業界を意識しすぎないことで、新しいビジネスが生まれてくる
小泉: もう少し具体的な話に踏み込んでいきたいと思います。健康に関しては、まず、フィットビットで「睡眠」や「運動」のデータを取得することができるということですね。
八子: はい。さきほどは個人の生活をベースに話をしましたが、工場や建設現場で働いている方の健康やストレスの状態も、フィットビットなどのウェアラブルデバイスを使って管理・監視していこうという話を最近よく聞くようになりました。
小泉: そうですね。建築現場の場合だと、その目的は「安全・安心」に見えます。コンシューマの場合とは全然違う話のように思えますが、実際は一つのウェアラブルデバイスで可能になるわけですよね。
八子: 前回もデータ流通の話をしましたが、データをベースにしたビジネスの場合には、その上にのってくるサービスが異なる業界のものだったとしても、その業界の境目を飛び越えてデータを活用することができます。
すると、個人の生活と仕事の区分を意識する必要がなくなってくるというのは、色々なものがつながるIoTの時代には当たり前の方向性なのかなと思います。
小泉: 業界の境目とは、具体的にどういうことでしょうか。
八子: たとえば、ウェアラブルだと、状態を可視化するためのデバイスです。しかし、小泉さんがさきほどおっしゃった「食べる」という切り口からすると、「保険」、「医療」、「ヘルスケア」などの複数の業界が関わってきます。
従来であれば、「飲食」と「ヘルスケア」は分かれていたわけですが、今は健康を維持し、個人のパフォーマンスを発揮するという目的で考えると、「健康」や「食事」、「安心・安全」はすべてつながってきます。
ですから、これまでのような業界の境目を意識した取り組みに固執し続けると、事業の方向性を見誤ることになります。

小泉: これまでは「飲食向けソリューション」や「医療向けソリューション」のように各企業が業界別にがんばっていましたが、今後は、それらがすべて裏でつながっていないと価値が出ないということが起こりうるわけですね。
八子: 業界に特化したサイロ型のビジネスモデルだと、集まってくるデータはきわめて限定的です。
ところが、さきほどの話のように、データを集めること自体が目的ではなくて、パフォーマンスを管理する、安心・安全を担保するといった目的を満たそうとすると、業界にあまりこだわらないようなデータにも手を出さざるを得ないんです。
「私たちは飲食だから」、「私たちは保険だから」と業界にこだわってしまうのでは、ナンセンスなのかなと。ヘルスケアや医療のみならず、たとえば土木建築においても、建物をつくる、地面をならすということはもちろんのこと、災害が起きた場合にはどのように復旧するかということは、都市計画などにも関係してきます。
トヨタの「e-Palette」の話においては、不動産のビジネスをしている方たちが不動産を持たなくても新しいビジネスができる可能性もあります。業界をあまり意識しないことで、色々なビジネスのチャンスが生まれてくることになります。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。