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「現場主義」のIoTで見えてくる、製造業の先にある可能性 ―SORACOM Discovery 2019レポート3、ウフル・旭鉄工・田中衡機・フジテック登壇

株式会社ソラコムが主催する日本最大級のIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2019」が7月2日、グランドプリンスホテル新高輪(国際館パミール)で開催された。本稿では、その中で行われたセッションの一つ、「基調講演パネルディスカッション:製造業を超えて ~超現場主義の製造業IoTから始まる変革~」の内容について紹介する。

登壇者は、旭鉄工株式会社代表取締役社長/i Smart Technologies株式会社の木村哲也氏、株式会社田中衡機工業所 代表取締役社長 田中康之氏、フジテック株式会社 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏の3名。そして、モデレーターは、株式会社ウフル CIO(チーフ・イノベーション・オフィサー)兼IoTイノベーションセンター所長 エグゼクティブコンサルタントで、株式会社アールジーン(IoTNEWSの運営母体)の社外取締役でもある八子知礼氏がつとめた。

課題は「現場」にあり

今回登壇した旭鉄工・田中衡機工業所・フジテックの3社とも、「ものづくり」を行う企業でありながら、IoTの活用に先駆的に取り組んできた企業だ。ものづくりとIoTはどのように結びつき、効果をもたらすのか。そのカギは、「現場」の課題にあるようだ。

現場主義のIoTで見えてくる、製造業の先にある可能性 ―「SORACOM Discovery 2019」レポート3、ウフル・旭鉄工・田中衡機・フジテック
(左)株式会社ウフル CIO(チーフ・イノベーション・オフィサー)兼IoTイノベーションセンター所長 エグゼクティブコンサルタント/株式会社アールジーン(IoTNEWS)社外取締役 八子知礼氏、(右)旭鉄工株式会社代表取締役社長/i Smart Technologies株式会社 木村哲也氏

旭鉄工は、愛知県碧南市に本社をかまえる、自動車部品のメーカーだ。2014年から工場の「カイゼン」(生産性の改善)活動にIoTを積極活用し、自社で成果を見出してきた。そして、自社の現場で育て、成果を実証したソリューションを製品として他社に販売するため、2016年に「i Smart Technologies」(以下、iSTC)という別会社を設立した。

カイゼンにIoTを活用したきっかけは何だったのだろうか。木村氏は次のように語った。

「カイゼン活動で最も大変なプロセスは現状把握だ。現場では、従業員が紙と鉛筆、電卓を使って生産状況を管理していることが多い。昭和のような話だが、これが実情だ。こうした現状把握は24時間365日、機械に任せればよい。その分、従業員は現状把握から見つかった問題を解決するという、『付加価値の高い仕事』(人間にしかできない仕事)に時間を使うことができる」

iSTCが手がけるメインのソリューションは、設備の稼働状況をモニタリングするIoTシステム。古い設備でも、センサーを後付けすれば、無線通信によってクラウドにデータが蓄積され、稼働状況の「見える化」が可能だ。自社の検証では、2015年に6ライン、2018年には41ラインの生産性を改善した(各ライン30%以上の改善)。

一方、iSTCのソリューションを導入した顧客は180社以上。そこでの効果については、使用して5か月が経過している顧客のデータを総計すると、平均1.25倍(47%→59%)の生産性の改善が確認されている。「私はよくお客様に、御社の設備の稼働率がどれくらい知っていますかと質問する。大抵誰もが80%くらいと答える。しかし実際は40~50%だ。また高かったとしても、人が記録しているのでデータは正確ではないことが多い」(木村氏)

他にもiSTCでは、ソラコムの「LTE-Mボタン」やAIスピーカーを使って、ラインの停止理由を記録するソリューションなど、カイゼンのツール拡大をはかっている(iSTC木村氏へのインタビュー記事はこちら)。

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深刻な人材不足をIoTで解決

(左)株式会社田中衡機工業所 代表取締役社長 田中康之氏、(右)フジテック株式会社 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏

田中衡機工業所は、新潟県三条市に本社をかまえる、トラックスケールをはじめとする「はかり」の専門メーカーだ。創業は1903(明治36)年で、116年の歴史を持つ。トラックの積載重量をはかる「トラックスケール」や空港で荷物の重さをはかる「カウンタースケール」、競馬場で馬の体重を計量するはかり、畜産向けに豚や牛の体重を計量するはかりなど、手がけるはかりの種類はさまざまだ。

主に2種類のIoTソリューションを手がけている。一つは「はかり×IoT」だ。トラックの積載重量をはかる「トラックスケール」において、既に半分以上にIoTの機能を搭載。何か異常がないかなど、遠隔でモニタリングできるしくみとなっている。

もう一つは「養豚」に関する取り組みだ。株式会社Eco-Porkが中心となり、環境や餌、体重のデータを統合して、ブタの飼育の全自動化を進めている。田中衡機は、ブタの体重を測る装置にデータ収集や自動化の機能を持たせることで、貢献している。

計量の分野では今、大きな課題があるという。「日本の工場で計量管理を行う人材が激減している。実は、計量には技術や知識が必要で、誰でもできるわけではない。そうした深刻な人材不足が、昨今の品質低下やデータ改ざんの問題につながっている」(田中氏)

この問題を解決する手段として、IoTがあるという。たとえば、それぞれのはかりに異常がないか、正確に計量できているかどうかを遠隔でモニタリングするなど、さまざまな方法が考えられる。田中衡機ではその新しいソリューションの開発を今、推進中だ。

フジテックが展開する、IoTを活用したグローバル遠隔監視システム

フジテックは、滋賀県彦根市に本社をかまえるエレベータ・エスカレータの大手専業メーカーだ。早くから日本国外に進出しており、世界各地に営業拠点と生産拠点がある。そんなグローバル展開を進める同社には、次のような課題があったという。

「国内では、M2Mと呼ばれていた時代からエレベータはつながっていた。しかしそれは、国内に数万台規模の需要があり、まとめて設備投資ができたからだ。それに対して、海外に点在しているエレベータに対し、監視システムのインフラを整えることは難しかった。投資対効果が見えにくい上、現地でオペレーションを行う人材も必要になる」(友岡氏)

そこで、友岡氏はソラコムの「SORACOMグローバルSIM」(現在は「SORACOM IoT SIM」に名称変更)に目をつけた。「2週間で海外のエレベータが11台、PoCとしてつながった。そこからいっきに数百台つなげた。世界のエレベータの稼働状況が日本のオペレーション拠点やスマートフォンから監視できるのだ。これができてしまうのが、クラウド(AWS)のよさであり、ソラコムのソリューションのよさだ」と友岡氏は述べた。

ただ一方で、エレベータの監視システムを実現するまでには、温度や湿度、電圧を測るセンサーなどで地道にIoTの「予行演習」を続けてきたことも重要だったという。「IoTはトライ&エラーが必要。エラーがないと次のアイディアが出てこない。打数を増やしていく必要がある。必ずしも成功ばかりではない」(友岡氏)

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IoTのその先に、何を目指すか

本講演のテーマは「製造業を超えて」だ。旭鉄工/iSTCの木村氏は、iSTCで構築したソリューションによって、非製造業の分野へも参入していく予定だという。

「たとえば、当社のソリューションを使うと、各企業の生産状況を横並びで比較できます。A社の稼働率が50%、平均が70%だとしたら、A社はまだ20%の伸び代があると見ることができる。M&Aの交渉などに、こうしたデータが使えるのではないかと考えている」(木村氏)

また、「通常、銀行は融資先の工場の機械がきちんと動いているかどうかをチェックしなければならないが、それは銀行の社員にとってかなり負担になる。当社のデータを使えば、稼働率がすぐにわかる。銀行の社員の働き方が変わると思う」と木村氏は語った。

また、田中衡機工業所の田中氏は、「取引に使うはかりは2年に1度、法定検査を受けないといけない。それはお客様にとって大きな労力となる。お客様が欲しいのはかり自体ではなく『正しい計量精度』なので、将来的には1回測ると〇〇円というように、リースのようなしくみも考えていきたい」と田中氏は語った。IoTによって、「はかり as a Service」(八子氏)とも呼べるような、全く新しいビジネスモデルに挑戦できそうだと実感しているという。

フジテックの友岡氏は、製造業におけるIoTの意義について、「色々な人から、現場感がなくなったという声をよく聴く。暗がりで一人寂しくコンピュータに向かっている従業員が増えたと。しかし、IoTは現場がより活きる手段だ。管理する人のシステムではなく、現場で対応している人を直接的にサポートするツールがIoTなのだ。IoTは、情報システムの本来の輝きを取り戻すいいチャンスだ」と語った。

最後に八子氏は、「今回は現場というワードが非常に多かった。まずは現場から課題を見つけることが大事。そして、IoTの次のモデルを見据えて、どん欲にチャレンジしていくことも、今のタイミングでは重要だ」と締めくくった。

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