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[定点観測]世界に広がるスマートシティーの取り組み

現在、様々な都市でスマートシティプロジェクトが進んでいる。その多くは、トライアンドエラーをしているようにも見えるが、後述するように、スマートシティの状況を数値化し、評価しようとする動きや、アワードを与えるイベントなどもでてきていて、実態を横並びで見ることも可能となってきているのだ。

そこで、今回は、2017年上半期に報告された様々な都市でのスマートシティの取り組みを紹介する。

注目を集めるスマートシティープロジェクト

スマートシティー・プロジェクトは大規模のプロジェクトであるため、様々なシステムや複数のステークホルダーが関係する。

一般的なIoTプロジェクトが直面しているシステムセキュリティーや信頼性の課題以外に、スマートシティ・プロジェクトの実現には複数のステークホルダー努力や、慎重な計画・実行、従来インフラと最新技術の統合や投資の正当化や市民に対しての説明、そしてプロジェクトに参加することや・インプットを促進することが必須だ。

最近、各国の政府や企業や市民からのスマートシティ技術やプロジェクトに対しての注目が高まっている。世間の注目が増えた理由としては複数のスマートシティ・カンファレンス(バルセロナ、ニューヨーク、などで開催)、政府の活発な活動やスマートシティ提案募集、民間企業のイニシアティブやプロモーション活動、や様々な組織が注力しているベンチマーク制度の開発に関するの努力などが考えられる。

ここ数年間で行われているスマートシティー関連のイベントやアワードの参加者数は年々と増えている。

例えば、Smart City Expo World Congress(スマートシティー万博) とWorld Smart City Award 「世界スマートシティアワード」は2011年から行われ、来客数は2011年に50ヵ国の6160人から2015年に105ヵ国の14288人に増えた。

さらに、2015年の来客の70%は民間ビジネス代表であり、ビジネス界もスマートシティに興味を持つようになった。

また、各都市が実施しているスマートシティプログラムの成果を比較してベストプラクティスを定量的に評価するため、様々な組織が統計数値を使い、スマートシティ指標の作成にも力をいれている。

スマートシティーの評価指標

例えば、The Global City Indicators Facility(GCIF)プログラムは、その目的で82ヵ国、255都市をネットワークにつなげ、世界初の持続可能都市の国際基準ISO 37120を設立している。

ISO 37120は都市の機能に関する指標の定義や手順を定め、都市が提供しているサービスのパフォーマンスや生活質を計測し、進歩を促すものだ。

同基準は46個のコア指標を始め、合計で100個もの指標を扱い、都市の社会、経済、環境面からのパフォーマンス評価を行う。

GCIF の姉妹組織であるWorld Council on City Data (WCCD:シティーデータの世界評議会)はISO 37120基準を扱う世界都市を登録するポータルを立ち上げ、第三者による独立な立場からISO 37120データを確かめることを可能にした。

各国の取り組み

各国の政府も積極的にスマートシティプロジェクト提案を市民や組織から募集している。

2012年からヨーロッパで展開されているEuropean Innovation Partnership on Smart Cities and Communities (EIP-SCC)イニシアティブではスマートシティー・プロジェクト提案を様々な組織から集めている。

その中で、最も活発なのは公官庁(36%)、ビジネス(26%)と研究組織(16%)となっている。

日本でも総務省は「データ利活用型スマートシティ推進事業」に関する提案公募を行った。

シスコはインドで、InnoSpringは中国で、スマートシティー・ソリューションを開発しているスタートアップを募集しているという。

「What Works Cities」プロジェクトを展開しているブルームバーグの慈善団体はスマートシティ技術を促進するため、新たな認証サービス「What Works Cities認証」を開始した。

この認証サービスはブルームバーグの第2回の「What Works Cities」サミットで発表され、2018年まで100都市の発展を促進する目標を決定した。今まですでに77都市が参加しているというのだ。
各都市のスマートシティ基盤になるのは無料インターネットサービスだ。

町中でインターネットに簡単にアクセスできることで、IoTサービス利用率が上がり、その利用によって集められたデータで都市サービスのさらなる効率性や合理化を行うことができる。

マイクロソフトのスマートシティーへの取り組み

Smart Cities NYC ’17において、マイクロソフトがスマートシティ用の新しいツールキットやロスアンジェレス市のAIバーチャルアシスタントを発表した。

同ツールキットは特に身体障害を抱えている人にとって快適な街づくりを目的とし、マイクロソフトのサポートでG3ict(包括的なICTグローバルイニシアティブ)とWorld Enabled(障害者の権利や尊厳を促進している非営利団体)によって開発された。

世界中に12億人も様々な障害を抱えている人がいるため、すべての市民に快適な街つくりやデジタル格差解消のため、Smart Cities for Allイニシアティブの一部でこのツールは戦略ガイドとして開発された。

さらに、マイクロソフトは最新技術が搭載されたパトカーのプロトタイプを公開した。

今回公開された自動車は二番目のプロトタイプであり、警察の効率性を向上できる技術が満載だ。

例えば、車載360°カメラ、身体装着カメラ、ライセンスプレート読み取り機械や事故現場を点検するドローンなどが設置されている。

しかし、現在、このプロトタイプを基にパトカーを製造する企画はなく、技術をデモする目的で紹介されるのみであった。(デモされた技術はすでにマイアミ州やアトランタ州で利用されている。

各国のスマートシティー事例

世界で先行しているスマートシティとしてよく取り上げられるバルセロナ市の都内では1000以上の無料Wifiアクセスポイントがあり、スマートシティー・サービス使用を促す。ただし、その無料インターネットの提供への取り組みは都市ごとに違う。

アメリカ

ニューヨーク市では7,500台の無料Wifiスタンドが設置され、市内地図、無料電話やUSB充電というサービスを利用できる。同サービスはLinkNYCという通信ネットワークがWiFiスタンドのデジタル・ディスプレイを広告表示に使っているため、市税を使わずに、広告サービスの利益で市内インターネットを無料で提供している。
2025年まで、ニューヨーク市全体で高速ブロードバンド・インターネットサービスが展開される予定だ。そのおかげで大気質、交通や電気消費データを集められるという。

同じく、米カンザス市はグーグルFiberインターネットを市民に提供し、人間に反応するLED外灯も設置した。

カンザス市の無料WiFiはスプリント・コーポレーション通信会社との提携によって提供されている。市民は、インターネットにアクセスする時の個人情報保護対策を考慮し、カンザス市はデータプライバシーポリシーを採用している。

また、サンフランシスコ市はスマート駐車システムを実用し、稼働率を管理し、そのデータをダイナミックな駐車システム開発に使う予定だ。

イスラエル

イスラエルのイエルサレム市は、サンフランシスコ、ニューヨークやロンドン市に続いて、超高速ミリ波メーター技術を使って都市の無線ネットワークを計画しているという。

同ネットワークを利用し、セキュリティや安全、緊急対応、駐車や交通ソリューション、学校でのインターネットアクセスや町中の無料Wifiなどのサービスを導入する予定だ。

イエルサレム市は高原に位置しているため、光ファイバーの設置が不可能なので、ミリ波メーター技術を採用した。

シンガポール

シンガポールは、多くのセンサやカメラを設置し、渋滞や人込み密度を分析し、ラッシュアワーにバスのルート変更や渋滞防止や、新築ビルが通信信号や風パターンに与える影響を予測している。

イギリス

ロンドン市では、渋滞対策と、さらなる快適な駐車を実現するため、政府が交通データをスタートアップ企業に提供し、スマート駐車などのアプリを開発している。

ドバイ

「世界の最も幸せな都市」を目指しているドバイ市のSmart Dubai Office(スマートドバイオフィス、ドバイでスマートシティー・プロジェクトを担当している組織)は5月15日にすべての政府サービスにアクセスできるワン ストップショップ「Dubai Now」プラットホームの運用を開始した。

現在、「Dubai Now」は24政府省庁や民間企業の55種類のサービスを提供している。

セキュリティと司法、交通、支払いと請求書、ビザや在住、運転、健康、ビジネスや雇用、教育、住宅、イスラムなど、11種類のサービスがある。

スマートシティ ドバイ
ドバイのスマートシティーは200イニシアティブ、345スマートサービスがあり、それらは8つの政府機関や2つのスマート地区によって実施されている。「Dubai Now」プラットホームの開始をきっかけに、Smart Dubai Officeはこれからスマートシティー・プロジェクトによってなし遂げられた成果を計測し、国連とITU(国際電気通信連合)と協力しながら、グローバル・スマートシティ指数の開発を目指している。

ドバイ政府が100%所有している「Dubai Silicon Oasis Authority」というフリーゾーンは6つのパートナー組織と「Dubai Smart City Accelerator」プログラムを開始し、3年間にわたって参加するスタートアップに支援を与え、新しいスマートシティー開発をサポートする。

市場調査会社IDCは、アジアパシフィック地域(日本を除き)でSmart City Asia Pacific Awards (SCAPA)を開催しており、6か月間で14分野でのベストスマートシティープロジェクトを選定している。

このようなコンテストはスマートシティーの認知度を高めて、さらなる技術普及に繋がるため、大事な役割を果たしている。

今後のスマートシティに向けて

都市サービス、ベンダーや設備に使われている規格は複数であり、将来にシステム間の通信に問題を防ぐため、スマートシティー・プロジェクトのデザイン段階から相互運用性対策を重視すべきだ。

また、センサを簡単に取り換える、あるいはセンサのプログラム変更が簡単にできるような仕組みが必須となる。さらに、センサ数よりセンサの精度も大事である。

都市政府は、スマートシティー・プロジェクトによる効率化を求められているが、市民は、その持続可能性や都市強靭性に注目している。

持続可能な都市には再生可能なエネルギーやスマートメーター・スマートグリッドが不可欠である。

スマートメーターの利用によって、消費者は自分が使っている資源量を確認・管理が出来ることでエネルギー問題の緩和が可能になる。スマートシティプロジェクトの普及に伴って市内でグリーン技術採用の重要さが注目されてきた。

さらに、快適なスマートシティの実現にとって交通問題解決は大事であり、そこで自動運転車やシェアリング・エコノミー(共有型経済)が大きい役割を果たすだろう。

このような問題を解決するソリューションは少しづつ登場している。ボッシュがスマートシティ用の空気質管理システムを開発し、それを利用する市の役員が汚染に素早く対応できるようになった。Bosch Air Quality Micro Climate Monitoring System (MCMS)と呼ばれ、Intelの技術上で構築され、センサやソフトウェアを使い、空気質を測定している。

MCMSは米国環境保護局(EPA)が管理している187種類の汚染物質を測定する他、温度、湿度、音量や気圧を追跡する。MCMSは統合されたデータを分析し、交通量や工場などの廃棄物量をコントロールによって、状況を緩和することができる。

日常都市生活で市民がリスクを検出し、そのリスク対策をスマートシティソリューションで軽減・解決できる。市民が積極的に都市の変化に影響を与えられ、スマートシティやIoTによって市民と政府の新しい交流が生まれているともいえる。

さらに、スマートシティーに必要なデータのオープン化は政府活動をも透明にするといえるのだ。

シンガポールの取り組み

シンガポールは2014年から市民生活の改善、新しい経済機会や緊密なコミュニティ設立の目的でSmart Nationイニシアティブを展開しており、幅広いプロジェクトに取り組んでいる。

このイニシアティブの展開当たって、大事なメッセージは「Smart Nationは政府による築くものではなく、国民一人一人、企業や当局の協力によって作られるものである」という。

このイニシアティブの実行進歩は専用ポータルで確認できるため、国民の理解をもらいやすいのだ。

その背景で、シンガポールの南洋理工大学とデンマーク企業のコンソーシアムが提携し、「Smart City World Labs」プロジェクトを展開し、スマートシティへの包括的なアプローチ、持続可能な成長や開発によって両国で先進的なスマートシティの設立とその知識を世界に発信することを目指している。

今回、シンガポールがグリーンイノベーションのテストベッドになり、水やエネルギー節約技術を始め、グリーン・ビルディング・システムや電気自動車などが活用される予定だ。

また、STエレクトロニクスはシンガポールの年次展示会CommunicAsia 2017にて包括的なスマートシティサービスを紹介した。

その中は様々なIoTソリューションを統合し、データ交換や分析を促すSense & eXchange (WISX IoT) プラットホームを始め、クラウドで稼働するSmart Car Park Platform(スマート駐車プラットホーム)、 e取引用の二要素認証プラットホームDigiSAFE Authentication Server (DAS)の他、対ドローンシステムSkyArcher、Robotic Sentry、 DigiSAFE Data Diodeと PhoneCrypt という公安ソリューション・セキュリティーツールなどを公開し、これからは国内外で利用されていく。

最後に、数多くのシステムやステークホルダーを統合する、市民の個人情報を扱うスマートシティにとってセキュリティ対策がなくてならないものである。トレンドマイクロ株式会社は5月に公開した「Securing Smart cities」レポートにてスマートシティー用の10ステップ・セキュリティ・チェック・リストを紹介した。

デザイン・構築段階
1フォールトトレラントシステムを構築する
2 個人情報の保護対策を考慮しデータ処理を行う
3通信チャネルの暗号化、認証や規制化を実施

起動直前
4ソフトウェアアップデートの一貫性と安全性を確保
5ベンダーやサービスプロバイダーとの契約を結ぶ際、セキュリティを最優先にすること
6品質検査と侵入テストを必ず実施すること

運用・ライフサイクル中
7常に手動オーバーライドができるシステムを構築する
8基本サービスの持続性を確保
9スマートインフラストラクチャー・ライフサイクル計画を作成
10都市のCERT・CSIRT(computer security incident response team、コンピューターセキュリティ事件対応チーム)を構成するという。

スマートシティー・プロジェクトを成功させるに必要な技術、仕組みや対策がだんだん明らかになってきている。他の都市の事例から見習って、住んでいる都市の特徴や解決したい問題をはっきり把握し、新しいプロジェクトを始める都市が増えることを期待している。

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