡単にいくのだろうか。具体的にどういう環境であれば情熱は生き続けると言うのだろう。
これに関して、過去いた企業において閉塞感を感じていたり、一所懸命に仕事に取り組んでいたとしても、「うまくいっている、貢献できている」と感じることが難しい時期があったが、ソラコムを起業する前の前職のAWSでは、「うまくいっていると感じることができた」と玉川氏が自信の経験を振り返ったところ、「成長企業にいることで、人は成長していく」と、馬場氏からのアドバイスがあった。
また、川島氏からは、Google Earthなどを立ち上げたGoogle創業時の0→1人材が、Googleの成長とともに居心地が悪くなり、独立組織として創業当時の0→1人材が集めてナイアンティックが創業されたのだ。と説明した。
成長企業であるというだけでなく、尖った人材を集めることも欠かせない。
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今後のプロダクトづくりのあり方
今回のパネルディスカッションで浮き彫りにされたのは、まず、プロダクトづくりは、何を作るかにおいて、「軸」が重要であるということだろう。
その上で、今後のプロダクトは、ハードとソフト、ネットワークで構成されていくわけだが、既存の体験をアップデートするには、既存のハードの上にソフトを乗せただけのモノをつくるのではなく、ヒトを中心として根本的なアーキテクチャー部分でソフトウエア開発のアプローチで進化させるような取り組みが重要となるといえる。
さらに、プロダクトマネージメントの手法も、これまでの成功体験から脱却し、新しい手法を取り入れていくことが重要でとなる。
最後に、結局モノを作るのは、ヒトであるので、優秀な人材を逃さないためにも、世界を志向すること、作りたいと言う欲望を潰さない、というマネージメントも重要となる、ということがわかった。

