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ロジスティクス倉庫の現場の課題をコスパよく解決する ―秋葉淳一×八子知礼×小泉耕二【第20回・前編】

IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。20回目となる本稿では、ダイワロジテック取締役/株式会社フレームワークス代表取締役社長の秋葉淳一氏をゲストに迎え、前編、後編に分けてお届けする。(後編は翌週公開の予定)

人手不足や全体最適化など、様々な課題が浮き上がっているロジスティクス業界。様々なソリューションが提案される一方で、実際の現場で、何が起きているのか、具体的な部分が見えづらい。

そこで、前編は秋葉氏の現場感の溢れるお話を中心に、ロジスティクスの施設内における、ロボットや映像を活用した問題解決について議論した。

コストの壁があるロボット導入

小泉:本日はゲストとしてダイワロジテック・取締役の秋葉淳一さんにお越しいただき、ロジスティクスの現状についてお伺いしたいと思います。

まずはダイワロジテックの概要をお教えいただけますでしょうか。

ロボット&カメラソリューションで物流現場を変える ―秋葉淳一×八子知礼×小泉耕二【第20回・前編】
秋葉淳一:ダイワロジテック取締役/株式会社フレームワークス代表取締役社長。1987年大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。
ダイワロジテック 秋葉淳一氏(以下、秋葉):ダイワロジテックは大和ハウスグループの会社です。「建物と建物をつなぎ、人々の暮らしを豊かにする」というコンセプトの元に生まれた会社ですが、社名に「テック」という言葉が入っているように、テクノロジーをちゃんと使いましょう、と謳っているところがポイントです。

いま、物流会社が様々な困難を抱えているという話は、「IoT NEWS」読者の皆さんも良く耳にされていると思いますが、物流会社が苦労しているということは、私たちの身の回りの暮らしにも大きな影響が出てくるということなのです。そこをテクノロジーによって変えていこう、という思いで会社を運営しています。

小泉:日々、ロジスティクスの現場と向き合われている秋葉さんから見て、昨今のロジスティクスにおける大きなトピックはありますか。

秋葉:すでに3年くらい前から注目されていますが、やはりロボットの話です。例えばダイワロジテックでもGTP(Goods to Person)のロボットソリューションを提供するGROUNDに出資をしていますし、MUJINがピッキングロボットで注目されるなどの動きもあります。

しかし、ロボットについては費用の問題があります。例えばGTPのソリューションについては専用の棚も購入しなければいけないなど、どうしても高くついてしまいます。

八子:結局、ロボットについては大きな設備投資をしなければならない、ということですか。

秋葉:そうです。最近はAMR(Autonomous Mobile Robot)型といって、ロボットと人間が一緒に作業を行う人協調型自律移動ロボット登場していますが、導入するのに一台250万円くらいかかります。しかも人間1人に3台ロボットがついていないと作業にならないので、1人につき750万円のロボット投資をしなくてはならず、導入できる会社は限られてしまいます。

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家庭用ロボット「Temi」の活用

秋葉:そこで、コストの問題を解決するために、私は少し発想を変えてみよう、と考えています。それは、「汎用的に作られている家庭用ロボットを現場で活用する」ということです。

その具体例の1つが「Temi」。家庭用ロボットとして開発されたものですが、実は3Kgくらいの荷物を持てます。元々軍事用のロボットで成功したアメリカの「Roboteam」という会社が製作したのですが、家庭で高齢者がつかまり立ちできるくらいの強度を付けたそうです。

ちなみに「Temi」がそのような設計になったのは、「Roboteam」のCTOが祖母から「あなたたちの作るロボットは、私たちの生活の役には立っていないじゃない」と言われたことがきっかけだと聞いています。

小泉:私も昨年のIFAで取材しましたが、「Temi」にはそういう背景があったのですね。

参考:昨年のIFAで展示されていた、Temi(小泉撮影)

秋葉:さらに「Temi」には人とロボット間の会話以外に、「Temi」を通じて人同士が会話できる機能も備わっていて、スマートフォンで遠隔操作をすることもできます。

八子:「Temi」を介せば、人と人がやり取りしながら作業している感覚になりますね。

秋葉:そうです。そして大事な点がコストです。「Temi」はさっきのロボットの値段と比べてみると、明らかに安いわけです。(編集部注:現在、temiは株式会社hapi-robo st が総代理店となり国内での正式発売の準備中であり、価格は30万円を切る価格になる模様)これを数台購入して使う方ががコストを抑えられるわけです。

ロジスティクスにおけるRaaSの確立を目指す

小泉:実際、ロジスティクスの現場では「Temi」をどのような用途で使うことが出来るのでしょうか。

秋葉:1つはピッキングです。積載量が3Kgという上限がありますが、普段ネットショッピングなどで我々が購入するアイテムくらいの重さならば、十分に対応することができます。

2つ目は「Temi」を介して、作業者が分からないことを現場の担当者に相談できることです。作業者の中には相談する人が周囲にいないため、分からないことをそのまま放置して作業を進めてしまう人がいるのですが、「Temi」を通じた遠隔コミュニケーションでそうしたミスは防げるようになります。

八子:人の作業を補完する形で「Temi」を活用するのですね。「Temi」同士の通信は可能なのですか。

株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー) IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

秋葉:いえ、現時点で「Temi」同士は通信できないので、その場合は群制御のような仕組みを構築する必要があると思います。

八子:それが実現すれば、「Temi」が自律分散的に動き、人の手が足りないところを勝手に補ってくれることもできますね。

秋葉:「Temi」のもう1つ優れている点は、「Temi」内に縦横100m以内の3D地図を持つことができることです。1台でだいたい3000坪の広さをカバーすることができますね。

八子:それだけの広さを1つの倉庫内に設置するだけではなく、隣接する工場ともロボットでつながることができるわけですね。

秋葉:そうです。物流施設から工場、場合によっては小売店舗をつなぐこともできます。ロボットの動き自体は「From to」でしかないわけですが、それを設置する場所や人間によって用途を変えよう、ということです。

そうすれば、繁忙期とそうでない時との使い分けといった多様な場面に対応するサブスクリプションモデルにもしやすいと思います。

八子:今まで同じようなモデルはソフトバンクの「Pepper」などがありましたが、専らコミュニケーションロボットとしてのサービスでした。秋葉さんがおっしゃっているのは、汎用性のあるロボットを完全に産業用ロボットしてサービス化するということで、まさにRaaS(Robot as a Service)ですね。

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商品梱包漏れを画像認識技術で防止する

小泉:ロボットの他に新しい取り組みはありますか。

秋葉:改めて物流施設の中でロボット化・機械化できないところは何か、ということを考えた時に浮かんだのがカメラです。

例えばオーダーされたものをピッキングして検品して出荷する、という流れで作業しますが、出荷した後に「商品が入っていなかったよ」と言われても、こちらでちゃんとカメラで映像を取っていなければ、きちんと作業したという事を証明できないわけです。

そうした問題を防ぐためにも、カメラシステムのサービスを作っておかなければ、と思っています。

八子:どこにでも取り付け可能な画像認識ソリューション、ということですよね。そうしたソリューションはマーケットには存在していますが、ロジスティクスに特化したものがない、ということなのでしょうか。

秋葉:そうです。そして先ほどのロボットと同様、他で使われているソリューションをいかにロジスティクスに応用するか、という話になってきます。

例えば小売りだと、顧客がどの棚の前に長くいたのか、といった導線調査がありますが、これを顧客の導線をチェックする代わりに、作業者が指定の棚へ手を入れたのかをチェックする、といった応用方法が考えられます。

八子:それはカメラを使わずに、RFID(電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステム)で解決できるのではないでしょうか。

秋葉:本当ならばRFIDで解決したい問題です。ただし、それには扱う荷物全てにRFIDを付ける必要があります。例えRFIDが付いていない荷物が1つだけだとしても、そのために専用の作業をしなければなりません。

例えばアパレル業界では、オンワードさんがラメ入りの服以外の全てにRFIDを付けました。これは画期的であり、オンワードさんと一緒になって今後も展開していきたいな、と思います。しかしタグを付けるのに1枚当たり10円がかかってしまうなど、ここでもコストの問題が浮上するわけです。

八子:それは予算を出せるブランドの荷物にしかつかなくなってきますよね。それに比べれば、カメラの方が極めて汎用的でかつコストも抑えることができる気がします。荷物のイン&アウトが発生するあらゆる個所にカメラが設置されれば、たいへん便利になりますよね。

秋葉:そうです。今はカメラを導入する価格もそれほど高くはありませんし、まずは取り付けてみようという気になります。画像だけで足りない、というのであれば、さらに音声情報を加えて補う、という考え方も出るでしょう。

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画像認識で行う作業状況の把握

八子:実際、カメラの具体的な利用例というのはあるのでしょうか。

秋葉:作業員の業務管理に使用できないか、と検討しています。従来の物流施設はパートの比率が非常に高く、繁忙期の時だけ学生のアルバイトや派遣さんに入ってもらうという形式をとっていました。

しかし今、新しい物流施設を立てると、パートの割合が2割~3割、残りは派遣という形が多い。実はここに問題があります。地域のコミュニティに属していることが多いパートの方々に比べ、派遣の方々は帰属意識が弱く、場合によっては無断欠勤などの勤務態度にも影響することがあるのです。そうした方々の仕事をチェックする上で、カメラで記録をきちんと取っておきたいと考えています。

後はカメラの導入によってミスを防ぐ、ということもできます。例えば納品書を入れ間違えたりすれば、個人情報の漏洩などで大騒ぎになりますが、画像を取ってチェックすれば未然に防ぐことはできます。

八子:派遣社員さんも法改正によって待遇は変わってくると思いますが、先ほどお話しされたロボット活用によって人手不足に対応するとなると、将来的に物流センターの様相は全く違うものになる可能性があります。

一方で外国人の方を労働者として雇うという方向もあるかと思います。ロジスティクス業界としては、外国から人を受け入れる方法と、ロボットを入れて人の作業を補う方向、どちらで動いているのでしょうか。

秋葉:両方です。なぜなら東南アジアやベトナムなどこれから伸びていく地域の方に来てもらって、今度は帰国した際に現地でマネジメントをしてもらう、という考えのもと採用を行っているからです。

八子:人材育成への投資ということですか。想像よりもかなりコンプライアントな状態が保たれていて、ちょっと意外に思いました。

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倉庫への商品格納時の作業ミスを低減する

小泉:以前、物流現場でARの導入を検討されている、というお話を伺ったのですが。

秋葉:全くやっていないわけではありませんが、作業時間が長くなるというデメリットがあります。例えば現場の人が無意識でやっていると3秒しかかからない作業が、ARを介すると余計に時間がかかってしまう。ひとつの作業における時間差は小さなものかも知れないけれど、それが積み重なると膨大なロスになる。

小泉:ピッキングする時に棚によくバーコードが付いていて、ピッキングミスしないような取り組みというのをよく展示会で見かけるのですが、ああいったソリューションは利用されているのですか。

秋葉:利用してはいますが、本当に自動化しない限りは、結局ミスはなくならないと思います。

小泉:バーコードを使った対策をやっていて間違うというのはどういうことでしょうか。

秋葉:実はピッキングではなくて、格納の方で間違いが発生するのです。棚に入れる、という作業のとき、うっかり別のところに入れてしまうというミスまでは防げない。そして「格納」という工程は、次の工程がないので、チェックが効かないのです。

八子:棚のIDが決まっていて、置きに行くときに照合するようなソリューションはないのですか。

秋葉:ありません。だからカメラで記録を残しておきたいのです。例えば違うロケーションに手を入れると画像認識でアラームが発生する、といったことでミスを防ぐことは出来るかと思います。

後編に続く

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