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「経産省スマートファクトリー実証事業のご紹介」〜AIとPC制御により既設設備を活かす産業IoT ーIoT Conference 2017レポート⑤

2017年7月7日、IoTNEWS主催のIoTConference2017 ースマートファクトリーの今と未来が、大崎ブライトコアホールにて開催された。

カンファレンスレポートの第五回は、ベッコフオートメーション株式会社 の代表取締役社長 川野 俊充氏による「経産省スマートファクトリー実証事業:AIとPC制御により既設設備を活かす産業IoT」というテーマでの講演だ。

ベッコフオートメーション(以下ベッコフ)はPCを使った制御システムのメーカーであり、さらにEtherCAT(イサーキャット)というリアルタイム産業用ethernet通信規格用のコンポネントや自動化システムを提供している。

同社は1980年に創業され、ドイツのヴェストファーレン・フェアルに本社を置く中小企業である。世界中の35か国で現地法人があり、パートナー企業を含めて77か国でビジネスを展開している。全世界で3350名の従業員を有する企業である。

顧客は機械、設備や装置メーカーが多数である。同社は2000年から年間平均15%ずつ成長しており、日本には2011年に進出した。現在、日本子会社で25名のスタッフは所属しており、今夏に名古屋で新しい拠点を建設する予定である。

川野氏によると、ベッコフのミッションは究極の制御システムを作り上げることである。制御システムを開発する際には、特に人間を参考にしているという。

どういうことかというと、人間はすべての知能を頭脳に集約して、分散されたセンサとアクチュエーターを活用する、いわゆる2極集中型のPoint2Point方式でデータ通信を行う。

また、人間の頭脳は、機能がモジュール化されているので、視覚、聴覚、触覚が各部位で処理され、脳幹を通じて体内ネットワークに通信する。

ベックオフのPC制御アーキテクチャーは、こういった頭脳を模倣する形で開発されているということだ。

最近では、マルチコアCPUで複数のコントローラを一つにしたり、ソフトウェアの機能モジュールを単一のCPUに実装したりするFAシステムアーキテクチャーが可能になってきている。

そこで、機能を単一のCPUにまとめ、システムと残りのセンサやアクチュエーターを単一のEtherCatセグメントで通信を行うという仕組みを実現している。

コントローラとネットワークの間にEtherCatポートが1個あるので、人間の脳幹に似ている仕組みだという。

現在、EtherCat協会は全世界中で4,390社の会員企業を有し、世界最大の産業用ethernet協会に成長した。

Google Trendを見ても、産業用ethernetの分野においては、ドイツ製のものが注目されており、EtherCatは世界で二番目に注目されている規格であると考えを述べた。

昨年のドイツ、ハノーバーで行われたハノーバー・メッセにおいてトヨタ自動車がEtherCatを採用するという発表があったため、特に日本でEtherCat技術に対する注目が上がったと思わる。

Industrie4.0への取り組み

また、ベッコフは、Industrie4.0の標準化や、技術開発と人材育成に関するプロジェクトを実施しており、実証実験の場としてドイツのIntelligent technical systems Ostwestfalen Lippeの産官学協同体であるクラスターに参画しており、いくつかの分科会の座長も務めてきたということだ。

また、スマートファクトリーの推進は、マス・カスタマイゼーションに当てはめることができる述べた。マスカスタマイゼーションとは、モノ自体は特注品でありながら、品質に衰えずに、従来のコストと納期内で製品を届けられるような製造業の姿を目指していることを指す。

スマートファクトリーでは、「変種変量生産」の実現を目指し、「製造の自動化」を目指している組織が増えてきている。実際、2年前ぐらいから似たような取り組みが各国で進められていおり、国同士、団体同士でのセキュリティ、標準化、などの分野で提携が増えてきているということだ。

また、同取り組みはオープンなので様々なベンダーが複数のプラットホームを提供している。これが、顧客からみると、選択肢があることはありがたいことでありながら、選択するのは難しくて、悩ましいことでもあるということだ。

ドイツのホワイトペーパー「スマートサービスの世界」(Smart Service Welt)では、スマートサービスのデジタル・プラットホームができて、そこにスマートマシン(サイバーフィジカルシステム、標準化された機器・設備)が接続され、それに基づきアプリやサービスの提供が始まることで、アップルストアによってできた新しい市場と同様に、生産財デジタル・プラットホームというのができるだろう。

このように、すでにリリースされている産業用プラットホームやアップルストアのような取り組みの例も川野氏から紹介があった。

次ページは、ドイツの機械メーカーTrumpfでの取り組み事例の紹介

ドイツ機械メーカーのTrumpf社の取り組み

機械メーカーであるドイツのTrumpf社は、顧客の予知保全サービスの要望に応じて、顧客のデータを収集し、OPCを使った予知保全用の仕組みの提供を始めている。

ショップフロアからゲートウェイを集め、ファイアウォール内でオフィスネットワークにデータを送信する。そこから社内で機器データを監視することもできるし、必要に応じてデータをクラウドにあげることが可能である。

予防保全を誰がやるかに関しては、ノウハウを持っている機器メーカーがやるのがもっと効率的だ。その場合、必要なデータを収集し、クラウドにあげるとともに、機械メーカーへのアクセス権を与える。

OPCで接続できたら、他社の機器にも予防保全サービスの提供が可能である。この同サービスは日本で今年中に展開される予定だ。

アップルストアのような産業用アプリケーションプラットフォーム AXOOM

Trumpfグループのスタートアップ企業、AXOOMはアップルストアのような産業用のアプリケーションストアをクラウドプラットホームの上で展開しており、現在20社の50種類ほどのアプリケーションを提供している。

例として、NCコンバーターがあげられた。NCプログラムは機械を動かすために必要なプログラムで、メーカーごとに方言があるため、他社のメーカーでそのままプログラムを使えないことが多い。そこで、同アプリを使えば、月々120ユーロ/サブスクリープションベースで様々な機器をコンバートできるようになるというものだ。

従来は、自社でモノを作るために、生産技術を高め、効率を高め、最終的に作ったものをマネタイズするという流れだった。しかし、現在はモノを売るだけではなくて、ノウハウそのものをパッケージ化して、AXOOMのようなプラットホーム上で売り出すことは「ノウハウの外販化」と言えるし、スマートファクトリー世界で大チャンスになるだろう。

その時に重要となるのは、暗黙知をどういうふうに 形式知にしていくかというところだ。

ここで川野氏が野中郁次郎氏の「知識創造スパイラル」という組織内のナレッジマネージメントモデルを紹介した。

製造業現場のナレッジマネージメントにおいて、一番重要なのは技能継承、現場の改善、技能そのものの向上や、設計のノウハウ、機械設定や調整という。ノウハウを継承し、高めていくのは現場の力である。

今まではノウハウを継承するには著しい時間がかかっていたが、IoTの世界でノウハウをきちんとセンシングとデータ化することによってコスト削減、機能の向上、見える化が実現される。

しかし、見える化だけが足りないため、因果関係そのものをモデル化する必要があり、相関関係を統計的・理論的にモデル化するためのプロセスが必要になる。限界コスト化など、いずれできなかったことが、高い演算能力やクラウドサービスのおかげで実現してきている。

この取り組みが成功すると、油のにおいの変化によって予防保全を行うアプリや、一発目から良品を製造できる設計アプリ、人によるティーチングの必要ないバラつみピッキングアプリの開発などが可能になる。

また、従来海外に工場を立ち上げる際、匠の技術者を現場に派遣しなければならなかったが、現在は立ち上げをリモートでサポートすることができるようになっている。

つまり、暗黙知をデジタル化するによって設備の有効活用も増え、人材の体系的な育成が可能になり、さらに現場を改善できるという。このサイクルは現在までどんな製造業の企業でも回してきたが、このサイクルを加速化させたいことに関して、深層学習と深層強化学習、つまり人工知能技術(AI)という技術が注目されているのだと述べた。

このような技術用途としては、素形材加工装置、産業ロボットなど、扱いそのものに匠の技能というものが求められる分野では無限の可能性があると川野氏は述べた。

次ページは、「経産省スマートファクトリー実証事業 駿河精機のスマートファクトリー事例」を紹介する

経産省スマートファクトリー実証事業 駿河精機の事例

この事例は「経済産業省スマートファクトリーの実証事業」に昨年の6月に採択された、ベッコフと駿河精機が取り組んでいるスマートファクトリーだ。最近AIによる加工条件の自動最適化というテーマにも対応しているということだ。

駿河精機は静岡県にある、自動ステージのグローバルトップメーカーであり、ミスミグループの生産子会社として国内外で52生産拠点を有している。

これまでは、モノづくりのすべての工程を、「巧の手で繋ぐ」ということで実現してきた。自動ステーションの場合、ユーザーは自由度を増やしたり、ステージの大きさを変えたり、特定メーカーのモーターを付けたりするなど、様々な要望に答える必要があるので、ある意味、駿河精機が人手でのマス・カスタマイゼーションをやってきたということだ。

本事業の取り組みとしては、駿河サイバーフィジカルシステムというコンセプトでの自動化だ。顧客から入った注文の設計情報からCADやCAM、エンジニアリングチェーンを活用し、最終的に加工プログラム、組み立て指示、コンポ用パラメーター といったものをデジタルで一気通貫つないでいく。

現場では、20年前の古い機械もあれば、新しい機械もあるので、機種の違いを吸収するための仕組みが必要で、そのためにindustrie4.0管理スレッドと呼ばれる、プリンターのドライバーみたいなモノが使われている。

これを機体や装置に入れることで、機体や装置そのものがオブジェクトとして上位系から認識できるようになって、異なるモノに変えた場合でも、上のアプリケーションを変えなくてよいというコンセプトが内製されたということだ。

加工が発注された場合、通常は、設計情報から工程や削り方、削る時の回転数や切除パスを決めて、最終的なプログラムを作って、プログラムをインストールし、加工作業ができる。

この工程を自動化するためには、まずは工場内の機械のプロファイリングや位置、稼働状況などを確認した上で、ITインフラからそれらがわかるようにする必要がある。これをもとに、CAD/CAMから自動生成したNCプログラムを最適化し、機械に流し込むというのだ。ちなみに、このようなツールは昔からあるのだが、実際には完全自動にはできていないという。

金属加工の現場の場合、不具合の要因は無数にあり、因果関係は複雑に絡み合っている。そこで、匠の「コツ」を身に着けないと、機械の最適な設定ができないという状況だった。

そこで、この課題を2つに分解して、解から逆算するアプローチで解決に取り組んだということだ。

ステップ1: 金属加工品は画像による良品判定の自動化の難易度はかなり高いが、深層学習は画像処理に長けているということに着目し、良品の動画をとって、学習させるデータを作る。

ステップ2:上記の取り組みが実現できたら、毎日の生産データもフィードバックすることで、AIの強化学習が可能となる。正解の加工というラベル付きデータができたら、正解に至るパスや工程ということを深層強化学習で学んで、完全自動化を試みていく。

そもそも駿河精機は、精密機械を製造しており、作業の大半はオーダーメイドであるため、自動化が困難であったという。しかし、駿河精機がスマートファクトリーの実現を目指し、ベッコフはこのようなネットワーキングを実現させるソフトウェアを提供している。駿河精機は不要な手作業が除かれ、ITや自動化によって高効率化を目指しているという。

将来的に、加工中の部品はどんな部品に出来上がるべきかというデータを通信し、それに基づき、パソコンから作業者に使用すべきツールや圧力などの指示を出す。

作業員はミスを犯そうになった場合、スクリュードライバーが操業を停止する。

これから、すべての生産工数はデジタルネットワークに接続され、生産工程は発注段階から配達までのすべての段階でシステムによって指導されるようになる。駿河精機はベトナムや中国の工場で同仕組みの導入を計画している。

従来、設計仕様から組み立て指示を出せるまでは2週間ほどがかかっていたが、この仕組みのおかげで数分で可能になったということだ。

駿河精機の取り組みはまだ道半ばだが、実現すると、社内の生産設備だけでなく、例えば、外国にある協力会社の生産設備にオンラインで加工指示ができるようになる。この取り組みによって、生産能力のシェアリングエコノミーをも可能になるというのだ。

上の図は、今年の物づくり白書で紹介された製造業の繋がる価値を創出するチェーンである。

AI/IoTを使って、エンジニアリングチェーンを繋いでいくだけでなく、駿河精機の親会社であるミスミグループはサプライチェーンを生産、物流・販売に繋いでいく取り組みを行っているという。

次に、川野氏は「Meviy」というオンラインサービスを紹介した。カストムメイド金属の加工部品の3D図面を送信し、オンラインで30秒で見積もりを発注できるという仕組みだ。

これまでは、見積もりする段階で3次元のCADデータを一旦2次元に戻し、見積もり作業を行うのが一般的だったが、効率が悪くて、長い時間がかかっていた。

Meviyの場合、最初から3次元のCADデータをウェブサービスにアップロードし、加工可能かどうかを予測し判断しする。加工精度を求めると、加工時間が長くなり、コストが上がってしまうため、どのぐらいの精度で製品を仕上げていくのか、リアルタイムで見て、予算内で調整することができるという。

川野氏によると、このサービスは駿河精機とミスミグループのサービスとの相性がよいというのだ。なぜなら、ミスミグループの生産子会社である駿河精機がMeviyを使って、発注された製品の3Dデータを送るだけで、それを生産システムに先頭に入力すると、生産工数は加工指示まで自動的に流れていくからだ。

この取り組みで注文ボタンを押す顧客の指先が、中国などにある工作機械をデジタルで繋ぐという世界を作ろうとしている。

ベックオフの製品や予防保全に関するアプローチ

最後に川野氏がベックオフの製品、予防保全に関するアプローチを紹介した。

TwinCatというPLCソフトウェア、開発環境をマイクロソフトのVisual Studioで実施しており、Simulinkというシミュレーションソフトウェアと一緒に動かすことができるという。

Simulinkで作ったシミュレーションモデルを取り込んで、リアルタイムで試験処理をモーター制御に取り込んでいく。さらに、デバッグを起こし、リアルタイムでセンサと繋いて、モニタリングできるという。

もう一つの機能は、Simulinkのモデルに対してリアル世界の信号を入れることができるところだ。モデルベースの状態監視あるいは予防保全のサービスを独自で開発したいと考えるベッコフの顧客に提案しているということだ。

ベッコフのアプローチでは、機械の故障データがなくても、正常時の状態をシミュレーションで覚えさせることで、実機とその正常時のモデル作動を比較し、差分で異常を検出し、予防保全ができる。

例えば、モーターの作動を制御し、動かして、モーターの振動や巻き線の音をビッグデータとして保存し、それをTwinCatからSimulinkに渡す。それをディープラーニングで各入力に対して正しい出力をする関数のモデリングを行う。

出来たモデルとGPUを使い、実物のモーターと同じ強度のモデルをSimulink内で構築し、実際にTwinCatの上に取り込むと、リアルタイムでデジタルツインを動かすことができるというものだ。

制御コントローラでは、回転数や角度などの制御信号を同時にリアルのモーターとモデルのほうに出力することができるので、実機と正常時のバーチャルモーター強度の値をリアルタイムで比較し、故障データがなくても差分で異常を検出し、予防保全ができることがベッコフ社アプローチの特徴である。

もう一つの特徴として、TwinCatのモーター制御などのFA系プログラミング、ディープラニングやシミュレーションなどを一つの開発環境で実現できているというところも特徴的である。

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