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産業用ロボット・AGVの自律化を促すエッジAIソリューション―アドバンテック・組込みデザイン・イン・フォーラム 2020レポート

産業用ロボット・AGVの自律化を促すエッジAIソリューション―アドバンテック・組込みデザイン・イン・フォーラム 2020レポート

2020年5月21日、アドバンテックはオンラインイベント「アドバンテック・組込みデザイン・イン・フォーラム 2020」の第1回を開催した。

第1回は、産業用ロボティクスとAGV(無人搬送車)について、アドバンテックの組込みソリューションや、エッジAIソリューションがどのように活用されているのか、というテーマが話された。登壇したのは、アドバンテック エンベデッドIoTグループ 神内栄邦氏と矢島健一郎氏である。

産業用ロボットとAGVに求められる組込み技術の性能

そもそも産業用ロボットやAGVにおいては、どのような組込み技術が求められるのか。
まずはこの点について、矢島氏が説明を行った。

経済産業省の研究会報告書によれば、ロボットとは「センサー」「知能・制御系」「駆動系」の3つの技術を擁する知能化した機械システムである、と定義されている。つまり、センサーで取り込んだ情報を基に、どのような動作を行うべきなのかを知能・制御系が判断し、駆動系で動作を行う、という流れだ。

産業用ロボット・AGVに求められる組込み技術の要素
産業用ロボット・AGVに求められる組込み技術の要素

そのため、センサーから取り込んだ情報を素早く処理する能力、駆動系を制御するためのI/Oの拡張性、様々な周辺デバイスと通信するための機能、といったものが組込み技術には求められるというのだ。

また、移動を前提とするAGVでは、バッテリーで動くための低消費電力性や、小型化や軽量化、ワイヤレス通信、といった機能や性能が求められるという。

産業用ロボットとAGVにおけるアドバンテックの組み込み製品ラインアップ

それでは、産業用ロボットやAGVに対し、アドバンテックはどのような組込み製品を提供しているのか。製品ラインアップと事例について、神内氏から紹介があった。

シングルボードコンピュータ

マルチイーサネットやCANBusといった通信プロトコルに対応し、FA向けに特化した仕様のシングルボードコンピュータを提供している。

FA向けに特化したシングルボードコンピュータ

また、リアルタイムOSや、フィールドバスプロトコルに対応するソフトウェアソリューションをハードウェアと合わせることで、リアルタイム制御に対応するためのソリューションレディパッケージとして提供している。

マザーボード

低消費電力性を持つCPUを搭載した11センチ×13センチの超小型マザーボードに、高速な産業用SSDとワイヤレス通信モジュールを組み合わせたソリューションを提供する。これにより、AGVは高いモビリティ性を有すると神内氏は述べた。

コンピュータオンモジュール

ロボットアーム用のコントローラとAGVの双方で採用されている。カメラや力覚センサーなどの入力デバイスや、サーボモーター制御といった機能を、顧客が求める最終製品の仕様に合わせて自由に設計し、キャリアボードに実装することで、集積度の高いコントローラを実現できるという。

ロボットアーム用のコントローラとAGVで採用されるCoM

産業用オートメーション向けストレージとメモリ

高頻度の書き込み機能が求められる産業用オートメーションでは、ストレージとメモリに対して優れた安定性、寿命、耐久性が必要とされる、と神内氏は説明した。

そこで、アドバンテックは産業用オートメーション向けにSLCフラッシュテクノロジーを提供し、標準のMLCよりも高い耐久性を実現しながら、価格面で大きなメリットを顧客に提供できるようにしているそうだ。

ワイヤレス通信モジュール

ワイヤレスモジュールについて、アドバンテックでは過酷な温度環境でもスループットの低下が少ない製品や、ローミング対応の製品といったラインナップを用意し、移動を前提とするAGVのワイヤレス通信に対応している。

現状の産業用ロボットとAGVは、自律能力が不足している

さらにアドバンテックでは、産業用ロボットやAGVに向けてエッジAIソリューションの提供を行っている。

そもそも、なぜ産業用ロボットとAGVにエッジAIソリューションが必要なのか。それについて矢島氏は、以下のような課題がある事を述べた。

自律能力の不足

ロボットはプログラムを実行して行動しているにすぎず、わずかな部品位置のずれが生じても停止してしまう。また、AGVは、工場内の決められたルートをガイドによる誘導で走行する、という具合に、まだ移動に制約がある場合が多い。

プログラム作業自体が多大な人手を要する

目標状況の増加により、ロボットの作業手順や操作方法をプログラム実装する手間が膨大化しつつある、とセミナー内では指摘があった。

つまり、現状の産業用ロボットやAGVは、検知したデータを組み合わせて、より統合的に深く認識し、理解する事が出来ないために、人間のように真に汎用的な知能になっていない、というのだ。

そこで、ロボットやAGVが自律するために必要な技術としてAIが挙がった。

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AI活用により、ティーチングオペレーションの実現につなげる

AIを活用すれば、どのようなメリットが産業用ロボットやAGVに生まれるのか。

セミナー内で例に挙がったのが、ピッキングロボットだ。これまでの産業用ピッキングロボットは、積み方が一定ではない製品を精確に取り出す作業が苦手だった。製品の位置や角度といった多くの情報をひとつずつスピーディに定義し、アームを柔軟に制御する必要があったからだ。

しかし、AIを搭載すれば、製品を捕捉、判別し、ロボット自身でアームを制御することができる。つまり、エンジニアが様々なパターンに合わせて、プログラミングする必要がなくなり、難しい作業をロボット自身でこなせるようになる、というのだ。

また、ロボットが自己学習機能によって自らの動作をデータとして分析し、最終的に自分自身をティーチングすることが出来れば、ティーチングのコストや作業員の育成コスト、運用コストの抑制につながる、と矢島氏は述べた。

しかし、AIの活用については課題がある。学習の結果、得られた推論モデルをクラウド側で実行しようとする場合、ネットワークの限られた帯域幅によるレイテンシーのために、処理の待ち時間が発生する場合がある。また、クラウドとのデータの送受信や保存におけるセキュリティリスクの問題や、データ送信にかかる通信コストや消費電力の問題が生じる恐れもある。

そこで、推論モデルをエッジ側のコンピュータで処理して課題を解決するために、アドバンテックは、以下のようなエッジAIソリューションを用意した。

AIアクセラレーションモジュール「VEGA」シリーズ

AI処理を効率的にアクセラレートする組込みモジュールのシリーズである。特徴はインテル社のMovidius VPUを搭載している点で、超消費電力でありながら1秒間に4兆回以上の演算ができる、と矢島氏は説明した。「VEGA」シリーズでは、このMovidius VPUを最大8個まで搭載した製品ラインアップを用意している。

AIアクセラレーションモジュール「VEGA」シリーズ

「VEGA320」は、PCI ExpressM.2インターフェースに、「VEGA330」はmini PCI Expressインターフェースに対応しているので、それらのコネクタを備えたマザーボードやシングルボードコンピュータに装着して利用する。

PCI Express拡張カードタイプの「VEGA340」は、PCI Express×4拡張スロットルを備えたマザーボードやボックスシステムに装着して、エッジAI推論システムとして利用できる。

AI推論システム「AIR」シリーズ

PC型ボックスに「VEGA」シリーズを実装した、AI機能を搭載したボックスPCとしてそのまま利用できる製品である。

AI推論システム「AIR」シリーズ

デジタルサイネージ向けプラットフォームをベースにした「AIR100」、リンデルマウントタイプの小型アファンレスPCをベースにした「AIR101」、パワフルなコンピューティングリソースとの併用ができる第6世代コアプロセッサを搭載した「AIR200」、Xeonプロセッサを搭載しGPUカードの拡張ができる「AIR300」と、ニーズに合わせて選べる4つの製品を用意している。

「VEGA」「AIR」の想定ユースケース

「VEGA」「AIR」のユースケースについては、アドバンテックは以下のようなものを想定している。

AGVやドローンへの活用

AGVやドローンといった機器にエッジAI機能を内蔵する場合は、小型であること、バッテリー動作でも長時間駆動することができること、低消費電力性が求められる。そこで「VEGA320」や「VEGA330」のような小型モジュールの活用が有効であると考えられる、と矢島氏は述べた。

AOIへの活用

高速な画像判定で品質検査を行うAOI(Automated Optical Inspection: 自動光学検査)も、AIの活用が期待される分野だ。マグカップ製造工場のエナメルコーティング工程における気泡と亀裂の検出にAOIを利用する際、「AIR300」がAIモデルの学習を行うトレーニングサーバーとして活用されている例が、セミナー内では紹介された。

AOIへの「AIR」活用事例

交通、リテール、医療など幅広く活用

そのほか、街灯の交通状況モニタリング、ビデオ監視、キオスクやスマートリテール、医療の画像解析といった分野で、求められるサイズや低電力性、コストパフォーマンスの要件によって、最適な「VEGA」シリーズ、「AIR」シリーズを活用してもらいたい、と矢島氏は述べた。

「Edge AI Suite」で推論モデルを素早く実装

「VEGA」シリーズや「AIR」シリーズといったハードウェアの機能をフルに活用するためには、用途にあった学習を行い、その結果出来上がった推論モデルを、エッジに素早く実装するための環境が必要である、と矢島氏は述べた。

そこで、エッジAIソリューションの開発担当者が手軽に利用できる開発環境としてアドバンテックが用意したのが、「Edge AI Suite」である。

「Edge AI Suite」機能説明

「Edge AI Suite」は、AIトレーニングプロセスが最適化されたインテルの「Open VINO」ソリューションを統合したソフトウェアパッケージで、インテル社提供の事前学習モデルを採用し、AIモデルの結果を即座に取得できる、と矢島氏は説明した。

この「Edge AI Suite」を使用すれば、CPU、GPU、VPU機能を備えた、アドバンテックのエッジAIプラットフォームで実行されている既存のモデルを起動できるそうだ。さらに、特定のバーティカルアプリケーション向けにすぐに使用できる、サードパーティのAI SDK(software development kit:ソフトウェア開発キット)も数点統合しているという。

「Edge AI Suite」ソフトウェア構成図

矢島氏は「Edge AI Suite」のソフトウェア構成図を具体的に解説した。OS、GPUやVPUのドライバの上に、ミドルウェアとして「Open VINO」が存在する。「Open VINO」内には各種機械学習フレームワークを用いた事前学習済みモデルが含まれており、このモデルをモデルオプティマイザ(最適化アルゴリズム)に通すことで、推論エンジンを構築する。アプリケーション層では、この推論エンジン構築をサポートするUIや推論エンジンを用いた画像認識、サードパーティへのAI SDKへのインターフェースを提供している。

このツールを使えば、オープンソースで提供される様々な学習エンジンを使用して生成した学習モデルを、推論エンジンに変換して簡単にユーザーアプリケーションにデプロイすることが出来る、と矢島氏は述べた。

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