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IoTによって業界の境目がなくなる時代 ー八子知礼×小泉耕二【第11回】

IoTによって業界の境目がなくなる時代 ー八子知礼×小泉耕二

IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では、第11回をお届けする。

企業というものは、製造業、運輸業、医療業といった、何かしらの「業界」(産業)に位置付けられていることが普通である。

しかし、すべてのモノがつながるIoT時代には、その業界の境目がなくなっていく。そんな未来をわかりやすく示したのが、トヨタの「e-Palette」構想だ。

「e-Palette」はいわば、「自動運転で走る電気自動車(EV)」の姿をした「移動する空間」のことだ。企業はその空間を使って、飲食店やカラオケ店を営んだり、オフィスを貸したり、3Dプリンタで製品をつくったり、マッサージを提供したり、何をしてもいい。

先月、トヨタとソフトバンクが設立した「モネ テクノロジーズ」は、そうした「e-Palette」を使った新しいサービスを開発するためのプラットフォームを提供する企業である。

これまでは移動手段に過ぎなかったクルマが、各業界の多様なサービスを提供する場となる。しかし、そうした構想はクルマに限った話ではない。もしかすると、IoTがさらに進んだ時代においては、クルマはそのほんの一部なのかもしれない。

今回、第11回目となる八子知礼×小泉耕二の放談会では、業界の境目がなくなるとはどういうことなのか、クルマ以外に業界の境目がなくなることによって生まれるサービスにはどのようなものがあるのか、議論した。

「健康」から考える、業界の境目がなくなる必然性

小泉: 今回は11回目の放談会となります。前回と前々回は、プラットフォームやデータ活用の話をしました。

そして、先月の初め(10月4日)にはトヨタとソフトバンクの提携の話がありました。業界の境目がなくなり、従来の「移動」の世界が大きく変わっていくことを示したニュースだったと思います。

そこで今回は、そうした業界の境目がなくなるビジネスの例について、クルマ以外の分野についても議論していきたいと思います。八子さんは、何か注目している分野はありますか?

八子: 「健康」の分野ですね。私は、自分の健康状態をずっとフィットビットで見てきています。ところが、「歩数」や「睡眠時間」のデータが取れていることはありがたいのですが、結局はなかなか痩せません。

小泉: (笑)

八子: 食べすぎという面もあるとは思いますが、どれだけ食べたのかが(データとして)わからないというのが、悩みどころですね。

つまり何を言いたいのかというと、「健康」の状態を管理するには、「食べる」「運動する」「寝る」といったヒトの一連の行動が関わってくるので、ある一面だけを切り取っても意味がないということです。

小泉: 逆に「食べる」ということの視点から見た場合には、その目的が「楽しく生きること」だとすると、それは食事だけの問題だけではなく、「睡眠」や「運動」も絡み合ってくることになりますね。

八子: そうです。物理的な「食べ物」のみならず、その人が置かれている「ストレス」の状態なども含めてチェックをしないと、結果として健康な生活が実現し、高いパフォーマンスが発揮できるみたいな話にはならないでしょう。

ですから、「健康」一つとってもさまざまな要素が絡んでくることになり、結果としてそのサービスを提供する企業も複数社がクロスすることになるのは必然的なことなのだとわかります。

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業界を意識しすぎないことで、新しいビジネスが生まれてくる

小泉: もう少し具体的な話に踏み込んでいきたいと思います。健康に関しては、まず、フィットビットで「睡眠」や「運動」のデータを取得することができるということですね。

八子: はい。さきほどは個人の生活をベースに話をしましたが、工場や建設現場で働いている方の健康やストレスの状態も、フィットビットなどのウェアラブルデバイスを使って管理・監視していこうという話を最近よく聞くようになりました。

小泉: そうですね。建築現場の場合だと、その目的は「安全・安心」に見えます。コンシューマの場合とは全然違う話のように思えますが、実際は一つのウェアラブルデバイスで可能になるわけですよね。

八子: 前回もデータ流通の話をしましたが、データをベースにしたビジネスの場合には、その上にのってくるサービスが異なる業界のものだったとしても、その業界の境目を飛び越えてデータを活用することができます。

すると、個人の生活と仕事の区分を意識する必要がなくなってくるというのは、色々なものがつながるIoTの時代には当たり前の方向性なのかなと思います。

小泉: 業界の境目とは、具体的にどういうことでしょうか。

八子: たとえば、ウェアラブルだと、状態を可視化するためのデバイスです。しかし、小泉さんがさきほどおっしゃった「食べる」という切り口からすると、「保険」、「医療」、「ヘルスケア」などの複数の業界が関わってきます。

従来であれば、「飲食」と「ヘルスケア」は分かれていたわけですが、今は健康を維持し、個人のパフォーマンスを発揮するという目的で考えると、「健康」や「食事」、「安心・安全」はすべてつながってきます。

ですから、これまでのような業界の境目を意識した取り組みに固執し続けると、事業の方向性を見誤ることになります。

株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー) IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

小泉: これまでは「飲食向けソリューション」や「医療向けソリューション」のように各企業が業界別にがんばっていましたが、今後は、それらがすべて裏でつながっていないと価値が出ないということが起こりうるわけですね。

八子: 業界に特化したサイロ型のビジネスモデルだと、集まってくるデータはきわめて限定的です。

ところが、さきほどの話のように、データを集めること自体が目的ではなくて、パフォーマンスを管理する、安心・安全を担保するといった目的を満たそうとすると、業界にあまりこだわらないようなデータにも手を出さざるを得ないんです。

「私たちは飲食だから」、「私たちは保険だから」と業界にこだわってしまうのでは、ナンセンスなのかなと。ヘルスケアや医療のみならず、たとえば土木建築においても、建物をつくる、地面をならすということはもちろんのこと、災害が起きた場合にはどのように復旧するかということは、都市計画などにも関係してきます。

トヨタの「e-Palette」の話においては、不動産のビジネスをしている方たちが不動産を持たなくても新しいビジネスができる可能性もあります。業界をあまり意識しないことで、色々なビジネスのチャンスが生まれてくることになります。

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喫茶店とコンビニに見る、業界の境目

小泉: さきほどの、「不動産」の例について詳しく教えてください。

八子: 英会話やマッサージ、飲食などのサービスがクルマの中でオンデマンドに提供されるようになると、「部屋」という物理的な資産を持たなくてもいいということになるということです。

小泉: そうすると、サービス事業者は不動産から「部屋」を借りるだけでなく、クルマを借りるということも選択肢に入ってきますか?

八子: そうです。企業は、業界の垣根を越えた領域でどのようなサービスが提供できるのか、あるいは現時点で機会損失になっている既存事業に対して、今すぐオンデマンドでサービスを提供するには何をしなければならないかを考えていった方がいいですね。

小泉: コンビニエンスストアは最近、飲食スペースを出すことが多くなってきました。これまでの小売店ではありえないことですよね。何なら、「家に帰って食べなさい」と子供が親に怒られたりしていた話です。それが今は、コンビニの中で飲食する方がむしろ普通です。

今後はそれがコンビニどころか、クルマの中にコンビニが入っていて、その中で飲食をしてしまうということになりそうですね。

株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

八子: モビリティの話をいったん置いておくと、コンビニの中でも「〇〇カフェ」というように、普通にコーヒーが提供されています。これについても、ある意味、境界はなくなっているわけです。おしゃれなカフェでなくとも、コーヒーを飲み終わったらすぐに出たいというビジネスマンにとっては、「コンビニでいいじゃん」ということになります。

小泉: 喫茶店とコンビニの境目がなくなっているわけですね。

八子: これはファシリティが共通化されるという意味での「境目がなくなる」事例ですが、データを活用してもっと境目を無くすというアプローチもあるでしょう。

特に日本国内において、コンビニやガソリンスタンド、ドラッグストアに関しては、これまで別々の業界に分かれていたサービスをまとめて提供し、ユーザーの機会損失をなくすという方向にますます進んでいくと思います。

小泉: 進みますよね。今は物理的なスペースについて無駄を省きましょう、なるべく機会損失をなくしましょうという話ですが、そこにテクノロジーがかけ算されることによって、もっと人の生活そのものが変わっていきそうです。

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すべてがサブスクリプションになる

八子: 「カフェ検索」というサービスがあったとしても、今だとカフェは出てくるでしょうが、コンビニの併設店は出てきません。

ところが、ニーズによってはそれが出てきても当然、構わないわけです。たとえば、「電源カフェ」のように電源があり、座って仕事ができる場所を求めている人たちからすると、スターバックスでもエクセルシオールでも、コンビニでもマクドナルドでもいいのです。

小泉: 法律の問題をいったん置いておけば、家の庭でカフェをやったっていいわけですからね(笑)。

八子: 小売・流通において、かつてはカテゴリー別にあった色々な機能が、今後は「アグリゲーター」(ヒトを集めるスキルを持った人たち)を中心に再配列されていくということはあるでしょうね。

ヘルスケアのような領域においては、「そこが可視化されていなければ、私たちのパフォーマンスが担保されない」というような要素は当然関わってきます。

あと、最近よくご相談されるのが、コンピュータのエネルギー消費量を可視化したいという話ですが、その場合には、情報の処理量に対して課金をするのか、コンピュータそのものに対して課金をするのか、ベーシックな電力量に対して課金するのか、あまり境目がないですよね。

小泉: 確かに、これまでは電気代を払って、コンピュータを買って、アプリケーション費用を払うということでしたが、クラウドの社会になってくると、何にお金を払っているのかよくわからなくなってきます。

八子: オールインワンであれば、課金の対象が電力なのか、通信費なのか、クラウドなのかはあまり問われません。

小泉: クラウド事業者からすると、努力して電力消費量を削減すれば、消費者に請求する金額も変わってきます。

八子: いわゆる「サブスクリプション」のモデルが、「境目がなくなる」ことを消費者にとってわかりやすく示したモデルです。これからはさらにB2Bのプレイヤーにとって最も「アウトカム」(成果)につながるかたちで費用の問題を再定義できるのであれば、あまり業界にこだわらずに幅広いサービスが提供できるでしょうね。

小泉: なるほど。八子さんは随分と前から、IoTによって業界の境目がなくなっていくだろうと提唱されてきました。ここにきて、やはり進んできたという印象ですか?

八子: そうですね。ようやくそういう時代がきたかなという実感があります。

小泉: これからは一層、既存の業界にとらわれずに、もう少し広い範囲で、日々の情報をウォッチしていく必要がありそうですね。本日はどうもありがとうございました。

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