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MaaSを8人が語る。Mobility大航海時代の到来 〜八子クラウド座談会レポート(前編)

株式会社ウフル チーフ・イノベーション・オフィサー IoTイノベーションセンター所長 兼 エグゼクティブコンサルタント八子知礼氏

4月13日(土)、八子クラウド座談会運営メンバーが主催する八子クラウド座談会がウイングアーク1st株式会社にて開催された。

今回で、30回目を迎える八子クラウド座談会は「MaaS特集 〜Mobility大航海時代の到来〜」と題して登壇者に8名を招いた、総勢120名超が参加した大規模なイベントとなった。八子クラウド座談会は、2010年3月から9年間続いているクラウドの勉強会・コミュニティで、おおよそ4半期に1回程度のサイクルで開催されている。当座談会は、第1部プレゼンテーション、第2部パネル討議、第3部ワークショップ、第4部LTで構成されており、当レポートでは、第1部を前編、後編に分けてレポートする。

キーノート「MaaSと自動運転で変わる世界」 -株式会社ウフル チーフ・イノベーション・オフィサー IoTイノベーションセンター所長 兼 エグゼクティブコンサルタント 八子知礼氏

会場内の参加者も様々な移動手段を用いている
会場内の参加者も様々な移動手段を用いている

今日、この会場にどのような交通手段を使ってやって来たか、冒頭で八子氏から参加者へむけて交通手段の問いかけから座談会はスタートした。会場全体の7~8割は地下鉄で、残りは、タクシーや自転車、徒歩という分布であった。では、この中で乗り換え案内アプリを使用した参加者は?地図アプリを使用した参加者は?と質問が続く。

さて、この乗り換え案内アプリと、地図アプリは1つのアプリで一括検索できただろうか。使用されているアプリの多くは、地図アプリは地図機能のみで、乗り換え案内アプリは乗り換え検索機能のみではないだろうか。さらにアプリだけではない。

たとえば、交通手段として自転車と車をレンタル予約しようとする。レンタカーと宿を同時に予約するサービスは提供されているが、複数の交通手段を同一サービス内では予約できるようなサービスは提供されていない、と八子氏は述べた。

MaaSとはなにか

MaaSとは、「Mobility as a Service」の略で、移動のサービス化を意味している。すべての交通手段を異なる移動手段としてではなく、1つのサービスと捉え、異なる場所を異なる移動サービスでシームレスにつなぐ移動サービスを目指すことを指す。

物流業界ではすでに、マルチモーダルという複数の輸送手段をまたいで輸送する概念が20年ほど前から提唱されており、ICTをフルに活用したプラットフォームとしてのMaaSは「Whim」(MaaSGlobal社が提供するサービス)がフィンランドで2015年にリリースされている。現在、欧州含め北米でもサービスは多数展開しているが、都市をまたぐサービスはまだ少ないとのことだ。

CROSS視点でのビジネスモデル

これからのビジネスモデルは、CROSS視点でビジネスを考える必要性がある

八子氏は、新しくビジネスを創出するにあたって考えなければならないポイントは何か、ということについて5つの視点をもってビジネスモデルを考慮していく必要があると述べた。それは、産業の境目がなくなるという視点であったり、リソースのシェアという視点であったり、もしくは、スマホのようにビジネスも同様にアップデートするもの。そして、シミュレーションする必要があるといった視点だ。

自動運転を見据えた未来

空間ビジネスの発展というのは、5Gで加速するといわれているが、そうなってくると車の中に様々なエンタメを持ち込むことが可能だ。

MaaS時代の小売り流通業は、いままで店舗でやっていたビジネスはすべて車が解決していくことになるだろう。移動型の店舗はすでに存在しているが、商材・素材を運び、提供するということが今後は当たり前になってくる。

今後、モビリティ(様々なリソース)とシティ(インフラ、不動産など)は固定化されなくなってくるため、流動化するということが前提となる。そうなれば、より他業種との融合であったり、固定サービスと各種リソースのマッチングが必要となってくるのは言うまでもない。

いままでの産業構造は根本的に確実に大きく変化していく、そういった世界観をふまえて残りの登壇者の話を聞いてほしいと八子氏は締めくくった。

次は、野辺継男氏による「自動運転時代を見据えたMaaS市場でのビジネスチャンス

自動運転時代を見据えたMaaS市場でのビジネスチャンス ―名古屋大学 客員准教授(インテル株式会社 事業開発・政策推進ダイレクター、チーフ・サービス・アークテクト) 野辺継男氏

名古屋大学 客員准教授
(インテル株式会社 事業開発・政策推進ダイレクター、チーフ・サービス・アークテクト)
野辺継男氏

最初に、自動運転の動画を示しながら、野辺氏は株式会社ティアフォーという日本のスタートアップ企業のソリューションの説明をした。

自動運転とはなにか

株式会社ティアフォーの自動運転技術についての解説

画面の青い部分は、「車が見える部分」であり、実はその他は見えていないのだという。しかし、車はスムーズに走っている。その仕組みは、簡単にいうとセンサーで三次元の地図をリアルタイムに作っているからだそうだ。

LIDARと呼ばれる光を用いたセンシング技術で、周囲にむけてレーザーを照射する。そして、その反射した光の速さや場所といった要素から、対象までの距離やその対象物が一体どのよう性質かを分析するといったものだ。それを無数に繰り返していくとレーザーによる点群が形成され、そして既存のナビの地図と重ね合わせることで、車が走る先の地図を作っている。今後は、このソリューションを通して、より多くのユーザーからデータを収集し、三次元の地図をアップデートしていく予定とのこと。

そのため、今後のデータというものはよりリアルタイム化が進み、どこで曲がるか、車線変更をすべきか、また信号は赤か、青かといったことまで取得した画像から計算しなくても、三次元空間にマッピングした地図が教えてくれるそうだ。

自動運転の実現性

自動運転の実現性は車が走行する場所によって実現レベルが変わってくる

自動運転は場所によって技術がそれぞれ異なっている。当初は、高速道路が交差点や、信号を見る必要がないであろうといった理由から自動運転実現が生活道路に比べて容易ではないかと考えられていた。しかし、2016年ごろになると、ディープラーニング技術が進み、画像認識が正確になり、人間の動作や人間の作業、そして人間が運転しているように運転できる可能性が見えてきた。

生活道路で自動タクシーを運用するのは、道路の障害物や目印となるような道路の白線もないことなどから難しいのではといわれていた。が、最寄りから家までといった範囲を限定し、3次元の地図を作って自動車に学習させる。エリアを限定すれば、その範囲内だけで自動運転できればいい。そのため、高速道路を走るより実現可能性を帯びてきたというわけだ。

ここで問題なのが、オーナーカー(半自動運転)の仕組みの難しさだ。

たとえば、自動運転が可能な範囲外へ出る場合、完全に全地域が自動運転できるようになるまでは、人がどうしても運転しなくてはいけない。人が運転するモードと自動運転のモードの切り替えは非常に難しく、正しく人が運転するモードに戻すことはもちろん、事故が起きたときはどちらのモードであったか、正しくモード変更できていたかという証明が必要となる。このような条件から、商用化まではまだしばらく時間がかかりそうとの見解を野辺氏は示していた。

これからの自動運転とサービス

そういったこともふまえ、現在一般のユーザーに売るような車の自動運転は停滞しているようだ。完全に人間が運転に介在しないというパターンの自動運転がターゲットになっているため、利便性も含めてかなり変わったサービスが提供されることになるだろう。

そこで供給されるのは、Uberやタクシーといったモビリティ事業者がモビリティサービスのために提供するような自動運転だ。

現状、個人が所有している車は4%しか稼働していない。これがタクシーのように常に稼働する状態となれば、稼働率が10倍になる。そのため今までの車は12年間ほどの耐久性があったが、稼働率が上がると1、2年で壊れてしまうであろうといわれている。

つまり、車もスマホと同じようなライフサイクルたどることになる。中古車でコンピュータや、通信機器類が内蔵されたものは新しいものにするとなれば機械自体を買い替える必要があった。しかし、これからは後でソフトウェアでアップデートするということが可能になるため、モビリティ事業者に向けたサービス提供は活発化するだろうと野辺氏は述べた。

モビリティサービスが、人・物・エネルギーを運ぶ

MaaSの典型例といえばUberだが、Uberのやっていることは何かといえばSNSのような「乗りたい人と乗せたい人」のマッチメイキングだ。

乗りたい人のアプリから、ここに行きたいと指定すれば、その人のサービス評価(口コミ)と、次に行く方向が最適なドライバーをアサインしてくれる。アサインされると、グーグルマップも同時に起動していて、ここでこの車に乗ればいいというのがわかるというものだ。
そして、指定の車に乗車し目的地に着くころには課金が終わっている。

鉄道やバス、バイクやスクータのいる位置を把握できればいろんな移動体を組み合わせて、最適、最速、最安といった、いろいろなオプションとして提供ができる。さらには自動運転車がEVになれば、今後の再生可能エネルギーも蓄電池として供与することができる。

人と物とエネルギーを運ぶということをマネジメントするのが、これからのMaaSサービスになるというのが重要なポイントだ。それらの流れを把握できれば、都市計画にもつながり、MaaS事業は非常に重要な位置を占めるといえる。

モビリティサービスのニーズの背景

MaaSは海外ではすでに9兆円程度投資されており、無視はできない市場規模にまで成長している。主な投資理由としては、都市への人口集中があげられる。

スマホを使えばタクシーの乗り捨てができる、自動運転であれば人手不足の解消ができる。もしくは、ライフラインの確保や、社会コストの低減。また、空気汚染をこれ以上多くしないであったり、また車による渋滞解消など。様々な理由が先進国はもちろん、新興国においてもこれらのMaaS的ソリューションがどこの国でも必要になってきている。

たとえば、人がどこかに行きたいとすると、バスや地下鉄、タクシーなどのリアルなデータを複製してデータセンターへもつことで、それらを組み合わせてスマホがインターフェースとなり多様に、かつ最適なオプションを提示して利用者は選ぶことができ、課金もされる。このような形でサービスが提供されれば、非常に簡単にそして移動自体もとても楽になるため、市場は拡大されるであろうと考えられる。

Eスクータの例をあげれば、日本でようやく認可されてきたものの、既にアメリカでは急激に市場が拡大しており投資がされている。MaaSが都市計画に関係しているという説明になるが、アメリカの五車線ある道路すべてに走ってしまうと渋滞する。しかし真ん中の道路をバス、自動運転、一部を普通の車、人や自転車にすれば、1時間当たりの人の流れや道路の許容量が2、3倍上がるといわれている。

スマホの重要性

車は現在世界で12億台存在しており、スマホからアクセスできるユーザー数が2017年で33億人。2025年には車は2億台までしか増えないが、スマホユーザー数は50億人になるとされている。今は所有がメインであるため1人1台で12億台だが、今後増えた2億台は20億人にシェアされる可能性がある。20億人のシェアはスマホのインターネットアクセスの拡大に伴って、スマホを経由した車の共用利用の可能性が今後生まれてくる。

加速度の情報に磁気情報を加えればほとんどの交通手段を判別することができる

スマホがインターフェースとして多様に活用されるであろうことは既に話したとおりであるが、さらにここで重要なのはスマホはセンサーの塊だということだ、と野辺氏はつづけた。スマホには、非常に様々なセンサーがあり、これを使って車にいる人が加速度センサーを使うと、何に乗っているか判別することができる。

たとえば、鉄道の場合は加速度の変化はなく一定だ。徒歩は一歩一歩歩くため、遅くなったり早くなったりと加速度に偏りがでている。乗用車やバスは、止まってなにかをしたいときに加速度の変化が起こるため、これで交通手段の見分けはつく。ただし、バスと乗用車は見分けがつきにくいため、電磁波の要素を加えるとバスは電磁波を多く放つが、車は電磁波を抑えてあるため判断がつくようになる。今のコンピュータやスマホは高度化していて、何に乗っているかは明確にわかるという。

ここで重要なのが、任意の3人が同じ移動をしていれば、鉄道かバスに乗っているのではないかという推測がつくということだ。たまたま同じタイミングで同じ道を歩く、走ることはありえない。つまり、同じ道をたどっているということは同じ交通手段を使っているということが考えられる。これをふまえると鉄道、バス会社からバスの現在位置のデータ取得できなくても、時刻表と照らし合わせるとどの交通手段でどのどの時刻のものに乗車していたかがわかるという。

サービスプロパイダの台頭

自動車産業はアナログなものづくりだ、野辺氏は最後にこう語った。エンジンのパフォーマンスを高めるのは、匠の技術であるが、コピーしても第三者が全く同じパフォーマンスを出すことはできない。エンジン自体を作りこんだり、大量生産する能力が企業の競争力を与えたといえる。

それがデジタルになるとソフトウェアはその代表だが、コピーすれば全く同じに動く。誰かがいいものを作ったら、それを使わせてもらうのが一番効率的だろう。それより先のものを次に開発すること、大量生産ももちろんコピーすればいいが基本はユーザに近いところと、センサーの能力を高めるといった基礎技術が付加価値を高めることになる。

今までは自動車産業ではOEMがトップに立っていたが、今後MaaSの世界で誰がトップになるかというと、サービスプロバイダーだろうと予測している。これが常にユーザを分析して、ソフトをアップデートしユーザを引き付け、ユーザを増やし、何を作ればいいかが分析ができている。商品定義などはIntel、NVIDIA、Googleなどがもう実際に取り組んでいる。OEMを車屋さんがやっているとサードレイヤに終始してしまうと野辺氏は締めくくった。

次は、篠原徳隆氏による「最前線の当事者が語るMaaSのトレンドと取り組み方

最前線の当事者が語るMaaSのトレンドと取り組み方 ー株式会社ヴァル研究所 事業統括本部 プロデューサー 篠原徳隆氏

株式会社ヴァル研究所 事業統括本部 プロデューサー 篠原徳隆氏

株式会社ヴァル研究所(以下、ヴァル研究所)は、1988年に乗換案内ソフト「駅すぱあと」を開発し、近年では法人向けに「駅すぱあと」機能を提供するAPIなどのサービスを展開している。当ソフトウェアは、2018年に、「LONG LIFE DESIGN 2018賞」を受賞した。

移動におけるシームレスとはなにか

シームレスに移動すると言うと何を想像するだろうか。

たとえば、乗り物の乗り降りにおいてバリアフリーであるという物理的な条件。たとえば、スムーズな待ち時間なしの乗り継ぎであったり、また電車の混雑時に、事前にその情報を入手し回避することに加え最適な代替ルートを提示してもらえること。また、乗り換え時に迷うことなく、乗り換えの乗り場に到着ができる。そして、別会社の別路線に乗り換えたとしても切符の購入や手配の必要がなく、決済における手間がかからないといったことが考えられるのではないだろうか、と篠原氏は述べた。

MaaSにおけるレベル定義は5段階に定義されている

MaaSにおけるレベル定義は5段階に定義されている。
移動におけるシームレスを実現するためには、その「Maasのレベル1を進化させる」ことが必要ではないかと篠原氏たちは仮定し、取り組んでいるとのことだ。

経路検索のシステムのイメージは、駅と駅を結ぶネットワーク上に、時刻表という静的なデータを乗せるというものだ。とはいうものの、実際にはダイヤの乱れ(人身事故や、混雑における遅延)が現実世界では常におきている。そのため、リアルをつなげて初めてモビリティ全体の価値を高められるのではないかと篠原氏は述べている。

マルチモーダルな経路案内とは

リアルは常に定めた予定通りには進んでおらず、様々な要因によって状況は刻一刻と変化していく。今、どのように移動するのがベストかということもその要因よって変化していくはずだ。実際にリアルをつなげるために、必要な考え方のヒントとして2点解説があった。

MaaSレベル1の進化にむけて

MaaSLv.1を進化させるためポイントについての解説

では進化させる、と一言で言ってもなにを考えるべきなのだろうか。
そもそもリアルタイムデータへの取り組みが前提となってくるはもちろんのこと「予定」(時刻表)ではなく、「今」(運行状況)を発信することが必要となる。ただし、「今」だけを発信すればよいわけではなく、「予定」との組み合わせがあって初めて現実世界がシームレスであるといえる。

情報をリアルタイム化し、さらにそれを連動して初めて真の価値が得られるというわけだ。例えば、バスから電車乗り換えする予定の場合、電車だけ動いていないということが実体験上でないだろうか。こうした2種類の交通手段を連動させることで、はじめてその交通手段が最適かどうかということが判断できると篠原氏は言った。

リアルタイムにするのはなにも情報だけではない、と篠原氏は続けた。飲食店超直前予約サービス「トレタnow」を事例にあげ、「目的」もリアルタイム化する必要があるのではないかという問いかけもあった。

「トレタnow」は、現在地から徒歩約10分圏内のエリアで、最短で10分後に入れる飲食店を予約できるサービスだ。アプリを立ち上げて、人数を選択し「近くのお店を探す」をタップすれば、入店可能な飲食店の情報が表示される。

様々な飲食店予約サービスは、店側がテーブルの空き状況を把握し更新する必要があったため、リアルタイム性がなくまた予約サービスを併用している場合の連携はされていない。そのため、「食べたいとき・飲みたいときにすぐ店に入りたい」といったニーズに素早く応えることができていなかった。

こうした「目的」でさえもリアルタイム性をもたせることで、目指すべきシームレスを実現する可能性は広がる。これからは、商業施設、病院、区役所などでもMaaSが世界のインフラになりえる時代がやってこようとしている。

加えて、API化推進にも触れられていた。WEB連携であったりアプリ間での連携を行うといったことは、シームレスとは言いにくい。本来はAPIを使用して、自動化・半自動化を実現してしまうことがより良いシームレス化であるといえる。APIを公開することのメリットとは何かというと、外部の様々なサービスが繋がることができ、そこからさらに、チャネル獲得や新しい価値の創造が可能となるところにある。変化に対応できる動的、そしてつながる世界を作り出すことがこれからの課題であり目指すべきポイントだ。

パーソナライズのためのビヘイビア分析

ビヘイビアの分析とは、ユーザーの行動(いつ、どんな、どこへ)を分析するものだ。
ユーザーデモグラフィック(性別、年代、地域、仕事など)という軸で分析するのではなく、ユーザーの使い方であったり頻度といった行動要素で分析し、そして新しさを加えた経路の価値を示すことが必要があると篠原氏は提言する。

なかでも、特に必要ではないかと提言があったのが「楽」の再定義だ。

楽しい、なにも考えなくてよい、安全であるといった要素の再定義と価値を示すことが重要となってくるとのこと。そのためには、経路の検索結果に興味をもってもらう必要がある。もちろん人それぞれに価値観は違うため、ここでパーソナライズさせる必要がでてくるのだ。

ただ、そのためにはその構造を分析するデータが必要となってくる。Online merge Offlineといわれるオンラインとオフラインが融合するというマーケティングの概念があるが、移動・決済等の行動が行われれば、オンライン上で行動データが収集され蓄積される。そして、それがパーソナライズの元となるデータとなるいうわけだ。

その他、2019年のヴァル研究所が取り組み事例として、JR東日本や、静岡市、そしてIzukoという経路検索から予約と決済が完結する伊豆エリアのアプリについて紹介があった。

次は、成迫剛志氏による「MaaS

MaaS ―Design for ALL株式会社 取締役(株式会社デンソー MaaS開発部長 (兼)デジタルイノベーション室長) 成迫剛志氏

Design for ALL株式会社 取締役、株式会社デンソー MaaS開発部長 (兼)デジタルイノベーション室長 成迫剛志氏

Design for ALL株式会社は、もとは有志の団体であったが2018年に株式会社化した、サービスイノベーション創出の支援および、手法の提供などを行っている会社だ。

人の移動、モノの移動、事の移動(固定していたものが流動的になるということ)がこれから考えるべき「移動」である、と成迫氏は解説した。

ユーザーニーズはどこにあるか

成迫氏は、日本のシェアサイクルと中国におけるシェアサイクルを比較しながら、システム的に実現することが簡易であることよりもユーザーが一番便利な方法、使いやすい方法を考えることが何よりも重要だと述べた。シェアサービスを実現するためには、なによりもマインドセットを変えなくていく必要があるという。

たとえば、飛行機が遅延したときにその後に乗車する電車であったり、そのほか交通機関における予約も変更しなくてはならないが、それをすべて自動化させるといった具合だ。ヴァル研究所の篠原氏が講演した「楽」であるという考え方がまさに大切だと成迫氏は引用していた。

移動を人とモノで考える

移動というものを人とモノで考えるという切り口で考える

移動とは何か?を考えるとき、移動というものをヒトとモノで考えるという切り口で成迫氏は解説していた。

移動の種類の組み合わせは次の3つが考えられる。ヒト-モノ、モノ―モノ、ヒト―ヒトという組み合わせだ。

ヒトとモノであればモノを買いに行く、観に行く、届けてもらう、モノとモノであれば材料、加工する、組み合わせるといったもの、ヒトとヒトであれば、話す、顔を見る、交流するといった行動がある。なぜネットワークが発達したこの時代において、ヒトとヒトがなぜ直接会う必要があるのかということについて考えてみれば、理由は明確ではないものの顔をあわせることによる情報量が圧倒的であるということが考えられる。

自動運転がもたらすユーザーニーズ

では、ここで少し話題は変わる。ロボットタクシーの可能性についてフェルミ推定してみるとどうなるかという点について成迫氏は次のように推定できると述べた。

タクシーの料金75%は人件費で構成されている。つまり、絶対にぶつからない自動運転の車ができてしまえば、自動運転の車両費が差し引きされても初乗りがおよそ100円ほどになるのではないかというのだ。

ロボットタクシーの可能性についてフェルミ推定してみる

ただ実際に、ロボットタクシーでに乗り、たとえば無人店舗に行ってショッピングし、1人で食事するといった未来を考えてみてほしい。
少なくとも、人とまったく触れ合わずに過ごすということに少なからず抵抗がある人がほとんどではないだろうか。

移動サービスの要素をレンタカーの追加オプションで考えてみる

移動サービスの要素の例として、中国のレンタカー屋を取り上げていた。中国では国際免許が使用できないためドライバーをオプションとして選ぶことができる。では、この車を1台レンタルするとして、オプションの要素を様々な軸で考えると面白いのではないかと成迫氏は新たな視点を提示していた。

自動運転になったとき、本当に人がいなくてもいいのか?と考えると、先ほど述べたようにそうではない可能性がある。例えば、同乗してくれるアテンダントとして介護、子守りや話し相手といった様々なニーズにあわせた人が必要になるかもしれない。自動運転というのはあくまでドライバーがロボットということであり、さらにユーザニーズ起点、ユーザーにあったサービスを考えていく必要がある。

個別最適ではなく、全体最適を

ヨーロッパにおいて、カーシェアが世の中に出てくると、公共交通機関を使用する人がいなくなってしまったという例がある。そうすると車の数が増え、結果的に渋滞が発生してしまったという。中国では、ET都市ブレイン(アリババ傘下のアリクラウドが開発した人工知能交通ソリューション)では、ソフトウェアのみで交通信号を制御することによって、交通量を調整し渋滞が生じないようにしているといった例もある。

また、最近ではEスクーター(電動スクーター)が実用化されている地域においては、便利ではあるが乗り捨て回収のコストがかかってしまったり、死亡事故なども発生している。

ビジネスモデルとして成立するのか、ということはビジネスモデルを実際に描いてみる必要があり、ユーザがお金を払うモチベーションがわくか、また事業提供者がお金をもらってサービスを継続できるかというかということが重要である。

その他、Uber、UberEats、Amazon Delivery Service Partnerを例にあげ、新しいビジネスをMaaS、モビリティサービスのなかでつくっていければと締めくくった。

後編に続く

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