スマートファクトリーにおいて、「PoC」を意識した生産性の可視化ソリューションはこれまでも多く登場した。
現在、スマートファクトリーの本格導入が検討され始めている中、
- 電源の取得やネットワークの敷設、干渉の問題をクリアしたい
- 24×365操業を意識した、保守メンテナンス体制を引いて欲しい
- 可視化以外のことをやりたいと思った時の拡張性を確保したい
ということができるソリューションが望まれている。
今回、アドバンテックが開発した可視化のソリューションは、こういった本格導入を強く意識しつつも安価で簡単に導入できるものだという。そこで、アドバンテックのi Factory事業部 インダストリアルIoTグループ ディレクター 古澤 隆秋氏にお話を伺った。(聞き手、IoTNEWS代表 小泉耕二)
現場装置を触ることなく最短30分で立ち上がるIoTソリューション
小泉: まず今回開発したソリューションについて説明してください。
古澤: 今回作ったのは、日本の製造業の大半と言える、中小企業様向けの稼働監視のソリューションです。名前を「ノせるんです」とつけました。
IoTプロジェクトを進める上での中小製造企業様の困り事は、まず既存設備に配線工事を伴うセンサー等の追加工事をためらいつけたがらないということです。
また、IoTプロジェクトに関するノウハウの習得に費用と時間がかかることや、生産機械メーカーの技術契約上の制約や、また社内の生産技術の方とITの方との価値観の違いなど、壁が多く意見調整に時間がかかることです。
さらに、プロジェクトをスタートしようにもプログラミングの知識が必要です。しかし、プログラミング技術を持った人材を雇おうと思ったら、相当高い費用を払わなければいけなくなってしまいます。
また、いきなりクラウド上で可視化をするというのも難しく、まずはエッジ側でできることをお見せする必要があると思い、このソリューションを作りました。
それが、現場装置を触ることなく最短30分で立ち上がげることができるIoTソリューション「ノせるんです」です。
小泉: これ「ノ」だけがカタカナなのですね。
古澤: 元々製品名を考えていた時に、「ただ積層表示灯にこの商品を載せるだけです」ということを言いたくてこの名前を思いつきました。ここで、物理的に「ノせる」というだけでなく、気持ちも「ノせたい」という思いからカタカナの「ノ」にしました。
小泉: そういう想いがあったのですね。
古澤: はい。「ノせるんです」は、積層信号灯に載せるだけで、電源線や信号線を必要とせず、無線の敷設工事を必要とせず、生産ライン可視化のシステムを構築することができます。
ユニークなのは、enOceanという電源のいらない無線技術を使っているところです。
ソーラー電池駆動となっていて、電源がなくても積層信号灯の点灯状態(通常点灯、消灯、点滅)をセンシングすることができることや、enOceanという電源のいらない無線技術を使っているところです。
enOceanは、928.35GHzで、工場の現場でも非常に安定した通信ができます。よくある弊社の以前のソリューションでは、Wi-Fiを使っておりましたが、現状のWi-Fiの場合、電波干渉の影響なのかなにかとよくわからないトラブルが起きます。
こういった経験を踏まえて、このenOceanを使ったソリューションを作りました。
小泉: なるほど、簡単な取り付けで積層信号灯の状態が取れそうですね。
古澤: はい。しかし、お客様が一番ボトルネックと考えていることは、IoTのソフトウェアを作るという作業です。
そこには、シリアル通信のプログラム知識が必要だったり、データに対してどういう意味付けをするかが定義できないといけません。ITご出身の方ならまだしも、プログラムを作るのに手間暇がかかってしまいます。
そこで、今回のものは、弊社のIPCにenOcean通信をするためのUSBのドングルをつけるだけで、電源投入して10秒ほど待つと、信号がそのまま入ってくるという仕組みを実現しました。
信号が入ってきたかを確認したら、すぐガントチャート上で積層表示灯が何色になっているか、点滅をしているかなどが表示されます。あらかじめ、色や点滅状態に対して意味付けをしておけば、設置開始から30分程度で状況を可視化することができます。
小泉: なるほど。
次ページ「実運用に耐えるサービスラインナップ」
実運用に耐えるサービスラインナップ
古澤: さらに、他社様のソリューションの場合は、この可視化を表現するガントチャートを見せてお終いになるケースもあるようですが、我々の場合、アドバンテックの製品である「WebAccess」というSCADA (監視制御とデーター取得を意味するFA/PA用システム)のソフトウェアを、このIPCに入れておくことで、将来の拡張性が確保されます。これがあることで、現場に既にあるPLCや、NCマシーンなどのデータも収集したいという話が出た場合、収集経路として活用できます。
小泉: このソリューションで、ガントチャートの色に対する意味づけは、どうするのですか。
古澤: 例えば、左側に「稼働中」と書いてありますが、これを「運転中」という言葉に変えることもできます。点滅したら点滅の言葉に変えることもできます。ガントチャートの軸も1日毎や1ヶ月毎など変えることもできます。
小泉: 信号灯は、ラインの中でいくつもついていると思うのですが、それぞれに名前をつけることは可能ですか。
古澤: はいもちろん。ライン名の追加も出来ます。もともとUSBドングルで想定しているのは20台です。ガントチャートが20台分並んで表示されます。
今回のソリューションは第一弾としてリリースしますが、第二弾としては、「本来のあるべき稼働時間」と「実際の稼働時間」を比較できるものを作ろうと考えています。
なんとか今月中に、現状の稼動時間に追加して、可動(べきどう)時間を入力できるようにしてその比較化ができるパイチャートも追加で組み込もうとしております。
小泉: お客様の声はどうですか。
古澤: 細かいところまで一気にいけないという事情、費用対効果の算出の難しさがあってこのソリューションであれば導入しやすく、将来の拡張性も担保されるから導入してみたいという、うれしいお声を良く聞かせていただきます。
今回投資いただく費用は、1つのセンサと1つのUSBとSCADAソフト(300タグ分)&BIソフトが内蔵されたDINレール対応のIPC を全部パッケージ化した金額で¥250,000 です。
購入頂きましたお客様へは、専用のコールセンターも設けております。
当社は、「日本ラッド」という上場企業に出資しています。日本ラッドは、今回のソリューションで、ソフトウエアの部分を担当しています。つまり、ソフトウエアの保守に関しては、日本ラッドと共同で行っております。
また、保守メンテナンスのためのコールセンターについては、シャープと共同で運営しております。
次ページ「予知保全ソリューション(学ぶんです)」
予知保全ソリューション(学ぶんです)
古澤: これからお話するのは製品投入前の段階のものですが、稼働管理の次に出てくるのは「予知保全」ですよね。
そこで、アドバンテックは、モーターの上に置くだけで10Hz-1KHz 1kHz-1MHzくらいの振動データを取得・送信することができるデバイスを開発しております。(写真)
デバイスとしては、振動と温度の計測がで、「IP66」という水、油の環境下でも使えるようなものになります。温度帯は-40℃から85℃です。モーターにはマグネットで設置する構想です。バッテリーを内蔵しており、LoRa 通信にて計測データーを送信できるようにしております。後半にでてくるものは、このデバイス上で FFT 解析できるようにしたものを発売しようとしております。
また、アドバンテックのパートナーで、エッジ側のAIを作ることができる企業があります。そこのソフトウエアは、エッジ側で振動状態を学習してくれるのです。この学習には高度なセンサーノウハウが必要となるので、他社よりアドバンテージがあると考えております。
リモートメンテナンスシステム(M2I=Machine to Intelligence)
古澤: さらに、装置メーカーは、装置を納品した後のトラブル履歴を工場の外で見たいと思うものです。
そこで、アドバンテックは、様々なデータを簡単かつ安く送信する仕組みを作ろうとしています。しかも、これから始まる、国が制定するクラウドセキュリティの基準を担保したものです。
こういった機器を、手軽に導入できる金額でスタートできるものを提供したいと考えております。
製品的にはARMのCortex-A9というiPhone系のチップを使っていて、DIDO入力出力が4つずつ付いています。アナログ入力も追加できるようにしております。その上に「WISE PaaS EdgeLink」というプロトコル変換ソフトの超小型版が搭載されています。
さらに、SIMが付いているものなので、例えばアナログ入力で電流値をモニタリングしていて、エラーを補足したらMQTTでエラーを送るということもできます。
小泉: これの製品は「WISE」シリーズとなっています。アドバンテックの商品ラインアップでは、通信機器ですね。
古澤: そうです。デバイスは、アドバンテックが提唱しているクラウドのシステム「WISE-PaaS」に接続してデータを蓄積する想定がされています。
小泉: 簡単にスマートファクトリーを実現するということは、案外難しいことですが、アドバンテックでは「可視化」「予知保全」「設備保守」といった面で、順次実現されようとしているのですね。
本日はありがとうございました。

