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日本マイクロソフト、ヘルスケア分野におけるデジタル技術活用の最新事例を発表

2019年10月8日、日本マイクロソフトはヘルスケア分野における取り組みについての記者会見を開き、同社業務執行役員・パブリックセクター事業本部・医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏(トップ画像)よりヘルスケア事業の進捗や、AIや複合現実などのテクノロジーを活用した最新事例などが紹介された。

ヘルスケア事業の進捗と日本全体の現状

まず日本マイクロソフト・大山氏は、同社のヘルスケア事業の進捗状況について報告した。

大山氏によれば、ヘルスケア事業におけるクラウド成長率は対前年比53%増とかなり成長。その中でもAzure成長率は同176%増と3倍近い伸び率を見せており、「医療の中でのAzureの浸透は急速に進んでいる」と大山氏は評価した。

そして昨年度、日本マイクロソフトが新たにパートナーと共同で創出したビジネスの売り上げが20億円になったという。以上のような数字を提示した上で大山氏は「ヘルスケア事業は順調に推移している」と進捗状況をまとめた。

続いて大山氏は厚生労働省など各所からのデータをもとに、ヘルスケア分野における日本の課題について説明を行った。

ここで大山氏が挙げた課題は(1)高齢化時代の到来(2)社会保障給付費の高騰(3)医療サービス不足と地域格差(4)患者情報のたこつぼ化の4点である。

日本マイクロソフト、ヘルスケア分野におけるデジタル活用の最新事例を発表

(4)の患者情報のたこつぼ化に関しては、電子カルテなどによって「患者情報の共有が進んでいない、閉じられた世界の中での患者情報になっている」と大山氏は説明を加えた。

こうした現状を述べた後、大山氏は政府のヘルスケア領域における重点的な取り組みとしては、以下の3つのテーマがあると述べる。

・医療サービスの生産性向上
・先端技術の積極活用
・保険医療データの整備・流通

デジタルヘルスケア 3つのキーワード

自社のヘルスケア分野の進捗と日本全体の課題を述べた後、日本マイクロソフト・大山氏は同社における取り組みについて、大きく3つのキーワードがあることを説明した。

まず1つは医療現場の改革。これは主に働き方改革を中心としたもので、医療現場のスタッフがより効率的に「医療従事者でしか出来ない事に専念してもらう」ことを意図したものだという。

2つ目は医療の質の均てん化。「医療はどうしても属人的な部分が残るものだ。そこを何とかテクノロジーの力で一定の質を均てん化していくことに取り組んでいる」と大山氏は語った。

3つ目についてはヘルスケア連携を挙げ、「事業者・介護・医薬といった垣根を越えて、様々なデータを連携させていくことをどう進めるか、に取り組んでいる」という。

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「Microsoft Teams」活用による医療現場改革

日本マイクロソフト・大山氏は先に挙げた3つの取り組みテーマについて、それぞれ具体的な事例を紹介した。

まず1つ目の医療現場の改革については「医療機関の生産性向上と新しい働き方改革を推し進めていきたいと考えている」とし、「その中核に同社のコミュニケーションツールである「Microsoft Teams」を活用し実現を図っていきたい」と述べた。

具体的には「Microsoft Teams」を使い、チームの連携やデータ共有をスマートフォンや自宅PCから簡単に行うことで多職種の連携を加速していきたいという。さらに「電子カルテなど医療機関で使われているアプリケーションと「Microsoft Teams」の連携を強化させる」ことも大山氏は付け加えた。

目標としては今年1年間で約20の基幹アプリケーションとの連携を進めるべくパートナーと協議を重ねているという。その第1弾として、救急カルテを作っているTXP Medicalの救急カルテシステム「NEXT Stage ER」と「Microsoft Teams」の連携をマイクロソフトは先日発表している。

この連携については「「NEXT Stage ER」に書かれた情報から、病院から転送する際の紹介文面を自動的に作成するAI機能を備えたものだ。今までは病院から転送する時に紹介状の文面を医師自身が書く必要があったが、それをAIで自動的に作成することで手間を削減する」というものだそうだ。

「Microsoft Teams」活用については既に病院単位で導入しているところがあるという。大山氏が挙げたのは岡山の倉敷中央病院だ。

倉敷中央病院はチーム医療を進めているが、医師・看護師・薬剤師といった様々な職種の中でもコミュニケーションを「Microsoft Teams」で共有しているという。これによって「毎日のカンファレンスが儀式的なものから意思決定の場に変わった」「当直の際、医師の専門外の急患が来た場合でも、自宅の専門医と連携してタイムリーに対応できる」といった効果があったそうだ。

こうした現場での働き方改革を推進するために、日本マイクロソフトでは「医療従事者向けの働き方改革リーダーコミュニティ」というものを設立したという。「目標としては約1,000名の医療従事者の働き方改革を現場で支えてくれるリーダーの育成支援をし、リーダー同士のコミュニティを醸成する場も併せて用意していく予定だ」と大山氏は語った。

テクノロジーによる医療の質の均てん化

次に日本マイクロソフト・大山氏が説明したのは医療の質・均てん化の事例である。

大山氏は事例を紹介する前に、日本マイクロソフト全体として以下の3つのテクノロジーについて重点的に取り組んでいることを説明した。

・Mixed Reality(複合現実)
・AI
・量子コンピューティング

このうちAIについてはさらに「視覚」「音声」「言語」「知識(文章を読み込んで、文脈を読み取り、分析する)」の4つの領域に分かれるという。

今回の医療の質の均てん化に関しては、複合現実とAIを使って貢献していくと大山氏は述べた。

次ページは、「アステラス製薬の複合現実活用

アステラス製薬の複合現実活用

医療の質の均てん化に関する事例として大山氏が1番目に挙げたのは、複合現実技術「Microsoft HoloLens」を活用したアステラス製薬との協業である。これは「医師と患者の間におけるコミュニケーションの質を底上げしていく」ことを目的として、まずは骨粗しょう症の患者を対象に進めていくという。

「骨祖しょう症は初期フェーズにおいて患者自身の自覚症状がないとされており、患者が治療を継続せず、服薬を途中で止めるといった傾向があり、重症化などにつながってしまう恐れがある」と大山氏は語り、「初期症状の段階で患者自身が危機感を覚えて、能動的に治療を継続していくことがクリティカルなポイントになっている」と説明した。

そこで複合現実を使って、患者自身の骨が今後どうなっていくのかをリアリティをもって見せることで「患者が自分事として捉えていく」ことを促すことに取り組んでいくという。

このプロジェクトについては、年内に4つの医療機関で実験的に導入を開始予定とのこと。2020年以降は「Microsoft HoloLens 2」を用いて全国展開を行い、およそ2年以内で1,000医療機関の導入を目指しているという。

国立がん研究センターの「医師の暗黙知」データベース化構想

2つ目に大山氏が挙げたのは、国立がん研究センターでの手術映像を用いた「医師の暗黙知」のデータベース化についてである。

手術における手技は非常に属人的で、暗黙知されやすい領域となる。「その暗黙知を「見える化」することによって定量化を行い、具体的にどこを直せば手技のレベルが上がっていくのかを明確にする」取り組みが、この国立がん研究センターの事例だという。

大山氏によれば「最終的には手技そのものの内容をプロダクト化して、それを海外に輸出できるようなレベルまで持っていくことを想定している」とのことだ。

この事例については、国立がん研究センター東病院・大腸外科/NEXT医療機器開発センターの竹下修由氏が登壇し、システムの詳細について語った。

国立がん研究センター東病院・大腸外科/NEXT医療機器開発センターの竹下修由氏

竹下氏の在籍するNEXT医療機器センターは、企業・アカデミアと連携した医療機器開発、特にデータを扱う医療機器・システム・AI開発に取り組んでいるそうだ。

竹下氏によれば「がん患者が増え、難易度の高い内視鏡手術が増えていく一方で、外科医は減っていく。リスクを抱えたがん患者が増える中で、外科医が少ない人数でクオリティを担保しながら手術を行っていかなければいけない」とし、安全性・効率化・医師のトレーニングについて今後は注力しなければいけない状況だという。

「こういった安全性・効率性に関する他分野の取り組みとしては、クルマの自動運転が挙げられるが、医師の世界でも手術の自動化という議論は出ている。ただし「ダヴィンチシステムはじめ、手術支援ロボットの普及は進んでいるものの、まだ100%外科医が自分の判断でマニピュレートしている段階であり、自動化のフェーズとしてはレベル0(自動化なし)に当たる」と竹下氏は述べる。

次ページは、「サスティナブルな外科手術データベースを目指す

サスティナブルな外科手術データベースを目指す

内視鏡外科手術における暗黙知のデータベース構築は、日本医療開発機構の未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業「臨床現場の医師の暗黙知を利用する医療機器開発システム 「メディカル・デジタル・テストベッド」の構築」の採択事業になっている。

その目的は以下の2点にあるという。

・内視鏡外科医が手術中どのように安全・効率的に手術を進めているか、これまで暗黙知とされてきた手技・判断をデジタル化し、データベースを構築する

・「術野で何が起きているか」をAIに機械学習させ、将来的には手術支援機器・手術評価システムとしての導出を目指す。

この取り組みに当たって活用したのが、日本マイクロソフトが提供するクラウドプラットフォーム「Azure」である。「まずは様々なステータスの手術を検索する機能から、自分たちがアノテーションしてデータベース化した内容を可視化する機能を搭載するかたちになる」と竹下は語る。

どういった情報をデータベース化していくのか、ということについては手術工程(血管処理)や作業・動作、術具、組織(IMA、神経)、起きている現象(軽微な出血)、患者背景(TNM・BMIなど)、術者背景(技術認定医取得有無)などを竹下氏は挙げ、「こういったデータを手術動画と静止画に付与してメタデータにしていく」と述べた。

データの流れについては、以下のような図になっているという。

竹下氏は「全国の協力施設からのデータが委託企業の方に転送されてストレージサーバにアップロードされる。このサーバに臨床側がアクセスを行い、アノテーションをしてデータベース化していく。こうして可視化されたものにエンジニアがアクセスし、データをダウンロードしながら、現在進めているAI手術支援システムなどの開発に繋げていく」とデータの流れに関する説明を加えた。

これまでの内視鏡外科手術のデータベース構築については、大腸外科の術式を対象に進めてきた。今後の展開については「お腹の中のあらゆる臓器に横展開し、データベースをサスティナブルなものに仕上げていくつもりだ」という。

竹下氏は今回の取り組みでマイクロソフトの「Azure」を選んだ理由についても説明した。竹下氏によれば「当初はデータベース化と可視化システムに重きを置いていたが、最終的に機械学習やアノテーション作業を一気通貫で行えるプラットフォームとして「Azure」が秀でているという認識を持った」とし、オープンイノベーションを行うためには「Azure」が最適な環境である、と述べた。

竹下氏が話を終えた後、再び日本マイクロソフト・大山氏が登壇し「日本マイクロソフトは医療機関向けに「AIビジネススクール」を提供し人材育成に励んでいく」と、AI活用に関する情報を付け加えた。

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ヘルスケア連携

医療の質の均てん化の事例を紹介した後、日本マイクロソフト・大山氏はヘルスケア連携の事例について説明を行った。

事例を紹介する前に、まず大山氏は同社のクラウドプラットフォームの信頼性について見解を述べた。

大山氏は「様々な情報が連携していかなければ、医療の質の底上げには繋がらない。連携するためにはクラウドプラットフォームが重要な位置づけとなる」とし、どのようなクラウドプラットフォームが医療機関における重要な情報を信頼して置いてもらえるのか、について大きく2つの要素があると語った。

1つは法制度や業界特有のガイドラインに対応していくこと。これについては、厚生労働省、総務省、経済産業省が発表している3省3ガイドラインに準拠したリファレンスの提供などを具体亭として大山氏は挙げた。

2つ目は患者の医療情報の取り扱いに関する法的見解。「日本においては個人情報保護法があるが、医療情報を扱う際に第三者提供にあたるのか否かが問われる。マイクロソフトクラウドに上げても、それは第三者提供に当たらない、という見解をクリアにしており、場合によってはコミットメントレポートも発行もしている」と大山氏は言う。

つまり、データのオーナーシップはどこまでも顧客のものであり、マイクロソフトは運用やセキュリティの部分を担っているだけで、データの中身に関しては顧客のものなので第三者提供には当たらない、という立場を表明しているというのだ。

この2つの要素によって「マイクロソフトのクラウドプラットフォームがデータを預ける場所として信頼できるものにする」と大山氏は語った。

クラウド連携に関する事例の1つとして大山氏が挙げたのは、電子カルテにおける「Azure」の採用拡大である。

例えば亀田医療情報が「blanc(ブラン)」と呼ばれる電子カルテを発表したが、このプラットフォームにマイクロソフトの「Azure」が採用されたという。これは2020年1月からクリニック向けに提供され、さらに2021年1月よりホスピタル向けにも提供開始を予定しているとのこと。

一方、病院だけではなく医薬品業界にも「Azure」採用が拡大している。これについて大山氏は2つの例を紹介した。

1つは中外製薬の例。同社はデジタルトランスフォーメーションを中期経営計画の中核として進めているが、その中心に「Azure」を据えているという。具体的にWindowsサーバーの多いオンプレミス環境を「Azure」でクラウド化する、「Azure」上でチャットボットなど業務の効率化を支援するようなツールを用いて働き方改革を進める、といった事に取り組んでいるとのこと。

2つ目はみらかホールディングスの例。こちらはセキュリティの部分で「Azure」を活用しているという。具体的には「みらかホールディングスが所有するデータセンターと「Azure」上のシステム、「Microsoft365」のシステムを一気通貫でセキュリティ監視し、そこで溜まったログをAIで解析し、新たなセキュリティ対策を行っていくことに取り組んでいる」と大山氏は語る。

その中核となっているのが「Azure Sentinel」というクラウド型脅威対策インテリジェンスになるが、「これを日本で採用する企業はみらかホールディングが初である」ことを大山氏は説明に付け加えた。

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