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大津市、MaaSによる比叡山への交通ルート一本化構想 ―スマート・モビリティ・チャレンジ・シンポジウム・レポート1

地方の過疎化・高齢化が進む現在、解決すべき重要課題が交通だ。

バスなどの公共交通機関は地方の高齢者にとって大事な移動手段だが、人手不足による路線廃止などの問題を抱える自治体もあるという。そして交通手段の不足は、経済振興を止めることにもつながってしまう。

一方で、高齢者が自力で運転するにしても、今年の春より60代以上のドライバーによる事故の多発に見られるように、高齢者の運転が引き起こす自動車事故が社会的な問題になっている。

こうした地方交通の問題を解消するために、経済産業省・国土交通省が2019年4月より「スマートモビリティチャレンジ」を開始し、同年6月21日に東京ミッドタウン日比谷にてキックオフシンポジウムを開催した。

この「スマートモビリティチャレンジ シンポジウム」では、経産省・国土交通省の支援を受けて新たなモビリティーサービスに取り組む5つの自治体が講演を行った。

今回は各自治体がそれぞれ抱える固有の交通課題に着目しながら、「スマートモビリティチャレンジ シンポジウム」における講演をレポートする。

「スマートモビリティチャレンジ」とは

まず「スマートモビリティチャレンジ」だが、これは新しいモビリティーサービスの社会実装に挑戦し、地方の移動課題および地域活性化に挑戦する地域や企業に対し、経済産業省と国土交通省が支援を行うという取り組みだ。

今回登壇する地方自治体は、事業計画策定や効果分析などに協力してもらうために経産省が選定した「パイロット地域」(13地域)か、全国のけん引役となる先駆的な取り組みを行うために国土交通省が選定した「先行モデル事業」(19事業)のいずれかに該当する自治体である。

大津市、市内バスの自動運転と比叡山へのケーブルカーをつなぐMaaSに取り組む―スマートモビリティチャレンジシンポジウムレポート1
経済産業省・参事官の小林大和氏

冒頭で登壇した経済産業省・参事官の小林大和氏は、「『スマートモビリティチャレンジ』は移動のみを単体で捉えて事業を進めるのではなく、観光や物流といった多様な経済活動と連携し、潜在需要を掘り起こし、地域全体を活性化するという、モビリティと非モビリティを掛け合わせたMaaS(=モビリティ・アズ・ア・サービス)が重要だ」と述べた。

小林氏によると、この取り組みは今年春から第1弾のトライアルを開始し、各自治体との課題整理とフィードバックを繰り返しながら、2022年以降には各自治体のサービスが全国に拡大できるように勧める予定とのことだ。

次ページは、「高齢化問題に対応する自動バス運転実証実験

高齢化問題に対応する自動バス運転実証実験

5つの自治体のうち、最初に登壇したのは滋賀県大津市の越直美氏だ。越市長は大津市と京阪バス・日本ユニシスとともに取り組む、自動運転バスによる中心市街地移動及び観光地周遊のMaaS実証実験について説明を行った。

滋賀県大津市の越直美市長

滋賀県の県庁所在地である大津市は人口34万人の都市であり、琵琶湖と比叡山という大きな観光名所がある。

越市長によれば、大津市が「スマートモビリティチャレンジ」に名乗りを上げた目的は2つあるという。

1つは超高齢社会における新たな移動手段とすること。

大津市の人口総数に対する65歳以上の割合は約26%と日本の各地方と同様、高齢化は進んでいる。

大津市といえば、今年5月に60代の女性が運転する車が保育園児らの列に突っ込み、16人が死傷するという痛ましい事故が起きたばかりだ。それだけに市民の交通事故防止への意識は高くなっているという。

だが一方で、車移動でなければ買い物や病院にも行けない地域があるという現状があり、どうやって高齢者が安全に移動する手段を確保するのかが喫緊の課題である、と越市長は語った。

大津市内で実証実験中の自動運転バス

これについて大津市では今年3月、すでに京阪バスと取り組んだ大津市街地での自動運転バスの実証実験を行っている。この時は実際に大津市民が試乗し、ブレーキの具合など乗り心地をテストしたという。

次ページは、「観光地における複数交通手段の一本化

観光地における複数交通手段の一本化

大津市の交通問題の2つ目は海外からの観光客への対応である。

大津市はここ4年で外国人の宿泊客が4倍に増えているという。しかし市街地の交通機関の便が悪く、琵琶湖や比叡山などの観光地へ行く際にも、電車・バス・ケーブルカーなど複数の交通機関を乗り継がなければならないなど、海外からの観光客にとって分かりづらい状態である、と越市長は述べた。

大津市におけるMaaS取り組みのエリア

そこで今回のチャレンジでは、スマートフォンのアプリを利用した交通ルートの一本化が構想されているという。

具体的には市内のバス、電車、比叡山へのケーブルカーの運行情報をアプリで連動させて、運行状況を一括で確認できるようにし、料金についてもバスからケーブルカーまでアプリ上で一括購入できるようにして、比叡山までの道のりを定額パッケージ化する、という案が出されているとのこと。

この一本化構想により、海外の観光客でも複雑な交通ルートを理解し、かつ料金の支払いもスマートになる、と越直美市長は話す。

次ページは、「観光サービスの充実を目指すMaaS

観光サービスの充実を目指すMaaS

越直美市長は大津市におけるMaaSの今後についても語った。

大津市は他自治体への拡大を目指す

まず目指すのは、ホテル・飲食店といった比叡山・琵琶湖周辺の観光施設との連携だという。これについてはアプリに対象店舗で使用できるデジタルクーポンを配信することを考えているとのこと。

交通の利便性だけでなく、観光地としての経済振興にもMaaSの取り組みをつなげようという狙いがあるようだ。

また、今回の取り組みを他自治体にも働きかけ、拡大させていく方針だという。特に比叡山をまたぐ京都市については、同じ観光都市としてMaaSでも連携を深めていきたいと、越直美氏は意気込みを語った。

経産省の資料によれば大津市のMaaS実証実験は2019年11月1日~11月30日を予定しているとのこと。大津市のチャレンジを推進する協議会には琵琶湖ホテルや平和堂(滋賀県を中心にスーパーマーケットなど小売業を展開する会社)などが名前を連ねており、これら地元の観光産業・小売業が連携しながらMaaSの構想を進めていく模様だ。

最後に「2020年には中心市街地から比叡山へのMaaSおよび自動運転を実用化したい」と今後の目標を語り、越市長は発表を締めくくった。

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